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第二十四章 エウロパ皇国

第二十四章 エウロパ皇国


 セイロンから帰国したペッコにとんでも無い事態が待ち受けていた。

土産の香辛料を持って元帥の執務室に報告に行くと、元帥は不在で、政庁の方に居ると言う、連絡をするとすぐに来いとの事で、政庁に入るとそこには各国の代表やと元老院の議員達が待ち構えていた。

「大変な事態が起こった、自由都市からの緊急の連絡があり、モルドーナで『黙契の塔』それに『クリスタルの塔』、旧帝国基地、と言った建築物が消滅してしまった、何故か『銀霊湖』周辺の偏属性クリスタルも無くなっている、帝国の侵攻以前の美しい姿に戻っているのだ、当然神龍ミドガルズオルムの姿も無い、これより各国から専門家を集めて調査隊を派遣する事になる、少将も参加をしてくれるな」

 ペッコがそこで自分がした事の大きさを初めて自覚した。

「元帥、申し訳ありませんが調査隊の必要は無いかと思います、それを起こしたのは私と神龍ミドガルズオルム、それにセイロンの太守ブリトラ殿です」

「なんだと?」

「なんですって?」

と全員が一斉にペッコの方を見る

「少将説明をしてくれないか?」

 と言うことで、ペッコは簡単に説明をして、角神となった事で使える様になった魔法に『時魔法』と言う物があり、それを使って神龍ミドガルズオルムの望む安寧の地、銀霊湖を元の姿に戻したと説明した。

「そんな魔法があるとは……」

とほぼ全員が唖然としている中で、ドウェイン・アルディンが

「どうだ、皆、この力こそ我らが今、必要としている力では無いのか?」

と言うと、元帥始め元老院議員、他国の代表達も頷いた。

「元帥、ドウェイン閣下、どういう事でしょうか?」

「少将が留守の間に、我ら一同で何度も話し合いを重ねた結果、我らは一つの国として纏まる事となった」

「そうなんですね、それは大変ですが良い話しだと思います」

 この時ペッコは『元帥がまた大変な仕事を引き受けるんだな』と思っていたが次の言葉で、心臓が飛び出す程驚いた。

「その新しい国の王を『幻術王』ド・ペッコ殿に引き受けていただきたい、これはここに居る者の総意だ」

「なんですって?そんな無茶な、無理ですよ」

とペッコは慌てて断ったが、どうもそう言う空気では無い様だ


 「とりあえず、今日の所はこれで解散として、続きが後日にしましょう」

とここでデュロロ大司教が言ってくれたので、ペッコは一息入れる事ができた。


 場所を元帥の執務室に移動して、ペッコは元帥とドウェイン大将、ピピン・カルピン少将と話をしている。

「それで。元帥、大将 どうしてこうなったのか説明をしていただけますか?」

「では吾輩から話そう、森の都を解放した時の事を覚えているか?」

「はい」

「あの時吾輩と元帥とで、国の将来の事を話しあったのだ、貴様の事だから勘づいていると思うが、塩の都は最早、国として存在を維持する事が困難なのだ、人的資源が圧倒的に不足している上に、二年に渡る国境封鎖で、最早食料を自給する事も困難だ、そして軍事に至っては、砂の都の協力が無ければ国を守る事もできぬ、20年以上に渡る帝国の支配がそれ程過酷だったのだ、いや正確には帝国と言うよりあの『過去人』達の目論見だがな、国を疲弊させて民を暴発させて邪神を降臨させる、これが目的だったわけだからな、だから、奴らは農村を破壊し農民を兵士として徴用し、その一方で都の商人共を優遇した、その結果が帝国からの物資が無ければ、生活が成り立たない国の出来上がりだ、吾輩や共和国政府の者共もそれを何とかしようと努力をしたのだが、その矢先に今度の事でな、吾輩は砂の都による併合を考えては貰えないかと言う事を元帥にお願いしたのだよ」

「しかし、それではせっかく帝国から独立した塩の都の方々の気持ちはどうなるのですか?」

「彼らも当初は独立を喜んでいた、だが我々共和国臨時政府の施策が充分では無かったのだろうな、国境を封鎖された事で更に状況が悪くなった、代表者会議の中には北部連合王国に参加したらどうかと言い出す者も出始めた次第でな、つまり我が国はもう国として成り立たんのだ」

「そうなんですか、なんか残念ですね、今の私の力ならトラキアの方々にも出来る事が色々と有ると思うのですが」

「すまんな、それは助かるが、今後よろしく頼みたい」

「わかりました、しかしそれは塩の都と砂の都の話ですよね、なんでそこに正教国が入るんですか」

「なんでって、少将、君は既に幻術王として「森の都」の王だ、それに正教国も先の政変で、もう国が成り立たない所まで来てしまっている、ならば、砂の都、森の都、塩の都、正教国で一つの国となり協力して復興をすると言うのが一番では無いのか? そしてその新たな国の王として相応しいのはペッコ、君しか居ないのだよ、大丈夫だ我らが皆で支える、安心して神輿になってくれ」

 どおりで簡単に休暇をくれたわけだ、とペッコは納得した、不在にしておいて先に既成事実を作り、断れない状況を作る、見事な戦術だった。

「わかりました、いくつか希望はありますが、その王を引き受けましょう、それと国名ですが『エウロパ皇国』としたいのですがよろしいですか?」

「エウロパ皇国か良い響きだな、皇国と言うのも良い、帝国や王国はもう聞き飽きたからな」

と元帥が言うと全員が納得して笑顔が溢れた。

「良かった、これで吾輩も引退して、のんびり故郷のクールハースで農業をして暮らせる」

とアルディンが言った事で、その場が固まった。

「え、アルディン大将まさか?」

「ああ、もうかなり前から考えていたんだ、やっとのんびり出来る、スピン・ブレイド元帥、ピピン、後は頼んだそ、二人にはこれを託す」

そう言うとアルディンはブレイドに自身の愛剣『ティソーナ』を渡した。この剣は二振りあり、一振りは養子のピピン・カルピン少将が使用している。

そしてピピンにはずっと肩に装着していた愛用の猛牛の盾を渡す。

「アルディン殿……」

剣を受け取ったブレイドは無言で、その剣の重みを噛み締めている。

 砂の都不死隊の局長として、エウロパ同盟軍を率いる将としてのアルディンの実績と勲功は計り知れない、その剣を受け継ぐと言う事は生半可な覚悟ではできない事だろう。そして、それはアルディンの盾を受け取ったピピンも同様だ。

二人はお互いの顔を見つめて頷きあった、長年の友人でもあるこの二人には言葉は必要無かった。

 その二人を誇らしげに見守るアルディンの顔は、自分の人生を誇れる男だけが持てる柔和だが力強い表情があった。

「アルディン大将閣下お疲れ様でした、私から一つ閣下にお贈りしたい事が有るのですが、受け取っていただけますか?」

「ほう、引退記念に吾輩に勲章でもくれるのか?」

 緊張していたブレイドとピピンに笑顔が戻った。

「失礼致します」

ペッコはそう言うとアルディンの左腕……左腕は女王暗殺未遂事件の際に、肘の上位から切られて失っている……に手を触れて、皆にわかるように妖精を召喚すると、癒しの魔法を発動した、それと同時に創造魔法で、アルディンの失われた左腕を復元した。

「なんと、これは?」

「ペッコお前……」

「そんなに驚かないでください、僕の力と言うよりはこれのおかげなんで」

とペッコは自分の額の角を指差した。

 実は、以前創造魔法でリスを錬成した時から、アルディンの左腕を復元出来るのではと思い、怪我をした動物で実験をしていたのだった、既存の治癒魔法では体の欠損は治癒出来ないのが常識だ、なので角神の力にしてしまえば、全て問題無いのだ……と思う。

「少将、いや幻術王殿、感謝する、これで農作業が捗るな」

とアルディンは嬉しそうだ。

「だが不思議ですね、角神にその様な力が有るなら何故カヌ・エ様は父上を治していただけ無かったのでしょう?」

とピピンは不思議そうだ

「ああ、それはですね、森の都の幻術には禁忌が沢山あるんです、どういう理由かは知りませんが、使えない魔法があるので、カヌ・エ様といえどもそれを犯す事はできなかったのではと思います」

「なるほどな、新たな幻術王殿はその辺も改革をして行くのだな」

「はい、もちろんそのつもりです」


 ペッコはその足でデュロロ大司教に面会を申し込み、大司教の私室での会談にこぎつけた。


「まぁ、色々と言いたい事もあるとは思うが、国の為じゃ、悪く思わんでくれ」

「猊下も賛成なのですね」

「ああ、もう戦乱は懲り懲りだと皆も思っている、国を纏める象徴としての『幻術王』の力が必要なら教団は反対はせん」

「わかりました、では猊下に一つお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」

「なんじゃ?」

「この度の戦乱の原因を作った『知の都』の責任を問いたいと思います」

「ふむ、知の都の責任とな、それはどんな責任じゃ?」

「この本の著者で魔紋を仕込んだのは、アデリーナ・ゴダール、知の都アカデミー教授で哲学者評議会の議員です、知の都の公人ですからね、責任を問うのは当然だと思います」

「なるほどのう、それで?」

「まず、戦争犯罪者として、身柄の引き渡しを要求します、その上でこの度の事件を引き起こしたのは

知の都の政治姿勢そのものとして改革を要求します」

「具体的にはどういう事じゃ?」

「猊下は知の都の国是をご存知ですよね?」

『「知識の蓄積に徹することこそが至上の命題である』だったかの」

「そうです、それ自体は問題は無いのですが、その知識を独占して全部公開していないのが問題なのです」

正教国で普及した治癒の技『占星術』も当初は公開されていませんでした、更にエーテル学と魔法学に、医学を統合することで生み出された『賢術学』に至っては全く他国に公開していません、そして今回の駄本に込められた魔法も月から来た『小兎族』からもたらされた物です、これも公開されていません」

「成程の」

「そもそもが、この様な『駄本』が公人により公然と出版される事自体が、知の都の『選民意識』故の事だと思えます」

「それで、幻術王殿はどうしたいのじゃな?」

「ヌーメナ大書院の全ての蔵書の引き渡しとアカデミーのずべての魔法や技術の開示を要求します。

「それは、無理じゃろう」

「ええ、それを拒否するなら、この星の地図から知の都を消滅させます」

「なんと、恐ろしい事を平然と言うのお、それでこの話を何故私に話すのじゃ?」

「はい、あの国は厳しい入国制限があるので私では入国できません、なので恐れ多いですが猊下に、全権大使として知の都との交渉をしていただきたいのです、知の都の『知者』を気取る曲者共に本当の『知者』である猊下の知恵を見せつけてくださいますか?」

「なるほどの、これがお主が王を引き受ける条件と言う事じゃな」

「はい、さすが猊下です、ご賢察恐れ入ります」

「面白い、妾を使うとはな、良いだろう、その役目引き受けよう

「猊下、ありがとうございます、後ほど氷菓子をお届けいたします」

「たわけ、それでは妾が菓子に釣られたみたいではないか、まぁ良い、密かにな」

「はい、ありがとうございます、では失礼させていただきます」


 そして更にペッコは元老院議員の「百億リラの男」『ロロラト・ナナラト』と面談をしている。

「会長、お時間を作っていただいてありがとうございます」

「構わん、それで今日の要件は?」

「これを元不死隊の書庫ファイルから見つけたんです、何かご存知ですか?」

「『辺境開拓計画』か、ふん懐かしいな、これは昔女王暗殺未遂事件を起こした当時の砂蛇衆『アレジ・アデレジ』が考案した物だ」

「中を読んだんですが、そんなに悪い計画では無いと思ったのですが、何がダメだったのですか?」

「この計画の『辺境』と言うのは何処かわかるか?」

「はい、昔帝国軍との戦いが有った『パルテーノ平原』ですね」

(懐かしいなぁ根性版と新生版を繋ぐ土地だ)

「そうだ、その平原の地下には古代帝国の遺跡が有り、究極の武器が埋まっていると言う話だった、奴は

この計画を隠れ蓑に、その武器を独り占めする事を企んでいたのじゃな、まぁ結局は全て無駄に終わったわけだが」

「会長は、この計画をどう思われますか?」

「どうとは?」

「知の都の件が片付けば、また束の間の平和な時代が来ると思います、ただ前回と同じ様に各国で軍縮をすると……」

「そうじゃな、またまた失業者が溢れ世情が不安になる……そうか、その余剰人員でここを開拓するのか」

「はい、僕としては、昨日のお話を受ける条件にこの土地を頂きたいですと思うのです、そして新しい街を作ろうかと」

「そうか、それが新国家の都と言う事じゃな」

「はい、会長、ご協力をお願いできますか?」

「ふん、不思議じゃの、お主と話をしているとまるで同年代の商人と話をしている様な気分になる」

「はぁ」

「もちろん協力をする、当然だがその街の経済運営はワシに任せてくれるのだろうな?」

「いえ、むしろ会長、新国家の『財務尚書』を引き受けていただけませんか?」

「財務尚書とは何じゃ?」

「東方の官職名です、国の経済や財務の責任者と言う事です」

ロロラトは一瞬

「こいつ何を言っているのだ?」

と言う顔をしたが、すぐに理解した様で」

「面白い、このワシにお主の下で働けと言う事だな、良いだろうその『財務尚書』とやら引き受けてやろう」

「ありがとうございます」


 数日後、エウロパ全土と、東方連合、セイロンなど諸国に向けて「エウロパ皇国」の建国が宣言されて

ペッコは初代王となり魔法皇を名乗った。


「こんな事になってなんか申し訳ないわね、でも引き受けてくれて助かったわ」

ペッコは塩の都の臨時共和政府の仮代表と言う立場のリサ・ヘクストと会談をしている。

「いえ、僕も塩の都の状態は何とかしないといけないと思っていましたので、ある意味良い機会だと思っています」

「そうなのね、それで私達臨時政府はどうしたら良いのかしら?」

「当分はそのままでお願いします、新しい国の姿を色々と考えている最中なので、それでですね、少しお伺いしたいのですが」

「良いわよ、私でわかる事なら良いのだけど」

「塩の都トラキアって、昔はもっと肥沃な土地だったんですよね?」

「そうね、農家お年寄り達の話だと、厄災後から旱魃が続いて今の様になってしまったそうよ」

「その原因はお分かりですか?」

「厄災の気候変動ね、モンターナ地方の様なわかり安いケースでは無いけど」

「そうですね、この絵を見ていただけますか」

とペッコが差し出したのは、かなり昔に描かれた風景画で解放軍の基地が合った『ディスコルディアリーチ』だ」

「随分、古い絵ね、あら?」

「お分かりになりますよね、チャクラ大滝の水量も星降りの池の大きさも今とは全然違うんです」

「そうね、昔はもっと水量が豊富だったって……あ、そうか」

「そうなんです、気候変動の前はエッツタール地方から流れる川の水量が今よりも豊富だったんです」

「そうなると、手の打ちようが無いわね」

「それなんですけどね、僕は多分気候変動を治せると思うんです」

「まさか、本当なの?」

「同じ様に厄災で壊滅したガリアニアの西の森は復元出来たので、まぁもしかしたらですけどね」

「そうなのね、ではあまり期待しないで待っているわ」

「はい、それでですね、もっと小規模な事なら今でも可能何ですが」

「小規模と言うと?」

「トラキア各地の帝国軍の基地ってもう使わないですよね?」

「そうね、共和政府軍の隊舎として使うって話も合ったけど……」

「ならば全部更地にしてしまいましょうか?」

「そんな事できるの?」

「はいそれ位なら長城を壊すより簡単ですから」

「まぁ、そうね」

「とりあえず、山岳地帯の『皇后の監視党』と『山の城』を更地にしちゃいましょうか?、ちょっとした見世物になるので、人を集めていただけると良いかもです」

「良いわよ、では日を指定していただければ、手配するわ」

「はい、よろしくお願いします」

 それから数日後、ペッコは妻達を連れてトラキア山岳地帯の旧帝国軍の要塞『山の城』に来ている

要塞内部は、事前に指示をした通り、有用な機械類や機動兵器は撤去してあるので、心置きなく消滅させられる。

「トラキアの市民諸君、私はエウロパ皇国魔法皇ド・ペッコ・パトだ、これより旧帝国の要塞を消去する、我が魔法の力とくとご覧あれ」

(こう言うのはあまり好きでは無いなぁ)

ペッコはそう言うと、絶影に乗って基地中央の上空に向かう。

「トラキアの守護神にして破壊の女神よ。我が声を聴け、我が意志を受け入れよ。全てを打ち砕く雷の力を解き放ち顕現せよ、我はエウロパの支配者、その名をもって、我が前に姿を現せ!魔法皇たる我が手により、汝の力を取り込み、我が望む実現を成せ!ディスコルディア召喚ッ!」

 ペッコは召喚術でタイタンやイフリート等の邪神を召喚できるなら、エウロパ十二神も召喚できると考えて密かに各神を召喚実験をしてみていた。明確なイメージを持てる『神』程簡単に召喚できる事がわかっている、ディスコルディアはトラキアに巨大な石像が有るので、比較的簡単な方だ。

 そして、顕現した破壊の女神ディスコルディアを見た塩の都の市民達は狂喜した。

かって帝国の侵攻時や20年以上にわたる属領時代にも一度も顕現した事の無い神だからだ。市民達は

『今まで女神が現れ無かったのは、政府や体制のせいだ』と解釈をして、結果的に『砂の都』がエウロパ皇国に参加する事を歓迎する事になった。

 ペッコは市民達に女神が使う魔法として理解しやすい雷系の魔法を発動させて要塞全域を覆って、創造魔法で要塞を完全に消去した。

「うおーディスコルディア様万歳、魔法皇様万歳!」

と市民は熱狂的に歓喜の声を上げた。

 仕上げに、創造魔法で複製したアルパイン雲海特産の『湧水石』を3個ほど置くと整地は完了だ

湧水石は水の環境エーテルの流れる節点に置く事でその言葉通り水を沸かせる石だ、これでこの辺りの

農場や生活用水全てを賄う水量が確保されるだろう。

 エニアゴンの街作りの際にこれが使え無かったのは、義氏のゲーム内の知識としてはこの石の存在を知っていたが、ペッコとしてはこの石を見た事が無かったからだ、それが旧正教国を解放した事で、

周辺のアルパイン山脈へ入れる様になり、妻達を各地に派遣してこの石を見つけさせた結果なのだった。

「魔法皇よ感謝するぞ」

「アルディンさん、これで農産物が沢山取れる様になると良いですね、そう言えば腕の具合はいかがですか?」

「全く問題無い、重ねて礼を言わせてくれ、今から小麦や、サトウキビ、トマト、オレンジ等の種をまくのが楽しみだ」 

「そうですね、僕も楽しみにしています、では次の場所に行きましょう」


 こうしてペッコはその日の内に、トラキア全土の旧帝国軍基地や要塞を地図から消滅させた。

もちろん、あの『長城』も綺麗に消しさる。

 ペッコは同行している妻達と、この付近の森を縄張りにしているスリマの父であるレ・ラツを始めとするレ族を率いて、『絶東混合林』と呼ばれる地帯に来た、この辺りは、本来はガリアニア東の森の一部だが、過去の森の都と塩の都の国境紛争で、塩の都の領土に組み込まれていた、そして長城によって完全に森からも分断されてしまっていた。

「この樹ですね」

「はいこれが『大賢者の樹』です、昔は森の妖精が宿る樹と言われていました」

 ペッコが大樹に手を当てると、当然の様に森の妖精の声が答える。

「やっとあの邪魔な建物が片付いたな、感謝するぞ」

「ここに境樹を植えたら、どこまで森を再生できますか?」

「あの川の向こう岸から少し先までだな」

「レ族が森で狩や木材を集めるのは大丈夫ですよね?」

「当然だ、ウェアキャット族は森を守りし者だからな、鉱物を取る人族も問題無い」

「ありがとうございます、では境樹を植えますね」

 ペッコは地面を見ながら、環境エーテルの流れを確認した、そして樹の成長に一番適した土地に

ガリアニアの森と同じ『八重桜』を植えた。

「義父上」

「はい幻術王……では無くて、魔法皇様」

「今、森の妖精と話をしました、義父上のレ族は森の妖精から、この森を守りし者として認められました

これからは、『大賢者の樹』とこの新しい『境樹』の保護をお願い致しますね」

「は、魔法皇様。レ族の名誉にかけて」


 これでトラキアでの仕事はほぼ終了だ、この後はリサに依頼した、新都建築用の石材の調達が順調に行われれば問題が無い。


 そして、数日後ペッコはモルドーナの北側『パルテーノ平原』に来ている。

ゲームの世界では新生後にここはPvP戦の『最前線』というコンテンツの場所になっていたが、当然

この世界にはそんな物は存在しないので、古代帝国の遺跡と、厄災を引き起こした月の衛星の破片が残る

荒涼とした場所になっている。

 (酷いエーテルの乱れだな)

月の衛星の破片のせいなのか、環境エーテルが大幅に乱れていて、特に風属性のエーテルが強く地上から上空へと常に上昇気流が起こっている状態だ。

(そうか、この風が気候異変の原因かもな)

とペッコは考えた、エウロパの有る惑星ルミナスは自転軸が傾いていない、つまり星の回転による四季が無いと言う事で、四季らしき物が有るのは全てエーテルの流れの変化による物だ。

 赤道に近いジャズィー地方で温められた大気は、自転で起こる地球で言う偏西風と合わさり、南西の風として暖かい空気をモンターナ地方へ運んでいた。

それが、この上昇気流で遮断された結果、エーテル属性の変化との相乗効果でモンターナ地方が寒冷化したのではないか?と言うのがペッコの推測だ。

 とすれば、この衛星の破片を周囲の古代遺跡も含めて、創造魔法で消去してしまえば気候変動はある程度収束するのでは無いかとペッコは思った。

 ペッコは絶影に乗って、古代帝国の太陽神神殿の上空に留まって詠唱を開始する、ペッコの魔法の発動には殆ど詠唱は必要無いのだが、精神を集中して魔法の威力や効果をあげられる事がわかったので、ここ最近は大型の魔法を発動する時には、自分で考えた厨二業満載の詠唱をする事にしている。

『時空を超える彼方より古の魔法を呼び覚ます、魂の深層に眠る無限の可能性を解き放ち、世界の理を超越する力を我に授けん。我が手に宿る魔力を全て解き放ち、我が願いを叶えし究極の創造魔法よ、現出せよ!』

そして、一気に創造魔法を発動させた。

 パルテーノ平原は、時を巻き戻して古代帝国がこの地に起こる前の姿に復元された。

古代の遺跡も月の衛星の破片も無い大地に戻ったのだ。

(この規模だと、流石に目眩がするなぁ、エーテル=魔力を全部使い切った感じだ)

 自分で作って持ってきたエーテル回復薬『ウルトラエーテル』をがぶ飲みして、やっと少し魔力が戻る感じだ

「主人よ、大丈夫ですか?」

「悪いな魔法はしばらく使えない様だ、館まで転移をしてくれるか?」

「かしこまりました」


 館に戻ったペッコは自分のベッドに倒れ込む。

「これはキツかった、でもあと数回はしないといけないんだよね」

と自分に喝を入れた。

 ベットでうたた寝をしていると、今日の食事係だったエイルが、トレーに食事と飲み物を載せて運んで来てくれた。

「魔王様、お加減が悪いそうですが、食欲はございますか? 魔王様の母上様から教わった、サンド・ワームの肝のシチューをお持ちしました」

「ああ、ありがとう、まだ少し目眩がするんだ、そこに置いてくれる後で食べるから」

「あの、魔王様よろしければ私が食べさせて差し上げましょうか?」

(ああ、それも良いかなぁ、そう言えば病院ではそうやって食事をしていたんだっけ)ペッコはベッドで上半身を起こして、エイルに食べさせてもらう事にした。

「これは美味しいね、母が作った物より良くできているよ」

「ありがとうございます、肉を煮るのに海の都から届いたワインを使ってみたんです」

「そうか、ワイン煮込みになっているんだ、元気が出そうだ」

「お食事の後はお身体をお拭きしますね、それからマッサージも」

 と言うことで食後は服を脱がされて、身体を香油を含ませたタオルで拭かれる事になった。

そしてマッサージと言う名前の……

「ちょっと待って、それどこで覚えたの?」

「魔王様、最近何かとガリアニアに行かれますよね、それで部族の者に聞いたら、必ずノクターナル族の所に行くのがわかったんです、魔王様ノクタール族の房中術がお気に入りだそうなので、私達も秘術を

習って来たんです、私達の部族とノクタール族では昔から強い男性を取りあって来ましたからね、部族の

お婆様達に聞いたら色々と教えてくれました」

(そうか、長い歴史があるんだなぁ……、これもまた最高の気分だけど、せっかく回復しているエーテルが……)

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