第9C話 : 火属性を極める
(家の前でノルとファクロが向かい合っている。ファクロは手首のブレスレットから赤い色の細い棒を取り出す)
ファクロ
ノル、それを持て。
それから、その棒にオーラを流してみろ。
ノル・タケダ
え? それで何をするんですか?
ファクロ
それはルブラクの杖だ。
ルブラクとは赤色の鉱石で、オーラの触媒として使われる。武器の鍛造過程で加えられ、オーラが正しく流れるようにするためのものだ。
お前のオーラを流せば、どの元素との親和性が高いか分かる。
ノル・タケダ
分かりました……。
(少し緊張している)
(ノルは体から少し離して杖を握り、目を閉じてオーラを流そうとする。
流れ始めた瞬間、杖が燃え上がり、ノルは驚いて手を放す)
ファクロ
やはりな。
お前は火属性だ。これは都合がいい。
ノル・タケダ
やっぱりって……?
(火傷を抑えるように手を振る)
ファクロ
ああ。火属性の使い手は、髪に赤い房が混じることが多い。
もっとも、必ずしも正確ではない。だから確認が必要だった。
(間を置いて)
ファクロ
さて、これを持て。
金粉を使って鍛えられた剣だ。金はオーラの伝導効率が非常に高い素材でな。
初心者のお前には最適だ。いずれ素材は変えていくがな。
ノル・タケダ
訓練は、どう始めるんですか?
ファクロ
まずは剣にオーラを纏わせろ。
(ノルは再び目を閉じる。
オーラがゆっくりと剣へ流れ始めるが、その流れは不安定だ)
ノル・タケダ
……できました。
ファクロ
次に、自分のオーラが体温を上げていく感覚を掴め。
炎が生まれる瞬間、燃え上がる熱、その感覚を掌に集中させるんだ。
(ノルは強く集中する。
すると剣の周囲に一瞬だけ火花のような炎が走り、すぐに消える)
(ノルは目を見開き、驚く)
ファクロ
いい兆しだ。
その調子で続けろ。俺はプールで泳いでくる。
ノル・タケダ
ちょっと待ってください、怠け者の師匠!
ちゃんと監督するべきでしょう!
(怒る)
ファクロ
結果は、俺がいようがいまいが変わらん。
だが、最後だけを見る方が驚きは大きいだろう。
せいぜい、俺の口をあんぐり開けさせるくらいの成果を見せてみろ。
(そう言い残して立ち去る)
ノル・タケダ
あ……わかりました。
(怒った表情から、すぐに覚悟のこもった表情へと変わる)
ファクロ
じゃあな。
ノル・タケダ
あ、待ってください。行く前に一つ聞いてもいいですか?
ファクロ
ああ、いいぞ。
ノル・タケダ
火の攻撃についてなんですが……
この属性の使い手なら、他のハンターの技を真似することはできるんですか?
ファクロ
それは幾つかの条件次第だな。
だが、お前の戦闘スタイルが、その技を使うハンターのものに適しているなら――
理論上は可能だ。
ノル・タケダ
戦闘スタイル、ですか?
ファクロ
そうだ。
例えばフォーカス。気づいていたかもしれんが、あいつは二刀流だ。
あいつの戦闘スタイルは、上位者ライデンや俺のものとは大きく異なる。
同様に、マッサルの戦い方も俺たちとは別物だ。
ファクロ
だが、シゲルのように両手斧を使う者なら、
少なくともフォーカスの基本的な技くらいは真似できるはずだ。
ノル・タケダ
なるほど……。
自分の戦い方を邪魔するような技を使っても、意味がないということですね。
ファクロ
その通りだ。
さあ、練習に戻れ。時間は金よりも貴重だぞ。
(ノルは再び剣に炎を宿そうとする。
時間の経過とともに日々が流れ、次第に剣全体が炎に包まれるようになる)
(ノルはこれまでの訓練も継続するが、
剣術〈ヴォム・ターク〉の鍛錬を、炎を纏った剣で行うようになる。
やがて、炎の流れを穏やかなものから、荒々しいものへと自在に切り替えられるようになる)
(炎の訓練を始めてから12日が経過。
最終試験まで残り2日。時刻は午前7時)
ファクロ
(あくびをし、まだ眠そうに)
こんな朝早く起こされる価値のあるものを、見せてくれるんだろうな。
ノル・タケダ
この12日間、まったく監督してなかったじゃないですか。
試験前の最後の成果を見るために早起きしたくらいで、死にはしませんよ。
ノル・タケダ
さあ……驚く準備はできましたか?
ファクロ
いつでもいい。だが手短にな。
寒いし、さっさと布団に戻りたい。
(ノルは一瞬で剣に火を灯し、空中へ向けて高速で斬撃を放つ。
数度の動作の後、大きな岩へ走り寄り、それを足場に跳躍。
空中で剣を振るい、一本の木をいとも簡単に斬り倒す)
ファクロ
……悪くないな。
それだけできれば、試験も大した問題にはならんだろう。
(大きく驚いた様子はないが、少しだけ表情が明るくなる)
ノル・タケダ
まだです。
本番はここからです。
ノル・タケダ
火元素――
《炎海》!!
(ノルの剣から、膨大な炎が噴き上がる。
次の瞬間、振り下ろされた一撃とともに、
巨大な炎の斬撃が広がり、倒れた木の大部分を焼き尽くした)
ファクロ
(かなり驚いているが、平静を装う)
……どうやって、今のをやった?
ノル・タケダ
(全身汗だくで、限界まで消耗している)
フォーカスが、シゲルとマッサルとの戦いで使っていました……
あの技なら、応用しやすいと思ったんです。
ファクロ
(心の中で)
信じられん……。
あの技を習得するのに、フォーカスと俺は三か月かかった。
それを、たった十二日……しかも一度見ただけで再現するとは。
……上位者ライデンにも、ぜひ見せてやりたかった。
(最後の言葉に、思わず感情が滲む)
ファクロ
正直に言おう。
あれは完全に予想外だった。
だが……相当無理をしたようだな。
ノル・タケダ
(地面に倒れ込む)
はい……。
あの技は、オーラの消費が激しすぎます。
フォーカスさんが、あの後も平然と戦い続けていたのが信じられません。
ファクロ
練習を重ねれば、いずれ消耗も抑えられるようになる。
だが今は――
最終試験で、その技を使うことは禁止だ。
ノル・タケダ
えっ、どうしてですか?
せっかくここまで成長したのに……
全部、皆に見せたいです。
ファクロ
あれは見せびらかすための技じゃない。
下手をすれば人を殺す。
外せば、その瞬間に無防備になる。
完全に制御できるようになるまで、使うな。
ノル・タケダ
……わかりました。
(納得しきれない様子だが、受け入れる)
ファクロ
よし、今日はもう帰れ。
二日後に迎えに行く。
最終試験の会場まで案内してやるからな。
今は、できるだけ休め。
(ノルは遠くから手を振りながら走り去っていく)
――その頃。
数キロ離れた第三の村では、ケナイ・オザワが準備を進めていた。
少し離れた場所には、マッサルの姿もある。
ケナイ・オザワ
マッサル。
最終試験に向けて、志願者たちは準備できているか?
マッサル
はい、ケナイ様。
あなたの訓練のおかげで、全員しっかり仕上がっています。
ケナイ・オザワ
そうか。
ではポルヴェクのもとへ連れて行け。
それぞれに合わせた武器を作らせる。
……最終試験で、どんな光景が見られるのか、今から楽しみだ。
マッサル
すぐに手配します、ケナイ様。
(ケナイの城の奥――
二つの異様な影が浮かび上がる)
(長い紫色の髪を持つ少女の不気味な笑み。
その隣には、白地を基調に、赤と黒の装飾が施された恐ろしい仮面の人物。
仮面の奥からは、鋭く赤い眼光だけが覗いている)
――終わり




