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第2話:襲撃

喧騒が響き渡る闘技場のリング・・・そこでは僕をいつも虐めているベスタが仲のいい男子と手合わせしていた。


「おらっ!」


ベスタは自身の能力である雷を纏った拳で対戦相手をリング外に飛ばして勝利する。


「勝者!ベスタ!」

「っしゃあ!!!」

「いやぁやっぱベスタには適わねぇよ。」

「何言ってんだよイカルス。お前も強くなったぜ?」


ベスタはそう言って対戦相手の手を取って一緒に立ち上がるとその勇姿と優しさを賞賛する歓声が響き渡った。


そんな中、僕はただ一人無関心と言わんばかりに観客席の隅で読んでいた本を閉じ、青い空を見上げる。


世の中は間違っているのかもしれない。生まれつき得た能力で人生が左右される・・・ベスタやルナの様な優秀な能力を持つ人は将来、第二の勇者として有名になったりして功績を残す。仮に微妙な能力でも貴族や近衛兵といったエリートコースも約束されている。


でも、僕の様な無能力は一生奴隷の様な存在として扱われ偏見や差別の対象となる。この世界は人間の醜い『闇』が蠢いているのだ。


もし、僕もベスタの様な強い能力があったら今も皆からおだてられていた事だろう。


「・・・やっぱり普通じゃないよ。この世界は。」


独りそう呟くと僕は人知れず闘技場から立ち去る。残りの時間は植物園か図書館で過ごすとしよう。


◇◇◇


学校が終わり僕は夕闇の空の下で帰路に就く。結局今日も一日中闘技場で授業をしていたようだ。まぁ、その分こっちは植物園で色んな植物を見ながら時間を潰せたけど・・・どうせサボっても先生は無能力の僕に無関心だし。


「えーっと・・・帰ったら植物学の予習とジャガイモの苗に水をやらないと。今月は雨が降らない時期だから水は多めにやらないとな。」


足を家に進めながら帰った後の予定を呟く。


僕には家族が居ない。物心ついた時には母親は居なくなっており、父親は僕が生まれる前に死んだことは知っている。ソルバースの学校に通うまでは近所のルナやその家族が世話をしてくれたがあくまでも神官の仕事として孤児の面倒を見ていただけだった為か関係はそこまで良くなかった。


まぁ、全く知らない・・・それも無能力の子供の面倒なんて神官でも見たくないだろう。


「テラ君!」


突然、名前を呼ばれ振り向くとルナが急いだ様子でこちらに駆け寄ってきた。


「ルナ。課外授業をしてたんじゃなかったのか?」

「門限が近づくから途中で抜けたの。」

「そっか。神官の家も大変なんだね。」

「わ、私は・・・テラ君と一緒に帰れるからいいかな?」


やや顔を赤くしたルナがボソッとした声でそう言った。


「えっ?」

「何でもない。早く帰ろう。」

「うん」


ルナは直ぐに赤面を隠して僕と並んで歩き出す。地面には僕と彼女の影が並んで時折大きさを変えながら僕らの後に付いてくる。


「今日、途中から闘技場に居なかったけどどうしたの?」

「植物園にいた。ハエトリグサをずっと見てたよ。」

「相変わらず植物が好きなんだね。」

「植物は正直だ。前向きな言葉を放てば花を咲かせ。逆に後ろ向きな事を言えば最悪枯れてしまう。だから僕は人より素直な植物が大好きなんだ。」


夕日を見ながら僕は植物への思いを告げる。


「ねえ、テラ君。」

「何?」


ルナは立ち止まると僕に顔を向けて言った。


「今度さ私にポーションの作り方教えてよ。テラ君の方が上手に作れるしお父さんからの試練で良いポーション作る事を課されてるの。勉強したくて。」

「僕で良ければ力になるよ。」


彼女のお願いを快諾する。いつも怪我を治してもらっているしポーション生成を教えるのは安いものだ。


「ありがとう!じゃあ・・・」


早速と言わんばかりに彼女が何か言おうとした瞬間、付近の森に面した住宅街から爆発と同時に黒い煙が黄昏の空に上がり始めた。


「キャッ!な、何?」


その爆発の音にルナは驚き、僕は聳え立っていく黒煙に顔を向けて嫌な予感を覚えた。なんだ?今の爆発は!明らかに民家が集まる場所で起こるものじゃないぞ!!焦りの表情を浮かべて目の前に視線を戻すと多くの民間人が後ろを振り向きながらこちらに向かって走っていた。


そして・・・何かから逃げる人々は口を揃えてこう叫んだ。


「”魔族”が現れた」と。


◇◇◇


「ま、魔族?・・・そんな筈・・・」

「ルナ!兎に角逃げよう!」


魔物と聞いて呆然となったルナを連れて僕は避難する街の人達と一緒に逃げる。


「ヒャッハー!」


その道中、甲高い声と共に何かが目の前に現れた途端、僕は目を疑った。見た目は僕らと同じ人間・・・だが角の生えた頭に先が細い舌・・・正に魔族と呼ぶべき者が目の前に現れたのだ。


夢だと疑いたい。でも現実は非情だ。今この瞬間、僕らの目の前にいるコイツは紛れもなく15年前に絶滅したはずの魔族そのものだ。その証拠に隣にいた女性は悲鳴を上げて瞬く間に気絶してしまった。


「イーッヒッヒッヒ!人間共!恐れろ!俺達魔族の前に屈しろ!!」

「嘘・・・魔族って15年前に滅んだんじゃ・・・」

「それはお前達人間が勝手に決めたことだ!誰が魔族が15年前に絶滅したと言ったのだ?」


敵ながら御尤もな回答ありがとう・・・じゃない!なんで今になって人間の前に出てきたんだ!?


「お前達の目的はなんだ!」

「イーッヒッヒッヒ!決まっているだろう?復讐だ!勇者を生んだお前ら人間に対するな!!さあて・・・」


魔族は僕らにじりじりと近付きながら手にしている三又の槍を向けてくる。しかし、直後に雷を纏った人影が炎と氷を纏った人影と共に魔族に蹴りを入れた。


「ぎゃあああああああ!熱い!冷たい!痺れる!!」

「ぎゃーぎゃーうるせぇぞ!魔族風情が!」


魔族に人蹴りお見舞いしたベスタは連れであるアドニス、イカルスを率いて現れると街の人達から歓声が上がった。


「おい!あの子オルバース卿の息子じゃないか?」

「ほ、本当だ!助かった!」


民衆の声にいい気になったのか彼は口角を上げて魔族に対し、お得意の雷の拳を繰り出した。


「ぎゃああああああ!!」

「ヘッ、所詮は下等か・・・」


自身の拳一撃で消滅した魔族にベスタは鼻で笑う。


「んで?」


魔族を倒したベスタはくるりと首をこちらに向けて僕を見る。あぁ始まった。


「なんで無能力のテメェが優等生のルナと居るんだよ?」

「そうだぜ?無能力の癖に生意気だぞ!

「ルナさんの隣には我らがベスタがお似合いなんだよ!」

「ぐっ!」


イカルスはそう言うと僕を突き飛ばして地面に伏させると同時に『無能力』と聞いた民衆は僕を指差してざわざわと話し始めた。


「見ろよ!民衆もテメェみたいなゴミが居るのが不愉快なんだよ!」

「待って!ベスタ!」

「ルナさんは下がっててください!」

「待ってって!」


僕を擁護しようとしたルナはアドニスとイカルスに制止され僕から遠ざけられるとベスタは拳をポキポキ鳴らしながら不敵な笑みを浮かべる。


結局こうだ。民衆を見たら分かる。こんな有事の時でも無能力は差別される。これが人間の・・・この世界の”闇”だ。


「さあてテメェをどうしてやろうか?」

「べ、ベスタ!大変だ!!」

「あ?どうした・・・」


イカルスらの焦った声で僕らは視線を先程居た魔族の方へ向けると屈強で巨大な体格をした如何にもな魔族が仁王立ちでこちらを見下ろしていた。

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