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……戦支度……

第七章 戦支度


 翌朝、二人はレイアに起こされた。

「王子、おはようございます、エイル、王子より先に起きていないとダメよ」

「はい、レイアさんごめんなさい」

(うーん不思議だ、母も父上の第一夫人とこんな会話をしていたのだろうか?)


 支度を済ませて下に降りると、鉄華団の団員が一人ペッコを持っていた。彼は敬礼をすると

「申告します、ルネ・ラエネク一等兵、ド・ペッコ少佐付き従卒を拝命いたしました、以後よろしくお願いいたします」

と挨拶をしてくる。

(へぇ、従卒か便利だな、体育会系のパシリって感じで良いのかな?)

「ご苦労様、ルネさん朝食は済みましたか?」

「はい少佐、あの自分の事はルネで結構です」

(階級的には僕が上なんだけど、この人歳上だものなぁ、映画の様に『一等兵』とか呼ぶのも嫌だし)

「ああ、気にしないでください、僕のスタイルなんで、それでルネさん、お願いがあります、「服飾士」「工芸士」ギルドに行ってギルドマスター達にランチ後に鉄華団本部に来ていただける様に頼んでいただけますか、砂の都の一大事に関わる依頼が有るのでと僕が言っていたと伝えてください、僕は朝食を済ませたら本部に行きます、なので後ほど本部で」

「は、了解いたしました」


 パンと卵、ベーコンのいつもの朝食を食べて、コーヒーを飲んで、ペッコはレイアとエイルを連れて

鉄華団本部に向かう。

「今日は、二人にはみっちりと訓練をしてもらうからね」

「はい王子」

 本部に着くと、ペッコ達は中庭の練兵場に入った、そこには訓練用の木人が置いてある。

「二人とも、まずは赤魔法士の技を使いこなせる様になってもらうからね」

「はい」

「あの、王子、私は赤魔法士って知りませんけど?」

「このクリスタルを握ってみて」

「はい、え?あ? 何これ?」

クリスタルはそのままポケットにしまって、僕のレイピアと魔器を貸すから、頭に浮かんだ剣技や魔法をあの木人で練習するんだよ、じゃぁ僕はスチール・リバー大将の所に行って来るからね」

 ペッコが大将の元に赴くのは、大将が不死隊以来ずっと軍令を担当しているからだと義氏の知識が教えてくれているからだ、だから朝一番に例の魔法通信でブレイドを通じて面会の約束を取ってあった。

 大将の執務室は、団長の部屋のすぐ隣にあり、ほぼ同じ作りで同じサイズの部屋だった。

入り口の秘書官に来訪を伝えると、すぐに中に通してくれた。


 「失礼します、お時間を頂いてありがとうございます」

「おう来たか、まぁそんなに固くなるな、ワシは少佐のお父上とは長い付き合いでな、飲み友達みたいなものなんだよ」

「そうでしたか、それは父がいつもお世話になっております」

「何、世話になっているのはこっちだ、最近では上手いエールを送ってくれるしな、持つべき物は良い友じゃな、それでワシに何の様かな?」

「はい、昨日の幻術士と私のパート……友人の魔法士の件なのですが二人は隊ではどの様な待遇にすればよろしいのでしょうか?

「そうか、失念していたな、一人は幻術士か、その友人は?」

「魔法士、赤魔法士です」

「それは結構、ならば二人とも少尉と言う事でどうかな、君の分も合わせて辞令を直ぐに届けさせよう、それと君の部屋だが、もう用意はできているから、好きに使って良いぞ」

「はい、ありがとうございます、あ、それともう一つ、制服って頂けるのですか?」

「制服や装備は、下士官までは支給品だが、尉官以上は自前と言う事に決まっている、不死隊の頃からそうなんだが、何分に予算が足りなくてな苦労しとるんだ、後で出入りの業者を部屋に行かせるから、好きな様にオーダーをすると良いぞ」

「ありがとうございます、では訓練がありますので失礼いたします」


 ペッコはそう言って大将の部屋を後にした、

(そう言えば父は歴戦の傭兵だったんだよな、一度ちゃんと話をしに行かないと)

そのまま、廊下を歩いて自分の部屋を探すと、名札が付いた扉を見つけた。

(へぇ、袖付きのL字型事務机に、肘掛け付きの椅子、それに応接セットと秘書用のスペースもあるのか、少佐って部長クラスの扱いなんだな、よし練兵場に戻るか)


 練兵場では木人で訓練するレイアとエリスの二人を取り囲む様に兵達が集まっている。

(うんうん、二人とも美人だから仕方が無いか)

『おいおい美人のお嬢ちゃん達、そんな細い剣で敵を切れるのか」

「なぁ、訓練より俺たちにお酌でもしてくれよ」

「うおー今見えたぞ」

(まぁ、そんなもんだよな)

「二人とも、それまで、今度は僕と実戦形式で訓練するよ、二人一緒で良いから掛かって来て、あ、皆さんは危ないから少し下がって下さいね、怪我しても知らないですよ」

 そう言いながら、兵達の前で、真剣を使っての訓練を始める。

ペッコは片手剣を持っているだけだ。

 最初は冷やかして見ていた兵達だが、レイアとエリスが赤魔法士の剣技と魔法に慣れて、動きが良くなってくると、水を打った様に静かになった。そして、兵の一人が

「なぁ、あの若いのって、この間コロセウムで隊長を半殺しにした奴じゃ無いのか?」

「ああ、そうだあいつだ、鉄華団に入ると言っていたと聞いたぞ」

「二人がかりとは言え、その人とこれだけ戦えるって言う事は、あの姉ちゃん達も強いんじゃ無いのか」

「そうだよな、俺あんなスピードの剣、受けられるとは思えない」

「しかも、魔法の攻撃も来るんだぞ、これもしかして赤魔法って言うやつじゃ無いのか?」

と逆の意味でざわつき始めた。

「こら貴様ら、何をサボっている、ランニングはどうした?」

声の方を見ると、カヌートだ。

 ペッコは

「よし、ここまでだね、二人共ちゃんと剣技と魔法を使えて偉いよ、後は実戦形式でもっと経験を積めば問題無い」

「はい、王子ありがとうございます」

二人は声を揃えた、今日はペッコの指示で二人共種族衣装なので、観戦していた兵達も良い目の保養になっただろうと思った。


「おはようございます、カヌートさん、彼らには僕の訓練を見学してもらっていたんです」

「これはグ・ペッコ少佐」

とカヌートは敬礼をしてから

「おい、あまりウチの兵を甘やかすな」

とニヤリと笑った。どどうやら全てお見通の様だ。

「どうだ貴様ら、ペッコ少佐とその部下の方々の訓練は、俺の訓練の方がずっと優しいってよーくわかったろう、今日はいつもより厳しく行くからな」

「えー勘弁して下さいよ」

と、兵達をランニングの訓練に戻らせた。


 「少佐殿、ここにいらしたのですね、お部屋に方においでにならなかったので」

とルネ一等兵が走りよって来た

 「大尉」

とルネはカヌートに敬礼をする。

「少佐、こいつはな、素手で戦えば俺よりも強い位なんだが、剣の腕が全くダメなんだ、俺がまだ鉄道の警護をしていた頃の部下だったんだがな、その為に出世ができなくて今だに一等兵のままなんだよ、だが

気の良い奴だ、目をかけてやってくれ、ではな、おい貴様ら、気合いが足りない、もっと声を出せ!」

 と、自分の兵達の方に向かって行った


「全く大尉も余計な事を……あ、失礼いたしました、両ギルドのマスターとも、午後にお見えになるそうです、それと少佐がご依頼された品もできているので、持参されるとの事です。

「そうか、それはありがたいな、ルネさん、悪いけど訓練用の弓を二張りと矢を適当に借りてきていただけますか」

「は、直ちに」

 

 「さて、二人には今度は弓の練習をしてもらうけど、エリスはもちろん使えるよね?レイアはどう?」

「私は狩をしてましたから大丈夫です」

「私は、あまり得意では無いですが的を射る位なら……」

二人共なんで弓?という顔をしている。


「少佐、これでよろしいですか?」

ルネが弓を持って来てくれた

「今から、二人に練習してもらうのは、この技だ、この技だけ使える様になってくれればそれで良いから」

とペッコはルネから弓を受け取ると、矢をやや上に定めると、練兵場の反対側の木人に向かって矢を放った。矢は100本程の光の矢となって木人の周囲に降り注ぐ

「『サジタリオ・フレチャ』だ、本来は森の都の『吟遊詩人』の技なんだけどね」

「すごい、初めて見ました、あの詩人さん達がこんな技を使えるなんて知りませんでした」

「でも王子、私こんな凄い技使えませんよ」

「ああ、それなら大丈夫、ここに魔法のクリスタルが有るからね」

とペッコは事前に作成しておいた、吟遊詩人のクリスタルを懐から取り出して二人に渡した。

「もう使い方はわかるね、技のイメージに合わせて練習有るのみだよ」

「はい、上様」

二人は弓を受け取ると、矢を放つ……

技は一応発動するのだが、どこに飛んでいくのかわからない状態だ。

「うわぁ、なんだ危ねぇ……」

「あ、筋トレしてるみんなに当てないでね、当たったらそれなりに痛いから」

「は、はい」

 実際に当たったらそれなりでは無く、命に関わるのだがペッコは軽く二人に注意をした。

緊張して手が滑ったりしたら更に危ないと思ったからだ。


「さて、ルネさん、二人が弓の練習をしている間に、僕の訓練に付き合ってもらえますか?」

「え?はい」

「ルネさんは素手の格闘が得意と言う事なんですよね、格闘士ギルドで修行されたのですか?」

「はいそうです、少佐は格闘技をご存知なんですか?」

「では、やりましょうか」

 ペッコはそう言うと、腰の剣をベルトごと外して、ベストとシャツを脱いで上半身裸になった

そして、ルネに

「遠慮なさらずに、全力で来て下さい」

と声をかける。

 ルネも制服の鎧『スケールメイル』を脱ぐと、身軽になった。

「では少佐、失礼して」

 ルネの攻撃は格闘士の基本の突き、蹴りとその応用技だ、ペッコ=義氏はそれを、空手の技で防御し攻撃を返して行く。

 ルネは手加減の必要が無いと判断して、全力で攻撃をしてくる。

(やはり、格闘士の技って中国拳法由来なのかな、八極拳とか少林拳、形意拳に似た技があったよな)

義氏は学生の頃に空手や拳法の異種格闘技大会に出場した事もある、なので中国拳法との戦い方は身体が覚えている)

 ルネの突きに対して交差法でカウンター

(へぇ、咄嗟に攻撃を止めて避けるか、やるじゃない)

 しばらく撃ち合っていると、いつのまにか、また兵達が周りを取り囲んで見物をしている、しかも今度はクヌート大尉も一緒だ。レイアとエリスはそんな周囲の騒音に気を取られる事無く、一心不乱に弓の練習をしている。

「おいおい、あの少佐って魔法士なんだろ、なんでルネと素手で互角に戦っているんだ?」

「いや、互角ってお言うより少佐の方が押してる様に見えるけど?」

「でも体格ではルネの方が有利なはずだよな」


 ペッコは一度構えを解いた。

「ルネさんかなり強いですね、驚きました」

「いえ、こちらこそ、まさか、少佐が拳聖ラモン様並みに強いとは、恐れ入りました」

「ルネさんまだ、やれますか、次は少し違う技を練習してみたいのですが」

「はい、もちろんです」

 ルネは今度は『蓮撃』で拳を二度三度と突いてくる、ペッコ=義氏はそれを体捌きで避けるとルネの腕を取って投げる、投げられたルネは一瞬何が起きたかわからない表情をしている。

「なんだ、今ルネのやつ自分から飛んで行った?」

「いや違うだろう、少佐が目に見えない速さで投げ飛ばしたんだ」

「少佐、もう一度お願いします」

 ルネは、今度は先程より突きの速度をあげて攻撃して来た、だが結果は同じで先程より遠くに飛ばされて唖然としている。

「おい、ルネちょっと俺に変われ」

 見ているだけで我慢出来なくなったのかカヌートが参加してきた。

「カヌートさんは剣で攻撃していただいて結構ですよ」

とペッコが言うと、カヌートは腰の剣を抜いて

「望む所だ」

と上段に振りかぶり一気に振り下ろしながら突進をしてくる。

そして、あっさりと投げ飛ばされた。

「嘘だろ、隊長まで?」

「これも魔法なのか?」

「おい、もう一度」

 今度は剣による本気の突きだ、しかしこれもそのまま体勢を崩されて前のめりに崩れ落ちる。

「あ、なるほど」

見学をしていたルネは何かに気がついた様だ、

「少佐、相手の力を利用して投げるんですね、攻撃する力が強ければ強いほど遠くに投げられる」

「そう、その通り、これは東方の国の『武士』あ、騎士みたいな人達ね、が使う『柔』って言う技なんだ

(実は合気道なんだけどね)

「なるほど、少佐は東方の武術をお使いになられるのですね、それで先程の組手の時の違和感が納得できました、格闘士の技と似ているけど違うわけですね」

「へぇーそうなのか」

と周りの兵達がうなづいている。

「くそ、なんて技だ、全く」

「クヌートさん、もう一度お手合わせしていたでますか、とっておきの技を披露しましょう」

「おう、そう言われたらやるしか無いだろう、だがもう少し手加減して投げてくれ」

(実際にこの体の身体能力って凄いからな、20代の時に数回成功したあの技もこの身体なら楽にできるかも)

「行くぞ」

カヌートは剣をまた上段に振りかぶり、一気に振り下ろす

「斬った!」

と全員が思った時にはカヌートの剣はペッコの手の中にあった。

「これぞ秘奥義『真剣白刃取り』」

とペッコは一礼してから、剣をカヌートに返した。

「お前、いや少佐、あんたとんでもねぇな、その武術兵士達に教えてくれ」

「良いですけど、修行は滅茶苦茶辛いですよ、皆さんだとまずルネさんに弟子入りして、格闘士の技を覚えてからでは無いと危険で教えられません」

「ペッコが笑いながらそう言うと、カヌートは、今度はルネに向かって」

「おい、聞いたか、皆んなが少佐に教えてもらえる様になるまで、お前が教官をやれ」

と無茶振りをしている。

「隊長、私は一等兵ですよ、教官なんて無理ですよ」


 そこに受付の兵がペッコを呼びに来た

「少佐、受付にお客様が見えてます、お約束があるとか」

「ありがとう、直ぐに行く、レイア、エリス、訓練はここまでにしよう」

 二人は揃って顔を上げると弓を置いて指をみて

うわ、指が……と情け無い顔をした。

「少し根を詰めすぎたね、ちょっと手を出して」

ペッコが二人に回復魔法をかけると、指の傷は綺麗に治っていた。

「ルネさん、申し訳ないけどこの弓を返して置いて下さい、僕は部屋で客の相手をします」

「はい、少佐」


「あ、僕は少しだけ寄り道をしていくから、二人で先に相手をしていてくれる?」

「はい、上様」


 ペッコが、用事を済ませて執務室に入ると、レドレントとセレンは来客用のソファーに座って

レイアとエリスと茶を飲みながら、会話が弾んでいた。

「どうもお待たせしました、呼び立てて申し訳無いです」

「良いのよ、話は聞いているわ、大事な作戦なんでしょ、あ、そうそう頼まれていた衣装できてるから持って来たわよ」

「私もです、凄い試合でしたね、感動しちゃいました、それで急いでレイピア完成させました」

「二人ともありがとうございます、あそうそう、申し訳無いですけど、レイピアと装束、もう一人前作っていただけますか?こちらのエリスの分です」

「もちろんよ、任せて、後でサイズだけ計らせてね」

「私の方は、アクセサリーセットとレイピア用ベルト、それにブローチを作れば良いのですね、石はどうされますか?」

「エリス、何月生まれ?」

「霊5月です王子」

「そうすると『蛋白石』だね、前と同じ様に金剛石、紅玉と合わせて下さい」

「かしこまりました、では私も後ほど指のサイズだけ測らせていただきますね」

「エリス、忘れないうちに『紅のクリスタル』をセレンさんに預けて、レイアのと同じようにブローチにしてもらうから」

「はい王子」


 「では本題なんですけど、実はお二人に作っていただきたい武器と衣装があるんです、まずは武器なんですけど、これセンターコートの武器屋で売っていた『ディアナ・ボウ』のレプリカです。市販の実用的な弓をゴールドやシルバー、宝石で飾って、この弓の様な感じにして二振り欲しいんです。

「実際に使えないといけないのね、少し難しいけどできなくわないわ」

「それと、この女性用の『ビキニアーマー』を二組、表面をゴールドで作って欲しいんです」

「これは簡単ね、スチールをゴールドにするだけだから、でも防御力は無くなるわよ」

はい、大丈夫です、それでレドレントさんには、そのビキニアーアーマーにセンタースリットの近東風ビスチェドレスを組み合わせてた感じの衣装を作っていただきたいのです。『戦いの女神ミネルヴァ』と『豊穣の女神ケレス』の様なイメージなんですけど……」

「うーん、つまりこういう事ね」

 レドレントはサラサラとデザインノートにデッサンを二枚書いた。

「そうです、そんな感じ、センターのスリットは、あ、「紅玉通り商店街」で踊っている踊り子さんのシルク・ロインクロスみたいな感じでお願いします」

「そうするとかなりセクシーな衣装になるけど良いの?」

「ええ、それが狙いですから」

「サイズはこのお嬢ちゃん達に合わせれば用良いのね、ゴールドのビキニアーマーが出来たら直ぐに作れるわ」

「ありがとうございます、ネルヴァはレイア用、ケレスはエリス用でお願いします、でも体格はほとんど同じですよね? あそうだ、セレンさん、このイメージに合う様なティアラの様なサークレットも二個お願いできますか?」

「ええ、それはお安いご用よ」

「良かった、作戦に使うので、お二人共大至急でお願いします」

「わかったわ、徹夜で作るから、明日には持ってくるわ、セレンちゃんあなた先にアーマーを作って頂戴、私も素材を揃えておくから」

「ええ、わかりました」

「じゃあこちらのお嬢さんの採寸をさせてもらうわね、男性は外に出て頂戴」

(え?……あ、ここは突っ込んではいけない所か)

「あ、はい」

 部屋の外でペッコが待っていると数分で二人が部屋から出てきた。

「ではね、できたら届けに来るわ、大きな作戦なんでしょ、頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」


 執務室に戻ってチェアに腰をかけると、机の前に二人が心配そうに立っている。 

「あの王子、今の衣装って私達が着るんですか?」

「そうだよ、できるのが楽しみだなぁ」

「でも王子まさか、あの格好で戦場に着いて来いなんて仰らないですよね?」

「もちろん、これ大事な作戦だから、二人には着て参加してもらうよ、その為に弓の特訓をしてもらったんだから」

「そうなんですね、良くわかりませんけど、王子がそう仰るならその通りにいたします、でも少し恥ずかしいです」

「大丈夫、踊り子さんとほぼ同じ衣装なんだから気にしない、なんなら慣れる為に、今から踊り子さん

の衣装で過ごす? レイアは持っているよね」

「もう王子、いじめないでください」


ルネが戻ってきた。

「失礼します、ブレイド団長が集めた、難民達の代表が来ていますが、どうされますか?」

「それは良いタイミングだ、みんなここに入れて」

「は、少佐」


 「あの、わしらは何でここに集められたんでしょうか」

難民の代表が、心配そうにペッコに話しかけた、

「皆さん、わざわざありがとうございます、ここに来てもらった皆さんのは職人さん達と言う事で間違い無いですよね」

「はい、確かにわしらは職人です、わしは大工、こっちは革職人の代表です」

「実は、皆さんにお願いしたいのは『不死隊』の飛空艇のちょっとした改装と色塗りなんです」

「飛空艇ですか、ワシらはそんな物は触った事ないですが大丈夫なんでしょうか? まぁ木と鉄で出来てるって事位ならわかりますが」

「飛空艇全部では無くて甲板をちょっと加工するだけなので大丈夫だと思います、革職人さん達には色塗りを頼みたいのですが」

「革の染色に比べれば、木の塊に色を塗るくらい大した事は無いと思うが、そんなでかい物を塗った事は無いからなぁ」

「一応、図面は書いてみました、これでお分かりになりますか?」

「これはまた本格的な三面図だ、あんた船大工かなんかかい?」

「なるほど、色はこの枠の通りに塗れば良いのか、これならできるだろう」

「もちろん給金は支払うし、早く終わったらボーナスも出します、どうでしょう、やっていただけますか?」

 「正直、大きな戦があると聞いていたので、ワシらも戦場に連れて行かれるのかと思ってビクビクしてたんですわ、こんな仕事で良いのならお安い御用ですよ、私らも職人の意地と誇りがありますからな、全力で当たらせてもらいます」

「そうですか、良かった助かります、ルネさん、皆さんを飛空艇発着場までまで案内してください、皆さん、足場用の木材とか必要な物はこのルネさんに言って下さい、現場監督と言う事になりますので」


「え、ちょっと待って下さい少佐、自分は一等兵なんですが?」

「あ、そうそう、ルネさん今日から軍曹です、それと僕の従卒は解任します、代わりに副官をやってもらいますね、これ辞令です、先程大将から貰ってきました」

「ええー……」

「そんなわけなので、軍曹、船の方はよろしくお願いしますね」

「はい少佐」

 ルネ軍曹はまだ何が何だかと言う顔をしながら、指示に従って職人達を引率して発着場に向かった。


 実は、ペッコは先程、一人で大将と面会して、部下の昇進についてのルールを確認しておいたのだった

それでルネ一等兵が軍曹昇進の資格を持っていると知って、直ぐに昇進をさせたのだった。

彼には、これから兵士達の体術を鍛える教官としても働いてもらう予定もあるからだ。


(さて、今日はもう一つ仕事があるんだよな)

とペッコが思っていると、部屋がノックされて、小人族の男性が顔を出した。

「毎度おおきに、ド・ペッコ・ヤン少佐のお部屋で間違い無いでっか」

「そうですが、あなたは?」

「私はココリコ・ロロリコと申します、東ムガール商会の者ですねん、こちらの少佐さんと少尉さんの制服を御用立てる様にと言われましてな、いやえらい別嬪さんがお二人、羨ましいでんな」

と妙に低姿勢で、揉み手をしながら部屋に入ってきた。

(あれ?なんで大阪弁、気のせいだよな)

「それはどうも、どうぞおかけ下さい、レイア、お茶の用意を」

「ほな失礼します」

「それで、オーダーする制服って、兵、下士官様の物とどこが違うんですか、どうも僕には違いがわから無いのですが」

「基本的なデザインは同じ物でっせ、ただ素材が違いまんねん、兵隊さん用の支給品はアイアンスケールメイルいいますねん、将校さん達に納めさせていただいているのは、色々種類がありまんねんけど、所々に貴重な素材、モスホーンの角ですとかチタン鋼とかをつこうた物なんです、軽て強てええ品でっせ。

それに、少佐さんとは初めてのお取引なので勉強させてもらいまっせ」

「それはおいくらんですか?」

三名様で二領ずつやから六領で50000リラでどないでっか、少佐さんとはこれからあんじょう長い長いお付き合いをさせてもらいますよって、一領分はサービスさせてもらいます。

「ちょっと良いですか、少尉達と相談をするので」

「へえ、ごゆるりと」


「ねぇ、あの人の話し方、変じゃない?」

「え、どこがですか、普通に綺麗な公用語ですけど、ねぇ?」

「そうですね、品の有る喋り方だと思いますけど」

(そうなのか、って事は僕の頭の中で大阪弁に変換されているって事か?なんでだ?)

 義氏の記憶では、大阪発祥の会社が競合相手の時には細心の注意をしないと足元を掬われる、という経験が有る、いかにも商人ですと言うこの小人族の男性の態度にバイアスがかかっているのかもしれない。

「どうも失礼しました、魔法職用の制服と言うのは無いのですか?」

「魔法職ですか、鉄華団さんには魔法職の方があまり居られなかったので、制服らしき物はなかったですが、あ、前に一度、不死隊将校用の『エリート装備』の色違いをお納めした事がありますね。

(お、言葉が治っている)

「それ、どんな物なんでしょうか」

(お、もしかしてあれかな?)

「えーとどこかにスケッチが……」

とココリコはカバンの中から、デザインブックを取り出して、めくって見せる

(この世界には写真が無いからなぁ、あ、例の7.0エリアにはらしき物が有るんだっけ、でも今は行かれないからなぁ)

「これですね、こちらが男性用、こちらが女性用です」

「え、これ踊り子の服装じゃ無いんですか?」

デザインを見た、レイアとエリスが驚いて尋ねた

「いえ、れっきとした不死隊の魔法職の制服です」

(そうこれこれ、女性用はセクシーで良いんだよね)

「先程のスケールメイルにこのエリート装備の女性用を四セット加えて、60000リラでどうですか?」

「いや少佐、私どもも商売ですので、せめて70000リラでは」

「では65000リラで、もうお聞きおよびだと思いますけど、僕は新たに鉄華団魔法士部隊の隊長に任命されています、今後の隊員達の制服もそちらにお任せすると言う事でどうでしょう?」

 義氏の感覚では、実際には全部で50000リラ程度が妥当な金額だと思っている、だがここはあえて

相手の顔を立てると言う意味で値切ったフリをしているのだった。

「いや、お若いのに商売が上手ですね、わかりましたそれで納品させていただきます」

「ありがとうございます、これからも良い取引ができると良いと思ってますよ、所で東ムガール商会の会長『ロロラト』さんはまだ連絡が取れないのですか?」

「ええ、そうなんです、森の都が国境を閉鎖しているので、私たちも困っているのですよ」

(あ、これは嘘だ、なんらかの連絡手段があるんだな)

「そうなんですか、僕はロロラトさんを尊敬していていつか機会があったらお目にかかりたいと思っていたんです、残念だなぁ」

「そうですか、今巷で話題のコロセウムの新王者魔法王子の二つ名を持つ少佐にその様に仰っていただいて、ロロラトも喜ぶと思います、いつか連絡が取れる時がありましたら少佐の事は伝えておきます、では私は、これで失礼させていただきます、本日はありがとうございました」

そう言って一礼してココリコは帰って行った。


「王子、良い感じの人でしたね」

「そうだね、商売上手だしね、さて、僕は今日はもう一ヶ所行く所があるから二人は先に宿に戻っていて」

「はい、王子」

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