第8話:水星の魔道士
村での聞き込みを終えた僕とプルートは村の広場で水星の魔道士ことマーキュリーについての情報を纏める。どうやら先程の男が言っていたように村の人達は皆、口を揃えて「突然やってきては村近隣の魔族残党を討伐して平和を守ってくれるものの宴には一切顔を出さない人」と言っていたが何故、彼女が魔族残党を討伐しているのかまでは不明瞭だ。
「にしても不思議だね。村の人の話を聞く限りだと魔族しか狙って無さそうだけど・・・。」
「魔族は今でも人々に危害を加えている連中・・・言うならば言葉の分かる魔物と言っても過言ではありません。ですが・・・その様な者だけを相手にしているのは少し気になりますね。」
プルートもまた魔族のみを討伐するマーキュリーに対して疑問を抱く。
「もう少し聞き込みとかしてみる?もしかしたら詳しい人がいるかもしれないよ?」
「流石は魔王様。ではそうしましょうか?」
僕の提案に頷いたプルートが再度聞き込みを行うとした・・・その時だった。
「魔王?今、貴方魔王と言ったわね?」
透き通る様な女性の声が聞こえてくると僕らの前に灰色のローブを着た魔道士の女性が立っていた。ん?魔道士の格好・・・まさか!この人!
「貴女はもしかして・・・水星の魔道士マーキュリーさんですか?」
「その名前で呼ばないでくれる?村の人達が勝手に言ってるだけなの。」
魔道士の女性・・・マーキュリーはクールな感じでそう言ってくる。
「噂をすれば何とやらですね。まさか本人が現れるとは・・・。」
「何?私に何の用かしら?それよりも・・・貴方今、魔王と言ったわね?」
マーキュリーは”魔王”という言葉に反応して僕らを見つめる。あ、これ面倒くさくなるやつだ。余計な事言うなよこの側近は!と思っていると当の本人はよくぞ質問したと言わんばかりの顔をする。
「えぇ、こちらにおられる方が魔王様の血を引く御方・・・テラ・マーテル様でございます。」
「ちょっとプルート!!」
僕の名前まで明かしたプルートの口を慌てて塞ごうとする。ダメだ!コイツに喋らせたら何言うか分かったものじゃない!!しかし、マーキュリーは僕をまじまじ見ながら興味気な顔をする。まるで新鮮なイチゴを吟味しているかのような目で・・・
「ふうん?魔王の仔?面白そうね。実験のし甲斐がありそうだわ。」
「じ・・・実験?」
彼女から放たれた意味深な言葉に妙な寒気を感じた。凄く嫌な予感がする。
「そうよ。実験・・・私がなんで魔族ばかり狙うか分かるかしら?」
「え、いえ・・・分からないです。」
「私が魔族だけを狙う理由。それは・・・闇の能力を見つける為よッ!!」
そう言った瞬間、マーキュリーは自身の杖から魔道弾を放つとそれは僕目掛けて勢いよく迫ってくる。うわっ!!吹き飛ばされる!!思わず目を瞑って次に来る衝撃を覚悟したが間一髪のところで落雷が放たれると魔道弾は僕らの間で相殺された。
「えっ?なに?助かったのか?」
「全く・・・問答無用で攻撃してくるとは無粋ですね・・・それも村のど真ん中で・・・」
僕が目を開けると目の前にプルートが立っており、右手に小さな雷を纏わせながらマーキュリーを睨んでいた。今の落雷は彼の能力なのだろうか?でも左手にはあの分厚い魔導書を広げているから魔法の可能性も・・・
「貴方、余程手練れな魔法使いね。」
「お褒めに預かり光栄です。私はこれでも先代の側近でしたので・・・」
マーキュリーに対し、笑みを浮かべたプルートは眼鏡を上げると手に纏った雷を強くする。
「ですが・・・ここは非戦闘の場、常識がお分かりならここでの戦闘は野暮だと思いませんか?」
「そうね・・・。」
プルートの言葉に頷いた。マーキュリーはあっさり杖を降ろして戦闘を辞めた。あれ?思ってたより常識ある人っぽいな。良かった・・・
「できるなら魔王を生け捕りにした方が実験が捗りそうだわ。」
・・・そう思っていた時が僕にもありました。この人やっぱ常識ないヤバい人だ!なんで実験するって選択肢は変わらないんだよ!!
「ま、待ってください!なんでそこまでして魔族や魔王だけを狙っているんですか?」
プルートが何かを言う前にそう尋ねるとマーキュリーは暫く考えた素振りを見せた後、静かに答えた。
「貴方が保有しているとされる能力『闇』。その力が何なのか?そして、それを魔法として使えないかを試したいからよ。」
「闇の能力を・・・魔法に?」
マーキュリーの目的を聞いて僕は眉をひそめる。確かに魔法の血筋しか持たない闇の能力は強大なものだ。現にその力を僕が完全に引き出すと力に呑まれてしまう程だし使いこなすにはかなりの時間を要するだろう。そんな代物を魔法に出来たら・・・便利っちゃあ便利になるだろう。果たしてそんな芸当が出来るのだろうか?
「それは出来ませんよ。貴女でもね。」
僕の疑問に答えるかのようにプルートはそう言った。
「出来ない?何故、分かるの?」
「闇の能力を魔法に変えようとした者が過去に居るからです。皆、魔王様だけが持つその力を気軽に使えたら良いなと考え、試みたのです。・・・ですが、それは残酷な結果に終わったのです。魔法に変える前に闇の能力によって肉体ごとその力に呑まれたのですから。」
想像以上に残酷な結果を聞いて言葉を失うと同時に闇の能力の強大さに驚きを隠せなかった。流石は先代魔王の側近と言うべきだろうか?しかも実際にマーキュリーがやろうとした人がいたという前例付きだ。
「ですので闇の能力を魔法に変える・・・というのは現実的ではありません。何よりそれを試した結果、貴方は肉体ごと命を刈り取られることでしょう。」
「詳しいのね。」
「えぇ、元側近ですので。」
深く頷くプルートにマーキュリーは微笑むとまるで観念した強盗犯の様に力なく両手を上げて言った。
「いいわ、実験は諦めましょう。」
「えっ?そんなあっさり諦めるんですか?」
「できないんでしょう?それが分かったならいう事は無いわ。」
あっさり自分の目的を諦めたマーキュリーに開いた口が塞がらなくなる。まぁ、切り替えが早いと言えばそうなのだが・・・。
「それで?貴方達は私を捜していたのだったわね。用件はなにかしら?」
「えぇ、そうでした。」
あぁ、ようやく本題に入れそうだ。プルートは指を鳴らしながらマーキュリーに僕らの目的を告げた。
「マーキュリー殿、貴方の魔法を魔王様に伝授して頂きたいのです。」




