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第十七章 森の都解放

 第十七章 森の都解放


 ブレイド元帥は合流したペッコ大佐から状況報告を受けて、現状をお互いが確認した。

「そうか、エ・スミ・アン殿がな……大佐達はそのまま監獄に向かってくれ、無事に救出できたら

中の森の、「ベントランチ牧場」で合流しよう、所でその馬?何なんだそれは?」

 ペッコは微笑んだ、こういう所が元帥だよなぁ、好奇心が旺盛で

「これは途中の森で捕獲と言うか仲間になったと言うか『トライコーン」です「絶影」って名付けました」

「三本角の馬かぁ、格好の良い物だな、大事にしろよ」

と元帥もどうやら羨ましそうだ、そして

「ああ、そうだ大佐、先頭の方にエイル大尉のお父上がおいでになるぞ、挨拶をしていけ」

とニヤリと笑った。

「え?なんでですか?……はい了解しました」

とペッコの動揺する所を見て楽しんでいる。

 

 先頭に駆け出したペッコの様子を見てヨーデル大佐が

「大丈夫なのですか?、伝え聞いた事ですがウェアキャット族は、娘の相手と決闘沙汰になる事もある様ですが?」

「ああ、ペッコ大佐のお父上のド・オド・パト殿なら有り得る話だな、だが大佐、貴公に娘が居るとしてペッコ大佐を結婚相手として連れて来たら断るか? 俺だったら喜んで婿に迎えるぞ」

「そうですね、将来有望な若い士官ですからね、私でもそうします」

とそんな話で盛り上がっていた様だ。


 ペッコはエ・スミ・アンから託された重要な任務の途中で、エイルの父に婚姻の事後承諾を得ると言う

アクシデントはあったものの、ザラとザキの案内で、『トプラクの千獄』に無事に到着した、

「ここまでありがとう、三人を助けて戻ってくるから二人はここで待っていて」

とペッコは言ったが、二人は

「いえ、道士様、私達も同行いたします、カヌ・エ・セナ様は他の幻術士と違って私達ノクターナル族にも平等に接してくれました、なので是非救出に参加させてください」

と譲らない。

 森の都の紋章、二つに絡まった樹『双樹』は人族とエルフ族を現していて、彼らより以前から森で生活していたノクターナル族は密猟者とか獣人とか言われ差別をされていた、それより後に森に入ったペッコと同じダイアーナル族も同様だ、それを解決したのがカヌ・エ・セナの解放政策だった、だがそれは保守派のエルフ族達の怒りを買い、結果的に今回のクーデターに繋がったのだった。

 「では、一緒に行こう、でも無理をしないでね、カヌートさん前衛を、レイア左翼、スリマ右翼、僕は後衛に回るから、と二人を真ん中に挟んで護衛する形で、監獄に突入した。

「おかしいですね、警備の兵の姿が無い」

「ああ、まるで迷路だなこりゃ」

 ペッコ=義氏はここをゲーム内でダンジョンとして何度も攻略している、新生初期の低レベルダンジョンで実装当時はそれなりに難しかったが、今は緩和されて一人でも余裕で攻略できる様になっていた。

(まさか、ゲームのままって事は無いよな、そろそろモンスターが出てくる頃だけど?)

と思っていると、先頭のカヌートが、

「居たぞ敵の騎士6人」

と声をあげ、盾を掲げて突進して行く、直ぐ後をレイアが続き、スリマが伏兵に備えて、周辺の警戒をする。

「指揮官は殺さないで捉えてください、レイア、スリマ良いね?」

「はい、王子」

 戦闘はあっけなく終わり、4人が討ち取られた所で騎士の隊長が降伏した。

「その甲冑は、正教国のテンプル騎士団ですね、ボーエン子爵直属の部隊の方が何故?」

とのペッコの問い掛けに隊長は

「仕方が無いんだ、俺たちは家族を人質に取られている、頼む命だけは助けてくれ」

と言う事だ

「この牢獄に詰めているのは何人だ、幻術王達、角神はどこに閉じ込めている?、喋るなら命は保証する」

とのカヌートの問いに隊長が答えようとした時、横の通路から飛んできた矢が隊長の喉を貫いた。

「あ、クソ」

 横の通路の奥に逃げていく兵士の姿が見えた、どうやら今度は森の都の元『幻勇隊』の隊員の様だ

この隊は弓の使い手が多数いた筈だ

 ペッコは少し大きめの火球を作って、兵士が逃げた先の通路に向けて放った。

「うわあぁ」

と言う悲鳴が数人分聞こえた。

「聞け、これから特大の火の玉を全部の通路にぶち込んでやる、この狭い牢獄でそうなったらどうなるかわかるか、お前ら全員蒸し焼きか窒息死だ、三つ数える間に降伏しないと、左の通路から行くぞ」

とペッコが大声を上げた。

「おい、待て無茶するな」

とカヌートが止めるが、ペッコが数を数えて、右手で先ほどより大きな火球を作ると、通路の小部屋から

「降伏する止めてくれ」

とわらわらと警備兵達が両手をあげて出てきた。

「もう一度聞く、幻術王達、角神はどこに閉じ込めている?」

と聞くと、全員が中央の通路の奥を指差した。

「鍵は?」

騎士の一人が、鍵の束を投げて横したので、

「レイア、スリマ、こいつらを尋問しておいて、何か情報が得られると良いけど、もし変な動きをしたら殺していいよ」

 と言ってペッコはカヌートとザラとザキを連れて中央の通路を進む、どうやらゲーム内とは違い、モンスターなどは居ない様だ。

 更に進むと兵達の詰め所があり、そこには武器が散乱している。

焼き殺されると思って急いで武器を置いて投降したのだろう。

「ザラさん、呼びかけてみてください」

「はい、 カヌ・エ・セナ様、どちらにおいでになりますか」

すると更に奥から、

「ここです」

と言う声がしたが男性のものの様だ。

 カヌートに鍵を預けて、ペッコが警戒をする、カヌートが扉を開けると獄にいたのは。30〜40代の人族の男性だ

「あなたはどなたですか?」

とのペッコの問いに男性は、かろうじて聞き取れる声で『エ・ウナ・トトロ』と答えた、確かゲーム内では「ハンティングロッジ」にいつも居た角神だ、

「角神のエ・ウナ・トトロ様ですか?」

とペッコが聞くと男性は力無く頷いて、

「僕はもう角神では無いけどね」

と小声で辛そうに話した。

「歩けますか、外にお連れします、他の方々は?」

「奥からオ・アパ殿の声が聞こえたが、ここ数日は……」

と言う事なので、通路まで出てもらって、ザキに介護を頼み、先に進んだ。

「どなたかおいでになりますか?」

との呼びかけにも返答は無い。

 仕方無いので、獄舎を一つ一つ開けて行って、息絶え絶えの女性二人と男性二人を救助した、

捉えず治癒魔法をかけると、幸いな事に全員が意識を回復したがとても歩ける状況では無かった。

そして、どうやら歳上の方の美しい人族の女性がカヌ・エ・セナの様だ。

「カヌートさん、外の鳥馬車まで皆様を運びましょう」

「おう」

二人で手分けして、二往復して全員を救出した、エ・ウナだけはザラとザキに両側から支えられて

かろうじて歩けた。

 途中で、一度捕虜の所に行き。

「何か分かった?」

「いいえ王子、こいつらタダの下っ端でダメですね、最初に捕まえた奴と、王子が焼き殺した奴がここの士官だそうです」

「じゃ、もう用は無いね」

とペッコが言うと、レイアとスリマがレイピアを抜いた。

「あ、違うって、みんな釈放、どこに行っても良いけど、エルフ族の人は早めに森から離れた方が良いよ

森の妖精がものすごく怒っているからね」


 ペッコは外で、レイアとスリマに五人の手当と介護を頼んで、

「カヌートさん、少し中を調べて来ます直ぐに戻ります」

 と獄舎に戻り、ザラとザキと三人で、衛兵の詰め所らしい部屋や司令室の様な部屋を調べた。

「道士様、それで何を調べたらよろしいですか?」

「あ、作戦計画書とか、人員配置書とか、なんでも良いから敵の事が分かりそうな物かな」

「分かりました」


「道士様、よろしいですか?」

とザキに呼ばれた部屋に入ると、そこは倉庫の様で、鍵がかけられ鎖が巻かれたチェストがある

「これ、なんでしょう?貴重品か宝物ですかね?」

「ちょっと開けてみよう」

とペッコは創造魔法で鍵と鎖を壊してチエストを開けた。

ザキにはペッコが怪力で鎖を引きちぎった様に見えたはずだ。

「あ、これは」

中に入っていたのは、五本の杖で、どうやら角神の物の様だ、その内の一本は、ペッコ=義氏も知っているカヌ・エの愛杖『クラウィス』だ。

「ザキさん、お手柄だよ、カヌ・エ様の杖を取り戻せた」

そこに、ザラが入って来て

「道士様、この本、同じ物が何冊も有りました、大事な物なのでしょうか?」

「どれ、これは知の都のアカデミー発行の本だね、『エルフ優性生存説』ね、四冊ほど持って帰って

後で研究してみよう」

 その後も各部屋を見て回ったが、特に目ぼしい物も無く、探索を終了して外に出た

「よし、では合流予定の「中の森」の「ベントランチ牧場」に向かおうか?」

「おう」

「はい王子」

「はい道士様」


 一方で解放された衛士たちは

「おっかなかったな、あの姉ちゃんもそうだけど、兄ちゃんの方、笑いながら人を焼き殺すって感じだった」

「ああ、もしかしてあれが噂の、魔王子と魔女達か?」

「なぁ、それより俺たちどうしたら良いんだ、どこへ逃げる?」

などと言う会話をしていた、だが彼らが監獄の中に居たのは幸いだった、その頃には付近の村のエルフ族や人族は森の妖精の怒りにより全員が消滅していたからだ。


 ペッコ達が「ベントランチ牧場」に着くと、既に周辺の掃討も終わっていて、クリスタルライト周辺には砂の都の旗が旗めいていた。ロヌルの部隊も合流した様で、ペッコ達を出迎えてくれた。

 ペッコは早速、幻術士達にカヌ・エ達五人の元角神の介護を任せてブレイドの元に報告に行く

「大佐、ご苦労だったな、カヌ・エ・セナ様初め角神の方々も全員無事とは喜ばしい事だ」

「はい、ですが皆様かなり衰弱をしていまして、しばらく介護が必要だと考えます、幻術士の皆様にお任せすれば大丈夫だとは思いますが」

「そうだな、しばらくここで休養をしていただこう、大佐の計画だと次は『北の森』の攻略だったな」

「はい、今までの敵の様子からするに、既に殆どの将兵が正教国に逃走していると考えられます、なので

ヒルド中尉とロヌル中尉の中隊と2000のドラコニア族の部隊で十分かと思いますが、二人は北の森の出身ですし」

「そうだな、だが念の為にもう一個中隊とドラコニア族3000で攻略をしてもらおうとしよう、誰が良いか?」

「ではカーラ中尉の部隊を」

「それで大佐はどうするんだ?」

「私は一度東の森に戻って、エ・スミ・アン様に報告をした後で、 アルディン大将と合流して予定通り東側から森の都を攻略したいと考えます」

「そうだな、頼んだぞ、では森の都で会おう」

「はい、元帥」


 ペッコはカヌート、レイアとスリマ、ザラとザキと一緒に東の森に戻る。

最初にエリン家の樹洞に立ち寄ると、そこにはエ・スミ・ヤンの姿は無かった。

 喪服姿のゼラ・エリンを見て、ペッコは察した。

「エ・スミ・ヤン様は、あの後直ぐに息を引き取られました、かねてからのご希望で、ご遺体は

この森の『境樹』の根元に埋葬させていただきました」

との事だった。

 ペッコ達が直ぐに境樹へ向かうと、伐採されて切り株になってしまった『樹』に白い『フォルトゥーナリリー』の花束が多数捧げられていた、この花はエウロパでは葬送の花として知られている。

 ペッコは跪くと、エ・スミ・ヤンの魂にカヌ・エ達五人の角神の救出を報告して、もう一つの任務も達成する事を約束した。

「頼みましたよ」

と言う声が聞こえた様な気がしたが、それは気のせいだろう。

 報告と祈りを終えたペッコは、すぐ後で同じ様に跪いて祈りを捧げていた、ザラとザキの姉妹に

改めて礼を言った。

「二人ともありがとう、すごく助かったよ、僕はこの後はまた戦場に戻る事になるけど、ちゃんとエ・スミ・ヤン様との最後の約束も守るから安心して、その時にはまたここに報告に来るから」

と頭を下げた、そしてゼラ・エリンにも

「お嬢様達の協力で大事な任務を達成できました、いずれ改めてお礼にお伺いしたいと思います」

と礼を言う、すると姉のザラが

「道士様、少しお待ちいただけますか?」

と言って母のゼラと何か話をしている、ゼラは頷いて戻って来て

「道士様、少し内密なお願いがございます、他の方々はお帰りになられて結構ですので、樹洞までお越しいただけますか?」

と言う事だ、ペッコはカヌートに

「すみません、レイアとスリマを連れて先に戻っていただけますか」

と言うと、妻達は不服そうだったが、カヌートは心良く応じてくれた。


 ペッコが案内されたのは、前回の樹洞とはまた別の樹洞で、こちらは少し狭く、床には毛皮が敷かれて

座椅子の様な物があり、棚には花が飾られて香が炊かれている。どうやら、こちらは応接間の様な場所らしい。

「あちらにお座りください、今お飲物をご用意いたしますから」

とゼラが出ていくと、ザラがペッコの隣に座った。

そこにゼラが膳の様な物を持って来てペッコの前に置いた。ザラがすかさず飲み物のボトルを持つと

ペッコにお酌をしてくれる。

(これはスパイスワインかな、何の香草が入っているのだろう?)

と思って飲むと、すっきりした味のワインだ。

 おつまみの様な肉料理と木の実を食べながら、まだ美少女と言っても良いザラのお酌で飲むワインはかなり美味しかったし、香の香りが心地良い

(あれ?これもしかしてマリファナ?)

ペッコ=義氏はアメリカの大学院に通っていたので、その頃にマリファナを吸った経験があった。 

「それで内密の話とは何ですか?」

とペッコが聞くとザラが

「道士様、私と契りを交わしていただけませんか」

と突然言うので、ワインを吹きそうになった。

 母親であるゼラが、真面目な顔で

「道士様、私達『ノクターナル族』と『ダイアーナル』族の違いはご存知ですよね」

と言うのでペッコは

「それは部族の違いとい言う意味ですか?」

と聞くと、ゼラが話始めた。

 まずノクターナル族の習慣と家族について話した、特に婚姻についての常識がダイアーナル族と違うことを説明した。

 そもそもノクターナル族には婚姻自体が存在しない。ノクターナル族の女性は、気に入った男性、本来は強く狩が上手い男性である事が多いが、昨今では資産がある事も「狩が上手い」と同じ様な感覚で捉えられている。 

 つまり『強くて逞しく、自分と子供を養ってくれる』男性が、ノクターナル族の女性の目に映る

素敵な男性と言う事になる。この習慣は平安時代の日本の通い婚の様な物だとペッコ=義氏は認識している。

 その上で、女性側は男性が自分の所に定期的に通ってくれる=獲物を運んでくれる、事を目的に男性に気に入られる様に最大限の努力をする、美味しい料理や娘が初潮を迎えた頃から母親が教える男性を喜ばせる為の『房中術』という秘術を駆使するのだ。

 ただ、ここで重要な事は、女性側は、その様な男性は決して一人では無く、複数の男性が日を変えて

通ってくる場合も多々あり、もちろん男性側も複数の女性に分け与える獲物を用意できる場合は複数の女性宅に通うのが当然であると言う考え方だ。

 これは、男性の子供が生まれにくいノクターナル族が子孫を残すために必要な習慣だった。

そして、同じ問題をダイアーナル族は一夫多妻制を取り入れる事で解消している。

(そうか確かゲームの設定でそんな話があったな)

とペッコ=義氏が考えていると、 

「でも私達がフシダラだとか誤解しないでくださいね、ダイアーナル族の方々とは習慣が違うだけですから、それに私達だって好きでも無い男に身体を任せたりしませんからね」

「はい、それは良くわかりました」

「では娘と契っていただけますね?、それとも娘に恥をかかせるおつもりですか?、それなら母親で有る

私と命のやり取りをする事になりますが」

(あ、これはもう絶対に断ったらいけないやつだ)

と思ったペッコは同意をした。

すると、ゼラは微笑みを浮かべてザラに

「頑張りなさいね」

と声を掛けて樹洞に御簾を降ろして出て行った。

「あの、道士様ありがとうございます、少しお疲れでしょう、お身体をほぐして差し上げますので横になってください」

と服を脱がされてあとは……

(これは、メンズヘルスの様だな、あー極楽)

とザラに身を任せると、当然17歳の男の子の身体なので夜が明けるまで今までで(この世界で)最高の体験をさせてもらった。

 美少女の頭を胸の上に乗せて、髪や耳を撫でながら

「いかがでしたが?」

「最高だった」

と言う風俗店の様な会話をして、ペッコは服を着て外に出た。

ザラとザキが引き続き道案内をしてくれると言う事なので、三人で

(まるで朝帰りだな)

と思いながら「東部基地」に帰還すると、もうみんな朝のコーヒーを飲んでいる。

『おう、なんかすっきりした顔をしているな、話は何だったんだ?」

「あ、はい、氏族の将来について相談を受けていました」

「そうか、アルディン大将には俺から状況報告をして置いたぞ」

「ありがとうございます」

 ペッコが大将と話すと、塩の都の軍がそのままペッコ達と同行可能になったと話してくれたので、引き続き指揮権を委譲して、東の森を東進して森の都を目指す事になる。


「東の都に入るには森の東端から渓谷を小舟で渡るか、一度中の森に入って都の東門に至るかですね」

「小舟では全員が渡るのに時間がかかりすぎるな、本隊は中の森を抜けて行くとしよう、大佐は赤魔法士二個中隊を連れて先遣隊として舟で先行してくれるか?、確か以前は船着場の側には旧鬼滅隊の屯所があったはずだ、気を付けてくれ」

「了解しました、大将もお気をつけて」


 ペッコはレイア大尉とスリマ中尉の中隊とザラとザキを連れて、東の端の船着場へ向かった。

「この辺りも、見事に伐採されているね」

「そうですね、酷いものです」

義氏のゲーム内の記憶では、街道沿いに養蜂場があった筈だが、それも存在していない、

船着場に着くと、小舟が二艘係留されているが、船頭の姿はどこにも居ない。

(困ったな、流石に小舟の操縦はできないな、そうだ)

「絶影、鳥馬車を引けるか?」

「気が進みませんが主人のお言いつけなら」

兵員輸送用の鳥馬車は『車』の字が入ってはいるが、車輪は付いていない、船を浮袋で地上から浮かせていると言う方が的確かもしれない。

 通常は鳥馬が地上を引っ張るのだが、絶影やグリフォン達なら飛行が可能なので、渓谷の川の上を飛んで行く事が可能だとペッコは考えた。

ちなみに扱いが難しいと言われるグリフォン達だが、絶影を群れの長と認識している様で、絶影の指示に完全に従う様になっている。

 三台の鳥馬車を引いていた鳥馬六頭を解放して、かわりに絶影達をハーネスに固定する、ペッコには絶影がかなり嫌がっているのが伝わって来た。

「よし、行こうか?」

 ペッコの掛け声で絶影が空に上がると、グリフォン達も後に続く。そしてそのまま渓谷の上空を飛行して、対岸の船着場に到着した。

 「絶影、ご苦労様」

とペッコはハーネスを外して首を撫でてやった。

「よし、全員下車戦闘隊形で前進」

 船着場から直ぐが旧鬼滅隊の屯所だが、建物は半分以上背後の森に侵食されていて、誰も居ない様だ

「レイアの中隊は、このまま西に進んで市内の様子を調べてくれ、ザラはレイアに同行」

「はい王子」

「残りは付いてきて」

とスリマ中尉とその部下五十人にザキを連れて、南下する

義氏のゲーム内の記憶では、この先は商店街になっていていつも賑わっていた筈だ。

「ザキ、君たちは森の都に来た事は?」

「子供の頃に一度だけです、私達エリン家の者はここでは歓迎されませんでしたから」

「そうか、ノクターナル族でも森の都で暮らしていた人は居たよね?」

「ジャブ家やモルコ家、イエーガー家などがそうですが、皆さん今は行方不明と言うか森の都から追放されて、私の母の様に各地で幻術士達と戦っていると思います」

「なるほど、そうするとウェアキャット族はノクターナル族、ダイアーナル族共に連合王国と敵対して居るのか」

「当然です、元々あいつらは嫌な奴でしたけど、エルフ達がのさばる様になってもっと悪い状態になりましたから、母の元にも皆で共闘したいと言うダイアーナル族の狩人が来ていました」

「そうなの、その狩人さんにも会ってみたいな」

「王子、人影が全然ないですね、まるで廃墟の様です、それと市街転送用の小型クリスタル、機能していません」

「そうか、まさか都を捨てて逃げたって事なのかな?、レイア、そちらの様子は?」

 ペッコが魔法通信でレイアに連絡を取ると

「すみません、王子もう少し後で連絡します、ちょっと大変な事になってまして」

「大変な事?、大丈夫なの?、そっちに行こうか?」

「大丈夫です、落ち着いたら連絡します」

「王子、この先にも道が有るのですが、バリゲートが有って通れなくなっています」

 ゲーム内では、この先は新市街へ抜ける道だが、見るとバリゲードと言っても、どこから運んだのか

家具やら、板切れや岩で作られた簡単な物だった。

「ここは取り敢えず、そのままにして、このまま西の方へ向かおう、西の端に農場とかがあった筈だから」

「はい」

「道士様は、この都に来られた事が?」

とザキに聞かれて

「いや、初めてだよ、地図で見た覚えがあるんだ、ここを西に進むと中央広場だよね」

「さぁ、あまり覚えて居ないのですが、でもそこの建物……あ、建物崩れちゃってますね、ここに母と獲れた皮を売りに来たんです、その事は覚えています、でもその時に幻術士が『密猟だ』って騒いで、皮を没収されてしまったんです、母はそれ以来、森の都の人達との交流をしなくなりました」

「そうか、酷い話だな、あ、ここが中央広場……じゃ無くなっているね、このまま西に進むよ」

 ゲーム内では農業師ギルドがあった場所も既に森に侵食されていて、見る影も無くなっている

(これはもうこの都はお終いだな)

「王子、こちらまで来て頂きますか、今、北門を抜けた高そうな邸宅が並んでいる所に居ます」

と言う事で、全員で北東に戻って、門を抜けると、その中でも一番大きな邸宅の前庭でレイアが二十名近いウエアキャット族の少女達と一緒にいる、少女達はかなり衰弱しているが、レイア達の治癒で。命に別状は無い様だ。

「見てください、みんな『隷属の首枷』を付けられいて、食事も水もここ数日は無かった様です」

「この子達は、奴隷として売られる予定だったんだね」

「はい、それで人買い達が都から逃げる際に足手纏いなので、そのまま放置をして行ったと言う事の様です」

「食事と飲み物を用意して、みんなに食べさてあげないとね、それとその首枷を外してあげないと」

「はい、鍵を探したのですが、見つからないのです」

「そうか、じゃそれは僕がなんとかするから、みんなは食事の準備を頼むね、補給物資使っても良いから、もし足りなくなったらみんなで狩に行こう」

「はい、王子」

 ペッコは最初に、愛用の魔法書を開くと使い魔サン・バハムートを召喚して、上級市民用と思われる

居住区の邸宅を全て破壊した。

 ここはゲームの世界ではエルフ族の鬼滅隊門番が居て

『この先は名士たちの居住区、一般の者へは開放していない、貴様の様な冒険者なら、尚の事

だ』等と言われた森の都の閉鎖性の象徴の様な場所だったので、ペッコは何の躊躇いも無かった。

 保護された少女達もペッコの妻や部下達も愕然とした表情でその光景を見つめている。

それから、エ・スミ・アンから譲り受けた杖を掲げて、範囲状態回復魔法の「レストジャ」を発動させて

その技に隠して創造魔法で、全員の首枷を破壊した。

 これで少女達の洗脳隷属状態が一時的にペッコに上書きされて、解除される筈だ。

少女達に一通り食事や水が行き渡ったので、

「ザラ、ザキ、それと、皆んな、この中に知っている顔はいる?」

と聞いてみた、レイアとスリマの部下達は『森』出身の者が多数いて、ザラ達も他の家の同じ年代の子達と面識があるので、確認してもらった所五名の身元が判明した、残りはペッコの他の妻とその部下達にも見て貰えば更に身元がわかるかもしれない。

 「それで、このでかい家は誰の家だったの、あ、もしかして調べる前に壊しちゃった?」

「いえ、家の内部にあった書簡等から『ベルテナン』と言う人物の家でした」

とスリマが答えた。

「うん? 『ベルテナン』どっかで聞いた覚えがあるけど、誰だっけ?」

「ああ!、あいつです、私が東方基地で捕まえた双樹隊隊長、確かベルテナン大将て言ってましたね」

「そうか、あのクズか、あいつ人身売買の関係者だったのか、絶対に許せないな」

「はい、やっぱり殺しておけば良かったですかね?」

(いやいや、組織の全貌を白状させないとダメだからね)

「レイアの部隊はこのままここで、彼女達の警護をお願いね、残りは都の探索を続けよう、そろそろ

元帥や大将達の部隊も到着する頃だからね」

「はい、王子」

 結局森の都の旧市街では、それ以外の発見は無く、かって幻術士ギルドがあった、

『大老樹瞑想樹洞』や「三重の幻術王」の座所だった『聖蓮の座卓』、豊穣の女神『ケレス』の祭壇等も森の中に埋もれてしまっていた。

「大佐、今どこにいる?」

 カルピン少将からの魔法通信が届いた

「旧市街の探索を終えた所です、敵は都を捨てて逃走した様で、抵抗はありませんでした、人身売買の被害者を約二十名救出しました」

「そうか、こちらは組織的な抵抗は無く、数人の幻術師が投降してきた位だな、メインクリスタルは機能している様だが、周囲の建物は壊滅状態だな」

「了解しました、そちらに向かいます」 



 森の都市街の、旧双樹党司令部前で、ブレイド元帥とアルディン大将は固く握手を交わした

「大将閣下、ご無沙汰をしています」

と、先に声をかけたのはブレイドだ、感無量と言う表情が読み取れる。

「スピン・ブレイド元帥、そして執政官か立派になったな、お父上もさぞ喜んでいる事だろう」

「はい、ありがとうございます」

 スピン・ブレイドの父フィルガイス・ブレイドは、生前は砂蛇衆でアルディン大将とは政敵ではあったがそれなりの交流があった様だ。

 そんな二人の姿を見て、目頭が熱くなるペッコだ

「何だ大佐、泣いているのか?」

「カヌートさんだって、人の事言えなじゃ無いですか」

そんなカヌートも涙目になっている、周囲を見ると、旧不死隊の将兵も元鉄華団の将兵もみんな感涙している。


 挨拶を交わした後は、旧司令部内の会議室で、カヌ・エ・セナも交えての三者会議になる。

「どうなるんだろうなぁ?」

「さぁ僕は検討もつかないですねぇ、ここからは政治の話だし」

「お前、執政官の首席副官だろう?」

「違いますよ、僕は元帥の副官です」

と言っていると、ペッコが呼ばれた、どうやら会議に参加しろと言う事の様だ

「ほら、ちゃんと仕事をして来い」

とカヌートに背中を押されて、ペッコは会議室に入った。

「大佐、すまないがエ・スミ・アン殿の件、カヌ・エ・セナ殿に説明を頼む」

アルディン大将にそう言われてペッコはエ・スミ・アンから託された内容を話した。

「そうですか、あなたがその杖を引き継いだのですね、その杖は代々の幻術士ギルドマスターに受け継がれていた杖です、つまりエ・スミ・アン殿はあなたを後継者に指名した事になります」

「え、そうなんですか?」

とペッコは驚いた。

「その上で、『長老の樹』での浄化の儀式を行うと言う事ですね、ド・ペッコ・パト大佐、事は急を要します、私も同行いたしますので、大至急『長老の樹』まで向かいましょう」

「は、はい、あの元帥?」

「もちろん我々も同行する、必要な物はすぐに手配させるので、準備をしてくれ、それと、白魔法士の装束とやらに着替えた方が良いぞ、それはカヌ・エ・セナ殿が用意してくださるそうだ」

「はい、了解したしました」

 とは言ったもののペッコ=義氏は道士の装束があまり好きでは無い、動きにくいし、ゲーム内でNPCとして登場した嫌味な道士達の印象が強いからだ。

 そして、何種類か用意された装束から一番動き易そうな物を選んだ、これはゲーム内のAF3装備とほぼ同じデザインの物だ。

「うわぁ、王子似合いますね、素敵です」

などと言う妻達の声を背にして、ペッコは『長老の樹』まで向かった。

 森の都の『白銀門』から外に出て、絶影に乗ると、隣には白銀に輝くユニコーンに乗ったカヌ・エ・セナが並んだ、カヌ・エはペッコの絶影を見て驚いている。

「絶影、隣のユニコーンは知り合いなのか?」

「はい主人、私の一番上の姉です」

との事だ、二人の後には、鳥馬に乗ったブレイドとアルディン、更にペッコの妻達がそれに続く

「良いなぁ、その飛行獣私も欲しい」

「うん、鳥馬よりずっと格好良いね」

「塩の都に行けばたくさんいるわよ」

「私は、カヌ・エ・セナ様がお乗りになっている馬が欲しいなぁ」

などと言う緊張感のかけらも無い話し声が聞こえてきて、ペッコは苦笑いをした。

「ペッコ大佐、森の妖精の使いに認められたのですね」

とカヌ・エに言われて、ペッコは何の事かわからなかった。

「あの失礼ですが、それはどういう?」

「あなたのお乗りになっているのが『妖精の使い』なのです、角神以外がお乗りになっているのは初めて拝見いたしました」

どうやら絶影はとても貴重な存在らしい。

 そんな話をしていると、『長老の樹』に到着した。

既に先行していたミラー少佐たちが祭壇の用意をしてくれていた。

「では大佐、始めましょうか、私の言葉を繰り返してください」

「はい」

「森の命司る妖精よ…」

「大気に満ち…」

「木々揺らす波動………」

 とカヌ・エは祈りの言葉を唱え始めた、ペッコ=義氏は、神道の祝詞の様だなと思いながら、

言われた通りに復唱して、最後にカヌ・エが癒しの魔法を『長老の樹』にかける……

が何も起こらない、列座している幻術士達からざわめきの声が出た。

「大佐もどうぞ」

そう言われてペッコはエ・スミ・アンから引き継いだ杖を掲げて、最大の治癒力がある白魔法を発動した。すると『長老の樹』が金色に輝き、ペッコの頭の中に言葉が響いてくる。

 その言葉に誘われる様にペッコは『長老の樹』に触れた。

清涼で凛とした空気を感じて

(あ、この感じ昔、伊勢神宮で感じた雰囲気と同じ様だ)

と思いながらも、森の妖精の声を聞く。その中にカヌ・エの心の声が聞こえてきた

「500年の誓いを破った罪は全て私の物です、何卒森の都の民にご慈悲を、罪の償いに私の命を捧げます」

と言う悲壮な祈りだった、そして

「人よ、我は人が約したエルフとの共存と安寧な森の民としての生活を認めた。だが我はエルフの高慢を好まず、人のみを森の守りし者とした、しかしエルフはそれを良しとせず森を傷付け、森に住む弱き者達に危害を加えた、それゆえ、我は人との約を断ち、エルフをこの地より追放する、人は森を傷付けない限りはその存在を認めよう」

と言う言葉がペッコの頭に響く、カヌ・エが樹に向かって土下座をする様に頭を下げる姿がイメージとして頭の中に入って来た。

(良かった、これで森の都は何とか存在できるな)

と思っていると、今度はペッコに対して

「忠実な森の民の姿と正しき心を持つ異界の物よ、これよりは汝らウェアキャットがこの森の守りし者となるが良い、そしてその約の証として、汝に守りし者として、我が力を分け与える」

 そしてペッコもまた金色の光に包まれて、一瞬だが額に軽い痛みがあった。

だが、それも直ぐに消えて、付近には静寂が戻った、どうやら妖精の声はペッコだけに聞こえた様だ。

「終わったみたいですね」

とペッコが振り向くと、ペッコを見た全員が全く同じ表情で固まっている、カヌ・エまで口に手を当てて

驚愕の表情をしていたが、直ぐに正気に戻りペッコに向かってひざまづいた、それを見た幻術士達とペッコの妻達も同じ様にする。

「カヌ・エ・セナ様、どうされたのですか?みんなも何?」

みんながペッコの額に注目をしているのがわかった。

そっと手を額に当てると……角が生えている

「え、何だこれ?」

 もう一度触ってみると、以前のエ・スミ・アンや他の角神様な二本角では無く、ペッコの角は三本生えている、ペッコが動揺していると、また森の妖精の声がした

「異界の者よ、安心するが良い、その角は汝の助けになろう、何も案ずるな」

と先程よりは軽い感じの声だった。

 カヌ・エが皆に向かって

「森の妖精は我らに新たな幻術王を使わしました、これよりはド・ペッコ・パト様がこの地の新たな王になられます」

と宣言してしまった。

「いえ、カヌ・エ・セナ様それは困ります、僕には帰る家と街があるんです、ブレイド元帥、アルディン大将何とか言ってください、無理ですから」

これは義氏の本当の気持ちだ、楽しくこの世界で暮らしていたのにいきなり幻術王をやれ、と言われても

困惑するばかりだった。

「うーん、すまんなペッコ、これは俺の手にはおえない」

とブレイド

「大佐、これも運命だと思い諦めろ」

とアルディン

「王子、王様になるんですね、素敵です」

と能天気な妻達。

「皆さま一度、森の都に戻りませんか?」

と言うミラー少佐の冷静な判断で、全員で戻って、もう一度話し合いをする事になった。

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