……仕官……
第六章 仕官
鉄華団本部(旧不死隊作戦本部)へ行くと、まだ早朝だというのに大勢の市民や難民が集まっている。「おい、来たぞ」
「本当だ、昨日の坊やだ」
「近くで見ると、本当にまだ若いんだな」
「隣に居る姉ちゃん、凄い別嬪さんじゃ無いか」
等と声がして、人垣が左右に割れていく。
「おお、坊主来たか」
と声を掛けて来たのは昨日の対戦相手だったカヌートだ。
「おはようございます、カヌートさん、お怪我の方は大丈夫ですか?」
「ふん、俺は身体が丈夫なのが取り柄だからな、坊主の回復魔法のおかげで傷一つ残らずピンピンしているよ」
「良かったです、カヌートさんも義勇兵に参加されるのですか?」
「あん? 義勇兵? 馬鹿野郎、俺は歴とした中隊長だぞ、団長からお前さんが来るから迎えに行けと言われて待っていたんだよ」
「あ、そうなんですね、あれ?そうすると上官に勝負を挑んでるって事なんですか?」
「当然だろ、それがウチの方針だからな、誰でも実力さえあれば、上官だろうが上役だろうが、正々堂々と試合を申し込めるんだ」
(うーん軍と言うよりは、体育会系なのか?)
「ほら、団長が待っているぞ、こっちだ」
本部の右側のドアを開けて中に入ると、そこは企業のオフィスの様な作りで、廊下が有り将校用の部屋等や会議室が並んでいる。
(そう言えばゲーム内では、ここには入れなかったんだっけ)
作戦会議室と書かれた、大きめの部屋に入ると、そこにはもうブレイドを始めとして鉄華団の幹部
や見覚えのある街の有力者NPC達の顔が並んでいた。
ブレイドが立ち上がって、握手を求めてきた。
「良く来てくれた、歓迎するぞ、そちらのお嬢さんは昨日も一緒にいたお嬢さんだな、改めてよろしく」
と挨拶をして、ペッコとレイアに席に着く様に勧めた。
「よう、君達また会ったね、君はやっぱり新大陸から来たんだね、あの剣技は新大陸の狩人『二刀剣士』の物だよね」
と青魔法士のマットが言うと、ピンク色の髪をした「ウェアキャット族」の弟子が頷いた。
(あ、この娘はミ・ランディさんだったな、相変わらず可愛い)
「いや本当にペッコ君には色々と驚かされますねぇ」
と言うのは呪術士ギルドのギルドマスターココブキだ、その他にはペッコとしてはまだ面識が無いが義氏は
良く知っている剣術士ギルドの女剣士ギルドマスター、隣のその彼氏は先日ペッコに剣を貸してくれた男性だ、更に格闘士ギルドの老ギルドマスター等が座っていて、ブレイドの横には見覚えの有る巨人族の不死隊大将だったNPCが鉄華団の制服を着用して座っている。
「それでは、全員揃いましたので、作戦会議を始めます」
と話し始めたのも、ゲーム内では不死隊の大佐だったNPCだ。
(なるほど、この世界では不死隊は鉄華団に吸収されたわけね)
とペッコは納得した。
そのNPCスイフト大佐は地図を広げて、説明を開始した
『自由都市』を制圧した北部連合王国軍は、その後『モルドーナ』地方全土を占領、更にモルドーナ西南の旧北部帝国の残党が立て籠もっていた『中央基地』も制圧、そのまま南進して『北ジャズィー』に侵入
しました。
その際に自由都市やモルドーナの市民多数が、難民として避難してきた事はご存知だと思います、
残念な事にその難民の中には敵の間者が多数紛れ込んでいて、北ジャズィーでの破壊工作が確認されています、我が軍はそれに対応する為に旧帝国の第14軍団の根拠地『南方基地』を接収して現在防衛陣地としており鉄華団第二、第三大隊の合わせて1000名程が籠城中です、ただ、『南方基地』は基地中心部『魔城』が先の大戦の旧エオルパ同盟軍との交戦で破壊されており、基地の機能としては、現在30%程度しか復旧できていません。
基地の物見によると現在敵軍は、南方基地の前門北東方向に攻撃陣地を構え、兵力の増強中と言うことで兵力は5万人規模と推定されます」
「……と言う事だ、敵の目的は南方基地の制圧、そして北進して『臭水精製所』『臭水田』の確保と見て間違いはないと思うのだが、みんなの意見を聞きたい」
(なるほどね……)
「そうなると、我が軍は圧倒的に兵力が足りませんな、今募兵して集まったとしても2000が精一杯、
第一大隊と周辺地域の治安維持にあたっている、第四大隊を合わせても5000という事ですな」
「南方基地に籠城して、塩の都からの援軍を待つ……としても現在あちらとは連絡がつかず派遣した
不死隊や近衛騎士団の様子も不明ですからなぁ」
「……いやだがそれでは」
と対応に付いて議論を交わしていると、
「いやぁ、助けてください」
と会議室のドアが開いて、ウェアキャット族の少女が駆け込んできた。その後ろから鉄華団の軍曹の制服を着た巨人族の男性が怒気を露わにして駆け込んでくる
「この嘘つき小娘、こんな所に逃げ込みやがって、叩だしてやる」
ペッコは一番下座のドアの側に座っていたので、すぐに立ち上がると、左手を広げて少女を庇い、右手をレイピアの柄にかけた。
「騒々しい、軍議中に何事か」
と大将が一括すると、軍曹はあわてて敬礼をしてから。
「大変失礼いたしました、この小娘は森の都からの難民でして、幻術士を自称しておりました。
先程、負傷兵が十名程移送されてきてので、治癒を依頼した所、遁走した次第でして」
「ごめんなさい、すみません」
と少女はまだ震えている、
(幻術士を騙ったって事か、あれ?、でもこの娘が着ているのって、幻術士ギルドのローブだよな、それに杖も本物のケーンの様だし……)
「君、少し落ち着いて、立って深呼吸して」
とペッコは少女が落とした幻術士の帽子を拾って少女に渡して言った。
「はい、すみません」
(良く見ると、この娘もかなりの美人で可愛いじゃないか、プラチナブロンドの髪に白い肌、目はブルーなんだ)
「取り敢えず、自分に『レスト』かけて」
「え、はい」
少女は言われた通りに自分自身に状態回復魔法をかける
「どう、落ち着いた? 次は『メディカ』」
少女は技を発動する
「おう、これは」
その場の全員が魔法の効果を感じる。
「範囲回復魔法です、これ実は怪我や病気だけでは無く気分も良くなるんです、イラついたり怯えたりとかが治るんですよ」
そう言って、ペッコは少女に聞いてみる
「君はまだ幻術士になったばかりなのかな?」
「はい、やっと修行が終わって、中の森の浄化を担当していました、でも政変が起きて、エルフ族と人族以外は幻術士として認められないと言われて追い出されて……」
「そうか、では戦場に出た事も負傷兵の治癒をした事も無いんだね」
「はい、怪我人位ならありましたけど……」
「軍曹さん、彼女は初めて大人数の負傷兵を見て怯えてしまっただけですよ、そこに体の大きくて怖い男性に怒鳴られて、パニックになってしまったんです、貴方だって初陣の兵をいきなり突撃させたりしないでしょ、そういう事です」
「これは……大変失礼いたしました、実は負傷兵の中に私の弟が居ましてかなりの重症なんです、それで
つい我を忘れてしまいました、幻術士のお嬢さん、申し訳ない」
ペッコはブレイドに向かって
「少し中座をしてもよろしいですか、私も負傷兵の治癒を手伝いたいと思いますので」
と許可を求めた
「ああ、構わないよ、こちらは直ぐに結論が出るような話では無いからな、兵達を頼む」
「はい、では一緒に行こう、レイア付いておいで」
そう言って、軍曹と少女と一緒にレイアを連れて会議室を後にした。
「若いのに見事な物だな、ココブキ殿、彼が黒魔法の使い手と言うのは本当の事なのか?」
「ええ、この目で確認しました、他にも算術……というよりはその上位魔法の召喚術、篤学、そしてコロッセアムで使った剣技は赤魔法の物です、それに先程の会話から幻術を使えるのは間違いないかと」
そこへマーチンが手を挙げて、
「僕は、先日彼が青魔法を使う所を目撃してます、まるで万能の魔法士ですね」
「それは、思いがけない拾い物だな、ブレイド殿、彼の鉄華団での待遇はどうなさるので?」
「通常なら呪術士は尉官任官、つまり少尉と言う事になりますが、それでは役不足ですよね、大将
不死隊の頃に何か前例とか有りますか?」
「そうですな、かの冒険者も一兵卒からの叩あげでしたし……ああ『水晶の剣』部隊の時にはいきなり佐官任官、大佐ですが……もありましたな」
「なるほど、しかしいきなり大佐というのは無理がありますね、大尉か少佐と言う所が順当かと思いますが……」
会議室でそんな話が行われているとは知らないペッコは
本部の中庭に作られた臨時野戦病院で、少女とレイヤに指示をして負傷兵の治癒にあたっている、
使い魔、妖精を初めて見た少女は驚いている。
「僕がヒールエリアを展開するから、君は重症そうな人から治癒して、レイヤは軽傷な人を頼むね」
「はいペッコ様」
一方で少女はまるでペッコ見惚れる様に、立ったままだ。
「君、大丈夫?」
「あ、はい、すみません」
こうして30分も経過しない内に全ての負傷兵の治癒が終了した。
「二人とも頑張ったねご苦労様、ああそう言えばまだ名前を聞いて居なかったね、僕はド・ペッコ・ヤン、こちらはファ・レイヤだ」
「私はラ・エイル・ライです、あの、ありがとうございました」
「仕方が無いよ、初めて血を見れば誰だってああなるって、気にしないで」
「魔法士様」
「ああ、軍曹さん弟さんは大丈夫そう?」
「はい、傷は深かったですがもう塞がった様で、先程は大変失礼いたしました、そちらの
お嬢さんも本当に申し訳なかった」
「あ、いえ、気が動転してごめんなさい、情けないですね私」
「まぁ、良いじゃない、さて会議室に戻ろうか」
「はい、ペッコ様」
「あのペッコ様、私もご一緒してよろしいですか、皆様にお詫びをしたいので」
「そうだね、じゃついてきて」
エイルの中でペッコはもう完全に自分の保護者だと言う認識になっている。ウェアキャット族の女性は、強い男に惹かれる。これは元々狩猟民族としての本能だ、本来は強く狩が上手い男性である事が条件だが、今は資産がある事も「狩が上手い」と同じ様な感覚で捉えられている。 つまり『強くて逞しく、自分と子供を養ってくれる』男性が、ウェアキャット族女性の目に映る素敵な男性=保護者と言う事になる。そして男児が生まれにくいウェアキャット族が子孫を残す為に必要な習慣が一夫多妻制なのだった。
だからウェアキャット族の女性は、同性に対して嫉妬心や敵愾心を持たない。群れの中で育たなかったレイアが、ヤキモチ的な仕草をするのは例外なのだ。
「どうも、中座して申し訳ありませんでした、治癒無事に終わりました、負傷兵の皆さん無事に全快すると思います」
「そうか、ご苦労様、おやそちらの幻術士のお嬢さんは、まだ何か用かな?」
「いえ、あの先程はお騒がせして申し訳ありません、私が未熟なばかりにご迷惑をおかけしました」
「あ、そうだブレイドさん、この娘、僕に預からせて貰えませんか、幻術の事色々と教えられると思うので」
「なるほど、確認なんだが、君は幻術を使えるんだよね?」
ペッコはエイルに
「悪いね、ちょっと杖を貸してくれる」
と言って杖を借りると、広範囲バリアーと回復魔法が合わさった『ディヴィニ・カレッザ』を発動させた。
「実は、この通り白魔法も使えるんですが、生憎と幻具の杖がどこにも売っていなくて、今まで使えませんでした」
「驚いたな、君は他にも違う魔法が使えるのかね?」
「治癒魔法なら『正教国』の『占星術』と『知の都』の『賢者』の術も使えます、あ、でも今はどちらも術具が無いので無理ですけど」
「良くわかった、ではド・ペッコ少佐、君には鉄華団の魔法士部隊の責任者になってもらう、異存は無いよな、なので当然、その幻術士のお嬢さんも今から君の部下だ、残りの魔法士は後ほど紹介しよう、皆さん問題無いですね」
「もちろん意義は無いですな」
「え? いきなり少佐ですか、少尉の間違いでは?」
とペッコは慌てて聞き直した。
「少佐だ、問題無いよな?」
とブレイドが微笑みながら、有無を言わせない迫力で確認してくる。
(これは断ったら命が無いな)
と思い
「はい、謹んで拝命します」
と『砂の都』式の敬礼をした。
すると、今まで無言だったスチール・リバー大将が思い出した様に発言した。
「そう言えば、『黎明の血盟』の作戦レポートにも記載がありましたな、12歳の少年ながら、数種類の高位魔法を使いこなし、バハムートを単身で討滅寸前まで追い詰めたとか、以後黎明の『智慧者』達はその少年の事を非公式に『魔法王子』とか『魔王子』と呼称しているそうですが、これは君の事だな」
「はい、そうです」
「え、ペッコ様、王子なんですか、素敵!」
とレイアが場所をわきまえない発言をした、エイルも一緒にうなづいている。
ペッコがレイアの非礼を詫びようとしたその時
「まぁ、魔法王子、良いじゃない、私も王子と呼ばせて戴こうかしら」
と和かに声を上げたのは、この街を統治する『砂蛇衆』のメンバーである、『デュロロ・ロロ』だ
彼女の公式な役職は『プルト・メルク教団最高位聖職者』『メルク礼拝堂大司教』だ
義氏はもちろんゲーム内のNPCの彼女と何回か面識がある
(これは、絶対に逆らっていはいけない種類の人だ)
ほぼ一代で複合企業を作り上げた、義氏の経験がそう告げる、NPCの時とは違って、この世界の彼女には地位に相応しい威厳が備わっている、政治家や宗教家、更には非合法組織の代表等には、絶対に敵に回してはいけない人間がいる、彼女も間違いなくその中の一人だった。
ペッコは、椅子から立ち上がると、片膝を付いてデュロロに対して武人として最高位の礼を示した、
レイアとエイルもあわててペッコに見習う
「猊下お戯れを、その様なお言葉をいただけて光栄です、ですが恐れ多い事だと思いますので」
と頭を下げながら言葉を続けた。
ブレイド以下周囲の者は無言で成り行きを見守っている。
ペッコがこの態度で示したのはプルト・メルク教団に対して敵対心が無い事、教団の権威を受け入れ
大司教に恭順の姿勢がある、という事の表明である。
「まぁ、お若いのに殊勝な事ね、でも決めたわ、これからは貴方の事は公式に『魔法王子』とするわ『砂の都の魔法王子』良い響きじゃない、皆もそう思うわよね」
大司教は『砂蛇衆』の会議でも政治や軍事の議題に参加する事は無かった、魔法や宗教絡みの議題の時だけ発言する姿勢を貫いていた、世俗の事は世俗の者にという事を徹底している。
だからペッコの魔法王子と言う話を自分のテリトリーの話題と捉えたのだろう、そしてその彼女の意見に対して、異論を唱える物はこの場には存在しなかった、心の中でそう思っていても砂の都で教団に対して反旗を翻す度胸は誰にも無いのだ。
「では、私は今日はこれで失礼させていただくわね、有意義な日でした、ペッコ少佐、いえ王子、困った事があったらいつでも尋ねていらっしゃい」
「はい猊下、ありがとうございます」
この最後のやり取りで、ペッコは教団の庇護下に入ったと誰の目にも明らかになったのだった。
デュロロは迎えの豪華な鳥馬車(この街の中で鳥馬車の使用が湯されているのはデュロロと女王だけだった)の中で、満足した笑みを浮かべている。
「つまらない会議に呼ばれたと思ったら、見どころのある坊やがいて楽しかったわ、猊下だなんて礼儀も弁えているし……」
本来エウロパで猊下の敬称で呼称されていたのは正教国の教皇だけであった……今はその教皇は不在で、正教自体が存続の危機にある……同じ宗教指導者として教皇と同格だと自負しているデュロロは予々
砂の都で誰も彼女の事を『猊下』と呼ばない事が少し不満だったのだ。
「あの坊やから目を離さない様に、それと何かあったら最大の便宜を図ってあげなさい」
と同乗している枢機卿に命じたのだった。
一方で会議室ではまだ作戦会議が続いている
「海の都は依然中立のままなのですよね、『東方連盟』はどうなっていますか?」
「あちらも、旧帝国領や独立宣言をした属領軍との戦いで手一杯と言う事で援軍は無理との事です」
「全く女王が塩の都に肩入れしすぎたからこんな事になったんだ」
と声を荒げたのは急進派の大商人らしい
「今更女王の失政を責めても何もならんだろう、既に塩の都に亡命されて何の権限も無いのだからな、それより鋼刀団はどうなんだ、何人派兵できる?」
「ふん、鋼刀団などもう100人も残って居らんわ、全く役ただずの連中だった」
(なるほどね、実質的に今の砂の都の支配者はブレイドさんって事か)
「あの、よろしいですか?」
「おう、ペッコ少佐、何か意見があるかな」
「はい、まず敵の目標なんですが、第一目標は『臭水精製所』『臭水田』の制圧だと考えられます、南方基地はその動きを封じるだけのつもりなのではと、従って現在集結中の敵軍は陽動、本隊はその後方に居ると予測します」
「ほう、その根拠は?」
「北部連合、旧『正教国」は厄災以来国土の8割が雪と氷に閉ざされています、厄災からもう10年近くなり、おそらく備蓄の薪も無く、新たな木が育たないので、これ以上木を切る事もできない、そんな状態のはずです、その為に森の都を併合したものの、あちらは妖精の意思とかで自由に木材を伐採できないですよね、その上に海の都からの石炭は軍需物資ということで禁輸対象ですから、もう軍用、一般家庭用の燃料が枯渇しているのだと思います」
「なるほど、その為に『臭水精製所』の制圧が主目標って事か」
(この世界では石炭がほとんど取れないからなぁ)
「はい、という事であれば、こちらは南方基地を死守する振りをして、後方の敵本隊を奇襲すると言う
戦術が取れると思うのです、奇襲なら兵力はそれほど必要無いですしね」
「素晴らしい策だな、しかし残念な事に奇襲を行える精鋭が我が軍にはもう残っていないのだよ」
「精鋭なら、ここに居るじゃ無いですか、マットさん、ココブキさんご兄弟、それに僕」
「ちょっと待ってくれ、なんで私なんだ?」
「青魔法には最強の防御魔法と、最強の範囲攻撃魔法がありますよね」
「いや確かにそうだが……」
「僕らの呪術も強力ではあるが、君の黒魔法とは違う、数万の兵を相手にするのは無理だ」
「では黒魔法を使っていただきます」
「え、なんだって?」
「まぁ、待ちたまえ、ペッコ少佐、君は邪神『デッド・バハムート』と戦う時バハムート、青く光るバハムートを召喚したと言うのは本当かね? 我々は余りに突拍子も無い話だったので、戦場で見た幻だろうと思っていたのだが……」
「はい、将軍それ僕の使い魔です」
「おー」
とざわめきが広がる
「確かにバハムートを召喚出来る魔法士なら、一人で数万の兵に匹敵するやもしれんな」
ブレイドは得心が言った様だ
「いや、だが奇襲をすると言ってもどうやって前線まで行くのだ、魔法の射程はそれ程長く無いのだろう?」
「将軍、不死隊の飛空艇は今はどうなってますか?」
「飛空艇? 砂の都の発着場に係留してあるが?」
「それ貸していただけますか、あ、もちろん操縦士と機関士も一緒に」
「構わんが、飛空艇だぞ、帝国の『飛空戦艦』ならいざ知らず火砲の攻撃を食らえば一溜りも無いが?」
「大丈夫です、マットさん火砲くらい余裕で防げますよね?」
「え、あ、うん青魔法なら問題無い」
「つまり、君や魔法士達を載せた飛空艇が敵の後方から本隊を奇襲する、と言う事だね」
「はいそうです、そして浮き足だった敵軍を南方基地から出撃した本隊が殲滅する、そう言う作戦です」
「うーん、可能な様な気もするが……」
「ペッコ少佐、先ほどの僕達も黒魔法士になってもらうとはどう言う事かな?」
「ココブキさんとその御兄弟にはこのクリスタルをお貸しします」
ペッコはそう言うとレイヤに昨夜製作しておいた『黒魔法士のクリスタル』を渡して、ココブキの所に持って行かせた。
「ココブキさんそのクリスタルを握ってみてください」
「こうか、おおなんとこれは?」
「黒魔法使えますよね?」
「ああ、これは驚いた」
「マットさんはこの原理を知ってますよね、御自分でも『青魔法士のクリスタル』を作られていましたから」
「ああ、驚いたな、これを知っているのは僕と、旅先で知り合った赤魔法士だけのはずなんだが、大事な商売のネタなのになんてこった……」
「まぁそれは置いて置いて、これで、魔法士の数は十分だと思います、あとは奇襲を効果的にする為の仕掛けが少し必要なんですが、それは今は内緒と言う事で」
「わかった、ではペッコ少佐の策を使わせてもらおう、詳しい話は後ほどと言う事で良いな、ではこれで軍議を終了する」
「少佐とそこの二人は私の部屋まで来てくれ」
軍議は終わり、その場で一度解散となった。
ブレイドの部屋は以前の『不死隊局長室』だ、ブレイドは執務机の豪華なチェアに座りペッコには
目の前の椅子に、レイアとエイルにはその後方の応接用のソファーに座る様に指示した。
「少佐、君はこの部屋の本当の主人を知っているかね?」
「はい、『塩の都の猛牛』ドウェイン・アルディンさんですね、お目にかかった事は無いですが父から話は良く聞かされました」
(もちろんNPCのドウェインとは義氏はゲーム内で何度も面識がある)
「そうだ、コロセウムの無敗の王者だ、俺はずっと彼に憧れていてな、親父の反対にあっても剣闘士になったのは、いつかは彼と戦いたいと思っていたからだ、だがその夢は叶わなかったけどな、そんな事もあって
彼の養子のピピン・カルピン少将とは昵懇にしてたんだがな……」
扉をノックする音が聞こえて、サンドイッチが四人前運ばれて来た
「ステーキサンドだ、俺の好物でな美味いぞ、遠慮無く食ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
後を振り返るととレイアとエイルも嬉しそうにサンドイッチに齧り付いている。
(ランチまだだった物な、お腹が空いていたんだろうな)
その不死隊なんだがな、戦乱が一度終わって、ドウェイン局長は塩の都の国軍司令官として故郷に帰られた、その時に、塩の都出身者は殆どが局長に従って帰って行ったよ、彼らは不死隊の精鋭部隊だったから隊としてはかなりの痛手だったろうな、その後はカルビン少将が局長代理となって再建に励んでいたんだが、そこで女王から軍縮の話が出たんだ、平和になったから、常備軍は減らしても大丈夫だとな
結局不死隊の兵力は激減してしまった、そして北部連合王国の塩の都侵攻だ、女王もカルビン少将も直ぐに援軍として派兵を決めて、ほぼ全軍を率いて塩の都に遠征してしまった、そしてそのまま消息不明だ……それでな、実はその時に不死隊の誇る呪術士部隊も一緒に出撃しているんだ、鉄華団は元々が
鉄道や鉱山の自警団だから呪術士など数えるほどしかいない、つまり君には自分の部隊をこれから作ってもらいたいんだ、もちろん全面的に協力をする、人も金も好きなだけ使って構わない、とにかく現状まともな兵力など無いに等しいんだ、すまんな」
「いえ、それなら尚更、今度の奇襲作戦、成功させないといけないですね、実は……」
ペッコは計画の全容と飛空艇を含む必要な物資、人員などの希望をブレイドに話した。
「なるほどね、面白い作戦を考える物だな、しかも効果がありそうだ」
「はい、火力は十分だと思います、成功の確率は高いかと」
「そうだな、無事に成功させたい物だ、そうなると出撃は準備が整ってからだな、三日ほどで何とかなるかな?」
「職人のギルドの皆様がどれ位、協力していただけるかによりますから、この後訪ねて見るつもりです」
「そうか、では難民に声をかけるのは俺の方でやっておこう、これ渡しておく、いつでも連絡が取れる様にな、それにしても君は良くあの婆さんを手懐けたな、俺はあの婆さん苦手なんだよ、これからは婆さんの相手は全部王子に任せるからな、頼んだぞ」
(もしミン、いやもしブレになったら嫌だなぁ、しかも大司教を婆さんとか言うし……まぁ良いか)
と思いながら、ペッコは魔法通信の端末用真珠を受け取った。
「では、団長、失礼します」
「おう、頼んだぞ」
団長室から退出したペッコ達は、そのまま鉄華団本部を後にした。
「あ、しまった制服もらって来るのを忘れた、それに二人の待遇も決めて無かった」
と声に出してしまう。
「私は王子の従者でメイドですから、御一緒できるなら待遇はどうでも良いです」
(もう普通に王子呼びなのね、まぁ良いけど)
「そうか、あ、そう言えばエイルは何処に住んでいるの?」
「正式に入隊が決まったら兵舎を用意してもらえる事になっていたんですが、まだ……その門外の
難民キャンプに……」
「そうなのか、ご家族はどうしてるの?」
「元々、私たちの部族は南の森を縄張りにしていました、私だけが幻術の才を認められて森の都に入る事を許されたんです、なのでみんな南の森で無事に暮らして行けてると良いのですが……」
「そうか、難民キャンプってのもアレだな、レイア、宿にはまだ空き部屋が有るんだよね?」
「はい、今お金を払って宿泊しているの王子だけですから」
「え、そうだったの?、まぁ良いや、じゃエイルも僕達と同じ宿に泊まると良いよ、宿代は気にしなくて良いから」
「本当ですか、ありがとうございます、あの質問してもよろしいですか?、王子は『ヤン』なんですよね
と言う事はレイアさんとのご関係は?」
「レイアは僕のパートナーだよ」
「それなら、私もパートナーに加えていただきたいです」
(あ、これ絶対にハーレムになるやつだ)
「そうですね、私もそれが良いと思います、エイルさんとは気が合いそうだし」
(え、そうなの?嫉妬とかヤキモチとは無いんだ、一夫多妻のウェアキャット族のDNA恐るべし)
ペッコ達は宿に帰り着いた、流石に今日は静かだ。
「女将さん、ただいま、この娘今日から泊めてあげてくれる?」
「まぁ、可愛らしい娘ねペッコ君と同じ部屋で良いのよね?」
(え、何も疑問も無くそうなるんですか?)
「はい、そうです、私は一晩中王子のお世話をする事ができないので、エイルさんにお願いするつもりです」
「わかったわ、特別に料金はそのままにしておくわね、今まで通り朝食付きで良いわよね」
「はい、それでお願いします」
(え、なんでそこでレイアが仕切る?、まぁ良いか)
そんな訳で、二人目のパートナが出来たペッコだった。
そして、いきなりお風呂で『二輪……』いや、楽しい入浴タイムが待っていた。
「ド族って不思議な習慣があるんですね、体を洗うのにタオルとか使わないんだ」
「そうなの、私も最初は驚いたけど、王子がこの方が良いって言うから、それにこれ心地良いの」
「本当だ、なんか胸がキュンとしますね」
(はぁ、これは天国だなぁ……、あエイルさんにもレイアと同じ衣装とか揃えないと行けないな、父上が
前に妻は全員平等にって言っていたものな)
お風呂から上がると、レイアはまた自分の部屋に戻って行く
「じゃあエイルさん、あとはお願いね、私は明日の朝にまた来ます」
「はい、おやすみなさい」
ペッコがベッドに入ると、エイルも隣に来て
「初めてなので、優しくしてくださいね」
(うわ、マジか本当に良いのかな、神様ありがとうございます)
と今夜も元気になるペッコだった。