第二十一章 議長解放
中途半端な凪節ですが、第三部です、当初は四部とかの構想もできていたんですが
実は『黄金のレガシー』以降、FF14へのモチベーションがダダ下がりで、ちょっともう良いかな?
って感じなので…… 剣と魔法のファンタジーな世界だったのに、あんな都市とかあんな服とか、ウザイキャラとかまぁ色々とw、なのでこの小説も三部で完結する予定です。
プロローグ
プルト・メルク教団の大司教にしてエウロパ皇国外務卿兼全権大使『デュロロ・ロロ』は知の都の哲学者評議会議事堂で、満員の評議会議員や市民達に向かって演説を始めようとしている、デュロロは教団の大司教と言う立場で、知の都のアカデミーで何度も講義をした事もあり、アカデミーの教授達を初めとして議員達にも多数の知人や友人が居た。
「初めに、この歴史ある議事堂で話をさせていただける栄誉を与えていただき、議員の皆様には感謝いたします」
と礼儀正しく、話を始めた。
「さて、北方帝国との無益な戦争の終結後の混乱を経て、我が国は一時の平安を謳歌していました、そこに飛び込んで来たのが正教国の政変とそれに連なる森の都のクーデーターでした、やがてこの二国は
北部連合王国を詐称して自由都市を制圧するなど、無秩序な勢力拡大を図り、その挙げ句我が国の領土を侵略しようと大軍で北ジャズイーに侵攻して来ました、幸い我が国には、優れた将兵や魔法士が多数おりましたので、侵略軍を撃退、そして今度は我が国は攻勢に転じて森の都、自由都市、そして正教国をも北部連合王国を騙る愚か者共から解放いたしました」
デュロロはそこで、視線を議事堂の右端に座っている『アデリーナ・ゴダール』に向けた。
アデリーナには
「愚か者とはお前の事だ」
と言われているのがはっきりと理解できて、憤怒の目でデュロロを睨みつけた。
「不幸で無益な戦いの後、我々は森の都で新たな『角神』となった幻術王『ド・ペッコ・パト』の元に集い、砂の都、塩の都、森の都、正教国の四カ国と自由都市、更には自由街が合併して、新国家『エウロパ皇国』を建国いたしました、私デュロロ・ロロは本日はプルト・メルク教団大司教としてでは無く『ド・ペッコ・パト魔法皇王』の名代、新国家の『外務卿』として知の都を訪れている事をご承知いただきたい」
評議員や市民達はまだ 『エウロパ皇国』も『魔法皇王』の事も知らなかったらしく、無言で驚愕の表情を浮かべている者も居る。
そして、デュロロはいよいよ本題に入った……
第二十一章 議長解放
時はデュロロ演説の半年以上前に遡る。エステーノはモンターナ中央高地を徒歩で北上している、同行者は二人で元正教国四大貴族のプファルツ伯爵家所属の元騎士だ、この二人はエステーノの協力者でボーエン子爵達の監禁場所をずっと探っていた仲間だった。
「この先はキャンプ・ドラゴンファングですが、今は閉鎖されて誰も居ない筈です」
「そうか、確かにもうドラゴン族と戦う必要が無いからな」
「それも有るんですが、プファルツ伯爵様は現体制に批判的でしたから、逮捕されてその時に伯爵家の騎士団も解散させられたんです、騎士団の主だった者も伯爵様と一緒に逮捕されていますから、砦の運営は
無理ですからね」
「なるほどね、それで東部高地には入れるのか?」
「ええ、厄災前は『聖レオンハルトの落涙』の滝の裏から抜ける街道がありましたよね」
「ああ、落盤で通れなくなったんだったよな」
「はい、そこを囚人達を使って、また掘り直した様ですね、しかもその囚人と言うのは逮捕された貴族達だそうです、噂では落盤事故で随分と被害者が出た様です」
「そうか、悲惨だな」
「伯爵様や弟君が無事なら良いのですが……」
「新政府派はロンメル伯爵家と、ロートリンゲン家のバカ息子達だったな」
「ええ、他の貴族は全員議長派と言う事で、爵位剥奪の上逮捕や追放されてしまいました」
「ああ、追放された中には実は新政府側と言う奴も居たそうだ、そいつらが森の都で政変を起こしているからな」
「どうしますか、少し休憩しますか?、まぁ火は無いので寒いですけど」
「使えそうな建物は無いのかな?」
「鳥馬小屋なら鍵がかかって居ないので入れると思いますよ」
「まぁ外よりはマシか」
エステーノ達はそこで小休止して、更に北上して「聖レオンハルトの落涙」に向かう。
「ここは昔は滝が流れて居たんだよな」
「そうですね、今は氷結してますけどね、ここの水が上手いって話ですよね」
「ああ、正教会がせっかくのワインをここの水で薄めて、聖なるワインと言って売っていたよな」
「あの薄くて不味いワインですね、私も良く飲まされましたよ」
「昔はアルコールが強すぎるワインに水を少し足したのが始まりらしいけどな……と知り合いの酒飲みが言っていたが……その内にワインを水増しをして儲ける方法になったのだろうな」
「あ、ここですね、洞窟の奥に道が繋がって居ます」
洞窟の奥の道を抜けると、目の前には緩やかな渓谷が広がっている、ここも厄災前は一面の草原だったが、今は氷と雪に覆われている。
雪原を北東に進むと、キャンプ・レーキブランチが有り、そこにはメインクリスタルが有った筈だ。
「どうやら、あそこが収容施設の様ですね」
キャンプの周囲は石の擁壁で囲まれて、監視塔が擁壁の四隅に有り、ゲート前には歩哨が居て門の横は守衛小屋の様だ。
「随分と緩い警備ですね、20人位ですかね?」
「そうだな、これ位なら俺達だけでも余裕だな」
「え、援軍を呼んだ方が良くないですか?」
「大丈夫だ、見ろ、奴ら収容所の中しか見ていないだろ、俺が監視塔の奴らを片付けるから、お前達は合図があったら歩哨を頼む」
「了解です」
エステーノは、軽々と北西の監視塔に飛び乗り、守衛二人……少年兵の様だ……を気絶させた。
(なんだ、こいつら弱すぎるな、騎士では無いのか?)
直ぐに今度は北東の監視塔、南東の監視塔、南西の監視等と守衛を気絶させて、合図の口笛を吹いた。そしてそのまま守衛所の前までジャンプして、中の守衛達を……、全員まだ子供の様な兵士だったので
「降伏するなら命は助けてやる」
と言うと、兵士たちは全員武器を置いて、両手を上げた
「エステーノ殿」
とこちらも、子供の様な外の歩哨を引きずって、二人が施設の中に入って来た。
「どうなっているんだ、子供ばかりじゃ無いか、おいお前ら誰か説明しろ」
とエステーノが怒鳴ると、守衛の中でも将校の鎧を身に付けた少年が口を開いた。
「私たちは聖イシドール神学院の神学生でした、学徒動員で徴兵されてここに配属されたんです」
「なるほどね、指揮官はどこだ?」
「指揮官殿は、囚人達を連れて薪や食物の調達に出ています、夕方には戻ってくる予定です」
「その指揮官と言うのは大人なんだろうな?」
「はい、聖ソフィア連隊の方です」
(また、あの連隊の奴か)
「それで、今は囚人は何人残っているんだ?」
「ぼぼ全員で食料調達に出ていますが、帝国人が一人、施設の修復で残っています」
「そいつは何処にいるんだ?」
「囚人宿舎です」
「そこに案内しろ、お前達は看守の制服を着て、ゲートを見張っていてくれ、それと貴様らは監視塔の奴らを助けてやれ、気絶してるからこのままじゃ凍死するぞ」
看守に案内されて囚人宿舎に行きドアを開けると、中にはエステーノと同じ年代の白髪の男性が居る
「お、今日は早く帰ってきたな、食い物はあったか?」
と振り向いて、
「あんた、なんでここに?」
「シド・ガーランドか、それは俺のセリフだよ、なんであんたがここで捕まっているんだ?」
「ウチと提携している工房が皇都に有ったんだよ、そこで打ち合わせをしていたら、兵士に囲まれてここに連れて来られたんだ、それでこの廃村に着の身着のままで放り出されただけだ、それで俺は宿舎を直したり、暖炉を直したりしているんだ、幸い簡単な工具は残っていたからな」
「そうか、助けに来たんだが余計なお世話だったか、こんな弱そうな看守しか居ないなら、お前らだったら、いつでも逃げられただろ」
「逃げるって言ってもここからは、中央高地にしか行けないからまた捕まるだけだろう、だからしばらくここで様子を見る事にしたんだ、まぁそのしばらくがかれこれ二年以上になったが」
「エステーノさん、みんな帰って来るみたいです、人影が見えます」
とここで、ゲートに残して来た仲間から魔法通信で連絡が来た。
「今行く」
エステーノはゲートの脇に隠れて、囚人達と看守達が施設に入った所で、槍を看守長らしい男に突きつけて
「全員武器を捨てろ!」
と言うと、看守の他に囚人達も剣や斧、槍を地面に置いて手を上げた
「ちょっと待て、何でお前らまで武器を置くんだよ」
と困惑するエステーノに
「なんだ、遅いじゃないか」
と声をかけたのはアイメリク・ド・ボーエン子爵その人だった。
不思議な事に看守長も囚人達も全員同じ様な防寒具を着て武装していて、狩った獲物や薪を乗せた
ソリは看守長が引いている。
「おい、なんだよこの状況は、なんでお前ら囚人と看守が仲良くしてるんだ?」
「ああ、まぁ話せば長いからな、とりあえず宿舎に入ろう」
アイメリクの話によれば、ここに監禁された当初は敵対的な守衛ばかりだったが、その内に学徒動員兵ととっくに引退した元騎士しかいなくなり、それ以降は監視も緩く、慢性的に食料と薪が不足しているので一緒に狩に行く様になったそうだ、他の囚人達は反連合王国派の貴族で、プファルツ伯爵とその弟や騎士団の幹部、ステファニヴィアン・ド・ラインハルト伯爵とその協力者達、アイメリクの部下のルキア・ゴー・ユリウス中佐、アンドゥルー・ド・ランボー中佐や騎士達と総勢で20名以上が居るそうで、アイメリク達とは別に食料調達に出ているそうだ。
「それで皇都の様子はどうなんだ?」
「さぁ、俺は皇都の中の様子はわからないからな、ただ連合王国はもうお終いだ、北ジャズィーの戦いで大敗して70000の軍と精鋭を失い、その後は負け続けて、森の都も塩の都も自由都市も解放されたからな、砂の都とその連合軍が攻めて来るのも時間の問題だよ、俺はついこないだまで砂の都で世話になっていたからな」
「そうか、砂の都の今の指揮官殿とは面識があるのか?」
「ああ、スピン・ブレイド元帥、執政官を兼ねていていい男だぞ、それでお前らどうする、本来の予定では砂の都から援軍を呼んでお前達を救出するはずだったんだが」
「そうだな、一度ここから出て情報を整理する必要があるな、手配を頼めるか、あ、それとこの看守達も一緒に連れて行ってやりたいんだが」
「わかった、ちょっと待ってくれ」
エステーノは魔法通信で、ペッコを呼び出した。
その頃ペッコはエニアゴン近郊の魔法士部隊基地の練兵場で、赤魔法士中隊の閲兵をしていた。
11有る赤魔法士部隊の内、第一と第三部隊の中隊長レイアとヒルドが産休中なので副官が指揮を取っているが、どの部隊も一糸乱れぬ演武を見せてくれている。
全員が同時にレイピアを抜き、剣技を演武するのは壮観だ。
(うーん、流石に500人以上のパンチラを同時に見る事ができるなんて、素晴らしいなぁ)
と不埒な事を思っているペッコだった。
「魔王様、どうでしょう?、全隊今直ぐに実戦に投入できるレベルまで仕上がっています」
と得意そうなのは、今は隊の中で唯一の少佐であるエイルだ、レイアとヒルドが不在なのでその分張り切っている。
「うん良いね、もうすぐ次の戦いになるから、今の内に装備の点検も含めて訓練を続けて」
「はい魔法様」
ペッコはその足で城壁外にある、工房に向かった。ここでは『ガーランドアイアンワークス』の二人の指導で、新型の飛空艇の製作が行われている、既に一番艦、二番艦、三番艦が完成して、現在は四番艦、五番艦の建造が進んでいる、そして一番艦、二番艦を利用した乗組員の訓練も始まっている。
「あ、領主様」
「ウエジさん、領主様はやめてください、進捗状況はどうですか?」
「順調です、一番艦『ヴェーダ』は慣熟訓練も終了していつでも使えます、二番艦『ヴィマナ』はあと二週間程かかりますね、三番艦『メルカバー』以降の乗組員も順調に集まっています」
「良かった、飛空艇が有ると無いでは、部隊の機動力が大幅に違いますからね、引き続きお願いします」
「任せてください」
このヴェーダ級飛空艇は、北方帝国の技術も取り入れた軍用の大型船で、5名の乗組員と100名以上の兵員を乗せる事ができる、つまり六隻あれば、ペッコの赤魔法士部隊全員と、数日分の補給物資を搭載する事が可能だ。予定では八番艦まで建造する事になっている。
ペッコが館に帰ると、元『黎明の血盟』のタルタルが訪ねて来ていた。
「ペッコさん、先日お尋ねの『アデリーナ・ゴダール』の事が少しわかりましたので、ご報告に来たでっす」
「それは助かります、今スイーツとお茶を用意しますね」
とペッコの館ではもう定番になっている、シャーベットと薬茶を持って応接室に向かう。
タルタルの報告でわかった事は、アデリーナは以前から知の都で勢力を持っている『司書派』の現在の領袖で、先代の「セヴェスター・フルブライト」より更に過激な思想の持ち主で、先代が『歴史に対する一切の介入を禁じあるがままを観察し、記録に徹するべきである』主張していたのに対して、『叡智を知る者が世界の統治を行うべきと』いう主張になっていて、評議会の中でも多数派になりつつ有ると言う事だった。
(こうなると今回の戦争の黒幕は知の都と言う事で間違いなさそうだなぁ、正教国の後は知の都もかぁ)
と少し憂鬱になるペッコだった。
そこにエステーノからの魔法通信が入る。
「……と言うわけだ、迎えを頼めるか?」
「良いですよ、そこメインクリスタルは有りますか?」
「ああ、有るけど機能はしてないぞ」
「大丈夫です、また後で連絡します」
ペッコは直ぐに城壁外の工房に向かった、絶影で走りながらエイルに魔法通信で連絡をして、治癒魔法の得意な者を五人連れて、工房まで来るように指示をした。
「一番艦出せますか、正教国の議長閣下達を救出に行きます、あ、シド・ガーランドさんもご一緒だそうですよ」
「おーー会長が無事だった!! 出せます、場所は何処ですか?」
「モンターナ東部高地のキャンプ・レーキブランチと言う廃村だそうです、とりあえず東部高地の付近まで行ってください、その後は僕がメインクリスタルまで飛びますので、僕のこのクリスタルを追尾してください」
「おお追跡用クリスタルですね、早速実戦投入できるとは」
これはクリスタルを利用したエーテル発信機の様な者で、元は飛空艇航行用の航路用ビーコンとして開発されたものだ、飛空艇の航行装置はその発信機の位置を特定できる機能がある、ペッコはそれを小型化して持ち運びが出来る様にしたのだった。
「ヴェーダ出撃準備、乗員は登場して待機」
ビックの指示で、ヴェーダの発進準備が進められていく
「魔王様」
エイルが麾下の赤魔法士を連れて駆けつけきた。
「よし全員搭乗したな、ヴェーダ発進!」
ヴェーダは空に舞い上がると北に進路を取った。
「二時間ほどで、東部高地上空になります、それまでキャビンでお休みください」
との事なので、遠慮なくメインキャビンで少し横になる事にした。
船室の基本設計は船と同じなのでそこそこ広い部屋だ、エイルに膝枕をして貰って、充分寛ぐ事ができた。
「少将、そろそろ東部高地上空だそう……失礼しました」
と呼びに来た隊員が赤くなってキャビンのドアを閉めた。
「あ、誤解されたかな?、さてでは行くね、後はよろしく」
「はい魔王様、お気を付けて」
ペッコは立ち上がると、エーテルの流れを探ってキャンプ・レーキブランチのクリスタルを発見して
転移魔法で飛んだ。
「うわ、やっぱりこの格好だと寒いかな、『エステーノさん何処ですか?』」
「真ん中の大きい建物だ、もう着いたのか?」
「ええ、今行きます」
とペッコは囚人達の居る宿舎に向かった、ドアを開けて中に入ると少し暖かい
「やっぱりこの辺は寒いですね」
と言いながら片方を上げて挨拶をした。ちなみに今日はいつもの赤魔法士の装束だ。
「紹介しよう、砂の都の国軍魔法士部隊の隊長、ド・ペッコ・パト少将だ、そして現在たった一人の森の都の角神でもある」
「エステーノさん、今日は角神は関係無いですよ、皆さん始めして、ド・ペッコです」
ペッコがそう言うと、アイメリク以下全員が順番に自己紹介を始めた。
義氏にとってはほぼ全員がゲーム内NPCとしてお馴染みの顔だが、当然ペッコとしては初対面だ
「10分程で、救援の飛空艇が到着します、治癒士を乗せていますので、体調が悪い方は遠慮なさらずに申告してください、あと船の中には軽い食事と飲み物も用意して有ります、皆さんは一度砂の都近郊の街まで来ていただいて、そこで今後の事を話し合いたいと思いますが、それでよろしいですか?」
「すまないな、よろしくお願いする」
とアイメリクが言うと全員が頷いた。
「魔王様、村の上空に到着しました、どこに降りれば良いですか?」
とエイルから連絡が入る。
「門の外に着陸できる様な場所が無いかビックさんに聞いてみて」
「はい」
「船が来ました、門の外に降りるので、皆様準備をしてください」
「よし行こうか、おい、お前らもこんな所に居てもしょうがないだろ、一緒に来い」
「え、良いんですか、すみませんお願いします」
と隊長以下20名程の守衛達も同乗する事になる。
「なんだこの船は、ウチの社章が描かれているが俺はこんな船知らんぞ」
とはヴェーダを見たシドの第一声だ、そしてタラップから巨体を揺すって降りて来たビックがっちりと握手をする。
「この船、お前が作ったのか?」
「ええ、俺とウエジでそこに居る領主様の助けで作りました、立派な工房で見たら会長も驚きますよ」
「ほら、感激の御対面は後にして、とっとと乗れよ」
と言うエステーノの声でシドは乗船した
「砂の都に帰るぞ、ヴェーダ発進」
帰りは途中まで北東の風に乗るので、少しだけ早く到着する様だ。
「何処に降ろしますか、砂の都の発着場は使えるんですよね?」
「ああ、悪いけどウチの庭に下ろしてくれるかな、その方が色々と便利だからね」
ペッコがメインキャビンに降りると、数名が治癒を受けているが軽い怪我や凍傷の様で問題はなさそうだ
怪我が一番酷いのはエステーノの槍に最初に殴られた監視塔にいた看守の少年兵の様だが。
「すまなかったな、ほらこれを飲め体が温まるぞ」
とエステーノが勧めているのはメインキャビンのバーに置いてある火酒だ。
「エステーノさんダメですよ、この方達神学生なんでしょ、飲酒が禁止ではないんですか?」
「あれ?そうだったか?」
「ああ、本来正教徒は聖別されたワイン以外を飲む事は禁止されてる、お前は知らなだろうがな」
「あれ?お前と普通に酒を飲んだ記憶があるんだが?」
「当然だ俺はテンプル騎士団の総長だぞ、神聖騎士団では無いからな」
「なんだよそりゃ、結局飲んでも良いんじゃないか」
と賑やかに笑顔が広がる。
「しかし少将殿、この船は軍船なのだろう?、軍船にバーが有り酒があると言うのは解せ無いが?」
と言うのは、アイメリクの副官のルキアだ
「僕もそう思うのですけどね、ウチの将兵達はみんな酒飲みなんで、狭い船で長時間拘束して暴動が起きたら困りますからね」
とペッコが笑って言うと、
「そういう物なのか?」
とまだ納得がいかない感じではあった。
「ところで少将殿、貴官にお伺いをしたいのだが、現在正教国と貴国とは交戦中と言う事で良いのかな?」
「はい、伯爵その通りです」
「すると我々は戦時捕虜と言う扱いになるのだな」
「いえ、皆様には我が国の賓客として滞在して頂く事になります、もちろん行動の自由も保障いたします」
「伯爵大丈夫だ、こいつは若いがとんでも無い切れ者だぞ、そんな了見の狭い事はせんよ」
「そうですね、この下らない戦いを早く終わらせる為にも皆様には色々と協力をしていただきたいと思ってますし、可能なら議長閣下に降伏勧告を出していただいて無血開城と言う事になれば一番楽なんですけどね、まぁそこまでは甘く無いでしょうが」
「魔王様、間も無くエニアゴン上空に到着するそうです」
とエイルが来た。
「おい、みんなこいつの作った街だ、見ると驚くぞ」
とエステーノが言うと、議長以下全員が甲板に上がり、上空から街を眺めて驚愕している。
「なんだ、この街は? いつの間に?前回砂の都に来たときは存在していなかったが?」
「あの稜上に有る大砲は、我が国の物と同じ様ですが、製造法は公開していないし、もちろん他国への輸出も禁止されているはずだが、一体どうやって?」
「国家機密です……と言うのは冗談ですが、砂の都では『金で買えない物は無い』と言う諺があるんです、皆様もご存知だと思いますが」
実際にはペッコが創造魔法で作った物だが、現在はエニアゴンの鍛冶職人達が製作できる様になっているので、まぁ嘘では無いかもしれない。
ヴェーダがペッコ邸の庭に降りると、ロータとヴォルの二人が、直ぐに治癒士の一団を連れて駆けつけてくる。
「怪我とかは大丈夫みたい、食事の用意をしてくれる?」
「はい魔王様」
「な……魔王??」
一同がギョっとした顔をする
「あ、気にしないでください、あだ名なんで」
「な、魔王って笑えるだろ、もう諦めて幻術王を名乗れよ」
とエステーノに肩を叩かれる。
確かにそろそろ諦める頃かもしれないなぁと思うペッコだ。
全員を館のバンケットルームに案内して、そこで妻達が用意をした食事を提供した。
「すみません、ウェアキャット族の料理では、正教国の皆様のお口に合わないかもしれないですが」
「いや、とんでも無いです、この二年間まともな食事をしていなかったのでありがたいです」
と貴族のマナーはどっかに行った様に、手掴みで肉を食べパンを齧る全員だった。
「兵士の諸君と、騎士の方々は、街の宿に案内いたしますので、しばらくそちらで過ごしてください、エステーノさん彼らを頼めますか」
「おう、任せろ」
とエステーノは彼らを率いて宿に向かって行った。
「残りの皆様はゲストルームに案内いたしますので、夜までお寛ぎください、夜には元帥が皆様と話をしたいと申していますので」
「ちょっと良いか?」
「シドさん何か?」
「俺は、あいつらの仕事場を見たいんだ、その工房を見せてもらえないだろうか?、政治の話は俺は興味無いしな」
「良いですよ、ビックさん達に迎えに来てもらいますね」
と言う事で、とりあえず色々片付いて安心したペッコだった。
ペッコはその足で砂の都に転移して、元帥の政務室に報告に行った。
「ご苦労だった、議長殿とプファルツ伯爵殿、ラインハルト伯爵殿か、大漁だな」
「ええ、四大貴族の内の二人ですから、我々に協力していただけるなら儲け物ですね」
「そうだな、あの都市を正攻法で攻略となると、こちらもかなりの損害が見込めるからな」
「そうですね、いっそのこと都市ごと消滅させてしまったら楽かもですが」
「おい、お前が言うと冗談に聞こえないぞ、所で今夜はお前の所で晩餐会なんだよな、何を食わせてくれるんだ?」
「丁度良い具合に大山羊の肉が沢山有るので肉がメインですね」
「おお、それは楽しみだな、ああ正教国の貴族様達は確か高いワインが好物だと聞いたぞ、用意はしてあるのか?」
「あ、忘れてました、買って帰ります、ありがとうございました」
「ああ、では後でな」
(都市ごとって言うのは冗談では無かったんでけどなぁ)
と思いながら、酒屋で海の都製の高級ワインを数箱仕入れたペッコだ。
今夜の晩餐会はペッコ=義氏の知識+妻達を総動員して砂漠亭の女将さんにも手伝ってもらって料理の準備をしたものだ。
アンティパスト サンドワームの肝のカルパッチョ
プリモピアット ミネストローネスープ
セコンドピアット仔山羊のカチャトーラ
ドルチェ 柿のジェラート
と言うメニューに食後に一年物の火酒と薬茶と言う感じだ。
海の都の発泡酒で乾杯して、晩餐は和やかに進んだ。
アイメリク議長とブレイド元帥との会話も和気藹々としたもので、将来の協力関係を築く良い機会となる
雰囲気だ。
だが、突然その雰囲気が壊れる、壊したのはアイメリクの副官アンドゥルー中佐とラインハルト伯爵、
プファルツ伯爵達だ、アイメリクのもう一人の副官ルキア中佐が、何気なく
「見事な料理ですね、皇都でもこれだけの料理は中々食べられないです」
とアイメリクに言ったのが引き金だった
「貴様何を言う、ウェアキャット族や巨人族ごときの料理が、我ら高貴なエルフ族貴族の料理と比べられると、貴様は帝国人だから常識もわきまえられんのか」
と突然豹変した。そして他の者達も全員その意見に賛同して、立ち上がり口から泡を吐いて熱弁を振るい始めた、アイメリクと、ルキアの二人はただ唖然としている。
「おい、お前らどうしたんだワインの飲み過ぎか?」
とエステーノが宥めるが、今度は
「黙れこの裏切り者」
と、とうとうアンドゥルー中佐は剣を抜いた。
「これはなんか変だ」
と思ったペッコは妻達に目で合図をして、元帥の身の安全を確保してから、アンドゥルー中佐達に
睡眠魔法『スリープ』をかけて眠らせた。
「一体、こいつらどうしたんだ?」
エステーノが困惑していると
「あの、以前に森の都のエルフ達もみんな同じ様な事言ってました」
とヘレナ達が言い出した。
「そう言えば前に捕虜にした双樹党の大将とか言う奴もそうだったな」
とペッコが言うと
「これは、しばらく伯爵達とまともに話をできそうも無いな、申し訳ないが彼らにはしばらく『マラサジャ収容所』で過ごしてもらう事になりそうだ」
「はい元帥、仕方無いですが、なぜ突然人が変わったのかを調べないといけないですね、薬学院と錬金術
ギルドに協力を要請してみます」
「ああそうだな、しかし今夜の料理は美味かった、今度家の料理長を寄越すから教えてくれ」
「良いですよ」
と元帥はペッコ邸を後にして、寝たままの貴族達はカヌート指揮下の部隊が来て、全員を収容所まで連れて言った。
「アイメリク議長、ルキアさん、エステーノさん、ちょっと飲み直しませんか?」
ペッコは、応接間で飲みながら話す事にした
「一体全体何が起きたんだが、今までは何もおかしな事は無かったんだが」
「そうですね、全員がほぼ同時におかしくなるなんて……」
「ああ、伯爵達もあんな事を言い出す様な奴じゃ無かったが、だが待てよ俺が皇都を捨てる前に話した
スレイヤー騎士団の連中もあんな感じだったと思うぞ」
「そうだね、そう言えばテンプル騎士団の騎士達も同じだったな、急にエルフ族がどうのと言い出した奴も居たな」
そこまでの話を聞いてペッコは思い当たる事がある、席を外して書斎に行き一冊の本を持って戻ってきた。
「皆さんはこの本をご存知ですか?」
「なんだそりゃ?『エルフ優性生存説』だと、俺は読んだ事無いな、読もうとも思わんが」
「ああ、その本なら私達のいた宿舎に山積みになっていたな、暇だからみんな読んでいたが」
「私たちの女性用宿舎にも有りましたね、でも内容はつまらない物でしたが」
ペッコはみんなにこの本には魔法が仕掛けられていて、どうやら読んだ者に何らかの影響を及ぼすのではないかと言うことと、現在錬金術ギルドと呪術士ギルドでその魔法の解析をしている事を話した。
「なるほど、つまりこの本を読んだ奴は頭がおかしくなるって事だな」
「だが、それなら何故私やルキアは平気なんだ?」
「うーん、ペッコその本貸してくれ俺も読んでみる、俺がおかしくなってもお前ならなんとかなるだろ?」
「嫌ですよ勘弁してください、頭の変な人の相手って普通でも大変なのに蒼のドラゴン・スレイヤーなんて、命が幾つあっても足りませんよ」
とペッコがそう言うと、重苦しかったその場の雰囲気が少し和らいだ。
「お、ここに居たか、なんか大変だったみたいだな」
「あれ先生?」
「なんだよシ・ロンの旦那、自由都市の市長がなんでここに居るんだ?」
「仮の市長な、今日ちゃんと正式な市長を決めたから、俺はお役ごめんだ、アイリと一緒に戻って来たから、またよろしくな」
(あ、この人も丸投げ派なんだ)
とペッコは仲間を見つけた様な気がした。
「なるほどそんな事があったんだな、本と言えば、本に妖異が隠れていたなんて事もあったしなぁ、落ち落ち読書も出来ないな」
とペッコから状況を聞いたシ・ロンは昔を思いだしてそう言った
「先生、その妖異が本にって何の事何ですか?」
「ああ、前にアイリが妖異に身体を乗っ取られそうになった事があってな、低地ゲルバニアの『知の街』……今は廃墟になっている知の都の植民都市だった所だが……の『幻影図書館』で参考になる本を探した事があってな、その時に知の都の連中が残した妖異が憑依した本が山ほどあって苦労したんだよ、まぁそんな奴らだから、この本に何か魔法が仕込んであっても俺は驚かんな」
ペッコ=義氏はゲーム内でこの図書館に何度も行っている、ここはダンジョンになって居て確かに本のモンスターが山ほど居る所だった、そしてシ・ロンもどうやら知の都に対してあまり良く思って無い様だと思った。
「なあ、ちょっと思ったんだけど、お前達が居た収容所ってやけに監視が緩く無かったか?」
「そうかな? でもそう言えば最初は守衛ももっと人数が居たな」
「それって、もしかしてお前達が逃亡しない、いや逃亡しようとしないと言う事だったんじゃ無いのか?」
「そう言えばアイメリク様は何度か逃亡の話をしていましたが、伯爵達や他の騎士達に反対されていましたね」
「それって、その時点からみんなある種の洗脳状態に有ったって事じゃ無いのかな?」
「なるほどね、その可能性は高いな」
「あれ、そうすると一緒に連れてきた守衛達も危ないんじゃ無いのか?」
「あ、そうですね、直ぐに手配して、宿から出さない様にしますね守衛達は武装解除をしてますから、まぁ安心かと思いますが」