EP5
「ただいま。」
そう呟いても何も返ってこない。確かしばらくは仕事が忙しいとか言っていた。果たしてホントなんだろうか。例え嘘だとしても慣れている。僕はご飯を食べずに寝ることにした。
朝になっても母さんは居なかった。仕方なく自分で食パンを焼いてジャムをぬる。今回母さんはいつ帰ってくるのだろうか。前回は1週間近く戻ってこなかった。しかし母さんは用意周到だ。1週間近く戻らなくてもいいようにあらかじめ簡単に作れるレシピと食材をいれておく。別に困らないが味気のないご飯になり食べるのが億劫になる。
家を出て学校に向かう。もう何度も通った道だ。慣れたもんだなと思いながら歩いていると後ろから嫌な気配がした。心が冷えていく。恐怖に縛られ動けなくなってしまった。
「よお、ノロマ。朝から逢えるなんて偶然だな。って言っても待ってただけなんだけどな。昨日何してたんだよ。俺昨日すげぇイライラしてたんだ。それなのにお前は来なかった。」
「ごめん。もうすぐテストで図書館にいたんだ。」
「相変わらず真面目ちゃんだな。そういうとこが腹立つ。今からツラ貸せよ。」
「でも、学校が……」
「別に1時間ぐらいいいだろ。そんなに成績が大事か?」
「そういう訳じゃない。」
「じゃあいいだろ。」
そう言って僕の腕を引っ張る。たどり着いたのは見知った公園だ。中学の時もここで何度も殴られた。逃げ出したかった。そんな時公園にもう1人の男が現れた。
「な、なんで金田くんが……」
「おう、金田遅かったじゃないか。」
「すまんすまん。ちょっと用があってな。それと久しぶりだな陽翔くん。」
「金田が来るとこいつめっちゃ怯えるから楽しいんだよな。」
「俺そんなに怖いか?お前らとやってる事変わらないと思うが。」
「だってお前力強いじゃん。1発殴るだけでこいつ悶絶するぜ。」
2人は楽しそうに話している。金田陽介という男は柔道を習っている。そのせいで殴られる度物凄い痛みが走る。金田くんはニヤリと笑う。
「お前いつまで突っ立ってんだ。陽翔くんは地べたに寝そべってる方がお似合いだぜ。」
お腹に重い一撃が入ったと同時に吐いてしまった。これから僕はどうなってしまうのだろうか。このままずっと1人で耐えるしかないのだろうか。そう思うと涙が溢れて止まらなかった。