選ばれるもの
塔の内部は、静かだった。
空間は広く、階段はなく、ただ意志のある者だけが上へ進める構造になっていた。
乙女たちは、金太郎を残して、無言のまま上昇していた。
彼の記憶が、彼女たちの中に流れ込んでいた。
パンの味、ねこの毛の感触、剣の重さ。
それらすべてが、彼の“世界”だった。
「この塔の頂に、“選択の間”がある」
エリシアが言った。
「そこでは、世界の理を再構築できる。けれど、代償がある」
リュミエール姫は、拳を握った。
「金太郎をなおすには、世界をこわせばいい。でも、それでは、彼が望んだ“なおす”じゃない」
リリが、静かに歌った。
その声は、塔の壁にしみこみ、空間を震わせた。
「彼は、ふるだけじゃなく、なおす者になった。なら、私たちも、選ばなきゃいけない」
やがて、彼女たちは頂にたどり着いた。
そこには、何もなかった。
ただ、空と地の境界が広がっていた。
そして、声が響いた。
「選べ」
「世界をなおすか、金太郎をなおすか」
「両方は、できない」
乙女たちは、互いに顔を見合わせた。
誰も、すぐには答えられなかった。
「彼がいなければ、私たちは集まらなかった」
「でも、彼がいなければ、世界はなおらない」
「彼がいなければ、わたしは、わたしじゃなかった」
そのとき、ねこが現れた。
塔の頂に、ふわりと着地し、乙女たちの前に座った。
「彼は、世界になった。
でも、彼は、まだ“金太郎”でいたいと思ってる」
「そのためには、あなたたちが、彼を選ばなければならない」
エリシアが、塔の中心に歩み出た。
「わたしは、彼を選ぶ。世界は、彼がなおす」
「そのために、わたしは、記憶になる」
彼女の体が、光に包まれ、塔の構造に溶けていった。
リュミエール姫も、歩み出た。
「彼が、世界をなおすなら、わたしは、彼の“理由”になる」
「そのために、わたしは、声になる」
リリも、くまさんも、他の乙女たちも、次々に歩み出た。
彼女たちは、金太郎の“理”となることを選んだ。
そして、塔が震えた。
空が裂け、地が揺れ、記憶が流れ込んだ。
塔の下――金太郎の体が、ゆっくりと動き始めた。
目が開き、声が戻り、剣が光を帯びた。
ねこが、彼の肩に乗った。
「あなたは、選ばれた。
でも、あなたも、選んだ」
金太郎は、立ち上がった。
「おれ、ねこさがしてただけ」
「でも、いまは、みんなをなおす」
塔の頂では、乙女たちの記憶が、風になっていた。
それは、金太郎の背に宿り、世界の理となった。




