第19話:残酷な運命
アディ姉と呼ばれた女性はウェヌスを見て、冷たい視線を送る。ヴィーナス兵よりも豪華な服装からして彼女は国の要人だろう。
「やはり現れましたか・・・ヴィーナス公国第一皇女、アプロディーテ。」
「第一皇女?それって!!」
プルートの言葉に僕は驚いた。そう、彼女はヴィーナスの皇女であり、正真正銘ウェヌスの姉にあたる人物だ。
「ヴィーナスの掟では裏切り者は徹底的に排除する・・・そういう決まりだ。まさかそれを血を分けた妹が破るとはな。」
ヴィーナス皇女アプロディーテはゆっくり剣を鞘から抜いて冷たい白銀の刃を妹へ向けた。・・・まさか!
「ちょっと待ってください!貴女は仮にもウェヌスのお姉さんなんですよね?」
「妹?私の妹は先日、ヴィーナスを経ってから死んだよ。」
「・・・は?」
アプロディーテの衝撃的な発言に困惑する。嘘だろ・・・そんなのって!!
「ウェヌス。国を裏切った以上、貴様は最早、ヴィーナスの皇女でも私の妹でもない。覚悟は出来ているな?」
「覚悟は出来てる・・・でも、一ついいか?アディ姉。ヴィーナスのやり方は間違ってる!親父もアディ姉も本当はこんなことしたくねぇはずだ!!だから・・・」
「黙れ!」
ウェヌスの言葉を遮ったアプロディーテは背を向けて言った。
「殺す気も失せた。せいぜい、砂漠の藻屑となるのだな。」
「アプロディーテ様、良いのですか?裏切り者を野放しにして・・・」
「構わん。ここで野たれ死ねばいい。さらばだ。ウェヌス。」
去っていくアプロディーテ達を見て、僕は安堵する。良かった・・・あんな数が相手になってたら今頃、本当に砂漠の藻屑になってたよ。・・・でも、アプロディーテのさっきの言葉・・・あれは本心なのだろうか?本当に実の妹なんか殺せるならそれは人じゃない。若しくはかなりの外道だろう。
とはいえ、ウェヌス達を助けられたのは大きい。さっきの兵士以外に負傷者はいたから早くアナンケに連れて行かないと・・・。
「アディ姉・・・」
「ウェヌスさん。一旦、ここは逃げよう。」
「・・・あぁ、そうだな。」
姉から言われたことを気にしているウェヌスを連れて、船に乗り込むと直ぐにヴィーナスの砂漠地帯を離脱すると彼女の無事を祈る者が待つアナンケ共和国へ一時戻ることにした。
◇◇◇
アナンケ共和国で負傷したヴィーナス兵を預けた僕達はエウアンテからソルバースとヴィーナスが”ダフニス王国”へ侵略しようとしているという噂を聞き、直ぐにアナンケを経ち、そこから北西部の高原地帯を目指す。
プルート曰く、ダフニスは騎士と呼ばれるソルバースに負けず劣らずの兵士が居るそうで隣国の”マルス王国”と”トリトン王国”で三国同盟を組んでいるらしくウラヌスと訪れた際に国王はこれを理由に挙げて協力を断ったという。
「まさか、ダフニスに攻め込むとは思いませんでしたね。」
「距離的にアナンケを狙うと思ったけど・・・どうやらアナンケは後回しの様ね。」
「ソルバースがダフニスに攻めることは分かったが・・・」
甲板でプルートとマーキュリーはそんな会話をしているとウラヌスは隣にいるウェヌスを指した。
「何故、彼女がここにいるのだ?アナンケで降りたと思っていたが・・・」
「アタシが付いて来たら不満か?エアリエルの王子サンよぉ。言っとくが今は仲間だぜ?」
「そうですか・・・」
ウェヌスを見て、ウラヌスはやや呆れた様子を見せる。この二人がまともに会話するのはまだ難しそうだ。なんせ、敵国・・・それも王族同士な訳だし。
「今回の祖国のやり方とエアリエルの惨状を聞いてアタシは思ったんだ。こんなのヴィーナスのやり方じゃねぇ!ってな。それを親父とアディ姉に思い出させる。その為にアタシも戦うよ!アンタ達と。」
「ご協力感謝致します。」
プルートが一礼するとウェヌスは僕を見て笑みを浮かべた。
「お前もありがとな!まさか魔王のガキがアタシ達を助けてくれるなんて思わなかったよ。」
「礼なんていいよ。僕はやれることをやっただけだから。」
「謙遜すんなよ!お前はアタシにとって部下を助けた命の恩人なんだ!」
まさか、僕の植物好きとポーション生成の知識が誰かの命を助けるなんて思いもしなかったなぁ・・・それにウェヌスがこうも魔王の子供と明かしただけで驚くどころか関心を持ったのも驚きだ。普段は無邪気な性格だけどいざという時は皇女の片鱗を見せる人らしい。
「んで?ここは何処なんだ?」
「ここはダフニス王国領の入り口にあたる”ダフニス草原道”です。この辺にソルバースの別動隊が居る筈なのですが。」
ウェヌスにそう答えながらプルートは辺りを見渡す。こんなに見渡しのいい草原ならすぐに敵が見つかりそうなものだが近くには居ない。既に本体と合流したのだろうか?できれば戦わずにダフニス軍と合流したいなぁ・・・と思っていた瞬間。
「はっ!テラ!あぶねぇ!」
「へ?」
突然、ウェヌスに抱きかかえられ、彼女と共に地面へ倒れると先程、僕が立っていた場所に攻撃魔法と思われる光の弾が通過した。
「なっ!?魔法で狙撃だと!!」
「不覚!魔王様、ウェヌス殿。お怪我は?」
「う、うん。大丈夫。」
「安心すんのは早いぞ!・・・見ろ!出やがった。」
ウェヌスが立ち上がりながら付近の茂みを指すと次々とソルバースの兵士が武器を構えて僕達を取り囲む。・・・なんて数だ!こんなに多いなら本体はどれだけ居るんだ?
「魔王様。お下がりください。」
「うん。でも僕も戦うよ!」
プルートにそう答えて前に出た途端・・・
「・・・テラ君。」
「!!まさか!この声・・・!!」
ソルバース兵を率いる者を見て目を疑う。服装は黒を基調としているけど間違いない!!僕が唯一、ソルバースで親友と思っていた・・・ルナだ!!




