……大勝負……
第五章 大勝負
ペッコがのんびりと湯船に浸かっていると、部屋のドアがノックされて
鍵が開けられた。
「ペッコ様、失礼致します」
レイアは本来は、この宿のメイド兼カクテルウェイトレスなので、各部屋のマスターキーを持っている。だから当然の様に部屋の中に入って来た。
そして、ペッコが湯船に浸かっているのを見ると
「ペッコ様、お背中をお流ししますね」
とそう言って、身につけていたガウンの様な物を床に落とした。
「恥ずかしいのであまり見ないでください」
(いやいや、それは無理でしょ、綺麗だなぁ……)
レイアはガウンの下には何も身につけていなかった。
そして、タオルを片手に広い湯船に入ると、ペッコに背中を向ける様に言う
(僕的には正面からずっと見ていたいのだけど)
タオルを泡立てると結構な強さで背中を擦り始めた。ペッコは背筋を伸ばして腕を広げた。
「そんなに力を入れなくて良いから、懐かしいな子供の頃に良く姉さん達にこうやって洗ってもらった」
「ペッコ様、お姉様がいらっしゃるんですね」
「うん、みんな異母姉だけどね、あと従姉もたくさん居るよ、僕が育った所には風呂なんて無いから
オアシスの泉で水浴びをするのが風呂代わりだったんだ」
「楽しそうですね、いつかペッコ様の故郷に行ってみたいです」
「そうだね、父や母にも逢ってもらいたいな」
(可愛い彼女ができたって紹介したい)
「本当ですか、嬉しいです!」
(これはプロポーズかも、もっと頑張らないと!)
「はい、お背中終わりました、次はここに座ってください」
(え、それは少しまずいかも)
とペッコは思ったが、レイアはペッコの正面に座って、ペッコが風呂の縁に座るのを持っている
「脚も洗わせていただきますね」
実は先程からペッコのアレが大きくなってしまっている。
ペッコは手でそれを隠しながら縁に座った。
レイアは泡立てたタオルを使って、ペッコの脚を片足ずつ洗っていく、
(これ、夢の風呂屋さんのサービスみたいだなぁ、あ……)
ペッコの胸を洗うためにレイアが膝立ちになった、ペッコの目の前にレイアの綺麗な乳房が……
(もう無理だ……)
ペッコはそのままレイアを抱きしめると、唇を合わせた。
「あの、ここでは……そのベッドで」
ペッコは一度湯船に浸かって泡を落とすと、レイアを横抱きにしてベッドに運んだ。
レイアは顔を手で覆って
「初めてなんです、優しくしてください」
と小さな声で言った。
ペッコの胸にレイアは顔を載せている。
「大丈夫?痛くなかった」
「少しだけ、でも素敵でした」
ペッコはそんなレイアの髪を撫でながら
「明日は少し早く起きてコロセウムに行くんだ」
「コロセウム?剣闘士ギルドですか?」
「いや、明日からトーナメントがあるんで、僕も出場するんだ、レイアも応援しにきてね」
「はい、でもペッコ様、トーナメントなんて危なく無いですか?」
「大丈夫だよ、レイアも僕が強いの知っているでしょ」
「はい、でも……あ、そうだそれでは明日の朝食はどうされますか、お部屋にしますか」
「いや、下に行くよ、そうかここルームサービスも有るのか」
「ルームサービス?」
「あ、それは忘れて」
「はい、では私はそろそろ失礼致しますね、明日の朝日の出の頃にお部屋に参ります」
(あ、そうか、お父さんいるからな、泊まって行くのは無理なんだ)
「シャワーをお借りします、ペッコ様はお休みになっていてください」
「うん、そうするよ、お休みまた明日ね」
今日は色々とあって疲れたのかペッコはそのまま眠りに入ってしまった。
シャワーから出たレイアは、そんなペッコの寝顔を見て
(やった!)
とガッツポーズをしてから自分の部屋に戻って行った。
(う、なんか眩しい)
「ペッコ様、起きてください、朝ですよ」
ブラインドが開けられた部屋には朝の光が差し込んでいる。
「昨日のお召し物は洗濯しておきましたので、こちらを用意しておきました」
ダッフルバックに放り込んであった、ペッコの着替えは全部整理されてクロゼットのチェストにしまわている。シャツは綺麗に皺が伸ばされてハンガーにかけられてた。
「ありがと」
ペッコは朝の洗面を済ませると、着替えて……思い出した様にレイアにキスをして……一緒に部屋を出て、下に降りた。
「おはよう、ペッコ君、ちょっとそこに座りなさい」
女将さんはどうやら今朝はお説教モードの様だ
「レイアから聞いたわよ、あなたどう言うつもりなの?」
(うわ、もうバレた?て言うかなんでバラすんだ)
「あ、それはその……」
「貴方ね、自分の立場を考えなさいね、黒魔法を使える呪術士なのよ、なのに命の危険があるトーナメントに出るなんて、何を考えているの」
(え、そっちか、良かった)
「今朝レイアから聞いて、もう驚くのを通り越して呆れたわよ」
ペッコがレイアの方を見るとレイアも女将さんに同意して頷いている。
「良い、トーナメントでは毎回死傷者も出てるのよ、それに出場者は強そうなハイヒューマンとか、巨人族ばかりだから、小柄な君では勝ち目が無いわ、それに魔法を使うのは禁止なのよ、だから出場するなんて言わないで、お願いだから」
「大丈夫ですよ、僕はあの巨人族の人達よりずっと大きい、ドレイクやペイスト、サンドワームを剣だけで子供の頃から狩っていたんですから、絶対に優勝しますから楽しみにしていてください」
ペッコはそう言うと軽く朝食を食べて、心配そうなレイアを連れてコロセウムに向かった。
腰には昨日買った安物のレイピアを差し、片手剣「カッツバルガー」盾「エスカッシャン」は背中に担ぐ様に持っている。
予選の日だと言うのに、コロセウム周辺は観客で溢れて、ディラーがオッズをつけた紙を配っている。
「あの、これって自分に賭けられますか?」
そうディラーに聞くと
「おう、当然だよ、あんた誰だ?」
と言うので、ド・ペッコと名乗ると胴元は、
「坊やがペッコか、お前さん1000/1だな、掛け金は最低100リラだから、もし坊やが勝てば10万リラになる、どうするね?」
と聞いてきた。
ペッコは昨日呪術士ギルドで貰った5000リラをディラーに渡して、レシートを貰った。
これでペッコがもし優勝すれば賞金とは別に500万リラを手にする事ができる。
まぁペッコのオッズが高額なのは、絶対に勝てないと胴元に判断された結果なのだが。
そしてオッズはトーナメントが進むに連れて変わっていく、今日賭ければ1000/1だが。仮にペッコが勝ち進んだ場合は2/1などになる事もある。
ペッコは選手控室の前で、レイアに剣や荷物を渡して身軽になった。
最初の試合は木剣と木盾を使うルールだからだ。
「レイアはここで見ていてね、大丈夫、すぐに勝って戻って来るから」
「はい、でもペッコ様、無理はなさらないでくださいね」
レイアはまだ心配そうで今にも泣きそうな顔をしている。
ペッコの最初の対戦相手はこの「砂の都」や「塩の都」に多くいる、人族『ハイ・ヒューマン』の男性だった、体格はペッコより二回りほど大きく、力もありそうだ。
ドラの合図で10組が一斉に対戦が始まる
(さて剣技無しでどれ位戦えるかな)」
ペッコがこのトーナメントに出場しようと思ったのは賞金の魅力もあるが、今の自分の実力を計りたいという思いからだった、剣技を発動すれば楽に相手を倒す事ができるだろうが、そうでは無く素の自分の力を試してみたかったのだった。
ペッコは木剣を構えると、相手の攻撃に合わせる様に木剣を木盾に突き刺す。
それだけで、相手の盾は粉砕されて、男を反対側の壁まで弾き飛ばした。
男は失神しているが、命に別状な無い様だ。
(なんだ、弱すぎるな)
控室に戻るとレイアが駆け寄ってきて、抱きついてきた
「はい、勝利のキスね」
ペッコがレイアとキスをしていると周囲の男達から
「馬鹿野郎、他所でやれ」
と怒号が飛んできた。
そして、控室は笑いに包まれて、レイアは真っ赤な顔になっている。
その後も予選二回戦、予選三回戦、予選四回戦と問題無く勝ち上がり、ここまでは剣技を全く使わないで通過できた。
(これは余裕かな)
などと気楽に考えていたのだが、流石に準決勝の相手はかなりの腕で、初めて剣技や防御スキルや回復スキルなども使って、少しだけ苦労をして勝利をした。後で知ったが、相手の男は今回の優勝候補の一人だった様だ
「さて、明日は決勝戦です、勝者には100万リラの賞金とコロセウムの現王者、砂都自警団「鉄華団」団長にして砂蛇衆筆頭の『スピン・ブレイド』氏への挑戦権が与えられます、そして万に一つの可能性もありませんがスピン・ブレイド氏に勝った場合には何と賞金は1000万リラです」
満員の観客から大歓声が上がる。
「さて、ここで決勝戦の出場者をご紹介しますブルーコーナー、今回が初出場ながら、驚異的な剣捌きで決勝に進出を果たした、ド・ペッコ!!、なお手元の資料に要るとペッコ選手はまだ16歳、そして、なんと正呪術士だそうです、この長いコロセウムの歴史でも呪術士が剣で勝った記録はありません、対するレッドコーナー、前回の優勝者でもある、「塩の都」出身の二代目『猛牛』ことカヌート選手!!、前回は挑戦権を行使してスピン・ブレイド氏に挑みましたが惜しくも敗退しています、今回は雪辱なるか?
明日は正午より注目の一戦です」
控室に戻ったペッコに今度もレイアが抱きついて来る。
「ペッコ様、お怪我は無いですか、相手の方が強そうだったので心配しました。」
もうこちら側の控室には誰も残っていないので、怒号が飛んで来る心配は無い
ペッコはレイアを優しく抱きしめてキスをした。
すると後の方から咳の音がして
「坊や、取り込み中悪いが、決勝は本物の剣と盾を使う、お前さん武器は持ってるか? 無いなら剣術士ギルドの武器を貸してやるぞ」
と剣術士ギルドの男性がペッコに話しかけて来た。ペッコ=義氏はこの男性が、コロセウム元王者で
『プルトの剣』という異名の有るNPCプルザスだと言う事を知っている。
「あの質問なんですけど、盾を無しで剣を二本使っても良いのでしょうか?」
「ああ、剣ならば、双剣だろうと大剣だろうと打刀でも太刀でも何でも大丈夫だが、そうかお前さん『ウェアキャット族』だし、さては「海の都」の出身か?あそこは双剣術が有名だからな」
と男は勝手に納得したらしい。
ちなみにゲーム内だと双剣術士の上位職はなぜか『忍び』だったりする。
「剣は自前のがありますが、一応見せていただいてもよろしいですか?」
「もちろんだ、付いて来な」
ペッコは男に連れられて武器庫に入った。様々な国や地方で使われている剣、大剣、打刀、太刀等が壁に沿って立てかけられている、どれも良く手入れされていて光っている。
ペッコはその中から、やや細身の片手剣を2本選んだ。
「おい、それで良いのか、双剣術にしては長く無いか?」
剣を二本選んだのはわけが有る、ペッコのチートスキルで『剣』を使う全ての剣技を使用できる事が解っているからだ、新大陸由来の「二刀剣士」はまだゲーム内でも使用者が少なく、この世界でもあまり知る物が居ないはずだとペッコは思ったからだ。正式な二刀剣士の剣では無いので一部の剣技は発動しないかもしれないが、それに勝るスピードが有る、明日の相手は動きの鈍い巨人族なので
「ええ、これで大丈夫です、ありがとうございます、明日これをお借りします」
とペッコは男に礼を言う。
「所で、お前さん、その格好で明日も戦うのか?ここを出て『センターコート』の噴水の周りにはいろんな店が並んでいて鎧も防具も売っているぞ、見てみると良い、じゃあな」
「ありがとうございます、ではまた明日」
ペッコは今日はいつもの種族衣装のままで戦っていた事を思い出した、なのでレイアと一緒にコロセウムを出ると、センターコートに向かった。
昨日は気が付かなかったが、その中で見慣れた看板がある「防具屋 ワルサー」、この店は本来は「メルク回廊」の蒼玉通り商店街にあったはずだが、どうやら内戦の影響でここに引っ越して来た様だ
「坊や、なんか探し物かい?」
「防具代わりになる厚手の皮のコートが欲しいんだけど、売ってないですよね」
「皮のコートねぇ……うちには無いな、中に着る『ミスリルの鎖帷子』ならあるぞ、これは軽くて強くて良い物だ、値段は少し張るけどな、まぁ坊やには高くて無理か、皮のコートなら5軒先の革製品屋で聞いてみな」
「ありがとうございます、ちなみにそれお幾らなんですか?」
「お前さんのサイズだと10000リラって所だな、買うか?」
「あ、少し考えさせてください」
「そうだろうな、まあいつか出世したら買ってくれ」
店主のワルサーさんは、今日は機嫌が良いらしい。
教えて貰った革製品の店は、ゲーム内には存在しなかった店だが、店主には見覚えが有った。
「あのもしかして、森の都の革細工ギルドのランダーさんですか?」
「うん?坊やは誰だい、ギルドの職人だったのかい?」
「はい、何度かお目にかかった事がありますけど」
ランダー氏はゲーム内でギルドの受付をしていた人物で、ペッコとしては面識が無いが義氏は彼から最初の革細工用道具を貰ったのだった。
「そうか、森の都はもう昔とは違う国になってしまってね、エルフ族以外は暮らしにくい場所になってしまったんだよ、だから僕も砂の都に来て商売を始めたんだ、それで何か用かな?」
「……な感じの丈夫な皮のコートが欲しいのですが」
「うーん、森の都の店なら直ぐに誂えてやれるんだがな、ここでは素材がなぁ『大山羊革』でもあれば
作れるんだが……すまんな坊や」
「いえ、ありがとうございます……あれ?これは何の革ですか?」
「そりゃ『ベビーカーフスキン』だよ、軽くて柔らかいから着心地は良いけど、丈夫では無いな、それに
目の玉が飛び出る位高いぞ」
(うーん、どうしようかなぁ、これを着て中に帷子を着てみるか、でもこれ剣で切られたら直ぐにダメになりそうだし)
「ちなみにおいくらなんですか?」
「50000リラだよ、そこにかかっているのがちょうど坊やのサイズだな」
「じゃ買います、これ」
とペッコが言うとレイアがなんで?という表情をしている。
結局その後は、革製のスラックスも買って、最初の店でミスリルの鎖帷子、それから黒いシャツを数枚買ってから宿に戻った。
「ちょっと着替えるから、感想を聞きたいな」
ペッコは帷子を着てその上からシャツを着て、更に革のスラックスを履いて、いつものブーツに籠手を身につけてからコートを羽織った。
「どう思う?」
「黒の剣士様って感じですね、格好良いです」
「そうでしょ、これで剣を二本持つんだ、今まで誰も見たことの無い感じで戦いたいんだ」
(実は某ゲーム、アニメの主人公のパクリなんだけどね)
「じゃ、食事に行こう」
「はい」
下に降りると、女将さん他色々な人が待っていてくれた。
「ペッコ君、本当に凄いんだね、まさか決勝に進出しちゃうなんて」
「そうだなぁ、いつもこの店で飲んでる俺たちもなんか鼻が高いぞ」
「お前は何もしてないだろう」
「でも見て、最新のオッズでも10/1よ」
「そうだよな、相手はあの二代目猛牛のカヌートだからなぁ」
「大丈夫です、ペッコ様は明日も勝ちます」
「おう、そうかレイアちゃんが言うなら間違いないな、おれちょっと行ってペッコ君に賭けてくる」
そんな感じで楽しくみんなで宴会の様な夕食を食べて、ペッコは部屋に戻る。
「ペッコ様、さっきはああ言いましたけど、やっぱり心配です、あの出場を辞めるわけにはいかないんですよね?」
「大丈夫だよ、僕を信じて、それより今夜も背中流してくれるよね」
「はいもちろんです」
当然だがそれだけで終わるわけは無く、今夜も熱い夜を過ごしたペッコとレイアだった。
そして翌日の決勝戦
「さぁ、時間となりました、おお、なんとペッコ選手二刀流です、コロセウム史上二刀流の使い手は何名か存在しましたが、いづれも優勝までは至っていません、ペッコ選手、二刀流初の覇者になれるのか?」
「おい、小僧二刀流とは笑わせてくれる、そんな虚仮脅しで俺に勝てると思うなよ」
その言葉と共に攻撃をしてきたカヌートは正統派の騎士の剣で、その一撃は重く威力があった、
(やっぱりな、剣、盾単体なら受け切れ無かったかも、でも二刀なら……)
ペッコはカヌートの攻撃を二本の剣で流す様に受けると、遠慮なく剣技を発動させて
『一の剣』『二の剣』『三の剣』と連撃を繰り出していく、二刀剣士の剣技は発動するごとにスピードが上がって行き、前、横、後と一方的にカヌートを攻め立てていく。
「くそ、この小僧、ちょこまかと」
カヌートがペッコの動きに着いて来れず、苦し紛れに騎士の剣技、それも広範囲攻撃の三連撃を発動した。ペッコは咄嗟に赤魔法士の技『スポスタミント』で後方に回転しながら飛び退く、そしてカヌートの三連撃が空を切ったのを確認して、『ミスキャ』で距離を詰めて右手の剣で赤魔法士の剣技を続けて九連撃、そしてそのまま二刀剣士の剣技を十連撃で叩き込んでいく。
カヌートは堪らず膝を付く。
「おっと、ここでカヌート選手が膝を付いた、王者スピン・ブレイドとの戦い以外で膝を着いたのはこれが初めてだ!」
実況のそんな声が聞こえてくる。
ペッコはカヌートがふらつきながら立ち上がるのを見て、
「くらえ、エクリッシー!」
今度は、先程の十九連撃に加えて更に赤魔法士の剣技九連撃を途切れなく浴びせていく
「うわ、なんか綺麗!」
女性の観客からそんな声が上がり、最後の『リゾルチオーネ』がクリーンヒットした後は、カヌートは静かに倒れ込んだ。
「カーヌト選手ダウン、立ち上がれません、大番狂せだ!、初出場の弱冠16歳ド・ペッコ選手、歴戦のカヌート選手を相手に、見事な二十八連撃の剣技を披露して優勝です!」
ペッコは剣を地面に置くと、両手をあげて観客の声援に応えた。
自分のコーナーの控室の方を見ると、レイアが泣いているのが見える。
カヌートがまだ意識を取り戻していないのか、コロセウムの床に倒れたままだ、セコンドの係員が担架と回復薬を持って側で手当をしようとしているが、意識が無いので薬を飲ませる事ができ無い。
ペッコはレイアに向かって、『本』のゼスチャーをする。
直ぐに察したレイアが魔法書を持って駆け寄って来た。
「何と、ド・ペッコ選手、魔法書の様な物を持って、カヌート選手に近づいた、何をするつもりか……、これは回復魔法だぁ、ド・ペッコ選手、何と回復魔法を使った!!」
呪術士は本来回復魔法を使え無いので、観客を含めて全員が呆然としている。
「う、痛えなぁ、小僧やるじゃないか、なんだお前が癒してくれたのか、全く、情けねぇなぁ」
目を覚ましたカヌートはそう言って立ち上がると、右手を差し出した。
「両雄、ここでお互いの健闘を讃えてがっちりと握手です、これぞ剣闘士魂!!」
「小僧、今回は変な技にやられたが次は無いからな」
カヌートはそう言ってニヤリと笑い自分のコーナーに退出して行った。
カヌートと入れ替わりに、スピン・ブレイドが登場する。
満員の観客は大歓声だ。
「良い試合だった、しかし君の剣技と言い癒しの魔法と言い、君はもしかして『英雄』の一人なのか?」
「いえ、僕はただの冒険者見習いですけど」
謙遜した訳では無くペッコ=義氏はそう思っている、この世界の英雄の条件は『光の加護』を受ける事だからだ、加護を受けていないペッコは英雄にはなり得無い。
「そうなのか、とにかくおめでとう、優勝賞金の目録と、勝者の証のカップだ、これで飲む酒は美味いぞ……、すまない緊急連絡だ」
スピン・ブレイドは真剣な表情になると、耳に手を当てて誰かと『魔法パール通話』で話している
そして、実況者を呼ぶと
「みんなに悪い知らせがある、北部連合王国を自称する輩が、北ジャズィーに本格的に侵攻して来た、俺は数日中に鉄華団を率いて迎撃に向かう、残念だがド・ペッコ選手との対戦はしばらくお預けだ、侵略者を追い払ったら、その時は、彼とここで対戦する事を約束する。それと、義勇兵として参加してくれる者が居るなら大歓迎だ、明日の朝、鉄華団本部まで集まってくれ」
と大声で会場全体に宣言をした。
「すまなないな、そんな事情だから対戦はしばらく待っていてくれるか?」
「ええ、もちろんです、あのスピン・ブレイドさん、義勇兵に僕も参加しても構わないですか?あそうだ
呪術士ギルドからの推薦状もあります」
「本当か、それは助かる、君の様な勇者が参加してくれるのなら1000人力だよ」
そして、スピン・ブレイドはもう一度満員の観客に向かって
「みんな、聞いてくれ、今ド・ペッコ選手が義勇兵として参戦してくれると言ってくれた、この戦いは絶対に勝つぞ!!」
ブレイドはそう言うとペッコの手を持って高々と上に掲げた。
もう一度コロセウムは大歓声に包まれる。
(へぇ、この人、剣術士と言うよりは政治家だったんだな、それもかなり能力が高い)
とペッコはブレイドの評価を改めた。
会場の興奮がまだ冷めない中ペッコは控室でレイヤと二人で見つめ合っている。
「ごめん、今度は義勇兵として戦場に出る事になった、レイヤには一緒に来て欲しいけど、無理にとは言わないよ、宿で僕を待っていてくれる?」
「ペッコ様、御立派です、私なんかに謝らないでください、それに私ももちろんお供しますから」
「そうか、ありがとう、誰かに背中を預けられると安心して戦えるんだ、さぁ宿に戻ろうか」
ペッコが控室から外に出ると、剣術士ギルドの中は、勝者のペッコを一目見ようと群衆の熱気で凄い事になっている。
ギルドのメンバーが人垣を作ってくれて、
「このままお宅までお送りします、どちらですか?」
「え? ああありがとうございます、元の冒険者ギルドの宿です」
「わかりました、付いてきてください」
ペッコとレイヤはまるで凱旋パレードの様な形で、宿まで戻ってきた、そして当然の様にここも人で溢れている。
「おかえり、ペッコ君本当に優勝しちゃうとはね」
「坊や、俺全財産坊やに賭けたぞ、ありがとうな」
「この酒場の誇りだ!!」
みたいな感じで、みんなに祝福をされた。
「今日は私の奢りだからね、みんな好きなだけ飲んで食べて!」
女将さんのその一言で店内は大歓声に包まれる。
ペッコが『勝者のカップ』を手にすると、レイアが酒を並々と注いてくれる。
確かにこのカップで飲む酒の味は最高だった。
レイアと並んで、酒を飲んで料理を楽しんでいると
「なんか、お二人さん並んでいると良い感じだな、まるで婚姻の披露みたいだ」
「違いねぇ」
と囃し立てられて、レイアは耳の内側まで真赤になっている。
「あら、良いじゃない、ペッコ君もうこのまま一緒になっちゃえば?」
(え、女将さんまで?……まさか図られたか)
「女将さん、ペッコ様が困ってます」
とレイアが助けてくれたが、
「おい、坊や照れるなよ、男ならしっかりしろ」
等と、みんなに言われペッコも
(これはもう逃げられないな、もう関係しちゃっているし)
と諦めた
「あの、皆さん、さっきコロセウムで宣言した様に、僕は義勇兵として鉄華団に参加しようと思っています、なのでその話は戦から帰ってきたらって事で……」
「おう、そうか坊や偉いな、俺はもう歳だから戦え無いが、砂の都の為に頼むぞ」
「頑張れよ、坊や」
「はい、では明日の朝一で鉄華団の本部に出頭するので、今夜はこれで失礼しますね、皆様本当にありがとうございます」
ペッコは皆に礼を言ってレイアと共に部屋に戻った。
「あのペッコ様、お話しがあります」
「何、改って?」
「ごめんなさい、私ペッコ様の事を騙していました」
「どういう事?」
「実は私の母と女将さんは親友で、私は子供の頃から女将さんに可愛がってもらっていたんです、それで、難民としてこの、この街に来て宿でお世話になっていたんです、でもそうしたら父が事故にあって……」
とレイアの難民となってからの身の上話が始まった
「……それで、女将さんから、将来有望そうな若い『癒し手』さんがいて、お金も持っているから付き合っちゃなさいって言われて……本当にごめんなさい、お金目当てで近づきました、でも一目惚れしちゃったんです、それで一緒にいる間にどんどん好きになっちゃって、ペッコ様への気持ちは本当です、それだけは信じてください、だからこれからも専属のメイドでも良いので側に置いていただけますか?」
(なるほどねなんか事情があるのはわかっていたけど、でもタイプだから全然OKなんだけどなぁ)
ペッコが考え込んでいるのを見て、レイアは泣きながら土下座をして頼み込んで来た
「お願いします、お側に置いてください」
(あ、これはちょっと不味い)
ペッコは跪くと、レイアの顔を上げさせて、軽くキスをしてから。
「うん、知っていたよ、でも僕もレイアの事大好きだから、これからもずっと側に居てね」
「はい、ありがとうございます」
(うん、これで無事に全部解決だ、こんな可愛い娘を手放すわけ無いじゃないか)
そして、今夜も一緒に入浴からの……ペッコは風呂でレイアに少しだけ怪しいプレイを教えてみた
義氏は元気な頃は月に二回ほど、夢の風呂屋に通っていたので、それを教えてみたのだった……
(今夜も最高に満足だ)
「明日も早めにお部屋に参りますね、おやすみなさい」
レイアはそう言うと、自分の部屋に戻って行った。