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第十八章 境樹と森


 第十八章 境樹と森


 森の都に戻ったペッコ達だが、当然ながらペッコは『幻術王』などに成るつもりは無い

だが、森の妖精の意思を何よりも重視する、カヌ・エ達元角神と、幻術士達はそれで納得する訳も無く

話し合いは平行線だった。

「どうだろう大佐この話はとりあえず一時保留と言う事で、当面の課題、『自由都市』の開放と、正教国……もう連合王国は実質存在しないからな……の件が片付いたらまた検討すると言う事にしてはどうかな?」

と助け舟を出してくれたのはアルディン大将だった。

「そうですね、それは良い考えだ」

とブレイド元帥も賛同してくれたので、取り合えずペッコが森の都の幻術王になる話は一旦保留となった。

「では、我々は塩の都に帰還する事にしよう、ピピン全軍に帰還の準備をさせてくれ」

「はい父上」

「ブレイド元帥、少し二人で話せないか?」

と言う事で、ブレイドとアルディンは、臨時に設営された、ブレイドの天幕で二人だけの会談をする事になった。

 「それでは、ペッコ大佐、私たちも少しお話をいたしましょう」

と、ペッコはカヌ・エから言われて、渋々ながらも今後の「森の都」についての話をする事になった。

「カヌ・エ・セナ様、お話の前に許可を頂きたいです事が一つ有るのですが、『ガリアニア』の全てのウェアキャット族の族長と家長の方々を、集めてもよろしいですか?」

「はい、それは先程の森の妖精の意思を伝達する為ですね」

「あ、いえ。それよりも、保護をしたウェアキャットの少女達を親元に返してやりたいです、衰弱していてあまり動けない子もいるので、いっそ親御さん達に迎えに来てもらおうかと」

 ペッコがそう言うとカヌ・エは微笑んだ

「御優しいのですね、わかりました、もし人手が必要なら妹達に手伝わせます」

「ありがとうございます」

「それで、本題ですが、国としての『森の都』は今は瀕死の状態です、人口の40%を占めていたエルフ族が追放されて、残りの40%だった人族もこの度の動乱で1/3以下になってしまっています、なので今後はウェアキャット族の方々に国を任せると言う事になります、何より妖精の意思が森の『守りし者』はウェアキャット族と言う事ですから、大佐が幻術王になられるなられないに限らずこれは決まった事です。そして以前は私に協力してこの国を支えてくれていた双樹党も今は無く、幻術士の皆様も残っている方は僅か、これでは国として成り立つのは困難かと思います、大佐そこの所を良くお考えいただければと思います」

「はい、幻術王のことは別にして、今森の都に必要な事、秩序の回復、正教国の再侵攻に備え、その他の事は、我々連合軍の責任で対応させていただきます」

「よしなにお願いいたしますね」

「あ、そうだ、連合王国に傀儡として選出された女王というのはどなたなのですか?」

「角神として、幻術士ギルドで修行中だった少女で、カルロッタ・ガッティと言います、おそらく彼女も角神の力は失っていると思うので、正教国でどの様な扱いを受けているのか心配です」

 ペッコは心の中で(ああ、あの子か)と思った、ゲーム内の白魔法士のクエストで登場したNPCの少女だったからだ。

「いずれ、正教国に行きその子も救出しないといけないですね」

「お願いいたしますね」

「一つお伺いしたいのですが……その何と言うかこうなる予兆みたいなのは有ったのですか?」

「いえ、私も突然の事で何も手を打てない内に、幻術士ギルドの見習い幻術士達を人質に取られて

やむなくと言う事です、本当に前日まで普通に話していたエルフ族の双樹党の将兵や幻術士達がまるで人が変わった様になって私にには理解が追いつかない出来事でした」

「そうなんですか、どうも釈然としない話ですね、ああそうだこの本はご存知ですか?」

「『エルフ優性生存説』ですか、存知ませんが、これが何か?」

「皆様が幽閉されていた獄舎に大量に残されていたので、何か関係があるのかなと思いまして」

「大佐はお読みになったのですか?」

「いえ、まだです、題名を見ただけで読む価値も無いと思ったので、でも暇になったら目を通して見ようと思います」

「そうですか、こちらでも生き残った幻術士達に色々と聞いてみますね」

「それと、双樹隊隊長ベルテナン大将と言う方をご存知でしょうか?」

「ベルテナン大将ですか、森の都の旧守派の筆頭の様な方でしたが?」

「この男が、どうやらウェアキャット族の少女を誘拐監禁、売買をしていた元凶の様ですね、救助された少女達はこの男の家で監禁されていました」

「そんな……」

カヌ・エは力なく肩を落とした

「では失礼いたします」


 カヌ・エとの会談を終えてペッコの妻達のうち、ガリアニアの出身者はそれぞれの父親である族長を森の都まで連れてくる事になり、その際に知己の族長達にも声をかけてくれる様に依頼をした。

 ザラ達も、家長の母とその知人の部族達に声をかける為に都を離れた。

そして、ペッコは北の森と正教国との国境を監視するべく、ダルシス大佐以下の第二大隊とドラコニア族の大隊1000名を派遣する事をブレイドに進言した。

「元帥、大将と何を話されたのですか?」

「ああ、今後の三国の関係とか色々だな、お互いやる事が多くて大変だって話だ」

 元々ブレイドは、剣士としてアルディンを目標としていて尊敬もしている、だから思想や政治に対する姿勢が似ているのかもしれない、この数日で親友と言うか兄弟分の様な関係になっていた。

 遠征軍は、森の都の治安を維持する部隊を残して、一度帰還する事になり、ペッコ達赤魔法士部隊は

ウェアキャット族の族長達が集まるまで、しばらく森の都に滞在する事になった。

 妻達が出かけた後、残ったのは自由都市出身のレイヤとヘリア、トラキア辺境地帯出身のスリマの三人だ。

「王子、ちょっとお話が」

とスリマとヘリヤがペッコの所にやってきた

「何かな?、二人とも真剣な顔で」

「あの、助けた女の子達ですけど、私達の時の事をお忘れでは無いですよね?」

「どういう意味?」

「小さい子達は大丈夫なんですけど、少し年上の子達の中には、もう汚されてしまった子が何人か居るんです、この子達が部族に返されても辛い思いをするだけでは無いかと思って」

「ああそうか、その問題があったね、では親御さん達と会わせた後で、その子達が希望すれば、エニアゴンに連れて帰ろか、それでどう?」

「はい、王子ありがとうございます、みんなに伝えてきますね」


 そして、数日後に、ガリアニアで暮らしているウェアキャット族のほぼ全ての部族の長が森の都に集まった、旧双樹党の大会議室にペッコが入ると、族長達は全員が起立してペッコを迎えた

「皆さん、椅子に着席してください」

と言って、全員が着席するのを待って、自己紹介を始めた。

「殆どの方は初めてお目にかかりますね、私は砂の都国軍の魔法士大隊を預かる、南ジャズィー北のオアシスの族長、ド・ペッコ・パトと申します、この度は急な呼びかけにも関わらずおいでいただいてありがとうございます」

とペッコが言うと、この中で一番年長らしい族長が、起立してペッコに向かって

「北の森の族長 シ・ベナ・パトだ、僭越ながら皆を代表して礼を申す、大佐殿には、娘達の命を助けていただいて感謝する、それで此度我らを呼び寄せた訳をお聞きしたい、ご存知だと思うが、我らは皆

この都の者共に良い感情を持っていないのでな」

「はい、来ていただいたのは、そのお嬢様達の事です、この都で人買い捉えられていたお嬢様達を無事に親御さん達にお渡しする事がまず第一です、治癒はしましたが、かなり衰弱が酷い方もおりますので

一刻も早くご家族の元にお返ししたかったのです」

「それは、重ね重ね、ご厚情に感謝する、しかしそれだけの為に呼びつけた訳ではあるまい、我が娘ロヌルの言によると大佐殿は、森の妖精と話をされたそうだが、それは本当の事なのか?」

「はい、その通りです、私はエ・スミ・アン様の遺言に従い、カヌ・エ・セナ様と共に『長老の樹』に赴き、そこで森の妖精と対話をいたしました、これより森の妖精の言葉を皆様にお伝えいたします」

 ペッコがそう言うと全員が、椅子から降りて、床に跪いた。

「森の妖精はこう仰いました『これより汝らウェアキャットがこの森の守りし者となるが良い』とのことです、そして私はその証としてこの力を授かりました」

 そこで、ペッコは被っていた赤魔法士の帽子を脱ぎ、全員に額の三本の角を見せた。

「なんと、そのお姿は、角神様」

「おう、我らウェアキャットから角神が、これはめでたい」

とみんなが、驚いた後で喜んでくれている。

「そんな訳なので、これからはここにお集まり頂いたウェアキャット……ノクターナル族もダイアーナル族も一緒に森を守って行く事になります、皆様ご協力をお願いいたしますね、そしてこの場に来られなかった部族の長の方にもお伝えください」

「はい、角神様、我ら一同肝に銘じて森をお守りいたします」

「ありがとうございます、具体的な事はまた後ほどお伝えいたしますので、当面は今まで通り森の保護をお願いします」

「心得ました」

「では、これで解散とします、メインクリスタル前の野戦病院にお嬢様達は保護しています、私の妻達が

居ますので、もしご質問があれば、そちらでお願いします、それと申し訳無いのですが、シ・ベナ殿、ソ・フル殿、ミ・エル殿はお残りいただけますか?」

 残った三人の族長にラ・ライルがすれ違いざまに

「驚くぞ」

と愉快そうに声をかけて、自分の知り合いが居ないか野戦病院に向かっていった。

「さて、公務はここまでです、これからはプライベートな話になるのですか、御三方のお嬢様ロヌル、ヒルド、カーラの事なのですが」

三人はお互いに顔を見渡して

「娘が何か?」

「お嬢様達から、私が奴隷商人からお嬢様を助けた事は聞いていただいてると思いますが、縁もありまして、この三人には私の妻になってもらっています、本来は族長である皆様の許可を得るのが先なのですが

連合王国とは交戦状態だった事もありご挨拶ができずに事後報告になってしまった事をお許しいただきたい」

とペッコは頭を下げた。

「つまり、うちの娘が角神様の嫁になっている、と言う事ですか?」

とシ・ベナは先ほどとは口調も違い、少し恐れ多いと言う表情で答えた

「はい、そうです、結果的にそういう事になります、族長の皆様婚姻の許可をいただけますか?」

と言うペッコの問いに全員が歓喜の表情を浮かべて

「もちろんです、これは一族の誇りと言っても良い事です、なぁみんな」

「はい、娘を選んでいただいて、感謝いたします」

「不束な娘ですが、よろしくお願いいたします」

と言うことで、これでペッコは妻達全員の父親から公式に婚姻を認めてもらう事になった。

「では、皆様、一緒に野戦病院の方に参りましょう」

 ペッコ達が病院の天幕に着くと、すでに殆どの少女達が父親や母親と無事に再会できている。

「あ、王子、残っているのはあと2人です」

「どうですか、皆様のお知り合いでは?

とペッコが尋ねると、

「この子は、中の森のソ族に嫁いだ私の妹の娘だ、ヘレナ、私だ叔父のソ・フルだわかるか?」

「叔父上?なのですか?」

「ああ、そうだ、お前達の部族は……お前達の部族は……すまん」

「ソ・フル殿、どういう事ですか?」

「中の森はエルフの勢力が強くてな、最初に我らに迫害が始まったのがここだ、そして中の森のソ族は

……皆殺しにされてしまったと聞いている、私の妹も含めてな」

「そうですか、それは……」

「角神様、この子は私が引き取ろう、妹の忘れ形見構わないだろうか?」

「叔父上お待ちいただけますか、私も中の森の狩人です、聞けばド・ペッコ大佐には、多数のウェアキャットが戦士としてお仕えしていると聞きました、私もその末席に加えていただいて、父母の仇を討ちたいと思います、わがままをお許しください」

「そうか、その物言い妹にそっくりだな、良い、お前の好きな様にしなさい、だが無理はするなよ」

「はい、叔父上」

「角神様、姪の事お願いしても構わないだろうか、娘も世話になっているのに心苦しいが」

「いえ全然問題ありません、姪子さんソ・ヘレナ・カイさんの事お任せください」

 もう一人ミ・ヴォル・オンも結局部族が違うだけで状況は同じ一族を全員殺された者だった。

そして、他にも例の事情で、自分の部族に帰るのを拒否したシ・リブル・リムとレ・ロータ・ランの2人も併せて、結局4人をエニアゴンに連れて帰る事になる。

「道士様、いえ角神様」

とザラに呼ばれて振り返ると、そこにはゼラが連れてきたノクターナル族の家長の女性が数人いる

「これはゼラ殿、丁度良いですこれから伺おうと思っていた所です、エ・スミ・アン様の墓前に御報告にと思いまして」

「そうですか、こちらは私の古くからの友人で、『イェン・アマヨ』と『サウラ・リーゼ』『ジオ・アリア』

です」

「角神様、先ほどはちゃんとご挨拶もできずに申し訳ありません」

と3人のノクターナル族の女性はペッコに頭を下げる、いずれザラやペッコの母と同じ世代の女性だ。

(あ、なんか嫌な予感がする)

とペッコは思ったが、この状況では逃げるわけにはいかない

「3人にうちの娘の事を話したら、彼女達のお嬢さん達にも会って欲しいとの事なの、お時間を作っていただけますかしら?」

「はい、では色々と片付いたら、皆様の里にお邪魔させて頂きますね」

「まぁ嬉しい、角神様、お待ちしていますね」

と言う事になってしまった。

(これって、最悪森の都のノクターナル族全部の娘と契らないといけなくなるって事か、ジンギスカンじゃあるまいし、まぁ仕方が無いかなる様にしかならないし大事な事から済ませよう)

 ペッコは残った少女達の護衛として、スリマとヘリヤを残して 5人の妻達とゼラと一緒に東の森を訪ねた。

 エ・スミ・アンの墓に詣いると、跪いて対話をする様に語りかけた。

「僕はこの後どうすれば良いのでしょうか、あなたには角神として僕を導いて戴きたかったです」

 そして

「僕が妖精から頂いた力です」

と、創造魔法を使って、初めて生物……八重桜の木……を錬成した。

ペッコの好きなこの桜の木がエ・スミ・アンへの手向けに丁度良いと思ったからだ。

「まぁなんて綺麗な……」

 季節的には少し外れたが、満開の花を付けた八重桜を見て、妻達もゼラも感動している。

「見事だ、新たな守りし者よ」

 ペッコの頭の中に妖精の声が響いた

「我が授けた力で森に新たな命を生むとは、我の見込んだ通りだ、この後はこの『木』を新たな契約の木として、森を守ろうぞ」

と言う事だ

(えっと、つまり切られてしまった各地の森の『境樹』の場所に八重桜を植える=錬成すれば良いのかな)

と心の中で考えると、

「その通りだ、守りし者よ」

と愉快そうな声が聞こえた。

「ゼラさん、今妖精の声が聞こえました、この木を新たな『境樹』とするそうです」

「そうですか、それは素晴らしいです、我が一家が全力を上げて『樹』をお守りいたします、もう二度と切らせる様な事はさせません」

と真剣な表情で答える。

「ありがとう、それで他の森にもこの木を植えないといけない様です、場所はわかりますか?」

「もちろんです、ザラ角神様、いえ幻術王様をご案内しなさい」

「はい、お母様」

(あ、幻術王は勘弁して欲しいなまだ引き受けたわけでは無いんだけど)

 こうしてペッコは、北、南、東、中央の四つの森に八重桜の樹を植えて、一度森の都に戻った。

(ああ、美味しいコーヒーが飲みたいなぁ、女将さんのクランペットが恋しい)

等と、野戦病院として使用していた天幕の中で、妻達とくつろぎながら、ふと思って

「あれ、そう言えば西の森って今はどうなっているの?」

とペッコは聞いてみた。

 ゲームでは最初の根性版と言われたバージョンでは西の森が存在したのだが、何故か新生版からはその存在が無くなっている。

 「王子、いえ幻術王、西の森は厄災の際の被害が大きく、危険なので立ち入りが禁止されています、私の父達は厄災前に入った事があるとの事でしたが」

 そう言うのは北の森出身のヒルドだ

「そうか、あ、そうそう、みんな僕の事を『幻術王』って呼ぶのは無しね、今まで通りに「王子」でお願い」

「はい、でもなんでですか、あ、そうだ、王子って『魔法王子』が元でしたよね、それなら『魔法王』で良くないですか、あれ『魔王』の方が格好良いかも?」

とレイアが言うと、なんと全員がそれに納得してしまい、ペッコがいくら説得しても、妻達からの呼称は

これ以降『魔王』になってしまった。

(なんで魔王なんだよ、悪役みたいじゃないか)

と思っても、仕方が無かった。

「で、話を戻すけど、妖精の望みもあるので、僕は西の森に行ってみようと思う、そんなに危ないのなら

一人で行くので、みんなはここで待っていてくれる?」

「いえ、ダメですご一緒します」

「私が西の森への道を知っていますのでご案内します、ロナルもわかるわよね?」

「わかった、では今回はヒルドとロナルの二人を連れて行く」

「やった!」

「えーずるい」

「はいはい、文句言わないの、じゃ残りのみんなはここで待機レイヤ頼むね」

「はい魔王様」


 そんな訳で、ペッコ達は北の森の『浮き村』にやってきた、全員が赤魔法士の装束で、ペッコは『トライコーン』と言う少し大きめの帽子を被って角を隠している。

 ここは、湖の上の橋で構成された村なので、『妖精の怒り』から免れて、比較的賑わっている。

更に、今では対正教国の最前線なので、連合軍の部隊が二千名ほど常駐して警備にあたっている、次の作戦、自由都市解放戦の重要な拠点だ。

「それで、ロナル、道はどうなっているの?」

「途中までは行かれますが、厄災の際の巨大なクレーターがあって、その先は通行ができないと父から聞いています」

「そうか、じゃとりあえずそのクレータまで行こうか、今日はもう遅いから明日の朝早くに発とう」

「はい、魔王様」

 幸い、今は旅行者などが居る状況では無いので、浮き村の宿には空き部屋があり、ペッコ達は一人一部屋を確保する事ができて、ペッコは久しぶりに一人の夜を過ごす事になった。

(さて、木は錬成する事ができたけど、動物とかはどうだろう?)

 そう考えたペッコは、森に相応しい動物と言う事でリスのつがいを錬成してみた。

(できた、なるほど、形を作るだけでは無くてエーテルの流れから命を作るって感じなのか)

角のおかげで、エーテル力=魔力が劇的に増大した結果だった。

そして、角の効果はもう一つあり、エーテルの流れや量、濃さなどがはっきりと見える様になった。

これは頭の中でスイッチを切り替える様にして、普通の視界とエーテルの視界を切り替えられる。

また、感情がエーテルの色でわかるので、敵意や恐れ、敬意などもわかる様になった、

(なんと言うチート能力、これじゃ『メアリー・スー』だな)

と思うペッコだった。

 二人共疲れていたのか夜の襲撃も無くのんびりとした夜を過ごして、日の出と共に起きて二階のカフェでパンとコーヒーだけの質素な朝食を取っていると、ロヌルとヒルドが連れ立ってやってきた。

「魔王様、おはようございます」

と言う二人のエーテル量を見てみると、明らかに他の人物より多いのがわかる。

「どうかされましたか?」

「きっとお一人だったので寂しかたのですね、そんなに見つめないでください、後ほどたっぷりと……」

と朝とは思えない会話の後で、ペッコ達は西の森へ向かった。

 北の森と中の森を繋ぐ街道が途中で二股になっていて、西に向かえば良いのだが

「危険、この先通行止め」

と言う看板が立っていて、バリゲートがあり西にはいけない様になっている。

ただ、道の両端は通行できるので、問題無くバリケードを通過して、西の森に入る

「なるほど、これはちょっと危ないね」

 森の環境エーテルが完全に変異して得体のしれない物になってしまっている、しかもその影響で森に住んでいた動物やモンスターは完全に異形の怪物に変異している。

(あ、こいつら『終焉の獣』や『偽邪獣』にそっくりじゃ無いか)

 どちらも、ゲーム内で拡張パック6のモンスターだった

(つまりこのステージは変異の原因を取り除かないとクリアできないって事か)

とペッコは勝手に解釈して、二人を連れて前進する

「見かけは強そうだけど、そうでも無いから、大丈夫だからね」

どうやらモンスター自体はそれほど強くは無い、ただ環境エーテルが異常になっているので、白魔法と黒魔法が使えないのは少し問題だ。

「あ、魔王様、あれがクレーターですね」

とヒルドが指差した先には、直径10マルム程の巨大なクレーターがある、そしてクレーターの向こう側は落下した衝撃でできたのか森が盛り上がって、山脈になってしまっている。

「これって厄災の時に落ちたという月の衛星の破片が作った物だよね?」

「多分そうですね、でも私達厄災自体をあまり覚えていないですよね」

「まぁね、僕らが小さい子供の頃だからなぁ」

(そうか、『あれ』の破片がここにも落ちたのか)

 ペッコの記憶は無くても義氏のゲーム内の記憶は有る、根性版の最後に流されたムービーは当時の

プレイヤー全員が目を熱くして見た物だったからだ。


「二人はここで待機していて、モンスターに注意してね、僕は中を見てくるから」

ペッコはそう言うと絶影に乗って、クレーターに飛び込んだ。

クレーターと言っても直径10マルムなので、小さな街位の広さがある。そして中央にはかなり大きい衛星の破片がある、ただここには遠い昔に古代帝国が邪神バハムートを封じ込めていた『抑留艦』の破片は無い様だ。

「今の僕の力なら、できるはずだ」

 ペッコは二人の元に一度戻ると、二人を絶影に乗せて空に避難させる、そして、状態回復魔法を発動させながら、創造魔法で、義氏の記憶にある西の森の姿を再生した。

「見事だ異界の者よ、まさかここまでの力を持っているとは思わなかった、汝には安心して森を任せられる、頼んだぞ」

と森の妖精の声がした。

「魔王様、今の魔法は一体?、一瞬で森が元に戻ってます、すごい!!」

「魔王様、一生お側でお使えさせてください」

とロヌルとヒルド、は感激している。

「絶影、三人乗せて走れるか?」

「はい、どちらへ参りますか?」

「西の森のメインクリスタルの有る、『キャンプ・マゼンタバーク』まで行ってくれ」

「かしこまりました」

「この辺りのはずだよな?」

「主人、街は存在しない様ですね」

(なるほど、森は再生できたけど、街は無理って事か、いや妖精の力が働いているから、あえて街は再生させなかったってのが正解かな?)

 ペッコには妖精の笑い声が聞こえた様な気がした。

「このまま北に行くと『地衣の社殿』という場所が有る、そこまで行って、新しい『境樹』を植えるよ」

「はい、でも魔王様、なんでこの森の事ご存知なんですか?」

(まぁ当然の質問だよな、僕はこの森に来た事が無いんだから)

 ペッコは笑いながら、角を指差した、そうこれからは、これで不思議な事はなんでも解決できてしまうのだ。

「よし、これで西の森にも『境樹』を植えたね、二人共森の都まで転移で帰れる?」

「大丈夫です、だって私達何もしていないので、魔力有り余ってます」

(これで森の結界は元どおり、あれ?厄災前に戻ったって事だから、逆に強くなったのかな?、後は西の森をどうするかだけど……」

 

「魔王様、お帰りなさいませ」

と妻達や赤魔法士部隊の全員が迎えてくれるのは、気持ちが良い物だった。

 ペッコは整列している全員に

「えーっと、ガリアニア出身の、ウェアキャット族は残って、後は自由時間ね」

と言うと、ペッコの妻四人とザラ、それに救助した4人の他に隊員から200人ほどがその場に残った。

「みんなの中で、部族に成人したお兄さんや弟が2人以上居る人は?」

5人ほど手をあげたので、聞いてみると、みんな兄が居るが、今はどこに居るかわからないそうだ

(うん、普通はやっぱりそうだよね『ヤン』として修行するか、好きな事をするかどっちかだもな)

ペッコの2人の従兄弟の様に、ずっと部族と一緒にいる方が稀なのだ

「ノクターナル族の中に、お母さんから独立したがっているお姉さんとかいる?」

こちらは誰も手をあげない

(さて、困ったな、そうなると『あの人』しか居ないか)

「ありがとう、エイルとザラは残って、後は解散して良いよ、」

「魔王様、今夜は私がご一緒してよろしいんですね嬉しいです」

(いやなんでそうなる? あれそう言えばここ数日何人かおかしいよね、もしかして発情期?)

 ウェアキャット族の女性は、他の種族と異なり春と秋に明確な発情期がある、そろそろ季節は秋になる頃なので、適齢期なレイヤ、エイル、ヒルド達はそうなのかもしれないし、ザラと契る事になったのもそのせいかもしれない。

「残念だけど違うよ、野営中にそんな事できないでしょ?、二人にちょっと確認したいのだけど南の森の『紅葉の吹溜り』に居るノクターナル族の長って『タイガークロー』って人だよね?

「はい、そうです密猟団でノクターナル族なのにダイアーナル族みたいに暮らしている部族です」

「とても強いそうで、私の家からも姉が何人かその部族に参加してます、母が言っても帰ってこないです」

「その人に会ってみたいんだけど、紅葉の吹溜りに行けば会えるかな?」

「はい、その村からはあまり外に出ない様なので、でも危険では無いかと思いますが?」

「ああ、それは大丈夫、僕は強いから、ありがとう、明日の朝行って見よう、そろそろ夕食の時間だね」

 ペッコはゆっくりと夕食を食べてから、自分の天幕に入る

(明日は久しぶりに剣だけで戦って見ようかな)

と少し楽しみにしている。

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