ふること、なおすこと
塔の頂から、金太郎はゆっくりと降りてきた。
彼の足取りは重く、目は白く濁っていたが、確かに歩いていた。
乙女たちの記憶が、彼の背に宿っていた。
それは、風のように彼を支え、火のように彼を燃やしていた。
ねこが、彼の肩に乗っていた。
「あなたは、世界になった。でも、まだ“金太郎”でいる」
「それが、あなたの強さ」
塔の根へと戻った金太郎の前に、黒幕が現れた。
その姿は、もはや影ではなかった。
人のようで、人ではなく、記憶の集合体のようだった。
「おまえが、世界をこわしたのか」
金太郎の声は、低く、震えていた。
「私は、世界の“ゆらぎ”だ」
黒幕は答えた。
「おまえが、なおすなら、私は、こわす。
それが、理の均衡だ」
金太郎は、剣を抜いた。
その刃は、光ではなく、記憶でできていた。
乙女たちの声、涙、願い――それらすべてが、剣になっていた。
「おれ、ねこさがしてただけ」
「でも、いまは、せかいをなおす」
黒幕は、空間をゆがめた。
塔が震え、地が裂け、記憶が逆流する。
乙女たちの姿が、ひとつずつ消えていく。
「おまえが、世界をなおすなら、記憶は消える。
乙女たちは、器にすぎない。
おまえが選んだのは、彼女たちの消滅だ」
金太郎は、剣を握りしめた。
「それでも、ふる」
「それでも、なおす」
ねこが、彼の肩から飛び降りた。
そして、黒幕の前に立った。
「わたしは、記憶の残響。
あなたが消してきたものの、最後のかたち」
「でも、金太郎が、わたしを見つけた」
「それが、世界の“はじまり”になる」
黒幕が、ねこに手を伸ばした。
だが、その瞬間、金太郎が剣を振った。
「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン・・・」
今までのどのキンよりも多い、圧倒的なキンだった。
空間が裂け、塔が崩れ、記憶が光になった。
黒幕は、声をあげることなく、消えていった。
ただ、静かに、世界のゆらぎが止まった。
金太郎は、剣をおさめた。
乙女たちの記憶は、風になって彼の背を離れ、空へと昇っていった。
ねこが、彼の足元にすわった。
「これで、世界はなおった」
「でも、あなたは、なにを失った?」
金太郎は、パンをかじった。
「おれ、ねこさがしてただけ」
「でも、みんながいたから、なおせた」
空は、青かった。
風は、やさしかった。
そして、世界は、静かに、はじまりなおした。




