無の塔へ
古代人の街は、静かだった。
石造りの建物は崩れかけていたが、空気は澄んでいて、どこか懐かしい匂いがした。
金太郎は、ねこを抱えながら歩いていた。
ねこはおとなしく、金太郎の腕の中で丸くなっていた。
「この街、誰もいないのに、誰かが見てる気がする」
リリがぽつりと呟いた。
その声に、エリシアが応えた。
「それは、記録の残響。この場所には、理の根がある。世界のはじまりと終わりが、ここに刻まれてる」
一行は、街の中心にある円形の広場へとたどり着いた。
そこには、巨大な石碑が立っていた。表面には、古代文字がびっしりと刻まれている。
エリシアが指でなぞりながら、ゆっくりと読み上げた。
「“理を編む者、記憶を喰らう者、世界を塗り替える者。名を持たぬその存在は、無の塔にて眠る”」
「無の塔…?」リュミエール姫が眉をひそめる。
「帝国の地図には載っていない。けれど、記録には何度も出てくる。世界の理を支える柱が、そこにあるらしい」
金太郎は、石碑を見上げた。
「それ、こわせば、世界なおる?」
「わからない。でも、そこに“黒幕”がいる可能性は高い」
エリシアの声は、いつになく硬かった。
そのとき、ねこが金太郎の腕の中でぴくりと動いた。
目を細め、広場の奥にある崩れた門をじっと見つめている。
金太郎も、そちらに目を向けた。
門の向こうには、地下へと続く階段があった。
一行は、無言のままそこへ向かった。
階段は長く、冷たい空気が下から吹き上げてくる。
やがて、彼らは地下の祭壇へとたどり着いた。
そこには、黒い石でできた円形の台座があり、その中心に、奇妙な装置が埋め込まれていた。
それは、帝国の技術とはまるで違う。もっと古く、もっと根源的なものだった。
「これは…“理の接続器”」
エリシアが震える声で言った。
「世界の構造そのものに干渉できる装置。帝国は、これを使って世界を書き換えようとしてる」
リリが、装置の周囲に刻まれた文字を読み取る。
「“無の塔は、記憶の底にあり。そこに至る者は、世界を終わらせるか、なおすかを選ぶ”」
「つまり、そこに行けば、黒幕に会えるってことか」くまさんが言った。
金太郎は、ねこを地面に降ろした。
ねこは、装置のそばに歩いていき、静かに座った。
そして、金太郎を見上げた。
「おれ、ねこさがしてただけ。でも、せかいがこわれてるなら、なおす」
「ふるだけじゃ、たりないなら、もっとふる」
「黒幕、こわす」
その言葉に、誰も反論しなかった。
乙女たちは、静かにうなずいた。
彼女たちの目には、恐れではなく、希望が宿っていた。
「無の塔へ行こう」
リュミエール姫が言った。
「そこが、すべてのはじまりで、すべての終わり」
金太郎は、つるぎをかついだ。
ねこは、彼の足元に寄り添った。
そして、一行は、塔を目指す旅へと再び歩き出した。




