プロローグ
「お兄ちゃん!」
幸せな日々だった。
「見て、ティアラ!お花で作ったの!」
「俺のは...ジャーン!木の枝と草で作った、最強の剣だ!」
永遠じゃないと分かっていても、その日常がずっと続くと、心のどこかで信じていた。
「えー、カッコ悪〜い。お兄ちゃんいつもそんなのばっか。えーゆうたん読みすぎ。」
「カッコ悪くねーし。お前だって、かっこいいキシがどうのこうのっていつも言ってただろ?」
「お兄ちゃんじゃ騎士は無理だよ。私にだってケンカ勝てないでしょ?」
与えられるがまま、幸せの認識すら出来ないまま。
「なれるっての!キシぐらい。この最強の剣があれば!」
「はいはい、じゃあしっかり、私のこと守ってよ?最強の剣の騎士さん?」
「もちろん!」
大切な人との関係には、後悔がいつもつきまとう。
「じゃあ今度から私とケンカする時、私攻撃するの禁止ね」
「えっ」
「ほら、帰ろー。お腹すいた〜。」
「えっ、あっ、あっ、うん。」
暗い
外が騒がしい。大人達の叫び声と、子供の泣き声が聞こえる。
怖い
外に出て行った父さんの足音がすぐに止まり、叫び声に聞き慣れた声が混じり、またすぐに聞こえなくなった。
苦しい
裏口から逃げた。僕らの手を引きながら、絶対に立ち止まるなと言った母さんは、いつの間にかいなくなっていた。
森へ方逃げた。いつの間にか、周りには俺と妹としかいなくなっていた。
森の手前にある、毎日僕らが遊んでいる草原には、大人4、5人程の大きさの魔導人形がいた。背中に隠れる妹を安心させるために振り返ろうとして、足元にある草のついた木の枝に気づいた。
恐怖で動かない体をなんとか動かし、俺は木の枝を拾い上げた。
顔を上げると、拳を振り上げるゴーレムの赤い単眼が、無感情のまま視線をこちらに向けていた。
「レオ兄さん!見えましたよ!あれが聖都ですか?!」
その声で閉じていた瞳を開き、幌の外に見える大きな都市を見据えた。
「おお、ガルフ小父さんの言っていたのよりずっと凄いじゃないか」
「小父さんが言っていたのなんて、『デカくて白い、それと人が多いな。あとデカい。』だけだったじゃないですか。でも確かに、想像していたのよりずっと凄いです!」
遥か昔にもたらされた「聖の神の加護」の中心地、実質的な世界の中心でもある聖都を一望出来る丘の上で、俺とソフィはそんな初めて魔車に乗った子供のような感想を言い合っていた。
「あんたら、聖都は初めてだったのかい?それならようこそ、聖都ユピテルへ!」
恰幅のいい御者の男が、大きな声で俺たちへ歓迎の言葉を投げかけてくる
「はい!ありがとうございます!楽しみですね、レオ兄さん!」
「楽しみなのはわかったから、あまり飛び跳ねないでくれ。積荷が崩れたら大変だ。」
「はい!兄さん!」
門へ着いた後、御者と別れて旅人用のゲートへ向かった。
「身分証の提示と、2人で1ドラクマの支払いだ」
「ああ」
俺とソフィはそれぞれ、冒険者カードを取り出し、ドラクマを支払った。
「うむ、特におかしい所は……ミネルヴァ!?お前達、知恵の国出身なのか!?」
「ああ。もちろん、今住んでいるのは隣国のオデュッセイアだが。」
「そうか、こんなに若いのに、大変だったんだな。ユピテルでは魔物の心配はいらない。ゆっくりしていってくれ。」
「心遣い感謝する」
都市壁の門をくぐると、興奮冷めやらぬ様子のソフィが大通りを走りながら、純白の街並みと、街の中央に鎮座、いや聳え立つ神像を見て言う。
「わぁ〜、本当に大きいです、白いです!人がいっぱいいます!」
「小父さんと同じ感想だな。先にギルドに行って宿の場所の確認と依頼の報告をしてこよう。その後に街を回っても見よう。」
「分かりました!」
流石は聖都、ギルドの建物も大規模な商会のように大きい。
体の大きな獣人や龍人への配慮か、入り口が俺の背丈の3倍ほどもあった。その、2度目の門をくぐって建物に入ると、凄まじい賑わいが俺の鼓膜を震わせた。
「妖精に黒妖精、精霊までいるのか。」
「皆さんすごい装備ですね。見たことのないタイプの魔具がいっぱいあります!」
「装備なら俺たちも負けてないだろ。それよりほら、また絡まれる前に受付に行くぞ。ソフィの見た目に釣られてきたチンピラの相手をするのは俺なんだからな。」
「それは可愛いってことですよね?チビだからって意味じゃないですよね?!」
「はいはい、カワイイカワイイ。」
数十ある受付の内、運よく空いていた達成報告のところに行った。
「こんにちは。達成の報告ですね?」
「はい。一二七番の護送の依頼です。」
「少々お待ちください。.....はい、確かに。依頼主の方から完了の報告が来ています。報酬は、振り込みになさいますか?」
「はい、お願いします。」
「かしこまりました。報酬の2ドラクマ、振込の確認をお願いします。」
「はい、確かに受け取りました。」
「それでは、貴方たちに光の神の加護があらんことを。」
無事依頼の報告を終えた俺は、あることを思い出した。
「そういえばソフィ、聖王への謁見はどうする?」
「明日でいいんじゃないですか?私、長旅で疲れてしまったので!」
「それもそうだな。じゃあ、お疲れのお姫様はどこに行きたい?」
「大通りを通った時に、甘い匂いのするお菓子がいっぱいあったので、まずはそれからですね!」
「あー、俺の財布だって無限じゃないんだからな?」
「人をなんだと思ってるんですか?罰として手を繋いで下さい!」
「はいはい」
あの時掴んだ光が、今の俺とこの子を見つけさせてくれた。
あの時は全てを救えなかったが、もう二度と失わないと決意した。
「それじゃあ行こうか。ミネルウァお姫様」
あの時守れなかった大切な眩しい笑顔を、俺は今度こそ守り切る。
雰囲気暗い作品って、疲れ切ってないと書けないって、この3連休で学びました。
PS:加筆してる間に、このプロローグもホラーになっちゃった




