……初陣……
第二章 初陣
「父上、お呼びですか?」
ペッコが父のコテージに入ると、どうやら来客の様だ。
一人は顔馴染みの不死隊の大尉、そしてもう一人は漆黒の鎧に身を包んだ人族の冒険者風の男で彼の脇には大剣が立てかけられている。
ペッコ=義氏の記憶からその男が『ダークナイト』でゲーム内では『流星』と呼ばれているプロモーションムービーに登場するャラクターだと言う事がわかる。
「流星、これが俺の長男だ、ペッコ挨拶をしなさい」
「初めまして、ド・オドの嫡男、ド・ペッコです」
ペッコは男に右拳で左の胸を叩く様にする不死隊風の敬礼をしてから頭を下げた。
「君がベッコ君か、強いそうだな、俺は流星、見た通りの冒険者だ」
「父上、流星殿とはあの流星殿ですか?」
(知っているけど知らないふりをする方が良いよな)
「ああ、そうだ、『砂の都の英雄』今では『エウロパの英雄』と言われている流星だ」
「英雄と呼ばれるのは好きでは無いんですけどね、君の父上には昔、色々と世話になったんだ」
そう言って流星は苦笑いをした。
「それで父上、要件とは?」
「ああ、『砂の都』の女王の指示で、黄金平原に不死隊の二個大隊が派遣されるそうだ、流星も仲間と一緒に参加するそうでな、それで我がド族に参加の要請があった、お前は俺の代理として三人ほど連れて参加してくれ人選は任せる」
「はい、喜んで」
(へぇ、このタイミングで数年前の拡張パック5のメインクエストが来るのか、知らない所でこの世界のメインクエストは進んでいるんだな……って事はこの流星がプレイヤー扱いって事なのかな?)
これはペッコの実質的な初陣になる、今までモンスターと呼ばれるサンド・ワームやサンド・ドレイク
などを狩って来たが実際の戦闘に参加するのは初めてだからだ。
「ペッコ、剣は俺の剣を持っていけ、俺の代理だからな」
「はい、父上、ですが従兄達はよろしいのですか?」
「あいつらには補給部隊を任せる事になっている、あの腕で戦場など死にに行く様な物だからな」
父は辛辣だ、そこに流星が口を挟む
「オドさん、貴方を信用しない訳では無いのですが、ペッコ君の実力、試させてもらっても良いですか?」
「そうだな、息子が俺に代わってあんたの背中を任せるに相応しい所を見てもらおうか、ペッコ良いな?」
「はい、父上」
ペッコは父の愛剣『シャムシール』と『カイトシールド』を手にして流星と向かい合う。
(さて、ゲーム内での英雄って事だから強いだろうなぁ、全力で当てっても大丈夫かな?)
「では!」
とペッコは剣を立てて顔の前に上げた後右斜めに振り下ろす剣礼をしてから、剣を構える。
流星もそれに合わせて、大剣を同じ様に軽々と扱って剣礼を返してから、身体の前で構える。
ペッコは跳躍すると盾で流星の大剣を弾く様にして、そのまま騎士の基本攻撃「ファーストブレード」からの三連撃を試してみた。
流星はそれを全て大剣で受けると、今度は剣を振るって「スラッシュ」から「ストライク」の
連撃で攻撃してくる。
今度はペッコがその攻撃を盾でそらす様に受けた。
そこで、流星は構えを解いた。
「期待通りだな、合格だ、オドさんペッコ君はもうあんたより強いかもしれないぞ」
「ああ、そうかもな、俺もそんな気がしている」
父は笑いながらも少し寂しそうに答えた。
「ペッコ君、準備をしておいてくれ、明日の朝には飛空艇が迎えに来るからな」
「はい流星さん」
ペッコは母と暮らしているコテージに戻ると、数日分の着替えをダッフルバッグに詰めた。
それから、同行者を誰にするか考えて、姉の中でも一番弓の腕が良いラルカと従姉で槍の名手で狩の乙女と言われるラマナ、癒し手のラタロの三人を同行させる事にした。
三人が居るコテージを訪ねて事情を話すと、三人とも、
「族長様の指示なら当然従うわ、ペッコ初陣だね一緒に頑張ろう」
と言ってくれた。
その夜は壮行会も兼ねての久しぶりの豪華な食事になり、酒も振る舞われて賑やかな宴になった。
「しかし、このオアシスに最初に来た時には酷い目に遭いました」
少し酔った流星がそう言うと
「なんでだよ、ちゃんと任務に協力して、珍味を揃える手助けをしてやったじゃないか」
とこれも酔ったオドが答える。
「いや、だってその為に変なお使いをさせられて、狩を手伝ったり……あ、そう言えばあの時の娘はどの人なのかな?ちゃんと一人前の狩人になれたのかな?」
「カズナの事かな、ああ立派な弓使いになったぞ、そうかあれも流星が色々と教えてくれたんだったな、そうだ、嫁にどうだ?」
「前もそんな事言われましたよね、全く変わって無いなぁ、変わって無いと言えば、クバ君とチャカ君はあれからずっとここに居たんですか?僕は旅に出る事を勧めたんですけどね」
「ああ、二人ともここにずっと居る、クパは屁理屈ばかりだし、チャカは能天気だし、困った物だ」
オドは苦虫を噛み潰した様な顔になった。
二人が流星の勧めにも関わらずずっとこのオアシスに居るのは簡単な理由からだ、自分が居ない間に
ライバルがオドの後継者に指名されたら困るとお互いに思っているからだ。
「……今のうちに旅をして腕を磨き見聞を広げる事が次の族長として重要なのだが、それがわかって無い」とオドの愚痴が続く。
「それならペッコ君は早々に旅に出した方が良いですね、なんなら僕がこのまま連れて行いきましょうか?」
「おいおい、まだ12歳だぞ、16歳までは親の管理下にあるってお前だって知っているだろう」
「あ、そうでしたね、あの強さで12歳かぁ……先が楽しみだなぁ」
二人がそんな話をしているとは知らずペッコは姉達に囲まれて、転生後の人生初と言っても良い豪華な食事を堪能していた。
そしてクバとチャカはそれぞれの取り巻き達(異母姉妹)に囲まれて酒を煽っている。
「だいたい、なんで子供のペッコが族長の代理なんだ、本来は俺の役目だろうに」
「あら、でもペッコの方が強いのはみんな知ってますからね、それは仕方無いですよ、いいじゃ無いですか危険な仕事はペッコに任せて私達は安全な補給任務をこなせば良いのですから」
「それもそうだな、しかし気に入らない」
と、二人とも珍しく意見が一致している様だ。
二人にはそれぞれの取り巻き達を連れて、ペッコ達が出発した後に不死隊の輜重兵を護衛して補給物資を黄金平野まで運ぶ任務が与えられている、クバは特にそれが気に要らないのだった。
翌朝、オアシスの外縁に不死隊の飛空挺が着陸した。
流星とペッコ達は、オアシスの皆に見送られて搭乗する、そして飛空艇は一路黄金平原へと向かった
「オドさんは参加してくれなかったんだね」
「ああ、この坊やがオドさんの代理だ、言っておくが強いぞ」
流星が船に搭乗していた『知の都』の『智慧者』が中心となって結成された組織『黎明の血盟』のメンバー達と話している。
ペッコ=義氏は当然このメンバーの事をよく知っている、ゲームの中で何回も共闘した仲間だからだ。「初めまして、ド族族長オドの嫡男ペッコです、こっちは姉のラルカと従姉のラマナ、ラタロです」
と自己紹介をした。
「へぇ、しっかりした坊やじゃない、私はレ・シュトラ、こっちはソ・ラハ、アリスとアルフィにレッドとエンジェ、あともう一人先行しているエステーノって「ドラゴン・スレイヤー」が居るわ、よろしくね」
それぞれが片手を挙げて挨拶を返してくれる。
アルフィと紹介されたエルフ族の青年が
「既に戦闘は始まっている様で、不死隊とエウロパ連合軍が『ドラコニア族』の村を防衛している。
敵は『パペット』状態になっている帝国兵と『メガラニカ・ドラゴン』だそうだ」
と説明してくれた。
すると姉が
「敵はドラコニア族では無いのですか、私達がドラコニア族の村を守る? 何世代にもわたって戦って来たのに?」
と声を上げた。
「おいおい、流星さん、ちゃんと説明していないか?」
「あ、すまない族長のオドさんにはちゃんと言ったんだけどな、もしかしてペッコ君達は聞いて無かった?」
姉達が全員頷いた。
「仕方無い、アルフィ頼む」
アルフイは困った顔をして、全員に事情を話してくれた。
もちろん、ペッコ=義氏はゲーム内でこのクエストを経験しているので良くわかっている。
エオロペ各都市国家では、第七厄災以降の混乱と政策の大きな変更があり、今までは討伐の対象だった邪族達に対して融和政策を取る事に決めた、そこで砂の都でも対立していたドラコニア族と対話を始めた
だが、そこに現れたのがあの『塔』とそれを作り出した『逸れ過去人』が率いる『テロホラー』と言う組織だ彼らは塔のエネルギー源として邪族の生体を使用している、その為に黄金平原にあるドラコニア族の根拠地である村を襲撃した、砂の都の女王はこの状況をドラコニア族との融和政策に利用する為に派兵を決定した……と言う事だ。
そこで問題になるのが、長年ドラコニア族と対立しているド族だ、ド族は砂の都と友好関係にあるが
女王の臣下でも無いし砂の都の市民でも無い。
だから、今回の融和政策にどう対応するか悩んだオドがとりあえず代理としてペッコ達少人数を派遣、オド自身はその政策に賛成するに当たっての条件を協議する為にオアシスに残った……と言う事だ。
「そんなの納得できるわけないわ」
姉達はアルフィに対して、怒りを露わにしている。
「まぁ姉さん達、僕たちはドラコニア族の村を守る為と言うよりは、その『テロホラー』とか言う奴らと戦うって事で良いんじゃない?、もしドラコニア族が僕達に剣を向ける様ならば叩きつぶせば良いだけだし
相手は帝国兵とメガラニカ・ドラゴンなんでしょ、戦い甲斐があるよ」
ペッコがそう言うと姉達も納得した様で、とりあえずは派遣軍に協力する事になった。
「あの坊やまだ12歳だそうよ、なかなか見込みがあるみたいね、そう言えば君がアカデミーを卒業したのも12歳の時だったわね、もしかして話が合うかもね」
とレ・シュトラがアルフィに話しかける。
アルフィは船尾の方の席に座っているペッコの元に来て話しかけた
「ペッコ君、さっきは姉さん達を説得してくれてありがとう、助かったよ」
「いえ、父の指示に従っただけですから」
「所で、君が今読んでいるのは算術の魔法書だよね、君は読める(=魔法が使える)の?」
アルフィも算術士で彼の所持する魔法書は祖父から贈られたものだ。
「はい、まだ術式を構築するのは無理ですが、使う事はできます」
(ここは控えめに)
「僕の本も読めるかな?」
「お借りします……これ『ウィンドブレード』って言う術ですか、すごい魔法ですね」
とペッコが答えると、アルフィは嬉しそうに
「君とは一度ゆっくりと話をしたいな」
「はい、機会がありましたら」
そんな会話をしていると流星が声をかけた
「みんなそろそろ着くぞ、準備をしてくれ」
ペッコが甲板に上がると、竜に乗った「ドラゴンスレイヤー」が敵のドラゴン族を蹴散らしている姿が見えた。
(すごいな、まさか自分の目でこの光景を見られるなんて)
「ペッコ君達は、僕達の後方から後詰としてきてくれ、敵に遭遇したら自由に戦ってくれて構わないが
あまり無理をしないでくれよ、怪我でもされたらオドさんに顔向けができないからな」
「はいわかりました」
こうして黄金平原の戦いが始まった
ペッコ=義氏は平和な日本育ちなので、当然対人戦は初めてだ
(私に人が切れるのかな?)
と思ったが、戦場では躊躇っている暇など無かった、姉達と協力して帝国兵やドラゴン族、帝国の機動兵器を次々と排除していく。
「流石にオドさんの子供達だな、見事な連携攻撃だ」
前方で敵と戦いながらも後方を気にしていた流星が呟いた。
「姉さん、次左からドラゴン、ラマナ姉ちゃんは後に回って、ラタロ姉ちゃん防御魔法!」
とペッコは姉達に指示をしながら、流星達の後に続いて前進して行く。
「よし敵は引いたぞ、ここで陣を張る、負傷者の救護と飯の用意だ」
この辺りを指揮している「正教国」の騎士長が指示を出すと、周囲のエウロパ同盟軍の兵士たちがそれに従った。
「ラタロ姉ちゃん、僕達も怪我人の治癒に参加しよう、姉さん達は野営の準備を任せても良い?」
「もちろん任せて、無理しないで早めに帰ってきなさいね」
ペッコは剣と盾を置いて魔法書を持って、幻術士の杖を持つ従姉のラタロと一緒に負傷兵が集められているテントに向かった。ここには連合軍の兵士だけでは無くドラコニア族の負傷兵や、怪我をした子供の姿もあった。既に、レ・シュトラ、ソ・ラハの二人が各隊の癒し手を指揮して、それぞれの治癒魔法で回復に当たっている
「僕達も手伝います」
ペッコはそう言うと『妖精』を召喚した、妖精は召喚できる使い魔の中で治癒、回復、防御に特化した
存在で、算術士の上位職『召喚術師』とは別の上位職『篤学者』の使う使い魔だ。
そして回復力を高める『野戦治療陣』を自分を中心として展開して、従姉と一緒に重傷そうな兵から癒して行く。
「なあシュトラ、あの坊やが使っている魔法ってまさか?」
「そうね、「海の都』の『黒潮団』が秘蔵している『篤学者』の魔法ね、オドさんは元は海の都の傭兵団にいたから、その繋がりで教わっていたのかしら? しかもあの魔法書、かなりの年代物よ、知の都アカデミーの図書館でもお目にかかれない様な物ね、どこで入手したのか興味があるわ。それにしてもあの子すごい量のエーテル力ね、森の都の『角神』に匹敵するかもね」
レ・シュトラは視力を失っている、その代わりにエーテルの流れを知覚する事で周囲を「視覚的に」判別する事がでた、だからペッコのエーテル量が体感できるのだった。
「すまないな、癒し手が足りないから助かるよ、だが『黒潮団』の担当は西側だったはずだけど、君はどこの部隊の所属なんだ?」
と『正教国』の騎士が聞いて来た。
ペッコが使う魔法が算術でしかもいつも着ているタパードが赤色な事もあって、どうやらペッコの事は『黒潮団』の団員だと勘違いされたらしい。
「その坊やは私達と一緒よ」
とシュトラが言うと、騎士は納得が言った様で、敬礼をして持ち場に帰っていった。
だが、そこに大型のドラゴンが襲ってきた、ドラゴンは口から紫色の炎『デッドフレア』を
吐いて攻撃してくる
「デッド・バハムートだ!!」
デッドフレアの攻撃で、陣地の上の岩山が破壊され大量の破片が降り落ちて来て兵士達から悲鳴が上がる、ペッコは咄嗟に使い魔『熾天使』を召喚すると最強のバリアー『ポゼッション』を展開して、周囲の負傷兵と癒し手達を守ったが展開が一瞬遅れて数人が破片の被害を受けてしまう、ソ・ラハもレ・シュトラに覆い被さる様に庇って破片の直撃を脚に受けてしまう。
ペッコは従姉にソ・ラハの治癒を任せると、自分はデッド・バハムートに立ち向かう。
「もうこれは、隠している状況じゃ無いな」
そう呟いてから最強の使い魔『サン・バハムート』を召喚、サン・バハムートはデッド・バハムートに次々と強力な攻撃を浴びせ続ける。
「なんなんだあれは?、あの坊やが操っているのか?」
と兵士達の怯えた声がする、そして、闇竜「ティアマト」とそれに乗った「ドラゴンスレイヤ」エステーノが参戦してくる。
デッド・バハムートは堪らず、後退すると大地に降り立った、羽を損傷している様で、飛べない様だ。
「今がチャンスだ、動ける奴は全員で行くぞ」
騒ぎを聞いて駆けつけた流星が叫ぶ
ペッコの使い魔サン・バハムートは強力な攻撃力を誇るが、短時間しか召喚できず、一度召喚してしまうとしばらく時間を置かないと再召喚できない欠点があった。
なので、ペッコは魔法書を閉じると
「ラハさん、すみませんその杖お借りして良いですか?」
ラハの杖は特殊なクリスタルを使用した、白魔法と黒魔法の両方に対応した杖だった。
「え? 君、使えるの?」
脚を岩で強打してまだ動けないラハが驚いてそう言うとシュトラが
「大丈夫、その坊やなら余裕で使いこなせるわよ」
と言ってくれた。ラハは杖をペッコに差し出して
「一品物だからな、壊さないでくれよ」
と、まだ少し躊躇っている。
「ありがとうございます」
杖を受け取ったペッコは既に戦闘を始めている流星の元に駆け寄った、そして自分の足元に魔紋を召喚すると
「いけー」
と叫んで、『ファイジャー』を連発する、そして黒魔法士の奥義『メガ・メテオ』を放つ。
それに合わせる様に、流星とエステーノの攻撃がクリーンヒットして、デッド・バハムートはエーテルの輝きと共に消滅した。
「おい、小僧やるじゃないか」
エステーノが握手を求めて来た。
「全く、お前、期待以上だったぞ」
と流星が背中を叩く。
少し離れた所で見ていたラハとシュトラは
「なぁ、あの子なんで俺の杖が使えるんだ?、飛空艇の中では確か騎士だったよな?、騎士で算術士で魔法士?、そんなの有りなのか?」
「ラハだって、騎士で魔法士でしょ、でも流石に違う系統の魔法をこうも完璧に使うとなると末恐ろしいわね、私だって魔法と算術の両立は難しいわ、まるで魔法の王、子供だから王子、魔王子とでも呼べば良いかしら」
「魔王子ね、それだと悪役みたいだけど」
「それもそうね」
と笑いあっている。
「あの、この杖ありがとうございました、凄い力なんですね、魔力がすごく強化された感じでした」
そう言ってペッコが杖を捧げるよにしてラハに返すと
「いや、俺でもあのサイズのメテオは余程調子の良い時じゃないと無理だ、君本当に凄いね」
「そうね、あなた、早く大人になって知の都に来なさい、アカデミーでもっと色々な魔法を学べるわよ」
「そうですね、それも楽しいかもしれませんね」
とペッコは愛想笑いで答えたが、本人にはそのつもりは無い、ペッコ=義氏がゲーム内の知の都の事を
あまり好きでは無かったからだ。
「おいみんな、なんだよ軍議に参加している間に勝手に祭りを終わらせて、大物を討滅しちゃったそうだな流星、酷いぞ!」
「そうよ、私の見せ場が無いじゃない」
「見事なメテオでしたね、あれはラハ殿の技でしたか?」
「みんな怪我は無いかい、あラハ、大丈夫なのか?」
と『黎明の血盟』のメンバーは賑やかだ。
(この人達ももう少し堅苦しい感じだったと思うけど)
結局、デッド・バハムートが倒された事で、『テロホラー』の兵士とドラゴン達もそのまま掃討されて
黄金平原防衛戦は終了する事になる、
そして、ペッコ達はドラコニア族の酋長と始めて面談する事になった
ドラコニア族は遊牧民で、羊やトカゲと共に暮らしている。人間の歴史で考えると、採集・狩猟→遊牧→牧畜農耕と文化度が上がりそれに比例して人口も増えていいく、だから今だに砂漠で採集・狩猟の生活をしている『ウェアキャット族』のド族がドラコニア族によって駆逐されるのは自然の摂理でもあるのだと『義氏』は知っている。
だからペッコ=義氏は、砂の都の融和政策や父の考えとは別に将来ドラコニア族と共存する方法を色々と考えていた。
今回の派遣に喜んで参加したのは、その足掛かりにしようと思ったためでもあった。
酋長は武人らしく
「我らは砂の都の民と長らく刃を交えてきた、にもかかわらずこの度の救援……
感恩報謝、心より感謝いたす。ヒトの軍勢にも、数多の犠牲が出たことであろう。 我らドラコニアは、武人の民……流れたる血は決して忘れない。 必ずや、その恩に報いよう。
此度の戦をふまえるに、我が一族を拐っていったのは、 お主らではなく帝国の手勢であろう。 その事実を同胞に伝えれば……我は、ここに誓おうぞ。 お主らと志をともにできる者を、 ひとりでも多く探しておくことを……!」
と短く言葉を述べた。
ペッコは
「酋長、私はド族族長オドの嫡男ペッコ」
と名乗りを上げた。
酋長はペッコを見ると
「ド族のオド、竜虎相搏 好敵手だったが壮健か、深情厚誼 お主がその息子か、その若さで古の破壊の術を使いこなすとは先程の戦い見事だ」
とペッコにドラコニア族の武人の礼(ドラコニア族では最高の敬意を表す礼)をするとその場から立ち去った。
(とりあえず、顔繋ぎはできたからそれで良しとしよう)
答礼の姿勢のままでペッコはそう思った。
その夜は野営陣地で粗末な食事を済ませて、翌朝、不死隊の飛空艇でオアシスまで送り届けてもらった。
「ペッコ君、俺たちは女王への報告があるからこのまま砂の都まで帰るけど、また近いうちに会えると嬉しいな、お父上にもよろしく伝えてくれ」
「はい流星さん、またどこかで」
飛空艇を見送ったペッコ達はオアシスに帰りついた
「ペッコ頑張ったね、久しぶりに背中流してあげようか?」
姉にそう言われて、尻尾がピンと真上に立ってしまって、従姉達に笑われた。
「体は大きくなってもまだ子供なのね」
と従姉は言うが、実は違うのを絶対に言葉には出せないと思ったペッコだった。
「父上、ただいま戻りました」
ペッコは姉達と一緒に父のコテージに入った。
「皆んなご苦労だったな、話は不死隊から聞いている、活躍した様だな、しかしペッコお前が魔法の訓練をしていたとは知らんかったぞ」
「はい、ありがとうございます、昔算術士のリドさんから貰った魔法書が役に立ちました、それで父上の方の御首尾は?」
「そうか、そう言えばそんな事があったな、しかしお前気がついていたのか、その話は後でゆるりとしよう、祝宴の用意をさせるから着替えてくると良い」
「はい、父上」
ペッコ達はとりあえずオアシスの中の水浴び場の池に向かった。
そして、嬉しい事に今日は本当に姉達が背中を流してくれたのだった。
このオアシスには石鹸やシャンプーなんて物は存在しないから、水に浸けたタオルで洗うだけだが
それでも戦場の返り血や、帝国軍の兵器から飛び散った油や気油を落とせるのはありがたかった。
「ほら、ペッコ前を向いて」
「良いよ姉さん、前は自分で洗う」
「何言ってるの色気づいて、ちょっと前まで私が洗ってあげていたじゃない」
と姉達は笑っている。
(本当は洗って欲しいんですけどね、子供の頃と違ってまずい事になっちゃいますから)
義氏の記憶もあって、姉達の全裸などを見たら今のペッコは自然に男性の機能が反応してしまうのだった。
なんとか、姉達の攻撃を凌いだペッコは、ド族の民族衣装に着替えて、部族の集合場に向かった。
「きたな、ここに座れ」
とペッコは父の隣に座らされた、遠征に参加した姉達はペッコの横に並んで座る。
宴の席には、不死隊の隊長初め士官、下士官達が招待されて、二人の従兄は自分たちが末席なのが気に入らない様だ。
遠征に参加しなかった姉や従姉、オドの妻達は、料理の支度や配膳などで忙しく働いている。
ペッコがテーブルの上を見ると、用意された料理はいつものドレイクの肉ではない様で、良い香りが漂ってくる。
オドが立ち上がって
「この度の遠征大義だった、特にペッコは大敵『デッド・バハムート』の討滅に多大な功績があったと女王自ら感謝のお言葉を頂いている、我が部族の武名を高めた事あっぱれな働きだ、ラルカ、ラマナ、ラタロ良くペッコを助けてくれた礼を言うぞ、そしてクパとチャカも補給物資の護衛任務を見事にこなしてくれた、両名にも不死隊から感状が届いている。みんなご苦労だった、今夜は我が部族に伝わる古の宴の料理を再現してみた、皆楽しんでくれ」
こういう席での長い挨拶は嫌われる、オドはそれを弁えている様だ。
「では、不肖私が、乾杯の音頭を取らせていただきます」
不死隊の隊長が立ち上がると、酒の入ったグラスを高々と掲げて
「乾杯!!」
と叫んだ。
「美味い!!」
ペッコ=義氏は歓声を上げる
この酒はペッコが作り方を母達に教えて麦から作った発泡酒エールで、今夜が初のお披露目だった。
「まさか、こんな美味いエールがオアシスで飲めるとは思わなかった」
父も上機嫌だ
「父上、この肉は?」
(ジンギスカンみたいな匂いがするから多分マトンかラムだろうな)
「これが羊の肉だ、我が部族は元々この羊を狩って暮らしていたのだ、だから羊を放牧しているドラコニア族と争いになった訳だがな」
原始的な世界では食物の奪い合いから部族間の抗争に発展する、ド族とドラコニア族が戦う事になるのは当然の結果だった。
宴は夜中まで続き、オドやチャカは酔い潰れて寝ている。姉や従姉達もあられも無い姿になっている。
(こう言う所は、ファンタジー世界のドワーフみたいだな)
とペッコは苦笑した。