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第1話:テラ・マーテル

『魔王』と聞いて皆はどんな人を思い浮かべるだろうか?


多種多様な魔族を操り、村や街を襲って金品や武器、更にはその土地までも略奪し、薄暗い城の玉座で偉そうに座って笑っている・・・なんてイメージを持つ人が大半かもしれない。


そんな人この世界にも存在した。どんな人かまでは分からないけど世間から魔王と呼ばれている時点でお察しの通りだろう。


僕がまだ生まれたての赤ん坊だった15年前、魔王と勇者が戦って両者の相打ちという形で世界は平和になった。でも・・・人間は今、魔族よりも酷く醜い存在になりかけている。


だってまさに今・・・


「おい!テラ!なんで無能力(バニラのテメェが学校に行こうとしてんだよ!!」


そんな声と同時に雷を纏った拳が頬に直撃するとその衝撃で僕は空高く吹き飛んで地面に身体を打ち付けた。


「ぎゃはははは!!見ろよアイツ!派手に吹っ飛んで行ったぜ!」


痛いけど慣れっこだ・・・ゲラゲラ笑う同世代の少年らを見ながらうつ伏せになった身体を起こそうとした直後、頭を地面に抑え付けられて自由を奪われる。


「おい!誰が顔を上げて良いって言ったんだよ?無能力のザコは大人しく地面に倒れとけよ!その方がお似合いなんだよ!!」


そう言われると更に少年らはゲラゲラ笑い、僕はそのまま胸元を掴まれると同時に現在進行形で自分を虐めている少年の姿が視界に映った。


「「ベスタのいいこと見てみたーい!!」」

「おう!任せろ!!」

「ベスタ!ベスタ!ベスタ!」


少年の名前を呼ぶコールと共に彼の雷を纏った拳が再び僕に襲い掛かると視界が暗くなると同時に意識も手放してしまうのだった。


◇◇◇


「テラ君、大丈夫?」


ベスタ率いる少年らから暴力を受けた僕は学校の医務室でクラスメイトの少女から手当てを受けていた。本当に申し訳ないな・・・。


「ルナ、ごめん。」

「なんで謝るの?悪いのはベスタ達だよ。」

「で、でも・・・」

能力スキルが有る無いとか関係ないもん。」


ルナはそう言って僕の傷を自身の能力である『治癒』で治していく。


「はい、治ったよ。大丈夫?他に怪我している所とかない?」

「うん、大丈夫。」

「良かったあ!」


ルナは可愛い笑みを浮かべて安堵する。彼女は僕にとっては唯一の理解者と言っても過言ではない。まぁ、由緒ある神官の家柄ってのもあるのだろうが・・・


「いつもありがとう。でも僕と一緒にいて大丈夫なの?」

「そんなこと聞かないでよ。テラ君と一緒にいるかは私が決めるんだし。」

「そっか・・・」


僕は微笑んで回復魔法がびっしり書かれた魔導書を閉じるルナを見た。


「それにテラ君は植物にも詳しいじゃない?私もそのことについてもっと聞きたいなぁって思ってるから。」

「農業をしたいってだけだから植物に詳しくなっただけなんだけど・・・」

「そんなこと無いよ!!テラ君凄いよ!ポーション生成とか毒の中和とか私出来ないもん。」


ルナは目をキラキラさせながらこちらを見る。まぁ、植物に詳しくなったのは事実だ。そのおかげか家からの課題でよくポーション生成を課せられている彼女を助けたことが何回もあったし・・・。


「私、お父さんみたいに毒みたいなデバフを治すことがまだ出来ないから・・・」

「僕の傷を治せるだけでも凄いよ。」


自分と自分の父を比べて落胆するルナにそう励ましの言葉を入れた。


「そうかな?だとしたらちょっと自信湧いてくるかも。」

「ルナはそれでいいんだよ。僕みたいに無能力じゃないわけだしさ。」

「そんなこと言わないで。」


ルナは僕にムッとした表情をすると直ぐにハッとした顔を浮かべた。


「あっ!そろそろ授業始まっちゃう!テラ君も行こう!」

「僕はもう少しここに居るよ。またベスタ達に絡まれると面倒だし。それに今日は闘技場での対戦授業だしさ。」

「分かった。私先に行くね!」

「うん」


彼女は杖を片手に医務室を飛び出すと僕はベッドに座ったままその背中を見送る。


「はあ」


独りになり、ため息を吐くと自分の掌を見て物思いにふける。


能力スキル・・・それは火、水、土、風、光の5つの属性の力と治癒等の特殊な力を扱う能力で多くの人は必ずこのどれかの属性に由来した能力を持っている。


でも、世界は時に残酷だ。中にはこの能力を持たない者・・・即ち、無能力バニラと呼ばれる人も居るのだ。


無能力の人は何の能力もない為、優秀な能力を持っている人からは差別や偏見、虐めの対象になりやすい。現に此処"ソルバース王国"の兵士や貴族達も無能力の人を奴隷の様に見下している。


「能力が僕にもあったら・・・」


そんな事を呟いて再びため息を吐く。まあ、ここで嘆いたって能力が発現する訳でも無いし仕方ない。取り敢えず対戦授業には出よう。参加するかどうかは自由だし。


「行くか・・・。」


傷も癒えて医務室にいる必要が無くなった僕は立ち上がって校内にある闘技場へ向かおうとした時だった。


「うっ!」


突然、強い頭痛に襲われて僕はその場に蹲る。い、痛い!!なんだこの頭痛は!まるで脳みそを直接握り潰されているようなこの痛さは今まで感じたことがない!


「うっ!ああっ!ううっ!」


頭痛は徐々に強くなって僕を蝕むと暫くしてから急に収まって痛みから解放された。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


息を切らしながら先程まで痛かった頭を抱える。今のは何だったんだ?


「考える暇は・・・ない、よね?」


恐る恐る立ち上がると僕は頭痛の謎を探るのをやめて授業をしている闘技場へ足を運ぶのだった。

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