第6話:屋敷と種
という事でプルートに連れられて森の中にある屋敷にやってきた僕はその絢爛豪華で広い庭と大きさを誇る彼の屋敷を見て、これが現実であると受け入れる。
「うわぁ・・・ちゃんと広い。と言うかこれ外の人にはバレないの?」
「ご安心ください。私がこの一帯に魔法をかけています故、魔物すらも近寄らない様になっているのです。」
「魔法でそんなことできるの?」
「戦いは能力の一芸だけでは務まりません。魔法や剣といった技術も必要なのです。」
プルートの言葉に僕は真剣な表情を浮かべる。能力を使わずに魔法だけで全てを解決する・・・。これが戦いが強い人の特徴なのだろう。一芸だけでなく多芸を極めてこそ強くなれるんだ。そう思っている内に屋敷の扉が開く音が聞こえるとメイド姿の女性が頭を下げて僕を出迎えてくれた。
「ようこそおいでなさいました。魔王様。」
「彼女はカロン。魔王軍時代に私の補佐をしていた者です。既に魔王様のことは存じております。」
「あ・・・ど、どうも・・・よろしくお願いします。」
僕はカロンに手を挙げてぎこちないながらも挨拶する。いや・・・それより屋敷が広すぎる。どんだけ部屋あるんだ!?天井のジャンデリアも床のレッドカーペットも豪華すぎるし!
「カロン。魔王様にお食事と風呂の用意を。それと着替えのご用意をお願いします。」
「ええっ!?そんな良いよ!カロンさんにそんな負担はかけられないです!」
「フフッ。魔王様はお優しいのですね。ですがご心配無用です。」
カロンはそう言うと控えに居た二人の青年が現れ、彼女は彼らに指示をする。
「ステュクス。貴方は食事を。二クスは魔王様の衣類のご用意を!」
「「畏まりました。」」
二人の使用人はカロンに頭を下げると素早い動きで各々準備を進めていく。
「では魔王様。浴場へ。既に風呂のご用意はできております。」
「色々早くない!?」
仕事が早すぎる使用人に僕は驚く。プルートいいこの使用人達といい・・・すごく頼りになりそうでもう世界を変えることが出来るのではないか?と思ってしまいそうになった。
◇◇◇
大浴場に肩までゆっくり浸かり、風呂に上がってからはまるで本の世界にでも来たかのような豪華な食事を堪能した僕は着替えとしてやや大きめな黒いローブを与えられると専用の部屋まで案内された。
自室に入るとようやく一人になり、部屋の真ん中で大の字に寝転がるとようやく落ち着きを取り戻していく。にしても与えられた僕の部屋・・・凄く広いのは気のせいだろうか?あの目の前にあるベッドなんか明らかに家族用と思う位には大きいしソファも机もあるし棚には本もずらっと並べられている。・・・本か。
風呂でリラックスした身体を起こして本棚まで歩み寄るとそこから一冊の本を取り、その場に座り込んで頁を開いた。本・・・と言うよりかは植物図鑑だ。
「凄い!ソルバースの学校で教わらなかった植物や薬草の名前なんかがいっぱいある!こんな種類の植物が世界にはあるのか!」
植物の話題になると所謂オタクモードになる性分だ。知っている植物も勿論、初めて知る植物を知る内にふと思いつく。野菜の種を植えたい・・・と。こんなに広い庭を持つ屋敷だし魔王の僕が自由に使っていいのなら野菜を植えたって誰も断らないだろう。
「・・・プルートにいくつか野菜の種を取り寄せられないか聞いてみようかな?」
「えぇ、出来ますよ。」
「うわああい!?」
いつの間にか目の前に立っていたプルートに即答され僕は思わず変な声を出して驚いてしまった。いや、貴方いつから居たの!?
「魔王様は本当に植物がお好きなのですね。」
「そうだよ。植物は人と違って皆正直だからね。」
「宜しければその図鑑にある植物も粗方お取り寄せは出来ますが?」
「・・・え?本当に?」
キョトンとする僕にプルートは自慢げに頷く。・・・会ったばかりだけどこれだけは言える。この側近、凄く優秀すぎる!!
「カロンに発注の手配を掛けておきます。数日後にはこの屋敷に届くでしょう。では、ごゆっくりお休みください。」
プルートはそう言うと頭を下げながら後ずさりして部屋を出て行く。・・・ありがとう。そう返す前に居なくなった彼を見て微笑む。案外、世の中には自分を理解してくれる人もいるのかもしれない。・・・ちょっと眠くなってきたな。とりあえず今日は早く休んで種が来るのを待とうかな?
◇◇◇
数日後・・・プルートの言う通り、僕が欲しかった種が屋敷に届いた。届くや否や早速封を開けて待ちに待った種と対面する。
「わああああ!本物だぁああ~!」
小さな袋に包装された種を見て目を輝かせる。今、手に持っているのは『ドクダミ』の種だ。ドクダミは解毒作用があり、冒険者の必需品といっても過言ではない薬草なのだが市場だと希少価値もあってか多くは買えない代物・・・その種が今、僕の手の中に!!あぁ~幸せだ。興奮しすぎて涎も止まらなくなる!
その他にもジャガイモの種やイチゴ、ニンジン、ゲンノショウコ、ハッカ、ウコン、ハトムギといった喉から手が出る程欲しかった薬草の種を手に入れ早速、庭の一部を耕して植えた。
「魔王様、あれだけの種をもう全部植えてしまったのですか?この短時間で?」
「うん、植えたよ。」
あっという間に種を植えた僕を見て、カロンは驚きの表情をする。家事全般を光の速さで終わらせる貴女に「もう」と言われると煽りにしか聞こえないのだが・・・。兎に角、種も植え終わったし後はじっくり時間をかけて育てるとしよう。それが植物を育てる醍醐味なのだから。
「そう言えばプルートはどうしたの?」
「プルート様は私用で隣町のトータティスへ行かれました。恐らくもうすぐ戻ってこられるでしょう。」
プルートが珍しく外出していることに驚きだが色々あるのだろう。とはいえ、いつまでも植物を育ててばかりじゃいけない。掌を見つめ、自分の能力についてどうするかを考える。
・・・この力を制御するには先ず戦いの知識が必要だろう。