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……美少女と魔法と剣と……

転生物お約束の美少女……主人公はどうなるのか?

 第四章 美少女と魔法と剣と


 次のギルドに向かおうとして、ふと右手を見ると剣術士ギルドに続く階段に人だかりが出来ている

「おや、コロセウムで何かあるのかな?」

そう思って見に行くと、

『オープントーナメント 優勝賞金100万リラ』

と看板が出ている、100万リラの賞金は魅力的だ。

 ペッコは人混みをかき分ける様にして、剣術士ギルドまでたどり着くと、受付の係員にトーナメントに参加したい旨を話してみた。

 係は、申込書を手渡すと左側の列を指差し、ペッコに列に並ぶ様に指示をした。


 一時間以上列に並んで、受付を済ませると……当然、もし怪我や死亡しても自己責任です……と言う様な書類にサインをさせられたが……

 「予選は明日の朝からだ、一回戦から四回戦までは木剣と木盾を使った一本勝負、10組ずつだからな、隣の奴の邪魔をしない様に、明日の朝は遅刻するなよ」

 と係員に言われて、ペッコは剣術士ギルドを後にした。

「そう言えば、ランチも食べて無いな一度戻って遅いランチにするかな」

と思ってペッコは元冒険者ギルドへ戻る事にした。


 「あら、坊やおかえり、今日は特別に良い『大山羊』の肉を仕入れておいたわよ、ステーキ食べる?」

と女将は上機嫌だ、金回りも良さそうで貴重な癒し手、そして世間知らず見えるペッコは女将さんにとって絶好の鴨だと思っているのだろう。

「これどうぞ」

と昼間なのにセクシーな踊り子の衣装のカクテルウェイトレスが、冷えたエールを持って来てくれた。

「あ、君は?、お父上の具合はどう?」

「はい、今日は食事も少し食べられる様になって、本当にありがとうございます」

(この娘本当に綺麗だな、見ているだけで癒される)

昨日の少女は踊り子の衣装が恥ずかしいのか、少し頬を赤めている。

「ほら、レイヤ、ボヤボヤしてないでペッコ君にお酌でもしなさい」

と女将さんはやり手ババアの様になっている。

(へぇ、この娘レイヤって言うんだ)

「今日はこの後に行きたい所が有るので、エールは控え目でお願いします、あの女将さん『工芸士ギルド』と、『服飾士ギルド』ってまだ有りますか? それと『メルク礼拝堂』にも行きたいのですが、そこの出口の門が閉まっているって事は回り道をしないと行けないって事ですよね?」

「どっちのギルドも閑古鳥が鳴いているけど、店は細々と開いているわよ、西の出口から出て、センターコートを抜けて行けば良いわ、でも絶対に『真珠通り』周辺には近づいたらダメよ、昼間でも危ないからね……そうだ、レイヤあんた、今日はもうここは良いからペッコ君を案内してあげなさい」

「はい、女将さん」

(この娘、弱みでも握られているのかな?まぁこんな可愛い娘が道案内をしてくれるなら、文句は無いな)

 そう思って、運ばれてきた大山羊のステーキを食べながらエールを飲む

(うーん焼き方がいまいちだなぁ、ここのキッチン使わせてくれないかなぁ)

「あら、坊……ペッコさん」

(なんだ、いきなり坊やでもペッコ君でも無くペッコさんになった?)

「あなた、もしかして呪術士様なの?」

 女将さんはペッコが脇に置いた呪術士の杖と、首の先程呪術士ギルドでもらったゴールドメダルのネックレスに気がついた様だ

「はい、そうですけど?」

「何て事、大変失礼いたしました、呪術士様だとは知らずに……」

と態度が大きく変わった。

「女将さん、どういう事ですか呪術士ってそんなに偉いんですか?」

「ペッコさん、世間知らずも度が過ぎますよ、良いですか……」

 女将さんは今度は『砂の都』の最近の歴史を語り始めた。

 第七厄災の際に大量に発生したモンスター妖異、これを退治したのが現在のギルドマスター達で、

彼らの働きが無ければ砂の都は滅びていた、と言う事らしい、なのでその功績から呪術士は

特級市民として、様々な特権が女王より与えられていたと言う事だそうだ。

(それって、旧版のゲームが終了する時の話だったよな、それに呪術士が特権階級?まるで森の都の

幻術士みたいだ)

 そして、更に女将さんは続けた

「10年位前にね、冒険者の一人が、禁忌とされていた『黒魔法』の使い手として認められたのよ、その彼女は厄災に匹敵する様な天変地異を未然に防いだって話だわ、でも彼女のその後は誰も知らないの」

「そうなんですか、でも女将さんなんでそんなに詳しいんです?」

「私の姉はね、黒魔法の研究をずっとしていたのよ、だから姉から色々と聞いたわ」

「え、ではメルク礼拝堂に居る黒魔法の専門家って?」

「あなたそれを誰から聞いたの……まさかココブキ様から……まさか……」

「僕、黒魔法使えるんです」

 それを聞いた女将さんは本当に卒倒するかと思う位驚いていた、そしてペッコの手を取ると拝むようにして

「まさか、黒魔法士さんに逢えるなんて……」

(うーん、天皇陛下に拝謁した田舎のお婆さんみたいだ)

ペッコは少し面白くなった。

「それにしても、ペッコ様(え、とうとう様になった)魔法士様なのですから、それらしい服をお召しになったら如何でしょうか?」

「いや、あの女将さん、今まで通り『坊や』とか『ペッコ君』で良いですから、『様』は止めてください

それと、魔法士らしい格好って、あのローブと変な帽子ですよね、僕あれ嫌いなんです動きにくいので

それで「服飾士ギルド」で何か良い服を探そうかなと思って……」

「そうでしたか、ではギルドへの紹介状を書かせていただきますね、それと姉もお目にかかれたら喜ぶと思うので、ぜひメルク礼拝堂へ行ってやってください」

 そして女将は、先程から何事かと固まっているレイヤに向かって

「あなた、今から魔法士様のお世話掛になりなさい、もう店には出なくて良いから、魔法士様の身の回りのお世話を全部するのよ、良いわね、全部よ」

(なぜ全部を強調するんだ?、まぁ僕は嬉しいけど)

「はい、女将さんかしこまりました、魔法士様よろしくお願いいたします」

(あ、これってアニメの美少女が召使になりましたって奴か、神様ありがとうございます)

ペッコは心の中で神に感謝をした。

「レイヤ、魔法士様のお供をするんだから、早く着替えて来なさい、そんな格好で御一緒するわけにいかないでしょ」

「あ、はい只今」

「全く、気の効かない娘だから……魔法士様、専属のメイドだと思って何でも言いつけてやってくださいね」

「はい、でも魔法士様はお願いだから止めてください」

ペッコは苦笑いをする。


 ちょうど食事が終わった所にレイアが着替えて降りてきた、ペッコと同じ種族衣装だ、着る機会が無くて大事にしまっていたのか、所々に折り目がついている、

(やはり、この服は可愛いなぁミニスカートが最高だ)

ちょっとした段差でもチラつく感じがなんとも言えなくてSEXYだと思う。

「では女将さん、行ってきます」

「はい、お気をつけて、レイア頼んだわよ」

「はい」


 レイアに先導されて、西側の出口から外に出て「紅玉通り商店街」を歩いて行くと、昨日の踊り子に声をかけられた。

「あ、昨日のお兄さん、どう遊んでいく」

するとレイアが、ペッコの腕を掴むように手を絡めて来た

「なんだい、女連れかよ紛らしい……」

と毒吐いてから、ペッコの杖とペンダントに気がつき、

「うわぁ、大変失礼いたしましたぁ」

と土下座する勢いで頭を下げて、その場から逃げていった。

(うーん、これ持ち歩くの止めようかな)

とペッコは思って、レイアの方を見るとレイアは顔を赤くしてペッコから手を離した

「魔法士様、申し訳ありません、つい……」

「ああ、良いよ僕はその方が好きだし」

とペッコは体を斜めにして腕を差し出す様にした。

レイアは今度は少しオズオズとした感じで腕を絡めて来る。

「そう言えばちゃんと名乗ってなかったね、僕はド・ペッコ・ヤン、魔法士だけど冒険者、正確には冒険者になりたかった人かな、今はもうなれないみたいだからね、君は?」

「私は、ファ・レイアです、よろしくお願いいたします」

 『ウェアキャット族』の女性の正式な名乗りは、種族名、個人名、父の名なのだが、レイアは父の名を

省略している、つまりそれは父の名を公式に名乗れないと言う意味だ、娘に名乗りを与えられるのは『族長』の身分の者だけと言う掟があるので、レイアの父はペッコと同じ『ヤン』=族長では無い男性と言う事になる。

 『ウェアキャット族』の男性が全て族長『パト』に成れるわけでは無い、

男子は全て「ヤン」として育てられ、その部族の「パト」(父や叔父の場合が多い)に決闘で勝つか、禅定されて縄張りを獲得し「パト」になる。

 あるいは、極めて少数だが、独力で新たな縄張りを獲得し、女性をめとって「パト」になる物も居る。

それ以外の者は生涯を「ヤン」として過ごし、妻帯も認められず子供は私生児扱いとなる。

 ペッコの父オドも冒険者、傭兵時代は公式にド・オド・ヤンと名乗っていた。

レイアが人に対して少し怯えた態度なのは、今まで私生児扱いされて来たせいなのかとペッコは思った。

「そうか、お父上は『パト』にならなかったんだね」

「はい、父は争い事が嫌いで、自分の部族から逃げてきたと言っていました」

(そうなんだ)

「あの、私の事嫌いになりましたか、軽蔑しますか?」

「いや、そんな事無いよ、レイア……ファ・レイアって呼んだ方が良いかな、とにかくこれから色々とよろしくね」

「はい、魔法士様」

「あ、それ止めて、ペッコで良いから」

「はい、ではペッコ様、私の事はレイアで良いです」

(やっぱり、様が着くのか、ならばいっその事、御主人様とかマスターとかの方が良いかなぁ、マイロードなんてのも良いかも)

 くだらない事を考えながら歩いていると、最初の目的地「服飾士ギルド」の近くまでやって来た

途中の交差点の『真珠通り』方向はバリケードで完全に封鎖されて通れない様になっている。

 ゲーム内ではギルドの前の通路の両側にはマネキンが飾ってあって、様々な服が展示されていたはずだが、それは無くなっている。

 (さて、あのギルドマスターはどうなっているのかな?)

「服飾士ギルド」のギルドマスターは巨人族で、お姉言葉で話すゲイと言う設定だった。

 ドアを開けてギルド内に入ると、ここも活気が無い、受付には誰も居らず、沢山いたNPCの徒弟や

針子などの姿も無い、店の中のミシン台の前で、ギルドマスターともう一人の女性が暇そうに座っていた。

「あら、いらっしゃいお客様なんて珍しいわね、何かお探しかしら?」

ペッコは女将さんからの紹介状を渡すと

「……と言う感じの服が欲しいんです」

「それなら、前に作ったのが有るけどどうかしら、ただ色がとても派手なのよね」

そう言ってギルドマスターが奥から出して来たのは「紅のアタイア」と呼ばれる一式だった。

「ああ、これ懐かしいな、赤魔法士の装束ですね」

「そうよ、若いのに良く知っているわね、昔ね渋いウェアキャット族の男性魔法士から頼まれた物なのよ、この『紅』を出すのに苦労したのよ」

「これ、まだ売り物ですか?」

「生地はあるから仕立てられるわよ、今なら暇だから二日も有ればできるわね」

「じゃぁ、それを2セット願いします、あ、あの彼女の分なんですけど、『ガスキン』では無くて『スカート』でお願いできますか」

「良いわよ、長さはお嬢さんが今履いてるのと同じ位で良いのね、ちょっと短すぎる様な気もするけど、お嬢さんなら綺麗な脚をしているから良いかもしれないわね」

「それと、僕たちが今着ているこの服なんですけど」

「ウェアキャット族の種族服ね、それが?」

「僕のはシャツを同じ紅で、彼女のはこことここが紅、他は白で作れますか?」

「お安いご用よ、なんならお嬢さんの方はブーツもサービスするわ、じゃ、採寸するからお嬢さんからね」

「え、あの、え? ペッコ様?」

事情が飲み込めないまま、レイアは奥の採寸場へ連れて行かれた。

「綺麗な方ですね、優しそうな彼氏さんで羨ましいです」

残ったペッコにもう一人の女性が声をかけて来た。

「なんか、寂れちゃってますね、昔来た時はもっと活気があったのに」

「そうなんですよ、街のこっち側は治安が悪いからお客様が来られなくなってね、だからウチもセンタコートに露店を出しているんですよ、吊るしの物でしたらそちらでお買い上げいただけると嬉しいです」

「そうなんですね」

とそんな世間話をしていると、今度はペッコの番だ

「あなた、細いと思ったら凄い筋肉ね、何?どれだけ鍛えたらこんな身体になるの?」

とマスターはペッコの胸板を撫でながら

「あら嫌だ、私ったら」

と照れている。

 採寸が終わったので

「よろしくお願いします、これ前金です、足りなかったら取りに来た時に」

っとペッコが古金貨を渡すと

「まぁ、こんなに要らないわよ、でもこれだけ有れば最高の素材で作るわね、楽しみにしていて頂戴」

と最敬礼で見送ってくれた。

 店を出るとレイアが

「あの、ペッコ様、私の分までその、ありがとうございます、でも何でですか?」

「レイア、これから僕の世話をしてくれるんだよね、一緒にいるのだったら同じ服装の方が分かりやすいかなと思ってね、嫌だった?」

「いえ、とんでも無いです、嬉しいです、私のこの服、母からのお下がりなので新しい服なんて……」

「喜んでくれて嬉しいよ、じゃ次の所へ行こう、メルク礼拝堂、女将さんのお姉さんが居ると良いけど」

「はい、ペッコ様」

今度は、レイアは自然にペッコの腕を取る様にして来たので、ペッコはそれを解く様にしながら手を繋いでみた。俗に言う『恋人繋ぎ』だ、レイアは躊躇わずに指を握り返してきた。

(うーん、このまま壁ドンしちゃおうかな……まだ止めておこう、礼拝堂に行くんだから)

 礼拝堂までは、数分の距離だ

(ここに青魔法士のマットさんとかが居たよなぁ、やっぱり居ないか)

そのまま礼拝堂に行くと門が開いている。

(旧版の時は中に入れたけど、新生されてからはこの門はずっと閉まっていたよなぁ)

と思って中に入ると……

「あ、いた!」

 青魔法士のマットとその仲間、『ドラコニア族」とはまた別の爬虫類系種族の二人が居て

青魔法で大道芸の様な事をして、観客から金を集めている。

(そうか、ここは商売の神様だからそれも有りなのか、あの人ゲームの中とあまり変わって無くてなんか嬉しいな)

 ペッコ達が前を通り過ぎようとすると、

「ああ、そこのお二人さん、全く新しい魔法、青魔法に興味は無いかね?」

「ワラキ族の魔法ですね、こういう感じで良いですか?」

 ペッコは笑いながら、自分が学んだ青魔法から『死の定め』を放ってみた。

マットは口を大きく開けて、驚愕している。

「き、君たちはまさか新大陸から来たのかい?」

「いえ、違います、僕は青魔法を学んだ事があるんです」

 驚いたマットが話を続けようとした所に

「こら、またあんた達ね、神聖な礼拝堂で詐欺の様なマネをするなと何度言えばわかるの?」

 魔法士姿の小人族の女性に怒られて、マット達はやれやれと言う感じで退散していった。

「それで、あんたもあいつらの仲間……あらごめんなさい、あなた呪術師なのね見かけない顔だからつい」

「あ、もしかしてヤライさんですか、これ妹さんからの紹介状です」

「妹から、何かしら……なんですって?」

 ヤライは大声をあげて、今度は周囲の参拝者から静かにしろとジェスチャーて怒られる。

「これ、本当なの、あなた黒魔法が使えるの?」

「はい、でもそんなに珍しいですか、あの知の都の智慧者の二人も黒魔法を使ってましたけど」

「ああ、あれはね、知の都流の魔法で、言ってみれば黒魔法の紛い物よ、あなたもそうなの?」

「いえ、違います、僕は一度仕事で一緒になっただけですから」

「そう、なら良いわ、そこにさっきの詐欺師が忘れていった木人があるから、あなたの黒魔法を見せて頂戴、本物かどうか判断してあげるから」

「はい、では」

 ペッコは修行の結果、魔法の威力を加減できる様になっていた、なので最低の出力で黒魔法『ブリザージャ』と『ファイジャー』を放って見せた

「本物の黒魔法なのね、しかもあなた威力を制御できるの? 天才だわ」

「ありがとうございます、それで今日お伺いしたのは、魔石の事なんです」

「魔石、『シャントトの魔石』の事ね、あなた何でそんな事を知っているの?」

「魔石は冒険者の黒魔法士に受け継がれたんですよね、でもその時に複製を何個か作ってませんか?」

「黒魔法士のクリスタルの事ね確かに作ってみたけど、黒魔法の力は継承されなかったの、この礼拝堂にも何個か収めてあるわ、見る?」

「はい、お願いします」

ペッコ達は、ヤライの後をついて礼拝所の奥に入って行った。

ペッコが手を差し出すと、レイアはすぐに握り返してくる。

(うーん、この感覚嬉しいなぁ、中学生の頃の初デートを思い出す……)

「これよ」

 ヤライが礼拝堂の奥のチェストの中から、布に包まれた紫色の小さいクリスタルを持って来た

「失礼します」

 ペッコはクリスタルを手に載せてみた

(あ、この感じ)

 ゲーム内の描写の様にクリスタルを手にした瞬間に、頭の中に魔法の術式が浮かんでくる事は無かったが、確かにクリスタルと感応した感覚があった。

「レイア、これ持ってみて」

「はいペッコ様……え?」

「どう、魔法が頭に浮かんだ?」

「はい」

「そのままでこの杖を使って、そうだなあそこの椅子に向かって『ブリザージャ』打ってみて」

「はい」

レイアは詠唱に入り、スカートをなびかせながら魔法を放った。

「え……私が魔法を使える?」

本人が一番驚いている様だ

「今度はそのクリスタル無しでできる?」

ペッコはレイアからクリスタルを受け取った。レイアは先程と同じ様に詠唱しようとして

「無理です、できません、何にも浮かんでこないです」

「これは一体どういう事なの、あなた説明して」

「この複製のクリスタルは不完全だったんです、今僕がやったみたいに術式をクリスタルに覚えさせないとダメだったって事です、そしてこのクリスタルを所持すればレイアの様に呪術や魔法の知識が無くても黒魔法……の様な物が使える様になります、でも、ちゃんと使うには呪術の修行が必要なんですね、そしてクリスタルを手放せばその効果は無くなるって事ですね、この世界でもクリスタルの力が使える事がわかったのは良かったです」

「あなた、何者なの? 今この世界って言ったわよね、もしかして……」

「あ、さっきのセリフは忘れてください、今日はありがとうございました、これお返しします、多分ヤライさんなら、これが有れば完璧に黒魔法を使えると思います、それとこれ礼拝堂に喜捨します」

とペッコは金貨を一枚ヤライに渡すと頭を下げて、レイアの手を取って礼拝堂を後にした。

 後方から、爆発音と「ウォー」と言うヤライの歓声が聞こえて来た、


「あのペッコ様、さっきのは一体?」

「ああ、忘れて良いよ、次は『工芸師ギルド』ね、あそうだレイア、何か得意な武術とか魔法とかある?」

「はい、ギルドはこちらです、剣なら少しだけ使えます、私は自由都市の生まれなので、子供の頃に冒険者さんに剣を教わった事があるんです」

「そうか、それはちょうど良いな」

(今がチャンスだな、壁ドンしよう)

ペッコはそこで歩みを止めて、レイアを壁際に立たせると、方手で壁に手をついた

「え、あのペッコ様?」

「レイア、これから僕の言う事を何でも聞いてくれる、どんな事でも従って欲しいんだ」

レイアの眼を見つめてそう言うと

「はい、ペッコ様、最初からその覚悟です、父の命を助けていただいた恩返しをさせてください、どんな

ご命令にも従います」

(あ、ダメだ我慢できない)

ペッコがレイアに顔を近づけるとレイアは眼を閉じて、顎を突き出した。

(やった、この世界でのファーストキス)

しばらくそのまま、長いキスを交わして

「良かった、断られたらどうしようかと思っていた」

とペッコは照れた。

「断るなんて有り得ません……嬉しいです」

「じゃ行こうか?」

「はい、でもあの……もう一度」

 今度はしっかりと抱き合って長く濃厚なキスを交わした。

(あ、まずい……)

 中身は還暦を過ぎた義氏だが、ペッコの体は16歳だ、自分の記憶だと猿の様にHをしまくっていた年頃だった、なので自然と身体の一部が反応してしまっている。

 「ゴホン!!」

 近くで誰かの空咳が聞こえた、ペッコはレイアから身体を離して振り返ると

年配の人族の夫婦がこちらを睨んでいる。

(すみませんでした)

 ペッコはレイアの手を取ると、逃げるように小走りでそこから立ち去った。


 『工芸師ギルド』の入り口も、やはり「服飾士ギルド」と同じように扉の前に展示されていた工芸品が全部無くなっている。

中に入ると、顔に覚えの有るギルドマスターが、

『いらっしゃいませ、懐中時計の修理ですか?」

と生気の無い眼で聞いてきた。ペッコはここでも女将さんからの紹介状を渡すと

「あの、ここなら『細剣・レイピア』を作ってもらえるかと思って、それかもしダメなら材料と工具を貸していただけないでしょうか、自分で作りますので」

 そう言うと、ギルドマスターの顔が輝いた。

「細剣だなんて、なんて嬉しい、もちろん作らせて頂きます、材質は何にいたしますか?もしかして赤魔法士様ですか、でしたら魔器も合わせてお作りしますけど?」

「良かった、ぜひお願いします、素材は何が有りますか?」

「そうですね、ゴールドチタンとホワイトゴールドの組み合わせはいかかでしょうか? 貴重な鉱石を使うので少し値がはりますけど」

「それでお願いします、剣の形はレイピアで二組作ってください」

「はい、かしこまりました、素材から作るので一週間ほどかかりますけどよろしいですか?」

「構いません、あと出来合いの物ってありますか?」

「はい、センターコートの露店用の商品なら、そこに有りますよ、量産品なのでコバルトとミスライト製ですが、綺麗な剣で、揃いの魔器もついています」

「レイピア用のベルトなんて無いですよね?」

「御座いますが、あのウチのは宝飾品なので、かなりその……」

それも見せてください、あと魔法職用のアクセサリーセットも有れば」

「はいかしこまりました、それでは用意しますので、あちらでお掛けになってお待ちください」

「ペッコ様、今度は何を買われるのですか?、ここは高そうな物しか無さそうですけど」

「そうだね、少し高価かな、でも良いものだよ」

「お待たせしました、こちらレイピアベルトです、飾りの石はお好きな物に取り替えられます」

「レイアは何月生まれ?」

「私は星三月です」

「そうか、じゃぁ翠玉だね、では、一つは翠玉と金剛石、紅玉の組み合わせで、もう一つは

紫石英、金剛石、紅玉でお願いします」

「かしこまりました、それと魔法職様用のアクセサリーはこちらになります、今ある中で一番高価な物を参考までにお持ちしました、『ダイアスポアキャスター・アクセサリー』セットで御座います

貴重な鉱石『ダイアスボア』に希少金属の『エレクトラム』『ストーンゴールド』で製作されていまして魔法力を最大限まで高める効果があると言われています。

「ああ、これ良いね、色もグリーンだし、これください、サイズを彼女に合わせてもらえますか?」

「はい、かしこまりました、リングはどの指に着けられますか?」

「え、? あの? え?」

「レイア、リングを着ける指を決めて」

「あ、はい、あの左の薬指でお願いします」

ピアス、ネックレス、ブレスレットは特にサイズの変更も必要無い様で、そのまま着用できた、

レイアは指を上にかざしたりして、恍惚とした表情をしている。


「それで、最後のお願いなんですが、ここでは近衛騎士団用の騎士のクリスタルを作っていましたよね」

「ええ、残念な事に近衛騎士団はもう存在しないので、あのクリスタルも無用の物となってしまいました」

「そのクリスタル、素材を分けていただけないでしょうか?」

「高純度クリスタルの破片ですか、構いませんが何にお使いになるのでしょう?、ウチでは騎士のクリスタルに使う以外の用途が見つからなくて」

「僕もクリスタルを作ろうと思うのです、それで何個でも良いので売っていただけたらと」

「うーん、あの邪神を召喚したりとかに使わないですよね? あんな小さい破片で召喚できるとは思わないですが、一応念の為に……」

「はは、まさか、そうだお見せしましょうか、一個いただけますか?」

ギルドマスターは奥に行くと、クリスタルの破片が沢山入った密閉用のツボを持って戻ってきた

「じゃこれをお借りしますね」

 ペッコは右手にレイピアを持ち左手でクリスタルの破片を握る様にした。

すると、透明だったクリスタルが紅い色に変化した。

「できた、赤魔法士のクリスタル」

「え、これって、あの騎士のクリスタルと同じ用途の?」

「ええ、そうです、赤魔法士の記憶と技……といっても僕のですけど……を受け継いだクリスタルです」

「レイア、これ左手に持って、レイピアを構えてみて」

「はい、ペッコ様……あ、この感覚はさっきと同じ」

「どう、赤魔法士の技使えそうでしょ」

「はい、これどうなっているんですか?」

「後でゆっくりと教えてあげる」

「どうですか、これでクリスタルの使い方をご理解いただけたかと思うのですか、でも僕にしか作れないので、作り方はお教えできないですけど」

そう言ってペッコは微笑む。

「そういう事なら、この壺ごと全部お譲りいたします、代金は……」

「あ、そうそうもう一つだけ、この紅クリスタルに金で枠を作ってブローチにしていただけますか?」

「はい、30分ほどお時間をいただければ、すぐに」

「良かった、ここまでで全部でお幾らになりますか?」

「少しお待ちください、特注のレイピアが二本、宝飾ベルトが二個、アクセサリーセット、

量産レイピア二本、クリスタル、ブローチ加工……、20万ギルでいかがでしょうか?」

「良いですよ、支払いは古金貨4枚で良いですか?」

「え、本当でに古金貨ですか? まぁ嬉しい、今お茶の用意をさせますね、美味しいお茶受けのお菓子も有りますから、ブローチができるまでゆっくりとお待ちください」

 ペッコがギルドマスターが用意してくれたお茶とビスケットの様なお菓子でくつろいでいると

「あ、あ、あのペッコ様」

 レイアが、思い詰めた様な表情で話しかけて来た

「何?」

「私はどうすれば良いのでしょうか、このアクセサリーとか高そうなベルトとか、この剣も……」

「僕の言う事をなんでも聞くって約束してくれたよね?」

「はい、ペッコ様」

「じゃあ、そう言う事だから」

(いや、これだと何も伝わって無いかな?)

「あの、なんか嬉し過ぎて、おかしくなりそうです、ありがとう御座います」

「後で二人切りになったら、お返しを(キス)を期待しているね」

「はい、頑張ります(私の全てを今夜捧げます)」

(あ、大丈夫かも伝わっている)

と微妙な勘違いをしているペッコだ


 ギルドマスターは最敬礼でペッコ達を外まで見送ってくれた。

「ありがとう御座いました、またいつでもお越しください」

「じゃあ、レイピア楽しみにしていますね、また来週」

 外の通路に出ると、もう日が暮れていて辺りには人影も無い。

(これは良いかも盗賊とか出てくれないかな、赤魔法を実践できるんだけど)

そう思いながら、レイアの手を取って歩いていると、センタコートの入り口付近に三人の男が道を塞ぐ様に立っている、そして後方からも二人、ペッコ達は五人の男にとり囲まれる形になった。

「坊やにお嬢ちゃん、こんな遅くに子供が外を出歩いたらダメってママに教わら無かったのかい?

坊や、怪我をしたく無かったらその荷物と有り金を全部置いてとっとと消えな、お嬢ちゃんはお兄さん達と楽しく遊ぼうね」

 と言いながら近づいてくる、レイアは蒼白になって震えている。

「おじさん達、命が有る内に逃げた方が良いよ」

とペッコは警告してから、レイピアを抜いた。

「レイア、さっきの赤魔法士の技、レイアも使えるから剣を抜いて戦ってご覧、大丈夫こいつら弱いから」

「小僧、舐めやがって」

 棍棒で殴りかかってきた最初の男を、ペッコは一閃した、男は千切れかけた右腕を抱える様にして悲鳴をあげている。

「こいつ」

後の男が短剣を抜いてレイアに近づいて来る、

 レイアはいきなり、剣技では無く赤魔法の「スコッサ」で男を気絶させた、そして隣の男には「ロッソサンダー」の魔法攻撃、これで後方の男二人は気を失った事になる。

「何なんだ、こいつら」

「だから逃げろって言っただろ」

とペッコが煽ると残った二人は、怪我をした男を抱える様にして

「覚えてろよ」

と言いながら、走って逃げて言った。

(覚えてろって本当に言うやついるんだな)

と思いながら、ペッコはレイピアをベルトに戻した。

「どう弱かったでしょ、大丈夫?」

 レイアは震えも止まって、嬉しそうにしている。

「はいペッコ様、私自分じゃ無いみたいです、魔法で戦えるなんて」

「良かった、じゃ帰ろうか、お腹空いたしね」


 宿に戻ると女将さんが二人を待っていた

「ペッコ君、おかえりなさい、さっき姉が上機嫌でやって来て、この本と杖をペッコ君にって、何かあったの?」

「お姉さん、黒魔法が使える様になったみたいですね、良かったです」

ペッコがそう言うと、女将さんは

「まぁ、本当なの、ずっと姉の夢だったのに、そう夢が叶ったのね」

と少し涙を浮かべて嬉しそうだ。


「あ、女将さん、夜の食事は何ができますか? レイアも一緒に食べるので二人分お願いします」

「昼間はステーキだったから、『大山羊のワイン煮込み』もう用意してあるから、すぐに出しますね」

 絶品の肉料理を美少女と二人で食べて、ペッコは幸せな気分で部屋に戻った。

「ペッコ様、一度父の様子を見て来てもよろしいですか?」

「ああ、そうだね、今日は色々とありがとう」

 ペッコはレイアを見送ると、服を脱いで湯船にお湯を張り始めた。



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