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第二十三章 近東スリラン

第二十三章 近東スリラン


 皇都下層のメインクリスタル広場に設営した大型の天幕を臨時の本営として元帥はテキパキと事後処理の指示を出して行く、直ぐに野戦厨房が設置されて、救助された市民への炊き出しが開始される。


「これでとりあえず終わりですね」

「ああ、これからが大変だがな」

と炊き出しの用意を見ながら、元帥と話していると

「魔王様、下層の監獄で投獄されている多数のエルフ族と人族を発見しました、どう処理しましょうか?」

との妻達から連絡が入る

「看守が居たら捕まえて、投獄の理由を聞いてみて」

 この指示は囚人が盗賊等の犯罪者なのか政治犯なのかを知る為だ、単なる犯罪者ならそのまま獄に繋いでおいたほうが良いのはもちろんだ、そして更に

「魔王様『カルロッタ・ガッティ』さんを保護しましたが、酷い有様で治癒魔法を掛けたのですが、意識が戻りません」

報告が入る。

「エイル、野戦病院の設置は?」

「完了してます、今幻術士部隊を動員して救助された市民の治療に当たってます」

と言う事で、ペッコはガッティを野戦病院に搬送する様に指示をした。

 野戦病院の横には、野晒になった檻にロートリンゲン侯爵が放置されている。ペッコの指示で死なない程度に軽く治癒はしてあるが、寒冷地で氷水に浸かったままだったので、既に全身は凍傷にかかって赤黒くなっている。

 この世界にはジュネーブ条約等は存在しないので、戦時捕虜の処遇は勝者の胸先三寸で決められる。

侯爵へのこの待遇はペッコやその妻達からの嫌悪感の現れだった。

 ガッティが担架で運ばれて来た所で、医療班が直ぐに診察をするが、ほぼ餓死と凍死状態で当然既に意識は無くペッコの見立てでもエーテルが殆ど枯渇していて、最早時間の問題の様だ。

「治癒魔法を掛けているんですが、殆ど効果が無いんです」

とカーラが泣きそうな顔で訴えて来た。

「大丈夫、まだ生きてるから」

 とペッコは自分の使い魔の妖精を呼び出し、治癒魔法を発動させると共に創造魔法で骨と皮になっているガッティの肉体を元通りに再生した。

「これで大丈夫、目を覚ましたらスープを飲ませてあげて」

「はい、魔王様、ありがとうございます」

カーラ達から見ればガッティはほぼ同じ年代の女の子だ、助けたいと思うのは無理も無いだろう。


「魔王様、解放した囚人の代表がお話をしたいそうです」

「わかった」

 この囚人達も骨と皮の状態で、当然入浴などもしていないので糞尿まみれで酷い有様だった。

「大丈夫ですか話せますか?」

「ありがとうございます、まともな物を食べたのは、もう昔過ぎていつの事か覚えて無い位です」

 と言うエルフ族の男性は

「私は、ジャンヌキナル・ド・ロートリンゲン、侯爵を自称しているカールマンは私の従兄弟です」

と名乗った。

 ペッコ=義氏はこの人物を知っている、占星術のクエストでお馴染みのNPCだった。

「ロートリンゲン家の方がなぜ監獄に?」

「カールマンは血筋で言えば傍系ですからね、直系の私が邪魔だったのでしょう、それと彼はどう言うわけか私たち占星術士を目の敵にしていました、私と一緒に収監されていたのは占星術士、それに平民出身の銃士達なんです」

「なるほど、しかし解さない話ですね、連合王国にとって貴重な戦力で有る銃士や癒し手の占星術士を捕えるとは」

 ペッコは戦場で正教国の占星術士や銃士を殆ど見かけなかった理由が分かったが、それはまた別の疑問を感じただけだった、

「銃士については貴族の騎士達から憎まれていたのは事実です、それに彼は私に『占星術はこの国にあってはならない物』と言っていました、私にはその意味が良くわかりませんが、昔冒険者と一緒に占星術の修行をしている時に、私の師を殺めようとした知の都の『司書派』なる人物が言った事と良く似ている様な気がします、ただ彼かそんな人物と知古だったとは思えないですが」

「なるほど、あなたは『エルフ優性生存説』と言う本をご存知ですか?」

「ああ、政変が起こる前に、貴族達の間で流行した本ですね、私は読んでいませんが」

「そうですか、ありがとうございます、皆様には新市街の方に仮の幕舎を用意してあります、そちらでしばらく休養をしてください、新市街は無傷でしたので、風呂も使えますよ」

 この新市街はゲーム内でペッコ=義氏達冒険者が復興を手伝った街で、楽しいクエストだった記憶がある、探索したヴォルの報告によると、今は無人で放置されていて、名物の巨大なスパだけがそのままになっていた、ペッコは工兵達に指示してこのスパを修復して使用できる様にしていた、ペッコはそこに幕舎を立てて、救助した市民達の仮住居とする事にしたのだった。

 なにしろ皇都の中は死体だらけで、厳寒なのが幸いして腐敗はしていないが、人が住める環境では無いのだ。

「少将、補給の状況はどうか?」

本営に戻ったペッコに元帥が聞いてきた

「稼働可能な飛空艇を全て投入して、暖房用の煤油と食料を運んでいます、間も無く第一便が到着する予定です」

「そうか、しかし酷い有様だな」

 皇都を視察して仮本営へ戻ったブレイド元帥の最初の言葉だ。

「生存者は市民、囚人、それに投降した兵士を合わせても2000名に届かないと思います」

特に市民は、子供とお年寄りでしかも健康状況は最悪です、飢餓には治癒魔法は効かないですから……」

「そうだな、議長殿も肩を落として居られて、言葉の掛けようも無いのだ」

「ロートリンゲン侯爵にはお会いになったのですか?」

「ああ、話す価値も無い輩と言うのが居るのだな、しかも奴と捉えた貴族達は解呪後も態度が変わらないのだ」

「つまり、本心からあの駄本を信じていると言う事なんですね」

「ああ、そうだな、さてどうした物かな、戦争犯罪者として処刑しろと言う声も多いが」

「そうですね、あ、塩の都に捕虜として監禁しているのが何人かいましたね、全員纏めて火刑にでもしましょうか?」

「火刑?砂の都にそんな処刑法は無いが、なんでだ?」

「いえ、この大量の死体はどうせ全部集めて焼かないといけないですよね、だからそのついでにどうかと思っただけです」

「少将、妙な所で合理的なんだな、まぁ正教国の法で処刑される事にはなるだろうな」

「あ、そうですね僕たちが処刑したら将来の禍根を残す事にもなりかねませんものね」

と話しているところにとココビゴとココバニに兄弟が本営に入って来た

「あ、ペッコ少将ここに居たか、今市内の遺体を市外に運んでいるんだけど、流石にこれだけの数だと、手に余るんだよね、手を貸してくれるかい」

という事だ

「兄者は経験をしているだろうけど、僕たちはこれだけ纏めて、プルト神の元に送るなんて初めての事だから、祭壇も特大の物を作らないといけないから大変だよ」

 

 戦場での死者の供養は呪術士の正式な仕事で有り祭事なので二人は呪術士中隊を総動員して処理に当たっている、ただあまりにも数が多いので、結局全軍総出で、数日かけて皇都の遺体数千人分を大聖門外のモンターナ中央高地の雪原の上にまるで薪の様に積み重ねて、その脇に巨大な祭壇も作り葬送の準備が完了した。祭壇の上には左右に巨大な蝋燭と、中央にペッコが妻達に集めさせた葬送の花、白のフォルトゥーナリリーの花束が積まれている。


 この間に元帥とアイメリク議長、それに生き残った貴族達は色々と今後の件を話あっていた様で

戦争犯罪人のカールマン元侯爵以下は、正教国の法により裁かれる事になった。

 かってこの国では異端者狩りが横行して、無実の者も多数犠牲になった事が有った、その際の処刑方法は極めて原始的で、モンターナ中央高地に有る『魔女の谷』と呼ばれる大地の裂け目の谷底へ飛び降りて死ねば異端疑惑が晴れ、生きて戻れば異端確定と言う刑罰が有った。

 今回は即日裁判の結果、国家反逆罪として、以前の異端者と同じ刑罰が適用されると言う事になり

侯爵以下の連合王国派の貴族達は全員が、生き残った皇都の市民の目の前で、泣き喚きながら谷に落とされて墜死する事になった。遺体はその谷底で屍肉を漁るモンスター達の餌にされ、弔う事は許されないと言う正教国では最も不名誉な死に方になる。


 そして、その日の夜に葬送の儀式が行われた。

「初めに、この度の戦災により尊い命をなくされた方々に哀悼の意を表するために、黙祷を捧げたいと存じます」

 と黒光する呪術士の正装に身を包んだ、ココビゴの声で参列者全員が黙祷を捧げる

「我が主プルト神よ、全ての死せる者の霊魂をことごとく罪のほだしより解いてください。

彼らが主の聖寵の助けによって。刑罰の宣告をまぬがれ、永遠の光明の幸福を楽しむにいたらんことを……」

と葬送の詠唱を唱え、呪具の杖を掲げる、その場の魔法士全員が……ペッコも妻達も今夜は黒のカウルを着込んでいる……その声に合わせて、杖を掲げ、一斉にそれぞれの炎の魔法を放った。

 当然だがペッコの放つ黒魔法の炎の範囲魔法は強力で、氷漬けになっている遺体を瞬時に灰に変えて

いった、こうして数千人の遺体が灰になり地に帰って葬送の儀式は終了した。

「しかし、これから正教国はどうなるでしょうね、これだけ人が減ってしまうともう国としては成り立たなのでは?」

「ああ、そうだな、それは森の都もそうだし、塩の都もそうだ、かってのエウロパ同盟軍で無事なのは

我が国と、海の都だけになったな、これからの後の始末が大変だよな、アイメリク殿に同情するよ」

としみじみと語る元帥だ。


 数日して飛空艇で旧正教国領と周辺地域の調査に出ていた、ペッコの妻達が戻って来た。

「モンターナ西部高地、『イーグルネスト』は無人の廃墟でした、周辺にも住人は存在しません」

「モンターナ東部高地 雪と氷に覆われて無人です」

「同じくモンターナ東部低地、一面の雪原で無人です、美味しそうな大きい牛?羊?みたいのがいました」

「アルパイン雲海、『キャンプ・スカイトップ』ラインハルト家の元騎士の方々が数人と、その保護化に有る方々が生存していました」

「低地ゲルバニア、『知の街』跡には元冒険者の方々とゴブリン族達が生活していました、冒険者が減って困っていると言っていました」

「高地ゲルバニア 『テールフェザー』は鳥馬の飼育をしている方々と猟師の皆様が生活してまして、

何も変わった事は無いそうです、私達も狩に参加して、獲物を分けて頂きました」

「ゲルバニア雲海 ドラゴン族の姿は見かけましたが、人の姿はありませんでした」

 と皆んなから報告が有った

「みんなご苦労様、所でそちらの方々は?」

「スカイトップに避難していた方で、アイメリク殿にお目にかかりたいと言う事でお連れしました」

「私はオールヴァエル・ド・ラインハルトと申します、こちらのお二人はエドモン・ド・プファルツ元伯爵、シャルルマン・ド・ロートリンゲン元伯爵です」

「えーと、貴方は確か、ジャンヌキナル殿の弟さんですね、そして元伯爵様がお二人もご健在だとは、アイメリク卿は今はテンプル騎士団本部におられますが、その前に皆様には解呪を受けていただきます」

「解呪とは?」

「ああ、皆様『エルフ優性生存説』と言う本はご存知ですか?」

「そんな本が有りましたな、私は読む気にはならなかったが」

「ええ、その本には魔法が込められていて、読んだ者をパペットにする効果があるのです、なので万が一皆様の中にその本を読まれた方が居た場合の為です、ご了承ください」

「なるほど、つまりその本を読んだ者は本人の自覚が無くおかしくなると言う事ですな、うむそれなら

納得できる事が色々と有りますな」

「エイル皆様をテンプル騎士団本部にご案内して」

「はい魔王様」


 こうして、旧正教国が解放されて、北部連合王国はエウロパの地から消滅した。

ペッコ達、砂の都軍は治安維持の為に残るカヌート大佐の部隊以外は砂の都に帰還する事になる。

 元帥は護衛の赤魔法士部隊と一緒に旗艦ヴェーダで戦後処理の打ち合わせの為に、塩の都に向かう事になった。

 一方でペッコは二番艦『ヴィマナ』で解放したガッティを連れて、森の都に向かう事にした。

妻達と赤魔法士部隊は随時残りの飛空艇で帰還する事になる。



 ペッコが職人達に依頼した、森の都の新たなシンボル、『族長会議場』が完成した。

基本のデザインはペッコ=義氏の頭の中にある、『日本武道館』だ。

 何故か、会議場を建てようと思って、そのイメージが浮かんだ結果だった。

職人達の多くは元森の都の出身なので、喜んで仕事を引き受けてくれ、予想より早く完成したのだったた。

 完成した会議場で、ペッコは集まったウェアキャット族各部族の族長や家長に、族長会議の設立と

森の都の新たな統治方法を説明した。

 集まった族長達は、人族を代表してカヌ・エが会議に参加する事には全く反対はしなかったが、次に

初代議長として『タイガー・クロウ』指名すると騒めきが収まらなくなった。ペッコの妻達の父親の中には自分が指名されると思い込んでいた者もいた様だったからだ。

「幻術王様、なぜタイガー・クロウ殿が議長なのか説明をしていただけますか?」

と声を上げたのは、同じノクターナル族のゼラ・エリンだった。

「簡単な事です、タイガー・クロウさんが強いからです、僕は以前に戦って剣の技だけでは勝てませんでした、僕たちウェアキャット族にとって理由はそれだけで充分ですよね?」

 その場に居る族長達、家長達が全員頷く。

「皆さんにこの建物についての説明をしておきますね、この建物の内部が砂の都のコロセウムの様な作りをしているのは理由があります、もしタイガー・クロウさんよりご自分が強いと思われる方は、堂々と

ここでみんなの前で戦って証明をしてください」

「なるほど、それは理にかなっている」

「残念だ、ワシが後十年若ければ」

「いや十年若くてもあんたじゃ無理だ」

と族長達は全員が納得した。

 ペッコの統治方法は『郷に入れば郷に従え』を基本にしている、だからウェアキャット族にはこの方法が一番だと考えた結果だ。

「皆さんそれでよろしいですね、ではそこの階段から地下へ降りてください」

 地下には厨房や酒蔵を備えた宴会場が作ってあり、既にペッコの妻達の協力で、森の各地の獲物を使ったウェアキャット族の好む料理がエールと火酒と一緒に並べられている。

「おうこれはまた豪勢だな」

「今度の幻術王様は話がわかる」

「えーっと一番歳上なのはどなたですか」

とのペッコの問いにみんなの視線が北の森の族長 シ・ベナ・パトを見る

「ワシの様だが?」

「では、シ・ペナ殿に乾杯の音頭を取っていただきましょう、年長者を敬うのも我らの習慣ですからね」

 と言う事で、ここからは種族の誰もが好む無礼講の宴会になった、もちろんカヌ・エも参加しているのでそれなりに礼儀をわきまえた物だったが。


 宴会が終わり、ペッコはカヌ・エにガッティを引き合わせて、そのままガッティの保護を要請した。

無理矢理傀儡の王にされた元角神の少女に罪は問えないからだ。


 エニアゴンに帰還して、ペッコは、また休暇の申請をしに元帥の元に向かった、当分の間は軍事作戦は無いと思うので、エステーノと一緒に『セイロン島』の『スリラン』に行ってみようと思ったからだ。

「休暇ってお前、執政官の首席副官って立場を忘れてないか?」

「え、僕は元帥の副官では無いのですか?」

と笑いながら言うペッコに、元帥は諦めた様で

「まぁ良いか、ただし一週間だけだぞ、ついでに相互交易やらなんやらの話しを纏めてこい」

(なんと言うホワイトな職場だろう、理想な上司だよなぁ)

と思う義氏だった。


 スリランにはエステーノは何度も訪れた事が有るので、当然街のメインクリスタルに転移する事ができる、ペッコもメインクリスタルが有る場所ならまだ感応していなくても転移可能なので、二人でセイロン島の首都スリランに転移をする。

 ペッコは砂の都の裕福な商人の服装で頭にはターバンを被って角を隠している。

 荷物は先日製作した子供用の槍が入った木のケースと、背中の小さなバッグ、それにいつも持っている魔法書だけだ、エステーノも鎧では無く普段着で、槍だけ手に持った気楽な姿だ、

「ここがスリランですか、なんともにぎやかで派手な街ですね」

「そうだろう、この彩が独特で異国って感じが俺は好きなんだ、ここの食い物も酒も美味いしな」

 義氏は当然ゲームの中でこの街には来ているが、こうして実際に見るとアラブやイラン、インドネシアの様なイスラム圏の雰囲気がする街だ。

「それで、何処に行くんですか?」

「まずは、星騎士団本営だな、そこで彼女『アシャ・ジャベリ』の事を聞いてみよう」

「その方は星騎士団の槍騎兵なんですよね」

「ああ、良い女だぞ強いしな」

とエステーノと話しながら街の中を歩いていると、突然周囲を取り囲まれて槍を突きつけられた

「貴様、何者か?……あれエステーノ殿?」

「なんだ、お前らかどうしたんだいきなり?」

騎士達の後から一人の海竜族の少年が出てきて、エステーノに挨拶をする。

「これはエステーノ殿、お久しぶりですね」

「ヴァルシャ、これは何の真似だ?」 

「申し訳ありません、異様なエーテルの力を感じたので、緊急事態かと思いまして、あのそちらの方は?」

「エステーノさん、この人?」

「ああ、お前にはわかるんだよな、そう想像通りだよ、ヴァルジャン紹介しよう、こいつはド・ペッコ・ヤン砂の都の国軍少将で、森の都の幻術王、つまり角神だ」

「ペッコ、こいつはヴァルシャ、この国の太守の付き人……って事になっている」

「ド・ペッコ・ヤン少将ですか、初めまして、あなたには少しお伺いしたい事がありますので、ご同行いただけますか?」

 と言う事なので、ヴァルシャに先導されて太守の住まいである『カーリダーサ宮殿』へ案内された

エステーノは知人らしい星騎士団の騎士達と軽口を叩ながら楽しそうに歩いているが、ヴァルシャは緊張しているのか無言だ……魔法人形に緊張と言う概念があるのかは疑問だが。

「綺麗な街ですね、異国の香辛料の香りもするし」

とペッコが話しかけても無言のままだ。

「そうだろ、ここの名物の辛い料理が美味いんだ」

とエステーノが代わりに答える。


 騎士達は宮殿の前までの護衛の様で、エステーノに挨拶をすると帰っていった。

「あいつらには俺が槍を教えてやったんだ、みんなかなり上達したみたいだな」

とエステーノはご機嫌だ。

「それって、前に話していた稽古で予備の槍を含めて全部折ってしまったと言う話しですか?」

「いや、それはまた別の国で……あれ?ここでもそうだったっけかな?、まぁ俺と稽古すると柔な槍はみんな折れちまうからな」

と言う事らしい


 宮殿の中に入ると、龍が居た、普通に家の中に龍が座っている

「うわぁ……」

もちろんゲーム内の知識ではわかっているのだが、こうして直に見ると迫力が違う

「まぁ普通は驚くよな、大丈夫だこいつは『ブリトラ』七天龍の末弟だ」

「エステーノ久しいですね、何か用時でも?」

と頭の中に直接龍の声が響く。

「何、俺の子供がここに居ると手紙を貰ったんで会いに来ただけだ」

「ああ、それらなこの時間は、母親のアシャと一緒に修練所に居るでしょう」

「そうか、ペッコ俺はちょっと子供の顔を見てくる」

「エステーノさん、これ忘れたらダメですよ」

とペッコは子供用の槍の入ったケースを渡した。

 エステーノを見送るとブリトラは真剣な声でペッコに語りかけてくる

「それで、君は誰、いや何者と言った方が良いのかな……なのかな? 君からは人ではあり得ないエーテルを感じる」

 ペッコは被っていたターバンを外して額の角を見せた。

「僕は元々は人でした、でも森の都の妖精の力で『角神』の力を授かりました」

「ふむ、角神の事は私も知っているし、カヌ・エ・セナ殿とも面識が……まぁ正確には私では無くこのヴァルシャが会ったのだが、君のエーテルは根本的に違う、そう君はあの『過去人』の仲間では無いのか?」

(あ、そっちか)

とペッコは思った。

「確かに私の力は過去人の物とほぼ同じだと思います、でも私は彼らとは違う、異世界の人間なんです

その私『源 義氏』の魂がこのド・ペッコ・ヤンの魂と融合したのが私です」

そこでペッコは異性界の自分の話と、これまでの事をブリトラに話した。

「なるほどそんな事が有るのですか、うーん」

とブリトラは少し考えてから、

「父に会いに行きませんか?」

と言ってきた

「えっと、それはモルドーナの『黙契の塔』へ行くと言う事ですか?」

「ええ、人はそう呼んでいますねそこです」

「私は私の……義氏の世界でそこの塔へ行き神龍『ミドガルズオルム』にお目に掛かった事があります」

とペッコはゲームの世界とは言わずにそう話した。

「なるほど、ますます興味深いですね、では転移は可能ですか?」

「ええ、大丈夫です」

ペッコは角神になった後から、訪れた事の有る場所ならメインクリスタルの無い所でも転移できる様になっている。

 なので、ブリトラに合わせる様にモルドーナの『黙契の塔』の付近まで転移した。

「絶影!」

流石に、飛行魔法等はまだ使えないので……多分練習すれば使えるのかもだが……、絶影を呼び出し騎乗する

「あなたは神獣を呼べるのですね」

とまたブリトラが感心している、どうやら絶影達は普通の動物や魔物とは違う様だ

 ブリトラと共に塔の上層部、の広場の様になっている所に降り立つと、ゲームの中と同じ様に

神龍『ミドガルズオルム』が話しかけてくる

「我が眠りを妨げる者は……なんだ、ブリトラか久しいな」

「はい、父上」

「その者は、『過去人』いや異界の者か何用か?」

「私にはこの者が正しき者と思えるのです、ですがあの過去人達と同じで有るなら、それはこの星にとっての災いとなるやもしれません、なので父上に判断を仰ぎたいと……」

「この未熟者、お前も人の善悪を見てわからぬのか、まぁお前の兄や姉達もそうだったのだから仕方が無い事ではあるが、この者は善なる者だ、でなければ森の妖精が力を与えたりはしない」

「そうなのですね、安心いたしました」

 ペッコはそこでミドガルズオルムに質問をして見た、

「あのこの世界なんですが、私の知っている世界と色々と齟齬が有るのです、その事について何かご存知無いでしょうか?」

「ふむ……」

ミドガルズオルムは暫く躊躇ってから

「それは汝がこの世界の召喚されたからだ、その結果この世界の理が変化して歴史が変わったのだろう、それこそが汝を召喚した者の目的だがな」

「私を召喚した者とはどなたなのでしょう? この世界の神ですか?」

「それは教えられぬ、自分で答えを探すと良い」

「わかりました、あと一つ、このモルドーナの地を以前の姿に戻しても構わないでしょうか?」

「何? 汝はそんな事ができるのか?」

「はい、厄災前、いいえそれより以前の帝国の侵攻前の美しい湖『銀霊湖』の姿を取り戻したいと思います、この塔『帝国のアウグスト級大型戦艦』も併せて消してもよろしいですか?」

「うむ、我がこの地の寝所に選んだのはその美しさ故だ、元に戻せるなら戻してみよ」

「はい、では、絶影!」

ペッコは絶影に乗ると上空に上がる、そして詠唱を始めた。

『時空を超える彼方より古の魔法を呼び覚ます、魂の深層に眠る無限の可能性を解き放ち、世界の理を超越する力を我に授けん。我が手に宿る魔力を全て解き放ち、我が願いを叶えし究極の創造魔法よ、現出せよ!』

(こういうセリフを一度言ってみたかった)

そして魔法を発動させる、帝国の戦艦とミドガルズオルムの戦いの結果、湖の水は蒸発しクリスタルに覆われ、更に厄災によって月の衛星の破片が落ちて、異形のクリスタルが地表に露出する今の姿から、古代帝国がここに都を築く前、6000年前の地形をこの地に再現させた。

「ふむ、時を戻す魔法か見事な物よな、だが……ブリトラよその者に力を貸してやれ無茶をする奴だ」

と幻影体のままで空に浮かんでいるミドガルズオルムは何故か嬉しそうだ。

「大丈夫です、少し魔力を使い過ぎましたまだ未熟ですね」

 そもそもこの魔法は森の妖精が森を再生する為に使った物を同じなのだ、ただ魔法の及ぶ範囲と効果が

桁外れに違うと言う事なのだ、その分エーテルの消費量が半端では無いが。

「例を言うぞ、小さき者よ、これでまた心置きなく眠る事ができる、ブリトラこの者を任せたぞ」

そう言ってミドガルズオルムの姿は湖に消えていった。

「しかし本当に見事な魔法ですね、だがこの魔法はあまり使ってはいけませんよ、命に関わります」

「ええ、大丈夫です、もっと修行をしないと駄目ですね」

「おや、あの戦艦の残骸だけでは無く、あちらの塔も消してしまったんですね」

「ああ、『クリスタルの塔』ですね、今のこの世界には必要の無い物だと思ったので」

「では、スリランに戻りましょうか、私に乗って行きますか?」

「大丈夫です、絶影行けるよな?」

「はい主人任せてください」


 こうして、あり得ない一仕事をしたペッコはスリランの『カーリダーサ宮殿』へ戻った

そして、宮殿のソファに倒れ込む。

 ヴァルシャが慌てて外に出て行き、様々な料理と飲み物を持って戻ってきた。

「これをどうぞ、エーテル力が回復する料理と飲み物です」

 一口食べてペッコはこの料理が気に入った、

「これは私の世界ではカレー、激辛カレーと呼ばれた料理です、嬉しいなここで食べられるなんて、この飲み物はラム酒をラッシーで割った物と同じですね美味しいです」

と一気に元気になった。

「ああ、そうだ仕事もしないと……、あのヴァルシャさん砂の都と相互通商条約を結んでいただけませんか、これがウチの執政官のスピン・ブレイドからの親書です」

とペッコは肩に掛けたバックから手紙を取り出した。

 一読したヴァルシャは即決で回答をした、

「良いですよ、こう言った条約ならこちらも望む所です、貴国の駐在武官殿と詳細を打ち合わせする事にいたしましょう」

 

 そこにエステーノが槍を持った男の子と女性を伴って戻ってきた。

「おう、ペッコ飯の時間か? この香りはアレだなどうだ美味いだろう?、そうそうこれが俺の息子

『ヴァーリノ・ジャベリ』こっちがその母親のアシャだ、ヴァーリノ、このお兄ちゃんがお前の槍を作ってくれた人だ」

といきなり紹介されて、ペッコは立ちあがり、ヴァーリノとアシャに挨拶をする……がヴァーリノのエーテルが普通の子供と違うので視覚を切り替えるとエーテルの色がエステーノやそこに居る龍のブリトラと同じ色で人の物では無い。

「ブリトラさん、この子供?」

「気づいたのですね流石です、この子はエステーノさんと同じ人の形をした龍です」

とあっさり肯定された。

「これは育てるのが大変そうですね」

「そうなんです、だから私が面倒を見ているのですが、エステーノさんがこのままここに居てくれると良いのですが」

「なんだ、お前らなんか二人で話をしているだろう?」

「あ、いえ、ブリトラさんとエステーノさんにそっくりだと言う話をしていたんです」

「まぁな、外見は当然だが母親に似てるんだがな、雰囲気と言うか、まぁ誰がどう見ても俺の息子ってわかる位そっくりで驚いたよ」

 この後ペッコとブリトラの二人掛かりで、エステーノの説得をした。

「良いですか、男の子にはちゃんとした父親が必要なんですよ、わかりますかちゃんとした父親です」

と言うペッコに

「おいおい、二度も言わなくてもわかる、俺もこいつが育つまではここに居るつもりだ、悪いが帰ったら

議長閣下達に伝えてくれ」

と割とあっさりと、エステーノは言う事を聞いてくれた。

「父上、この方はどなたですか、父上よりお強いのですか?」

 ペッコの言う事をエステーノが素直に聞いたのでヴァーリノは疑問に思ったのだろう。

「そうだな、槍なら俺の方が強い、だがこいつも強いぞ世界で三番目に強い男だ、最もこいつは槍だけでは無くて魔法もとてつもなく強いし学問もできるからな、俺としたらお前がこのペッコみたいな男に育ってくれたら良いと思っているよ」

 と妙な褒め方をされたペッコだった。

ペッコはこの後数日を、スリランで過ごして、土産に香辛料を数袋買ってエニアゴンに帰還した。

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