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銀の姫と巡る世界  作者: ワイルドな浮遊霊


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3/5

宿


「ふぁ〜あ。よく寝ました。あれ?レオ兄さん、戻ってたんですね。」

「もうとっくに日が沈んでるぞ、店に残ってるのも、俺達と店員達だけだ。」

「そうなんですか?!それはちょっと寝過ぎちゃいましたね。そう言えばレオ兄さん、お金は稼いでこれましたか?」

「ああ、少なくともここの食事代と、今夜の宿代ぐらいは払えるな。」

「それは良かったです。」


あのゴブリンを倒した後、帰りに数体のゴブリンに遭遇したおかげで思ったより稼げた。そのせいで少し遅くなりはしたが、これでアンのいる宿代が多少高かろうが問題ないだろう。


「というか、起こしてくれても良かったんじゃないですか?こんな遅くになってから宿を探すのも大変じだと思いますけど。」

「それについては大丈夫ですよ。」


ちょうど片付けの終わったらしいアンが戻ってきた。


「あ、この部屋を貸してくれたお姉さん。」

「この人の叔母が経営してる宿が空いているから、そこに泊めさせてくれるそうだ。」

「仮眠場所だけじゃなくて、ちゃんとした宿まで貸してくれるんですね!ありがとうございます、お姉さん!」


起き抜けとは思えない活気いっぱいの感謝で、少しアンが気押されていたようだが、直ぐに笑顔に戻って言った。


「いえいえ、大丈夫ですよ。せっかく聖都に来てくれたのに外で夜を越えさせるなんて、それこそ聖の神(ルクシア)様に怒られちゃいますよ。それじゃあ、私の仕事も終わって妹ちゃんも起きたことですし、そろそろ行きましょうか。」


そうして俺達は店を出て夜の街を歩き出した。夜の街といっても、高性能な魔石灯で道はしっかり照らされているし、日付が変わる前なのもあってまばらだが人通りもあった。


「へー、妹ちゃん、ソフィアって名前なんですね。可愛くてよく似合ってるじゃないですか。」

「はい!父上と母上が()()()()くれた大事な名前です!」

「そう言えばレオンさんとソフィアちゃんは、どうして聖都に来たんですか?」

「あー、実は俺達、知恵の国(ミネルヴァ)出身なんだ。」

「ミネルヴァって、あの知恵の国(ミネルヴァ)ですか?!それは...大変だったんですね。」

「門の衛兵さんにも同じ反応されましたね。」


衛兵どころか、この旅を始めてから出身を話すと毎回同じ反応をされる。まあ、仕方のないことだが。最初はソフィも複雑そうな表情を浮かべていたが、だんだん慣れてきたのか、今では殆ど気にしていないようだ。


「ごめんなさい、嫌な質問しちゃいましたね。」


逆にアンの方が、申し訳なさ溢れる複雑な表情をしていた。直前の母親父親の下りも含めて、ある程度事情は察してくれたようだ。


「いや、大丈夫だ。昔のことだしな。俺もソフィも割り切れてる。」

「おかげでレオ兄さんにも出会えましたしね。」

「そうですか...実は私も両親を早くに事故で亡くしてて、叔母に母代わりとして育ててもらったんです。無闇に話すことじゃないかもしれませんが、事情を聞けば、きっと叔母も宿代の値引き位はしてくれると思いますよ?」

「いや、全然大丈夫だ。今回はソフィの食欲が想像以上だっただけで、普段金がなくなるなんて事は滅多にない。」


ソフィのせいで、危うく常時金欠の冒険者扱いされかけた。


「それに、聖都には大きなダンジョンがあるんだろ?そこに潜れば小金は稼げるはずだ。」


ダンジョンとは、遥か昔聖の神ルクシアの結界が展開された時に、結界の効果の弱い地下へ魔物が大量に逃げ込んだことで出来たと言われている。そのほとんどは中堅冒険者1パーティが一年足らずで踏破できるような規模のものだが、聖都から離れるほど中に潜む魔物も強くなっていき、大きさも小さな街ほどあるものも珍しくなくなる。

まあ、知恵の国(ミネルヴァ)があったような中央大陸の端の方や、他の大陸では、そもそも結界の効果が弱く普通に強大な魔物が地上を闊歩しているが。

しかしそれらのダンジョンの中に、明らかに人や神の手が加わったものがいくつかあるという。それらは、異常な強さの魔物が中を尽くしていたり、どれだけ潜っても底に辿りつかずに、あの世まで続いているのではと言われるものもあるらしい。

その様なダンジョンの内、最も有名なのが聖都の神像の真下にある『聖墓』だ。このダンジョンは不思議な事に、神像の出現と同時期に出来たらしく、別の世界に繋がっていると言われても納得させられる規模をしているらしい。

ここのダンジョンから取れる魔石が、聖都の繁栄の大きな助けになったのは間違いないそうだ。

まあ、俺自身はソフィを連れて行くわけにもいかない為、殆どダンジョンに入ったことはないのだが。


「でもあのダンジョンは、そう簡単に稼げる場所ようなじゃないですよ?」

「大丈夫ですよ!レオ兄さんはとっても強いので!」


それに、『聖墓』内は広い空間が多く、街道なんかよりよっぽど不意打ちの心配が少ないそうで、ソフィを連れて行くことも出来るだろう。

そうなれば、この太刀が使える。

これさえあれば、(ドラゴン)だって文字通り一太刀にする自信がある。


「まあ、私がどうこう言うようなことでもなかったですね。

 それより着きましたよ。ここが叔母の経営している宿です。」


そこには、大きくはないもののきちんと手入れされた立派な建物があった。確かに街の中心部からは少し離れていたが、これなら冒険者達が全て部屋を埋めていてもおかしくなさそうだが。そう思いながら扉を開けて中に入った瞬間、思わず太刀の鞘に手を伸ばした。



「なんだアン、客を連れて来たのかい。あんまり遅いから心配してたんだよ。」


その言葉の意味、それ以前にそれが自分に向けられたものですらないことを理解するのに数秒かかった。


「いらっしゃい。こんな夜更けにかわいいお客さんだこと。お坊ちゃん達、名前はなんて言うんだい?」

「私はソフィアです!ソフィって呼んでください!」


ソフィの声でようやく正気に戻った俺は、言葉に詰まりそうになりながら返した。


「俺は、レオンです。二人部屋を、お願いします。」


未だに目の前の相手への警戒を解ききれない俺と普段どうりのソフィに、横からアンが言葉を投げかけてきた。


「紹介しますね。こちら、私の叔母のプリティカ叔母さんです。」


どう考えても名前に半濁音が付く生物じゃないだろ!という言葉が喉まで出かかったが、幸い緊張した俺の舌と唇は、それを声に表す事はなかった。


カウンターの奥から俺達を見つめて来たのは、熊と龍とシワを足して3で掛けた様な顔に、ざっくりと額から頬にかけて古傷が残る古傷の上に眼帯をつけた、いっそ鬼と形容した方が精神に優しい顔をした老婆だった。


「プリティカ叔母さんは元冒険者で、その時に貯めたお金でこの宿屋を開いたんです。」

「冒険者って言っても大したものじゃぁないよ。自分を顧みることも出来ずにこんな傷作って辞めなきゃならなかったんだ。私に冒険者の才能なんてなかったんだ。」


この宿に人が来ない理由と先程のアンの忠告の真意を悟ると共に、俺の中に必然とも言える考えが湧いてきた。


あれ、これ俺冒険者無理じゃね?




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