第10話:防衛!ビクトリア村!
あれから数日後、本当にソルバースの軍隊がビクトリア村へやってきた。どうやら欲しいものは徹底的に獲る性分の様だ。これが勇者を排出した国とはとても思えない。
「ソルバースは出ていけ!」
「俺達の村は渡さない!」
村の入り口付近までソルバース軍がやって来た瞬間、村人達は抗議を行って抵抗をする。だが、相手は武装・・・それも戦闘もお手の物の国の兵士達だ。彼らの抵抗に怯み一つもしなかった。
「我々は現国王サン13世の命でビクトリア村を制圧に来た!本日よりビクトリア村はソルバース王国領とする!」
「ふざけるな!先王の時に独立する条約を交わしただろ!」
「それは亡き先王の政策。現国王の政策として方針が変わったのだ!抵抗するのならここで皆殺しにする。悪く思うな!」
軍を指揮しているソルバースの将校がそう言うと兵達が次々と村人達に詰め寄ってくる。なんて奴らだ!一方的に条約を破って村を侵略するなんて!!・・・絶対に許しちゃいけない!!
僕は腹を括るとソルバースの兵士達の前まで歩み寄る。それに付いていくかのようにプルート、マーキュリーも後に続いた。
「マーキュリーさん。本当にいいんですか?」
「村を守りたいって言ったのは誰かしら?私はどっちだっていいわよ。行く宛ても無いしね。」
「あ、ありがとうございます。」
改めて協力してくれるマーキュリーに礼を言うと僕達はソルバースの兵士達と相対する。
「なんだ?お前達は?」
それに気付いたソルバースの将校が睨みながら尋ねてくる。・・・お前達は絶対に許さない!僕はこの村を守る!たとえ魔王でも"この世界に光を齎すんだ!"
気を集中させ、中腰になりながら腕を交差すると両腕に魔王の力である闇の力が纏われる。
「なっ!?そ、その力は!?」
「まさか貴様!魔王の仔か!?」
僕の能力を見た途端、ソルバース兵達は一歩下がりながらも臆することなく武器を構えてくる。
「ま、魔王の仔だと!?」
「まさかマーキュリー様は魔王の仔と戦うつもりか?」
「いや、そもそも魔王に子供なんていたのか!?」
村の人達からも驚きの声と共にソルバースと僕らを交互に見つめる。まるでどちらが我々を守る存在なのか?と。
「ビクトリア村の制圧は後だ!魔王の仔を殺せ!」
「「はっ!」」
将校の号令と共に兵士達は作物の育った畑を踏み荒らしながら僕らに攻撃を仕掛けてくる。しかし、すんでのところで空から無数の落雷が起こるとそれらは兵士達に直撃して次々地面へと伏せていく。
「な、何だと!?」
「申し訳ございません。生憎手加減というものは私の辞書には無いものでね。」
落雷を起こしたプルートは将校らにそう言うと魔導書片手に眼鏡を上げた。
「くっ!馬鹿にしおって!魔法がなんだ!能力を使って戦え!」
「「はっ!」」
ソルバース兵らは各々の獲物に自身の能力である電気や炎、氷、風の力を纏うと再び僕らへ迫ってくる。
しかし、今度は何処からか飛んできた氷刃が現れるとそれらはソルバース兵らの足元に突撃して地面を凍らせていった。
「なっ!?あ、足が!!」
「今度はなんだ?」
足を凍らされて身動きが取れなくなった彼らの前にマーキュリーが立つと彼女は杖を構えながら先程の氷刃を傍らに佇ませた。あの氷刃・・・もしかしてマーキュリーの能力なのか?
「私の能力・・・とくと味わったわね。」
マーキュリーはそう言って更に氷刃を増やして他の兵達に威嚇した。どうやら彼女の能力はあの氷刃を自在に展開して操れる能力のようだ。戦闘に於いてはかなり強力で且つ汎用性に優れているものだろう。
「・・・って貴方はそう思っているでしょう?」
僕の心を読み取ったかのようにそう言ったマーキュリーは杖を一回転させてこちらに顔を向ける。
「魔導士は一芸だけじゃ務まらないわ。魔法があってこそよ。能力に頼るのは凡人がやること。」
迫ってきた敵が剣を振り上げたと同時にマーキュリーは杖先から光弾を放って奴らを吹き飛ばす。凄い!プルートも相当な魔法の使い手だけど彼女もそれに引けを取らない実力を誇っている・・・。
これが”水星の魔導士”と呼ばれる由縁なのだろうか?
「魔王様、よそ見をしている暇はありませんよ。」
「分かってる。」
プルートの言葉で切り替えた僕はこちらに迫る敵と相対する。
「捉えた!魔王の仔!!討ち取ったぞ!!」
槍を突いてくる兵士の攻撃を回避して僕は闇のオーラーを纏った拳を握り締めて勢いよく横殴りに振るとそれは兵士の腹部に偶然直撃して気絶させた。
「えっ?やったぁ!当たった!」
「お見事です。ですがまだ来ますよ。気を抜かずに!」
「うん!」
次々迫るソルバース兵にプルートは再び落雷の魔法で奴らの大半を戦闘不能に追い込んでいく。気が付けば部隊は将校ら数人だけが残っている状況になっていた。
「ば・・・馬鹿な。我々は誇り高きソルバース王国の軍隊だぞ!?魔王の仔とたかが魔導士2人にやられるはずが・・・」
既に倒れている兵達を見て、将校は冷や汗を流しながら後ずさりする。正直、この状況には僕も驚いている。なんせソルバース王国は15年前に先代魔王と相打ちながらも討伐に成功したあの勇者の出身でもある国で軍事力も他国を寄せ付けないほどだ。
そんな軍隊をプルートとマーキュリーは呆気なく倒してしまった・・・凄いと同時に自分が全く活躍できていない事に不甲斐なさを感じてしまう。この2人と肩を並べるなんてとてもじゃないが出来やしないだろう・・・今の自分では。
「はい、終了。もういいわよね?早く帰ってもらえるかしら?」
マーキュリーは被っているとんがり帽を深々と被りながら将校らにそう言った。でも奴らのことだ。「はい、分かりました。」と素直に答えて帰らないだろう。
「どうしますか?陛下になんとお伝えしたら・・・」
「分かっている!だが・・・」
ひそひそと将校らが話し始めた時だった。
「おい」
野太い男の声が聞こえ、僕らがそちらに視線を向けると将校達の前に屈強な大男が腕を組みながら仁王立ちで佇んでいた。