出会い
宿泊登録を終えた俺たちは、そのまま部屋に戻ってぐっすり熟睡した。
仮眠だけで疲れを取り切れなかったソフィもそうだが、俺も体を拭いてベッドに入ると直ぐに意識が落ちた。
夕飯後にひとっ走りする羽目になったのもそうだが、やはり寝る前の気疲れが酷かったようだ。まさに死線と呼ぶに相応しい緊迫感だった。この宿から出入りする度に彼女と会い対する事になれば、勝手に熟練の戦士になれるのではないだろうか。そんなわけないか。
「アンお姉ちゃんの話によれば、朝食も注文すれば頂けるそうですよね。せっかくだから食べに行きませんか?」
「そうだな。今日は謁見にも行かなきゃいけないし、体力はしっかり付けないとだし。」
にしてもソフィは、昨夜の超常との遭遇に少しも驚いていなかった。ここまでの長旅でも目に見えて疲れた様子はなかったし、やはり血筋の問題なのだろうか。何にせよ、俺は15歳の少女より肝が小さかったのだ。俺の方が謁見が不安になってきた。
「あら、おはよう。」
「おはようございます!」「おはようございます。」
2回目なのもあって、昨夜感じたほどの圧迫感はない。しかし、プリティカの名前らしからぬご容貌はそのままなので、朝から見ると息が詰まってしまう。昨日は衝撃と視界不良で気づかなかったが、カウンターの近くにいくつか席がある。そこでは、アンが一人で朝食をとっていた。
「レオンさん達、おはようです。朝食を食べに来たんですよね?」
「ああ。生憎俺は、どこかの誰かみたいにスイーツだけで旅の疲れが取れるような不思議な体じゃないんでな。まともな栄養補給がまだなんだ。」
「私だって、別にスイーツだけで生きていけたりはしませんからね?」
「それじゃあ、二人分でいいですね。叔母さん、お願いします。」
「はいよ」
注文を聞くとプリティカさんは、カウンターの奥の方に入って行った。あそこに厨房やら何やらがあるのだろう。
「ところで、レオンさん達はダンジョンに潜るんでしたよね?今日早速行くんですか?」
「いや、今日は違うんだ。」
「兄さん、実はプリティカさんを見て自信を無くしてしまったらしくて...。」
「無くしてない。」
ほんとに。ちょっとしか。
「ああ、それなら大丈夫ですよ?昨日は私も辞めるよう言いましたけど、二人だけで中央大陸の端からここまで来られたのなら、入ってすぐ死ぬような場所じゃないです。叔母さんも自分は大した冒険者じゃなかった、なんて言いますが、当時の到達最深部まで潜っていたらしいですし、あの人と自分を比べて力不足だと思う必要はないですよ。」
だと思った。どう考えても普通の冒険者の風格じゃなかったし。俺はおかしくなかったんだ。
「よかった。安心しt...いやそうじゃない。俺達は今日、聖王に謁見しに行こうと思ってるんだ。」
「聖王様にですか?どうして?」
「なんというか、ソフィの実家絡みでな。まあ、行って即日会えるとも思えないし、ダメだったら帰りにダンジョンに行ってくるよ。」
ダンジョンに行くと言っても、浅い層を少し見て回るだけのつもりだ。どうせ数日も中で過ごせるほどの装備を買う金はないし、まだパーティをどうするかも決めていない。幸い宿代がそこまで高くなかったので、今日収入がなくても問題ない。その日暮らしの生活はあまり良くないが、『聖墓』が噂通りの場所なら、暫くは収入に困らないはずなのだ。
そうこうしているうちに、料理が運ばれてきた。
「どうぞ、一角兎のスープとパンだよ。」
「美味しそうです。いただきます!」
「いただきます。あまりがっついて喉に詰まらせるなよ。」
「ふぁい、もふぃろんです。」
パンを口に詰め込んで、兎みたいな顔をしながら喋っている。オデュッセイアでちゃんと仕込まれたはずの礼儀作法はどこに行ったのか。俺や小父さんは、子供はあまり窮屈にしすぎるもんじゃないと思っているが、オデュッセイアでソフィの世話をしてくれていた侍従達がこれを見たら目を覆うだろう。だがまあ、二人旅なので、俺もあまりとやかく言うつもりは無い。
それにしてもよく食べるな。スイーツ生命体でないのは事実だったようだ。
「美味しそうに食べるねぇ。そういえばあんた達、『聖墓』に潜るんだろ?」
「はい。その前の用事がいつ終わるかにもよりますが、一応そのつもりです。」
「じゃあ、いいものがあるから持っていきな。」
そう言いながらプリティカさんは、カウンターの下から一本の剣を持ってきた。
それは、使い古されてはいるが、良く手入れのされた剣だった。
「アタシのお古だけどねえ。あんたのそのデッカい剣、普段使いしてないんだろ?」
なんでわかるんだよ。確かに、偶に鈍器として鞘ごと叩きつたりはするが、それは剣として使っているとはいえないだろう。
「その剣、高位の魔具か何かなんだろ?妙に綺麗だ。その辺の魔物相手なら、これぐらいので十分戦えるよ。」
「でもこの剣、大事なものなんじゃないんですか?」
「大事なもんだろうが、使わない剣なんてあってもしょうがねぇわ。アンが連れてきたお客だしね。持ってお行き。ちゃんとその子を守っておやり。」
アンとプリティカさんから温かい視線を向けられた。多分、俺達の出自についてうっすら話したんだろう。せっかくのご厚意だし、ありがたくいただこう。
「それなら、私が頂いてもいいですか?」
何故かソフィが名乗りをあげた。
「私も、剣術の指導は受けています。それに、ダンジョンの中でまで、兄さんに頼りっきりなのは嫌ですし、私に使わせて下さい。」
この旅の途中は、大して魔物に遭遇しなかったのもあり、戦闘は全て俺が行なっていた。もちろん、最低限護身用の短剣ぐらいは持っていたが、真正面から戦うことを想定したものじゃない。俺達にとって未知の場所であるダンジョン内では、それもいい考えだろう。
「なら、俺は素手での格闘でも結構戦えますし、この魔具も結構頑丈なので、普通に戦う分には問題ないので、ソフィに持たせてもいいですか?」
「もちろんいいさね。手入れはしっかりするんだよ?」
「はい!大事に使わせてもらいます。」
外に出ると、相変わらず目が痛くなるほどの白い町並みだった。発光しているわけでもないのに、直射日光と大して変わらないほどに目を痛めつけてくる。これも『光の神』の加護なのだろうか。これで聖王が光り輝いていたりしたら、俺はどうすればいいんだろう。俺も輝こうか。
「レオ兄さん」
輝かしい人物のなり方が載っている本を買いに行くか、全身につける用の魔石灯を買いに行くののどちらが良いか俺が迷っていると、ソフィがある路地裏へ目を向けながら止まった。確かに光り輝く(?)道や大通りよりは目に優しいだろうが、態々裏道を歩いて行くほどではないだろう。
「少し、寄り道しましょう。」
まさか本当に路地裏を通って行く気だろうか。
俺が返事をする前に、駆け出して行ったソフィを追いかけて、俺も路地裏に入っていく。そこで待っていたのは、浮浪者や怪しい行商人達...ではなく、ただの少し目に優しい路地だった。
しかし、少し空気が異質だ。
「こっちです。」
迷路のように入り組んだ道を、ソフィはまるで見知った帰り道かのように迷いなく進んでいく。また、進むに連れてよりはっきりしていく足取りとは逆に、ソフィの表情は険しくなっていく。
暫く進んだところで、何物かの叫び声が聞こえてきた。魔具をホルダーから外し、万が一発動する時の為に魔力を体内で練りながら、声の出どころに駆けつけると、そこには灰色がかったのフードを被った人物と、それに襲いかかるモンスター、不死者がいた。
辺りを散る灰に違和感を覚えながらも、助けに入ろうと俺が踏み込むと同時に、フードの人物はアンデットをひと突きし、細身の剣が刺さった不死者は途端に燃え尽き灰になった。
「助けはいらなかったようだな。」
俺が太刀を握りしめたままそう問うと、頭のフードを外した彼女は武器をしまいこちらに話しかけてきた。
「いやー、見られちゃったかぁ。あぁ、そんなに警戒しなくていいよ?僕はフラン、よろしくね。」
彼女は宝石のような赤い瞳をこちらに向けながら、手を差し伸べてきた。
やっぱ、創作意欲を刺激するのは美少女だよね。知らん王とかどうでもいいや。




