ふるだけでは、足りない
無の塔へ向かう道は、荒れ果てた大地だった。
かつて文明があった痕跡は、風に削られ、砂に埋もれていた。
空は灰色で、太陽は薄く、ねこは金太郎の肩に乗ったまま、じっと前を見ていた。
「塔まで、あと三日」
エリシアが地図を見ながら言った。
「でも、帝国が動いてる。空が、騒がしい」
その言葉通り、空がうなりを上げた。
雲を裂いて、黒い巨影が現れる。
帝国第一航空艦隊旗艦――アウダパウパドポリス。
サラハを一撃で消し去った、超兵器を搭載する空の城。
「また来たか…」くまさんが低く唸る。
「今度は、逃げ場もないぞ」
艦の腹部が開き、無数の飛行兵が降下してくる。
地上部隊も展開され、金太郎たちは包囲された。
「金太郎、あなたを排除する。それが世界の安定だ」
艦から響く声は、冷たく、機械のようだった。
金太郎は、つるぎを抜いた。
「ふるだけで、なんとかなる」
そう言って、剣を振る。
「キンキンキンキンキンキンキンキン!!!」
「キンキンキンキンキンキンキンキン!!!」
空間がゆがみ、兵士たちが吹き飛ぶ。
時間がねじれ、砲撃が逸れる。
だが、艦は動じない。
エテメンアンキが再び起動し、空が白く染まり始める。
「これ…前より強い」
リリが震える声で言った。
「音が、消えていく。世界の振動が、止まってる」
金太郎は、剣を振り続ける。
だが、空は裂け、地は沈み、理そのものが崩れ始める。
そのとき、ねこが金太郎の肩から飛び降りた。
地面に着地すると、静かに金太郎を見上げる。
「あなたは、まだ“ふる者”でしかない」
「でも、あなたには、“なおす者”の記憶がある」
金太郎の目が、ひかりを帯びる。
剣が、震えを止める。
そして、彼は初めて、剣を“置いた”。
「ふるだけじゃ、こわせない。なら、なおす」
彼の周囲に、乙女たちが集まる。
27人の記憶が、金太郎の体を通じて、世界に流れ込む。
空が、静かになる。
艦が、動きを止める。
エテメンアンキは自重を支える理を喪失し、崩壊を始める。
だが――その瞬間、金太郎の体に異変が起きる。
皮膚がひび割れ、目が白く濁り、声が出なくなる。
「金太郎…!」
リュミエール姫が駆け寄るが、彼は動かない。
ねこが、彼のそばに座る。
「なおす力は、記憶そのもの。あなたは、世界の理に触れすぎた」
帝国軍は撤退を始める。
だが、勝利の余韻はなかった。
金太郎は、剣を置いたまま、動かない。
「次は、無の塔」
エリシアが静かに言った。
「そこに行けば、彼をなおせるかもしれない。世界も、彼も」
ねこは、金太郎の足元に寄り添った。
そして、誰にも聞こえない声で、こう言った。
「ふるだけじゃ、足りない。
でも、あなたは、もう“ふる者”じゃない」




