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第二十二章 皇都侵攻

第二十二章 皇都侵攻


 ペッコは元帥の執務室で、先日の騒動の事を話していた。

すると、突然外で争う声がして執務室のドアが荒々しく開けられた。

「元帥、申し訳ありません私は止めたのですが」

と謝るのは、控えの間の秘書官だ、そして物音を聞いた警護の赤魔法士中隊が雪崩れ込んで来る。

「元帥、ご無事ですか、貴様何者か?……」

と指揮官のカーラがレイピアを突きつけてから

「あれ?ココベジさんとココブシさん」

と剣を降ろした。

「お前達がそんなに取り乱すなんて珍しいな、何があった」

と元帥に聞かれた二人は、顔を見合わせてから

「この本をご覧いただけますか?」

と元帥に例の本『エルフ優性生存説』を出して見せた。

「ペッコさんに頼まれてこの本の解析をして居たんですが、やっと完了したんです、この本にはいくつかの魔紋が隠しインクで書かれていたんです、錬金薬でインクを浮き出させた物をご覧ください、最初のページの魔紋にはこの本の読者が本の内容を無条件で信じる魔法がかけられています」

「何だと、そんな事が可能なのか?」

「古代魔法に人を操る魔法がありますので可能です、そして二個目の魔法なんですが、これが……あの、皆様邪神が信徒達を『パペット』化した事はご存知ですよね」

「ああ、それで?」

「この魔法はそれと同じ効果があるんです、この著者は精神呪縛魔法で読者を全員自分のパペットにしていたんです」

「本当なのか、そんな魔法があるとは」

「ええ、こちらをご覧ください、これは知の都で出版された『邪神の召喚魔法』についての本です、

この中に、邪神がパペットを増やして行く原理とその魔法についてが書かれています、この部分全く同じなのです」

「と言う事は先日、伯爵達がおかしく成ったのも、正教国や森の都のエルフ達が変になったのも……」

「はい、全部この本のせいです」

「あれ?でも僕もその本を読みましたけど?」

「ええ、その魔法の効果の前提は『エルフ優性生存説』を信じる事、それを信じない者には効果が無いんです、そして最初の魔法はエルフ族にしか効かないんです」

(あれ?それならなんでアイメリク議長に効果が無かったんだ?)

と思いながら、ペッコは聞いて見た。

「この魔法は解呪できるんですか?」

「ええ、邪神のパペット化解除と同じ様に、例の『黎明の血盟』のブタ型の使い魔で解呪できます」

(ああ、あれか)

とゲーム内の記憶があるペッコは思った。

「あ、でも今は『黎明の血盟』の方々って全員行方不明ですよ」

「ええ、でも呪術ギルドに使い魔を呼び出す護符がまだ100枚以上有りますから大丈夫です、解呪は呪術士でも可能ですし赤魔法士でも当然可能です」

「元帥」

「ああ、直ちにマラサジャ収容所に行き伯爵達を解呪して差し上げろ、それと念の為にまだ発症していない他のエルフ達もな」

「了解です、ココベジさん行きましょう」

 直ぐにペッコは呪術士ギルドに行き、護符を持ってマラサジャ収容所に向かう

ペッコの姿を見て、暴れながら暴言を吐き始めた伯爵や貴族、騎士達は全員解呪されて正気に戻った。

そして市内の旅館に隔離されていた、まだ発症していない元神学生達も無事に解呪をされた。


 数日して、ペッコ邸で、元帥以下、アイメリクや伯爵達と正教国解放への作戦計画の打ち合わせが始まった。国軍司令部では無くペッコ邸で行うのは機密保持の為と安全の為だ

 様々な検討課題を話しあって夜になり夕食の後、応接室で酒を飲むのが恒例になっている。


 そんな有る夜、突然エステーノがペッコに話を振ってきた。

「なぁ、色々と片付いたら、俺のガキにお土産を持って会いに行こうと思うんだが、何を持っていけば良いと思う?」

「なんで、僕に聞くんですか、僕の子供はまだ生まれていないのでわかりませんよ」

「いやだってな、見ろよお宅の元帥様以下ウチの議長、そこの伯爵様達、シ・ロンの旦那と誰も結婚すらしていないんだぞ、誰に聞けば良いんだよ?」

「そう言うマトモな話はマトモな大人に聞くもんだ、なぁプファルツ伯爵様、あんたなら良い知恵があるだろう」

とシ・ロン

「待て、それじゃ俺がマトモな大人じゃ無いみたいじゃ無いか」

「元帥あんたお父上に教わらなかったか、マトモな大人って言うのはちゃんと結婚して子供を作って一人前って事を」

「う……それは」

「いや、元帥だってあんただけにはに言われたく無いんじゃ無いか?そろそろアイリをなんとかしてやれよ」

「いやそれは歳の差があってだな……」

「はは皆様面白いですね、立場や身分が違うのにこんなに好き勝手言い合えるとは」

とプファルツ伯爵はラインハルト伯爵と顔を見合わせて言う

「そうだろ、これがこの国の良い所だ、『無礼講』って言うんだったよな?」

「そうですね、でもエステーノさん、その言葉は東の国の言葉なんですけど、それで伯爵様、どうでしょう何かお知恵がありますか?」

とペッコは話を戻した。

「そうですね、蒼のドラゴンスレイヤー殿のお子様は今おいくつですか?」

「えーっと三、いや四歳か? 男の子だ」

「となれば子供用の剣か槍でしょうね、そろそろ訓練を始める歳ですから」

「それならメルク回廊の『蒼玉通り商店街』へ行けば良い物が揃っているぞ」

「あ、ああ、でもあそこは高いからなぁ」

「それなら僕が作りましょうか? 僕は自分の剣を自作してますからね、槍も作れますよ」

「おお頼めるか?それは助かる、実は飲み代が嵩んで金が無いんだ」

「お前、皇都にいた時から何も進歩していないのか?呆れるな」

「もう勘弁してくれ、俺は部屋に帰って寝るぞ」

とエステーノが言い出した事で、今夜の飲み会はお開きとなった。

 ペッコは元帥と二人でボトルに残った最後の酒を飲んでいる

「議長閣下も伯爵殿達も楽しそうで良かったな」

「そうですね、所で元帥は何で結婚されないんですか、元帥なら嫁さん候補が向こうから来るでしょう」

「ああ、昔親父にも言われたんだがなぁ……お前スチール・リバー大将の奥様にお会いした事はあるか?」

「ええ何度か本部で、大将に手作りのランチを届けていらしたので、ご挨拶だけですが」

「俺はああ言う家庭的な女性が良いんだよな、それでいて芯が強いしっかりした女性」

「そうなんですね、そう言う女性が見つかれば良いですね」

「ああ、だが居ないものなんだよな……さて、俺も帰るか」

「あ、もう今夜は遅いですからお泊まりになったらいかがですか?」

「それもそうだな、悪いが世話になる」


 ペッコも自室に戻ると今夜の伽係のリブルがまだ起きて待って居てくれた。

「先に寝ていても良いのに」

「いえ魔王様、二人で居られる貴重な時間ですから」

と言う事で、一緒にお風呂に入って背中を流してもらって……後はいつもの


「魔王様、何かお悩みででも?」

「うん元帥にね、どっかに良いお嫁さんが居ないかな思ってね」

(とは言うけど、完全に脳筋体育会系だからなぁ、女性にモテる要素がなぁ)

「私達が料理を教わっている先生はいかがですか、種族も元帥と同じ巨人族ですし」

「へぇ、そんな人が居るんだ、今度合わせてくれる?」

「良いですよ、明後日が料理教室の日ですから、夕方に帰ってきていただけば丁度良いと思います」

(素晴らしいご都合主義だよなぁ、何か悩みがあると妻や友人が解決してくれる、僕を呼んだのって運命の神様とかかな……ってそれは誰だ?)

 などと考えてて眠りに落ちた。


 翌朝ペッコは工房に来ている、シドはペッコの館よりこちらの方が居心地が良い様で、工房の仮眠室を自室にして、寝泊まりをしている。

「シドさん、おはようございます」

「おう、領主殿か、お前さん鍛冶や工芸の心得が有るんだってな、どおりで使いやすい工房になっている訳だ、しかも帝国製の工作機械まであるんだからな、恐れ入ったよ、俺が協力して作った正教国皇都の

天空スチール工房分館より立派だからな」

「ありがとうございます」

(そりゃゲーム内のそこを手本に作ったんだから当然です)

「で、こんな朝から何か用かい? 六番艦なら今最終艤装に取り掛かっているからあと二日って所だぞ」

「シドさんのお陰で、建造のスピードが大幅に上がったそうで感謝してます、船のエンジンにも手を入れていただいたそうで」

「ああ、良い資質のエンジンだったからね、ちょっと手を加えただけで、出力が15%上昇したんだ、ビックもウエジも良い仕事をする様になったものだよ」

「色々と感謝いたします、それで今日は『超硬ガーランド鋼』を少し分けていただきたくて、お邪魔したんです」

「『超硬ガーランド鋼』?あれは船のフレーム用の合金だが、そんな物を何に使うんだ?」

「武器を作ろうと思いまして」

「武器かぁ、俺も前にあれで剣を作ってみたんだが、軽すぎて使いにくいと言われてな、武器には適度な重さが必要だって流星が言っていたな」

「ええ、そうですねですが、今回作るのは子供用の槍なんです」

「なるほどね、それなら軽くて強度があるから丁度良いかな、そこに積んであるから持っていってくれ」

「ありがとうございます」

 素材が手に入れば後は創造魔法でいくらでもコピーできるし、最初からイメージ通りの形を作る事も可能だ、なのでペッコは自宅の工房で、エステーノの槍と同じ形状での2/3位の長さの槍を作った。柄の部分は中空にした超硬ガーランド鋼で強度と撓りが有り軽量なのが特徴だ。少し長めなのは成長しても使える様にする為だった、ペッコは創造魔法でこの槍用の木製のケースを作り、中に仕舞った。


 翌日ペッコは夜の食事の準備をする妻達に紹介されて、料理の先生アイボリー・トラウトと初めて会った。

「魔法様、先生は料理だけじゃなくて剣の腕も良いんですよ」

「あらまぁ、コロセウムの優勝者にそんな事を言わないでね」

とアイボリーは控え目だ、

今夜の料理は元帥が好みの質素だがボリュームのある肉料理で、海の都から輸入されたバッファローのステーキだ。塩胡椒をしたバッファーローのサーロインをグリルで焼き、バターを乗せて、砂の都でポピュラーな香辛料を効かせたソースを掛けた物だ。海の都名産の赤ワインと良く合う料理だ。


「うーん、これは美味いな、ペッコ奥さん達また料理の腕を上げたんじゃないか?」

と元帥も居候達にも好評だ。

「あ、今夜はシェフが居るんです、後で紹介しますね」

 食後のデザート&酒の時間になって、ペッコは元帥に

「元帥、今夜の料理を用意していただいたアイボリー・トラウトさんです」

とシェフコート姿のアイボリーを紹介する。

「アイボリーさん、僕の上司で砂の都の執政官兼国軍司令官のスピン・ブレイド元帥です」

とこちらも紹介をすると、アイボリーが

「まぁそうでしたの、父がいつもお世話になっております」

と巨人族の女性らしいどこか東方風にも見える挨拶をした。

「父上とは?」

 巨人族には二種類の系統が有り、海の民と山の民に別れている海の民にはファミリーネームが有るのだが元帥達山の民にはそれが無い、だからフルネームを聞いてもそれが誰かの娘とか息子とかはわからないのだった。

「これは失礼をいたしました、私はスチール・リバーとジェルド・ピークの娘、アイボリー・トラウトです」

「え?」

「なんとそうだったのですか、これは私こそ父上にはいつもお世話になっています」

「うわわ、大変失礼いたしました、大将閣下のお嬢様とも知らずにウチの妻達がご無礼を……」

「まぁ、よろしいのですよ、それにブレイド閣下の事は父から良く聞いていましたし一度御目にかかりたいと思っていましたし、少将の奥様達とはお友達ですからね」

と言う事で、冷や汗をかいたペッコだったが

 二人はお互いを見つめあって何か赤い顔をしている。

「ん、おい」

「ああ、そうですね」

とその部屋に居る正教国組とシ・ロンが

「元帥殿、私達は正教国開放後の打ち合わせをするので、今夜はここで失礼します、少将一緒に着てくれ

おい、エステーノお前もだ、酒は持ったままで良いから」

とアイメリク以下貴族達が大人の対応をして、応接室から退室して二人だけにした。

「ありゃ、ダメだな」

「ああ、一目惚れって感じですね」

「え、そうんですか?」

「少将、君は奥様がこれだけ居てわからないのかい、二人は出会った瞬間で恋に落ちたんだ」

 さすがに正教国の貴族様達は、こういった話題に詳しい様だ。

ペッコも義氏も一目惚れと言う経験が……いや、あるな、妻達みんなに最初に会った時から心がときめいていたのは確かだ、ただ義氏はそれを恋愛としてでは無く、思春期の若者特有の物と判断していただけだったが……まぁとにかく、これで元帥の恋が上手く行けば良いなと思ったペッコは

 ダイニングルームと調理場で片付けをしている妻達に軽く事情を話して、応接室の邪魔をしない様に

釘を刺しておいた……どっちにしろ誰かは見にいくんだろうけど。


 それから数週間後、

「おい、少し落ち着け」

「はい、父上、義父上」

 とペッコは先程から何回も父や義父に言われてソファに座るのだが、直ぐに立ち上がって部屋の中をウロウロとしてしまう。

「これはダメだな」

「私も最初の娘が生まれる時はこんな感じで心配で堪らなかったですからねぇ」

と父も義父も半ば呆れながら、ペッコを見守っている。

 今朝早朝に、第一夫人のレイアが産気付き、そろそろ出産と言う事で館に泊まり混んでいる父を起こして義父にも来て貰い、ずっとリビングルームで待機している状態だ。

(なんでだろう、長男が生まれた時も次男が生まれた時も僕は仕事をしていてこんな心配なんてしていなかったのに、孫が生まれた時もこんな気分にはならなかった、と思うのは義氏の記憶だ)

 産室になっているレイアの部屋には数十人の子供を取り上げている『大婆様』とペッコの母、姉や従姉妹達が詰めている。

「オギャー」

子供の泣き声が聞こえてきて、ペッコはリビングルームから飛び出すと全力疾走でレイアの部屋まで行った。

「大婆様、母上!!」

とドアの前で叫ぶと、姉が出てきて、

「無事に生まれたわよ、ちょっと落ち着いてここで待ってなさい」

と肩を叩かれた。

 しばらくして、母が出てきてレイアの部屋に入れてくれた。

「ほらペッコ、あんたの子供だよ、立派な男の子だ」

とタオルに包まれた赤ん坊を見せてくれた

 ペッコは赤ん坊を母から受け取ると、顔を良く見た。

「あら、あんた赤ん坊を抱くの上手いわね」

と母は驚いている。

(そりゃ二人の子持ちで孫もいますからね)

「あれ、母上このおでこの瘤みたいのって?」

「うん、なんだろうね、普通の子供には無いのよ、もしかして角でも出てくるのかねぇって大婆様と話していたのよ」

 そう言われて、ペッコは視覚を切り替えた、明らかにこの赤ん坊からは通常の赤ん坊の数十倍のエーテルが溢れている。

「大変だ、母上、この子『角神』だ」

「まぁ……」

「ペッコや、その瘤のせいで出産がちょっと大変だったのだよ、嫁を労ってやりなさい」

と大婆様に言われて、ペッコはベッドに横になっているレイアの所に行く。

「レイア、大丈夫?」

「うん魔王様、男の子で角神様みたいだって、後継を最初に産めて嬉しい」

 ペッコはレイアを片腕で抱きしめてから、赤ん坊をレイアに渡した。

「ありがとう、頑張ったね」

(うーん、こんなセリフは僕は言えなかったなぁと義氏の記憶が頭の中で話しかけてくる)

 ドヤドヤと部屋に入って来た父と義父は男の子が生まれて素直に喜んでいる。

「でかした!」

「良くやった」

 ウェアキャット族は男子の出生率が極めて低く、20%以下と言われている、だから最初の子供が男の子と言うのはほぼ奇跡に近いのだった。

(さてこの子の名前だけど……アレッサンドロ、サンドロ)

「よし決めた、この子はサンドロだ、ド・サンドロ・ヤンがお前の名前だ」

 この子は後にペッコの後を継いで『征服皇サンドロ』と呼ばれる様になるのはこれからまだずっと先の話しだ。

「まぁ、サンドロ何か凛々しい名前ですね」

とレイアも喜んでいる。

「うむ、良い名だな」

と父も義父も頷いている。

「これ、爺さん達は邪魔じゃ、狩りにでも行くが良い」

と大婆様から言われて、父と義父は勇んで部屋から出て行った。

 男子が生まれた時は、その身内が狩で大物を仕留めて皆に振る舞うのがウェアキャット族の伝統だ。

「よし、婿殿でかいサンドワームを仕留めに行くか?」

「頑張りましょう」

「父上、義父上も無理はしないでくださいね」

「おい、年寄り扱いはするな、何大丈夫だ、獲物は任せておけ」

と二人は元気だ。


 その夜は、南のオアシスからほぼ全員が参加して、ペッコ邸の庭で大宴会となった。

獲物は偶然に遭遇した貴重な野生の特大の『大山羊』で、父と義父が二人掛りで仕留めたそうだが、

実際には義父の功績だろうとペッコは思っている。

 当然、ペッコ邸の居候達や、街の有力者やペッコの部下達、知らせを聞いた宿の女将さんや元帥、大将達、カヌート大佐やルネ中尉も駆けつけてくれて賑やかになる。

 元帥の横には当然の様に婚約者のアイボリー・トラウト嬢が寄り添っていて、それをスチール・リバー大将とその妻ジェルド・ピークが微笑みながら見つめている。

ペッコに気がついた大将が側に着て

「少将、男の子だそうだな、おめでとうオドの奴も喜んでいるだろう、それと君が元帥と娘の仲を取り持ってくれたそうだな、感謝するよ、娘は奥手でな中々良い相手が見つからずに困っていたんだが、

まさか元帥とはなぁ、『灯台下暗し』とはまさにこの事だよ」

と実に嬉しそうだった。


 そんな大将の側を辞して、ペッコは肉を取り分けて第三夫人のヒルドの所に持って行く、こちらもそろそろ出産が近いと言う事で、大婆様の指示で自室で静養中なのだ

「ヒルド大丈夫、肉を持って来たよ」

とペッコが言うと北の森からわざわざ看護に来ているヒルドの母が気を聞かせて席を外してくれた

ウェアキャット族の伝統では出産にその実の母が立ち会うと言う事は無いし、昔は出産日前日まで狩りをしていた事もあったらしい、これはペッコの中の義氏の意識がそうさせた事で、初めての出産で不安な

ヒルドを安心させる為でもある、というか幻術王で有る『角神』に呼ばれて来ない人間は『森』には存在しないのだ。

「男の子だそうですね、私も男の子を産みたいです」

「ばか、僕はどっちでも良いから元気な子供を産んでくれ、それだけだよ」

とヒルドを抱きしめた。


 そして数日後、ヒルドは無事に女の子を出産して、ペッコはこの子には『ユリア』と名前を付けた。

当然の様にこの子にも瘤がある。

(まさか僕の子供って全部『角神』になるのかな?)

と驚くペッコだった。

 ペッコの二人の子供が『角神』と言う事で、ペッコは今はこの街にある『幻術士ギルド』に行き、現在ギルドマスター代理『ウィトレッド』大尉を訪問した。

 このギルドは建物は赤魔法士のギルドの隣で、訓練用の庭を共有している、そして現在は多数の見習いで溢れていて、教官の人手が足りなくて苦労している。若手の幻術士の内何人かは、森の都で各地の見回りや森の浄化などの本来の幻術士としての任務に当たっているからだ。

「ウィトレッドさん、相変わらずお忙しそうですね」

「これは幻術王様、お呼び頂ければこちらから参りますのに」

と彼はペッコに低姿勢だ、森の都の幻術士ギルドで長い間過ごしていたので、『角神』となりエ・スミ・アンの杖を受け継いだペッコに礼を尽くしてくれているのがわかる、ちなみにエ・スミ・アンの杖は今は額にして、このギルドに飾ってある。

「実はご相談があって、僕の子供が二人生まれたのですが」

「おう、それはおめでとうございます」

「ありがとうございます、それでですね二人共『角神』なんです」

「なんですと?、それは一大事、直ぐに『大老樹瞑想樹洞』……、申し訳ありませんもう存在しないんですよね」

と大尉は寂しそうだ。

「確か角神の子供は、生まれながらに強大なエーテル力=魔力を持つゆえに、それを制御できなければ、極めて危険な存在となる、魔力は成長とともに強まる、そして魔力を狙って妖異に狙われやすいと言う事ですよね」

 これは義氏が知っているゲーム何の設定だ。

「はい、その通りです、なので今までは角神の力を持つ子供が生まれれば『大老樹瞑想樹洞』で育てる事になっていました、あそこなら結界が有るので妖異の心配も無いですし、護衛の幻術士もいましたから」

「連合王国はそれも結果的に破壊してしまった事になるんですね」

「その通りです、口惜しい限りです」

 ペッコは少し考えて、自分の邸宅の庭に『大老樹瞑想樹洞』を再現できないか考えてみた。

創造魔法なら、同じ様な樹木を作り出す事は可能だ、結界も今のペッコなら設置できるし、後は妖精がどういう反応をするかだけだが……

「面白い事を考えるな、この砂漠の地で我の加護を求めるとは」

と妖精の声が聞こえてきた。

「可能ですか?」

「無論だ、ただしそうすると、この土地の環境エーテルが変化していずれは森となるが構わんか?」

と言う事だそうだ

「もう少し考えさせてください」

と言う事でこの件は一旦保留にして、ここへ妻達の全員を呼んで、今後の対応と注意点についてウィトレッド大尉からレクチャーしてもらう事にした。

 この事をきっかけにペッコの赤魔法士部隊は砂の都の国軍の管轄から離れて、ペッコの親衛隊としての

組織に変化して行く事になる。つまり街や周辺の警護、ペッコの子供達の護衛が任務に加わる事になるからだ。


 その後数日の間に正教国解放のプランが作成されて、出兵が決定した。

遠征軍は、元帥が自ら率いる5000名の本隊と、例によって別働隊としてペッコの赤魔法士部隊の約450名が参加する、後詰として少佐に昇進したルネ補給部隊と幻術士部隊を率いる事になった。

 今回、初めて新造したヴェーダ級の飛空艇六隻が実戦投入される。一番艦から六番艦までそれぞれ『ヴェーダ』『ヴィマナ』『メルカバー』『アルゴー』『フリングホルニ』『ナグルファル』だ。

 自由都市経由で正教国に入る元帥の本隊が出撃して数日後、ペッコ達赤魔法士部隊は六隻の飛空艇に分乗して出撃した、例によって本隊を囮にしてペッコの遊撃隊が後背から攻める作成だ。

 赤魔法士部隊は元帥の護衛の第1、第7中隊以外の部隊を三つに分けて、飛空艇で皇都を強襲して強行着陸し兵を展開する。

 皇都は本来なら、巨大魔法障壁『聖レオンハルトの首飾り』があり、更に『ミネルヴァの慈悲』と言う巨大対龍弩砲で守られていたが、魔法障壁を展開するのに必要な旧正教の祭司達は粛清されて障壁は無用の長物と化し、連合王国軍としての再編成で弩砲の射手は別部隊に配属されてしまい、こちらも今は使用が不可能になっていた。その為ペッコの部隊はほぼ抵抗無く皇都を強襲する事が出来たのだった、エイル少佐が率いる第2第3第4中隊は東の『聖ジェルジオ広場』に、スリマ大尉が率いる第5第6第8中隊は西の『聖ペテロニア広場』に、そしてペッコが自ら率いる第9から第11中隊は街の上層の『最後の砦』に、それぜれ着陸した。各隊は事前の指示に従い、皇都内の現状把握と重要施設の占拠を行う事になっていた。

「これは……、魔法様、東部隊報告します、敵兵の姿はありません、街中に凍った死体が山の様にあります、酷い有様です、これよりメインクリスタル前に本営を仮設します」

「魔王様、西部隊です、テンプル騎士団本部で多少の抵抗はありましたが、ほぼ制圧しました、こちらも凍りついた死体の山です」

「了解、そのまま各隊注意して索敵を続行、捕虜を確保したら幻術王として祭り上げられた『カルロッタ・ガッティ』の情報を聞き出す様に、それと市民の生存者が居たら救助を、ただし解呪を優先する様に」

「魔王様、ラインハルト伯爵邸、プファルツ伯爵邸ともに無人です、と言うか荒らされていて廃墟の様です」

「魔王様、ロンメル伯爵邸前、騎士と兵士約200で防御陣を張っています、攻撃しても良いですか?」

「魔王様、ロートリンゲン侯爵邸です、こちらはほぼ無人ですが、高そうな服を着た酩酊している男性を一人保護しました」

と、各隊からの連絡が次々と入る、そしてロートリンゲン侯爵邸で確保したのは、侯爵その人だと言う事がわかった。

 ペッコの前に引き出された侯爵、カールマン・ド・ロートリンゲンはまだ酩酊状態のままだった。

「誰か、こいつに冷たい水を掛けてやれ」

「はい魔王様」

ヴォル中尉が部下に指示をすると、誰かがその辺に転がっていたバケツで、凍りついた噴水の氷を割り冷たい水を汲んできた、そしてその水を侯爵の顔から掛ける。

 ペッコはそこで状態回復魔法をかけた、最初からそうしても結果は同じ事なのだがペッコの気分的にこの男に冷水を掛けてやりたかっただけだ。

「くそ、貴様ら獣人の分際で、このワシを誰だと思っている、連合王国宮宰のロートリンゲン侯爵だ」

「存じてますよ、貴方は戦争犯罪人として、砂の都少将の私の捕虜となりました、今ここで処刑しても構わないのですよ」

 とペッコが言うと侯爵は震えながら、頭を地面に擦り付ける様にして、

「頼む、命だけは助けてくれ、なんでも言う事を聞く、ワシが悪いんじゃ無い、獣人共を奴隷にしたのは

ロンメルの奴だ」

と見苦しい限りだった。

「お前らが森の都から誘拐した『カルロッタ・ガッティ』は何処にいる?」

「あの人族の小娘か、角神で無くなって用無しになったので娼館に売り渡してやったわ、今頃は凍えて死んだか、飢えて死んだかどっちかだろう、生意気な小娘だったからな、良い気味だ」

 それを聞いてヴォル中尉以下全員の顔色が変わった、その気持ちはペッコも一緒だ。

「中尉、この下衆野郎の服を脱がせろ、そしてあそこの噴水に放り込んでおけ」

「はい、魔王様」

「おい、待ってくれ、助けてくれ、やめろ」

侯爵は叫んでいたが、ヴォル中尉の部下達に服も下着も剥ぎ取られ、醜い肥満体を晒しながらそのまま

噴水に放り込まれた。

「中尉、他の捕虜達に聞いて娼館を探してくれるかな、生きていてくれると良いのだが」

「はい、魔王様すぐに」

 ペッコは魔法通話でブレイドと連絡を取る

「元帥、皇都内まだ多少の抵抗があります、例の作戦実行しても構わないですか?」 

「ああ、許可する」

 ペッコは皇都内の敵の抵抗がわずかなら、この攻撃をするつもりは無かった、だが侯爵の態度で気が変わった、絶影を呼び出して騎乗すると、皇都上空に上がり上層の最奥部にある建物を目指した、地上には警護のテンプル騎士団500名ほどが防衛陣地を作り警護している。

 上層にはゲーム内では『建国七騎士像』があった筈だが全部完璧に破壊されていて、初代教皇の名を冠した「聖アンドレア大聖堂」も破却されていた。どうやら連合王国では『ミネルヴァ正教』を弾圧の対象にしていた様だ。

「さて、来いバハムート」

 ペッコが召喚したのはほぼオリジナルのバハムートだ、七大龍の一翼で光竜と呼ばれ、南方メガラニカ大陸で古代帝国と戦い消滅、その後に邪神として降臨して月の衛星に封印され、厄災を引き起こした全長200ヤルムを超える巨大な龍だ。

「あれは、まさか邪神バハムートだと?」

 地上の騎士や兵達が大混乱するのがわかる。

 それは、皇都の正門『大聖門』で対峙している、ブレイド元帥麾下の本隊と、ロンメル伯爵の騎士団も同様だった

「あのばか、とんでも無い物を召喚しやがって」

と言うのはカヌート大佐だ

「あれが、本当のバハムートなのか、俺が前に戦ったデス・バハムートとは別物じゃ無いか」

と今回は本隊に同行している、エステーノも唖然としている

 一方で、対峙するロンメル伯爵は

「おのれ蛮族ども、神聖なる皇都の上空に邪神を降ろすとは許さんぞ」

と怒気を露わにしていたが、次の瞬間……

 バハムートのメガ・フレアで皇都の象徴だった『旧教皇宮殿』現在の『連合王国政庁』が跡形も無く消滅させられた事で、一気に表情が変わった。バハムートはそのままやロートリンゲン邸、ロンメル邸も消滅させてから、空高く舞い上がり姿を消した。

 皇都内でまだ抵抗していた騎士や兵達は全員が腰を抜かした様になって、戦意を喪失させる。

噴水の中でまだ意識があった侯爵はショックで顎が外れた様になりそのまま気を失った。

「全隊、投降した将兵は武装解除の後に解呪、指揮官は拘束してメインクリスタル前の仮設本営に連行する様に、その後は市民の救護活動に入れ、それと誰かあの下衆に毛布でもを被せて、引きずって来い」

「はい魔王様」

「よし、リブル中尉の部隊は上層の残りの政府施設の確保、まだ気を抜くなよ、ロータ中尉の部隊は僕に着いて来て」

 ペッコは皇都の内門である、『聖門』に向かう、この門を出ると中央高地側の大聖門への空中回廊『大雲廊』がある、ゲーム内ではここで、邪竜族との一大決戦が行われた場所だ。


「元帥、敵背後への展開完了しました」

既に皇都内の主要施設には砂の都の旗が掲げられていて、誰の目にも皇都陥落は明らかだ

「よし、こちらから今一度降伏勧告を行う」

とブレイドはアイメリク議長に促した。

「ロンメル卿、見ての通り皇都は陥落してロートリンゲン卿も捕虜になったぞ、卿の抵抗はもはや無意味だ将兵を無駄死にさせるな、卿も投降しろ」

とアイメリクは語りかけたが、ロンメル伯爵はそれに怒声で答える

「蛮族共に与する皇都の裏切り者共、我ら正当なる支配者にしてエルフの貴族の意地を見せてくれる」

 伯爵とその部下の騎士達は、懐から出した液体を飲み干した

「なんだ、毒でも飲んだのか?」

カヌート大佐の問いにエステーノが叫んだ

「まずい、防御を固めるんだ、あれは邪竜の血だ」

 邪竜の血を飲んだ伯爵達の姿が異形の物へと変わって行く、そして邪竜の眷属である『ウェアドラゴン』や『エイビス』、『シリクタ』に変身してしまう。

「人が邪竜に? どういう事だ」

「元帥、説明は後でいたします、今は対応を、エステーノ行くぞ」

とアイメリクは剣を抜き、エステーノと共に先頭を切って駆けていく、当然ルキア中佐とアンドゥルー中佐も同様だ、すると護衛のヘリヤ大尉が止める隙も無く元帥も剣と盾を持って、アイメリクの後を追って

駆け出した。

「え、うわわ元帥閣下!!」

ヘリヤもカヌートも後に続いて掛け出す、結果的に全軍突撃と言う形になってしまった。

 だが、大聖門側の混乱はもっと深刻だった、全員が邪竜化したわけでは無く残されたエルフ族達

は、邪竜化した貴族や騎士達に襲われて成す術も無く虐殺されていく。

 邪竜化した者達には、もはや知性と言う物は無く目前のエルフ達を獲物としか見ていない、しかも

その獲物を巡って同士討ちを始めている。

 砂の都軍にとって、これはもう軍事作戦では無く、モンスター駆逐戦になっている。

「酷いなぁ、門を開けるのも面倒だな、大聖門を破壊するからみんな避けて」

と空中回廊を駆け抜けて来たペッコは大声で警告すると、黒魔法と創造魔法を併用して、巨大な大聖門を完璧に破壊した。

「邪竜の方を先に倒してね、嫌だろうけどエルフの兵士は助けてあげて、あ、歯向かって来たら殺していいよ」

「はい、魔王様」

とロータ中尉に率いられた50名の赤魔法士が敵の背後から突入した。

 戦線に突入したペッコは並んで戦うアイメリク議長と元帥を発見して、側にいく

「お二人共、何をしてるんですか?何かあったらどうするんです、後方に下がってください」

「いや、敵が邪竜となれば黙って見てるわけにはいかない」

「そうだ、少将少し目を瞑れ」

と何だかんだ言って戦っている二人は楽しそうだ。

 そして一番楽しそうなのはエステーノだ、巨大なウェアドラゴン達を相手に全く無駄の無い動きで邪竜を倒していく。

 結局1000名以上居た大聖門防御部隊は数人のエルフ族の兵士を残すのみで、指揮官だったロンメル伯爵以下ほぼ全員死亡と言う結果になった。

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