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第十三章 逆侵攻

第二部は別にアップしたのですが、一緒の方が読みやすいとの事なので、こちらに転載します

全て転載が終わったら、オリジナルの方は消します。


凪節で暇になったので、また書き始めました、それにあたって、第一部を読み返して表記の揺れや誤字脱字、名称の間違い等を修正してあります。

 第二部 プロローグ


 スピン・ブレイド元帥率いる約5000名の部隊は、『森の都』ガリアニア開放作戦『ディスコルディアの涙』の最初の攻略目標、ガリアニアの南の森『キャンプ・トライキル』を目指して、東ジャズィーと南の森の国境地帯に近づいている。

「元帥、やはりこの先に敵軍の防衛陣地があります、兵力はおよそ3000、装備から察するに旧森の都の

レンジャー部隊『鬼滅隊』と正教国の騎士団が中心の部隊と推察されますが、幻術士は一個小隊しか配備されていない様ですね」

「ご苦労」

 斥候の報告を聞いたブレイドは次にどう動くか考えている。

森の都の戦術は本来は防御陣地に幻術士を配備して、遠距離攻撃で対応して、それが突破されると弓隊、そして槍術隊という三段階の防御陣なのだが、既に幻術士の数が不足しているのか、十分な防御体制を整えられない様だ。

 ブレイドはヨーデル大佐に指示をして、こちらの呪術士部隊に遠距離攻撃を命じて、敵の反応を伺う事にした。

 ブレイドの後ろにはブレイドの腹心ペッコ大佐の7人の妻の一人でド・エイル・ライ大尉が、数人の魔法士と一緒に控えている、大尉はブレイド警護の赤魔法士中隊の隊長だ。

 ペッコ大佐に

「元帥に身辺警護の部隊を付けます」

と言われた時は、そんな物は必要無いと断ったブレイドだったが、実際にこうして戦場に居ると、女性特有の細かな気配りが嬉しく、これは有りだなと納得したのだった。


 ただ残念なのは赤魔法士部隊の隊士は、その成立過程の為に全員がまだ若い少女兵士と言う事で

豊満な大人の女性を好むブレイドとしてそこが物足りないと思っている。

 密かに凱旋したら、自分の好みの女性兵士を集めて部隊を編成したら楽しいかも等と妄想していた。

 当初は戦場に女性兵士だけの部隊と言う事で心配も有ったのだが、前哨戦となったこの東ジャズィーと南の森の国境地帯での戦いで、敵の主力の旧正教国の騎士団と相対した際にド・エイル大尉率いる赤魔法士部隊は混戦で双方魔法攻撃が使えない中、敵の騎士団をほぼ壊滅状態にまで追い込んだ実績を上げた。

 特にエイル大尉は体格差の有るエルフ族の敵の指揮官に白兵戦で勝利して捕虜にすると言う金星をあげている。

 しかもそれは、その戦闘を至近距離で目撃したブレイドやヨーデル大佐以下幕僚の全員が違う意味で肝を冷やす戦い方だった、エイル大尉は勇猛でかっては邪竜と戦った騎士団長の渾身の槍を交わすと同時に、金的に容赦ない強烈な蹴りを放ち連動した投げで、歴戦の団長の顔面を岩に叩きつけたのだった。そして他の隊員達も同様に体格差の有る騎士団員を制圧していった。

 それを見たブレイド以下幕僚や兵士達全員(皆んな男性だ)が敵に同情したのは言うまでも無い。

そしてそれ以降この部隊の女性隊員達に不埒な声をかける者は居なくなった。

 「それにしても良く短時間でここまで鍛えた、あちらはうまくやっているかな」

とブレイドは今は別働隊の指揮を取っているペッコ大佐の作戦の成功を祈った。


 第十三章 逆侵攻


 逆侵攻作戦から数ヶ月前、砂の都の政庁層の執務室でペッコ大佐は、第一夫人で魔法士大隊の中隊長ファ・レイア大尉の報告を聞いている、七人の妻達とその中隊を動員して『エニアゴン』北東の『太陽神の墳墓』制圧作戦を決行したのだ。太陽神の墳墓は、塩の都の廃王の元親衛隊兵士達が勝手に占拠していた場所だが、彼らは既に初老と呼ばれる歳になっていて人数が減少し、今は代わりに砂の都を追放されて盗賊に身を落とした冒険者や鋼刀団の残党が主体の野党集団になっていた。

 ペッコとしても、自分の都市の近くに盗賊や野盗の拠点が有るのは治安上良く無いし、砂漠では貴重な居住可能エリアなので、もっと早く制圧する予定だったのだが街の建設など多忙だった為に後回しにしていた事案だった。

 ペッコの妻達の中隊は全員が赤魔法士で編成されていて、レイアやエイルに憧れて志願してきた難民や元奴隷の少女達が隊員なので、いつの間にか女性兵士だけの中隊になってしまっている。

 ちなみに本来はまだ未成年である妻達を任官させる事は出来ないのだが、妻達が志願した事と大佐としての戦時特権で法的には有耶無耶な形での士官任官になっている。

 魔法士大隊には他にも、森の都からの亡命者を中心にした幻術士部隊と砂の都本来の呪術士部隊も有るのだが、そちらは既に実戦配備されているので、今回は新設の赤魔法士部隊の演習をかねた作成だった。

「太陽神の墳墓は完全に制圧しました、各中隊とも負傷者無しです、野盗達ですが、首魁と幹部達は死亡を確認しました、また捕虜とした28名以外は全員死亡が確認されています」

「そうか、逃亡者は無しって事だね」

「はい、王子……じゃ無くて大佐」

とレイアは得意げに戦果を話した。

「で、どうだった?」

「あの制服、ちょっと恥ずかしかったんですけど、大佐の仰る通りでした、敵の魔法士が詠唱を止めたり

剣術士が隙だらけになったりと効果絶大でした」

「うん、そうだよね、男性の敵になら絶大な効果が有ると思ったよ」

とペッコは笑った。


 今の赤魔法士部隊の制服は、ペッコの記憶の中に有るあるゲーム内のLV70AF装備を元にした物で、これはこの世界でも塩の都にかって存在した赤魔法士『紅の決闘者達』と呼ばれた部隊の制服とほぼ同じだった。違うのはLV80AF装備のスカートを更に短くした物を採用した事で、動きの激しい赤魔法士の技では、常にパンチラ状態になると言う事だ。

 これはまだ制服を決める前、レイアとエイルに種族衣装のミニスカート姿で砂の都の練兵場で修行をさせていた頃に、当時のカヌート大尉から

「なぁ、あの格好なんとかならないか?兵達が気が散って訓練にならないんだよ、まぁ目の保養になって

個人的には嬉しいんだがな」

と言われた事を積極的に取り入れた結果だった。


 実際に今回も、野盗達の首魁や幹部達は本来は廃王の親衛隊将校として歴戦の戦士だったのだが、

「何、『紅の決闘者達』だと?」

と驚いた後に、レイア達のパンチラ攻撃に目を奪われて……長年にわたって、彼らが女性の相手を出来るのは、誘拐して来た女性を無理矢理犯すと言う状態でしかなかったが、ここ数年は治安の悪化もあり、女性が護衛も付けずに出歩くなどと言う事も無くなり更に『女日照』状態になっていたせいもあるが……隙だらけになり、本来の実力を発揮する間も無く制圧されてしまった、と言う事だ。

「まぁ相手が女性や魔物の時には効果が無いけど」

とペッコは気に入っている。

 

「じゃ、早速みんなで墳墓に行こうか」

とペッコは妻達と市長である義父、それに職人達の親方数人と「太陽の墳墓」にやって来た。

「では、始めるからみんな少し後に下がっていて、エイルは魔法障壁を展開して」

と言って特大のメガ・メテオを墳墓の岩山に対して放った……と言うのは表向きで実は創造魔法の破壊モードを発動している……

 かって洞窟が有った岩山は、見事に崩されて瓦礫の山と化している

「とんでもない威力だなぁ、我が婿ながら驚くよ」

と義父が言うと、全員が頷いた。

「義父上、親方、後はお任せしますね」

「おう、任せておいてくれ」


 本来のペッコの計画ではここに臭水の精製所を建てる予定だったのだが、魔法士大隊の人数が予想より早く増えているのでここに隊舎と訓練所を建てる計画に変更したのだった。

 ここは、街道を北に向かうと東ジャズィー、東に向かえば、今は閉鎖されている黄金平原への街道になる交通の要所でここを抑える事は軍事上でも大いに価値がある事だった。 

 ペッコは、友好関係に有るドラコニア族の酋長と会談を重ねて、交易の為に彼らの首都『ゾレラク』までの街道を開通させて整備する了承を得ていた。

 街道整備は隊舎の完成の後取り掛かる予定で、既に砂の都との間の街道はペッコの指示で試験的に古代ローマ式の敷石の街道をこの世界に持ち込んだ物が作られ始めている。


「大佐、太陽の墳墓も制圧した様だな、ご苦労だった」

数日後、ペッコは執政官ブレイドの執務室で報告と労いを受けていた、そこに北ジャズィの南方基地からの急報が入る

「基地上空に亡命者の一団を乗せた飛空艇が飛来して保護を求めています、どう処置いたしますか?」

との事だ

「飛空艇で亡命とは珍しいな、頼めるか?」

「はい、では早速」

上司であるブレイドとはお互いに尊重し有っているので、これで意思の疎通ができる様になっている。

 この短い命令には

亡命者全員の身元調査とその保護、亡命の目的やスパイの可能性の調査、北部連合王国の現状調査等が全部含まれている

 ペッコは敬礼をすると、自分の部屋に戻って、首席副官の平服から、最近自分も来ている赤魔法士の制服に着替えて、二人の当直の妻、今日はヘリヤとヒルドを連れて、北ジャズィーの『キャンプ・グレーフォグ』へ、メインクリスタルを使った転移魔法で向かった。

そこから南方基地までは鳥馬で向かう。


「よお、坊やが来たのか、助かるよ」

と基地の司令官室でペッコに挨拶をするのは同格の大佐だが、ずっと歳上でブレイドの子飼いの部下でもある第三大隊の指揮官だ、ブレイドの子飼いの部下達は実直な武人肌の人物が多く、こういった亡命者の扱いなどを苦手としていた。

「亡命者はどんな方達なのですか?」

「それがな、いかにも危なそうな胡散臭いのが二名と女性が二人、それに技術者だと自称しているのが二人の全部で六人だ、全員武装解除して応接室で軟禁しているのだが、見てくれこの槍と二本の細剣、どう見ても普通の物じゃないぞ」

 ペッコは槍にも細剣にも見覚えが有った。

「マウンテン大佐、どうやら僕の知っている方々かもしてません、その槍と剣預、僕がお預かりしても良いですか?」

「そうなのか?それなら良いが、とにかく後は任せる」

 ペッコは槍を持って、ヘリヤには細剣と魔器を持たせて、応接室に向かった。

(この槍、『ドラゴン・スレイヤー・エステーノ』さんの『魔槍ニーベルンゲン』に間違い無いし、こっちの細剣は『死の剣・ミュルグレス』だよね、って事は……)

 ペッコは二人の番兵に警護された、応接室のドアを開けた。

「エステーノさんお久しぶりです」

思った通り、ペッコはこの全員を知っているが、エステーノ以外は義氏のゲーム内の記憶なので、実際には面識は無い

 名前を呼ばれたエステーノは一瞬、戸惑ったが

「お、あの時の小僧か? 立派になったなぁ」

と懐かしそうな顔をした。

「みんな、この坊やは前に、デッド・バハムートと戦った時の坊やでな、恐ろしい程の魔法の使い手で

シュトラが『魔法王子』と名付けた坊やだ」

 そして、ペッコ達三人を唖然とした目で見ていた、銀髪の壮年のウェアキャット族の男性が

「お前達、その装束まさか赤魔法士なのか? いや俺の弟子以外に赤魔法士が存在する訳が無い……弟子の誰かの弟子、孫弟子って事か?」

 と呟いたのでペッコは話を合わせる事にした

「はい、子供の頃にオアシスに来た魔法士さんに教わったんです、その方は名乗る程じゃ無いと言って

また旅に出てしまったんですが」

と言う事にしておいた。

「改めまして、砂の都国軍魔法士部隊隊長のド・ペッコ・パト大佐です、こちらの二人は僕の部下

ド・ヒルド・フル大尉、ド・ヘリヤ・ニョル中尉です、エステーノさん、シ・ロン・ヤン先生、アイリさん、武器はお返しいたします」

とペッコは三人にそれぞれ武器を返却して、改めて話を聞く事にしたが

「ヘリヤ中尉ってもしかして、あのヘリヤちゃん?」

と今度は、小人族の女性がヘリヤに声をかけた。

「はい、タルタルさん、お久しぶりですね」

ゲーム内ではこのタルタルは『黎明の血盟』の受付嬢で、ペッコ=義氏も良く知っている人物だ、

当然ながら後の二人、巨人族の男性と小人族の二人もゲーム内NPCとして知った顔だった。

「王子、こちらは『黎明の血盟』のタルタルさん、それから『ガーランドアイアンワークス』のビッグさんとウエジさんです、私が自由都市に居た頃からの知り合いで父の友人でもあります」

と紹介された。


「そうか、これで全員身元の確認は住んだ事になるね、皆様は北部連合の侵略以降はどうされていたんですか?……、いや話は長くなりそうですね、先に飯にしましょうか?」

「ヒルド、マウンテン大佐に経過報告と食事の支度をお願いしてきて、あ、酒も用意してもらってくれる」

「はい、王子」

「おいおい、酒とは嬉しいが良いのか、俺たちはまだ捕虜だろう?……ってお前まだ成人したて位だよな

それで大佐とは恐れ入ったよ」

「いや、砂の都にとんでもない魔法士が居るって話は俺も聞いている、前の戦いで七万人を全滅させた魔法士ってペッコ大佐、君の事だね」

「はい先生、たまたま作戦が上手く行っただけですが」

とペッコは謙遜して見せた。

 しばらく談笑しているとマウンテン大佐が、部下達に食事の用意をさせて登場した。

「坊やじゃなくてペッコ大佐、流石だなもう全員の身元を確認するとは、言われたとおり飯の用意をしてきたぞ、それと俺の取って置きの酒もだ」

「あ、大佐、その酒……」

 そう、お馴染みのド族の廃酒だ、しかも大佐は

「これをこうやってエールのジョッキに入れて飲むと美味いぞ、ファイヤーボムと言うらしい」

……いや、それ、誰だよ流行らせた奴は……

と頭を抱えたペッコだが、直ぐに気を取り直して

「マウンテン大佐、まだこの後色々と聞き取りがあるので、酒はほどほどに」

「そうか、それもそうだな、じゃエールを置いて置くから好きにやってくれ」

そう言って大佐は部屋を後にした。

 食事をしながら、和やかに色々と話を聞いて、ペッコは少し席を外して、途中経過をブレイドに報告した。

「……それでですね、できれば今後の事などもありますので、続きは本部でと思うのですが」

「そうだな……、いや本部はスパイの目もあるだろう、悪いがしばらくエニアゴンに滞在してもらってそこで色々と話を進めよう、飛空艇は使えるのか?」

「はい、燃料さえあれば大丈夫だそうです」

「そうか、それは手配する、エニアゴンに着いたらまた連絡をしてくれ」

「了解です」

 こうしてペッコは一向を飛空艇ごとエニアゴンに案内して、そこにしばらく滞在をしてもらう事になった。


 「こんな街、いつの間にできたんだ?」

とシ・ロンもエステーノ、いや全員が驚愕している。

 タルタル以下、元自由都市組は元々顔見知りの義父に任せて、ペッコはシ・ロンとエステーノを連れて

街を案内している。

「ここが赤魔法士のギルドです、赤魔法士の装備や武器、参考文献なども揃えています」

と案内されたシ・ロンは驚きと喜びを隠せない。

「砂の都の魔法士部隊には七つの赤魔法士の中隊が有り、それぞれ50人の隊員が居ます、このギルドで

育った魔法士の内志願者を採用しています、今でも約100名近くが、初歩の赤魔法の修行をしています」

「つまり、400人以上の赤魔法士が居るっていう事か?、驚いたな俺の『紅の決闘者達』だって50人程だったのに」

「はいその通りです、先生それにアイリさん、折角なのでみんなに修行をつけてやっていただけますか?」

とペッコが言うとシ・ロンは快く承諾してくれた。

 なので、ギルドに二人を残して、ペッコはエステーノを連れて自宅に戻った。

「驚いたな、正教国の四大貴族の館より豪華じゃないか」

 とエステーノは素直に関心している。

飛空艇から降ろしたエステーノの槍や武具はここに運ばせてある。

「エステーノさん、以前ご一緒した時から一度お手合わせをと思っていたんです、お願いできますか?」

と聞くと、エステーノは

「俺の装備がここに有るって事はそう言う事だと思っていたよ、あの時の小僧の腕、確かめさせてもらおう」

とこちらもやる気満々だった。

「では、着替えてきますので少しだけお待ちいただけますか」

そう言ってペッコは修行場でも有る中庭にエステーノを案内して、自分は武具庫に行き赤魔法士の装束から、今まで誰にも見せて居なかったドラゴンスレイヤーの装備に着替える、鎧はAF3装備、槍はAF5武器でどちらも義氏がドラゴンスレイヤーを使う時にゲーム中で一番気に入っていた装備を創造魔法で作り出した物だ。


「お待たせしました」

と中庭に行く

「ほう、槍術士とはな、格好だけは一人前だな」

とエステーノは槍を構える。

 だがペッコは槍術士では無くLV100のドラゴンスレイヤーだ、最初から遠慮なく全ての技で

エステーノを攻撃する。

「おい、待て、お前その技誰に教わった?……そうか「流星」だな」

とエステーノは納得した様だ、ゲームの世界ではドラゴンスレイヤーはプレイヤーはもちろん成れるが

他にも流星やクエストの師匠役、正教国のスレイヤー騎士団等が存在する、この世界でもそれは同様だが正教国に行った事の無いペッコがその技を使える筈は無いのだ。


 三十分以上攻守を繰り返して、ペッコは槍を降ろした。

「いや、本物のドラゴンスレイヤーの技、恐ろしいですね、とても敵いません」

と言うとエステーノは

「流星とやり合った時を思い出したよ、このまま修行を続ければ多分俺達より強くなれるかもな」

とペッコの実力を認めてくれた様だ。

 実際の所、エステーノが竜の血を浴びて所得した特別な技以外はペッコも充分使えるのだが

やはり実戦経験とその部分の差が大きいと感じた。


「凄いな、良い物を見せてもらったぞ」

 とそこに声がした

非番で館に居た第二夫人のエイルとブレイドがそこに立っている、

「奥方に聞いたらここだと言うので勝手に入らせて貰った、正教国の蒼のドラゴンスレイヤー、エステーノ殿だな、お初にお目にかかる、私は砂の都の執政官を務めるスピン・ブレイドだ」

と自己紹介をする。

「元帥、言っていただければお迎えにあがったのですが」

とペッコが言うと

「何、邪竜を屠った英雄に早くお目にかかりたくてな、凄い技だった……と言うか大佐、槍も使えるとは驚いたよ」

「はい、父から色々な武術を教わりましたから、エイル、エステーノ殿をゲストルームに案内して、荷物はもう運んであるから」

「はい王子」

「エステーヌ殿、気楽な格好に着替えてください、酒でも飲みながら色々と話をしましょう」

そう言って、ペッコはブレイドを応接室に案内して、自分もシャワーを浴びて普段着に着替えた。


  その後ブレイドとエステーヌの話は、食事を挟んで二時間以上に及び、その中で現在幽閉されている貴族院の議長ボーエン子爵の救出計画や連合王国派の貴族への対処などについての支援をブレイドは確約した。

 そしてその対価として、現在連合王国の主力騎士団でもあるドラゴンスレイヤー達との戦闘方法を砂の都の国軍に教授すると言う事が決まった。もちろん、旧正教国内に居るエステーヌの協力者が子爵の幽閉場所を特定するまでという期限付だが。

「所でエステーヌ殿……」

ブレイドが何か言いかけたのをペッコが止めた

「ダメです」

「おい、俺はまだ何も言ってないぞ」

「わかってます、でもダメです、お立場を弁えてください」

「なんだ、何の話だ?」

エステーヌが聞いて来たのでペッコが答えた

「我が国家元首様は、ドラゴンスレイヤー殿と手合わせをお望みなんですよ」

と言うと、エステーヌは笑いながら

「なるほど、武人としてそのお気持ちはわかりますが、それは流石にお相手できませんね」

と答えた。実際は新大陸で『武辺王』とも戦っているので、本人的には問題が無いのだが、ここは大人の対応をしてみせた。

「ああ、本当に窮屈だよな、こんな生活早く辞めたい」

とブレイドが本音なのか冗談なのかわからない愚痴をこぼして、ペッコもエステーヌも妻達も笑った

「私の友人の議長閣下も、前に同じ様な事を言ってましたよ、公職の頂点に就くと言う事はそう言う事なんですね」

とエステーヌは楽しそうだ、どうやらブレイドとはウマが合うらしい。

 翌日は全員が集まった市庁舎での会談で更に様々な情報が整理されて、連合王国内部でレジスタンスを組織してるシ・ロンからの王国の内情や各地の情勢の説明があり、ついでに行方不明になっている、英雄『流星』と『黎明の血盟』のメンバーの事もタルタルから改めて確認できた。


 やはり全員が新大陸で消息不明になっていて、現在新大陸の存在した場所には、未知のエネルギーフィールドの結界が有り、内部への侵入も通信も不可能と言う状況だと言う事で、知の都では総力をあげてフィールドの解析を行なってると言う事だった。タルタルとビッグ、ウエジには、以前『黎明の血盟』が本部として使用していた西ジャズィー・シタデルベイの「砂の館」に滞在して貰って、知の都からの情報の整理を担当してもらう事になった。

(『砂の館』か懐かしいな、ゲーム内では良くあそこに無理矢理呼び出されたよなぁ)

とペッコがゲームの思い出に浸っていると、シ・ロンがとんでも無い情報を持ち出してきた。

「これはかなり確かな話なんだがな、執政官殿、あなたを暗殺する企が有るんだ、既に暗殺者が何人か

砂の都に入り込んでいると言う事だ」

「なるほど、この私を暗殺ね、身の程知らずも居るもんだなぁ、返り討ちにしてやろう」

とブレイドは何故か嬉しそうだ。

「元帥、ダメですよ、ちゃんと警備を固めてください、あ、そうだこれからウチの赤魔法士中隊が毎日交代で警備しますね、ヨーデル大佐それで構いませんよね」

「ペッコ大佐、それは良い考えですね、大佐の部下の方達ならスパイ等の心配も無いでしょうから」

 ペッコの部下……正確には妻達の部下だが、ほぼ全員が森の都やトラキア辺境地帯の出身で、連合王国のエルフ族優遇政策により追放されたり、奴隷として売られたりした者達だった。

「うーん、警護なんて必要無いと思うが、だがそうだな大佐の所の赤魔法士部隊なら良いかもしれないな」

「元帥、鼻の下が伸びてますよ」

 まぁペッコの妻達もそうだが、その部下達も、何故か美人揃いで、例の制服なので男性なら全員無条件に鼻の下が伸びるだろうとペッコは思った。

「まぁその話はとにかく置いておいて、皆さんはしばらくは全員賓客として留まっていただきたい、いずれ何らかの方針を示します」

とブレイドが言って会談は終了した。


 ペッコの館は無駄に広いので、エステーヌとシ・ルン、アイリはそのまま館に逗留してもらう事になり

それぞれ、国軍部隊と魔法士部隊の訓練をしてもらう事になる。

 会談が終わった後、ペッコはブレイドに呼ばれて二人で話し合った結果、

連合王国への逆侵攻と、塩の都支援作戦をペッコが立案する事になる。

「お前の事だ、もう腹案があるんだろう?」

とブレイドに言われて、ペッコは頷いた

「はい、一週間ほどいただけますか、作戦案をお持ちしたします」

と言う会話をしてブレイドは砂の都に帰って行った。


「さてどんな作戦を考えているのか、見当もつかぬが楽しだ」

とブレイドは鳥馬車の中で独り言を言い首席秘書官のフランツ・ヨーデル大佐に

「閣下、何か?」

と聞かれて、

「いや何でもない」

と答えた。


 ペッコはその後、数日かけて副官のルネ・ラエネク少尉や妻達、それにシ・ロンからの情報の提供と協力を得て逆侵攻作戦『ディスコルディアの涙』の草案を完成させた、ちなみにディスコルディアは塩の都の守護神で、破壊の女神の事だ。

 ブレイドに披露すると

「なるほどな、また面白い手を考えるな、だが敵の『バイエルの長城』を突破できる保証はあるのか?」

「はい、最大出力の黒魔法なら問題ありません障壁ごと破壊可能です」

「そうか、ではこの件を元老院に計るとしよう」

 元老院では、現状を維持して敵の弱体化を待つと言う消極論もあったが、ブレイドの強い意志と

何より教団の支援もあり、作戦の実行が決定されて準備に入る事になった。


「さて、具体的には何から手をつける? 全軍の招集準備はしてあるが」

「はい、まずは演習ですね、派手に大掛かりにやりましょう」

「敵に逆侵攻の作戦が有ると思わせるのだな」

「はい、その通りです、それでとりあえず、最初の一手として、東ムガール商会と話をしたいですね、ココリコ・ロロリコさんを呼んでいただけますか?」

「わかった、明日執務室に来る様に言っておこう、他に何かあるか?」

「カヌート中佐をしばらくお借りする事になりますがよろしいでしょうか?」


 翌日、ブレイドの執務室には、ペッコ、リバー大将、スイフト少将、ヨーデル大佐、カヌート中佐、それに東ムガール商会のロロリコが揃っている。

「さて、では始めるか、ペッコ大佐、例の作戦を話してくれないか」

「はい、最初にカヌート中佐には塩の都に行っていただきます」

「おい、無茶を言うな国境は完全に閉鎖されているし、国境を越えても、例の長城は魔動障壁が有るから空からでも通れないぞ」

「ええ、そうです、だから海側から潜入するんです」

そこでペッコは エウロパの地図を広げた、そして一枚目の地図を重ねる

「これが海の都からセイロン島までの航路です」

全員が頷く、ペッコは二枚目の地図を重ねる

「これは海の都の漁師さん達の航路なんですが、ロズリー湾で漁をする船です」

「ほう、途中までは一緒なんだな」

「小型の漁船はこの航路を通れますが、大型の商船では無理だそうですね」

「その通りです、このあたりの海峡や諸島の辺りは海が浅いので」

ロロリコが答える。

「その他にも、この辺りの沿岸は以前は森の都の勢力範囲でしたから、当然今は北部連合王国の哨戒艇が居る可能性があります」

ペッコはそう言って更に地図を重ねる、

「それで、この航路だとどうでしょう?、これならある程度の大きさの船でもトラキアの東岸、塩の都の東辺りの海岸線に行けるはずですよね」

 ロロリコは頷いた、

「確かに帝国に占領される前は、そんな通商航路があったと聞いています、ただトラキアの東岸は上陸しても切り立った山で、内陸に行く道は細い山道だけだった筈です」

「どうですか、カヌート中佐、その山道を通って一個中隊を率いて塩の都に行っていただけますか?

ロロリコさんには船の手配をお願いしたいのです」

「それなら行けるかもしれんな、俺は釣りも好きだから船の上で、のんびり魚でも釣っていれば良いのだろう」

とカヌートからは余裕の回答があった。


「それで塩の都で俺は何をすれば良い?」

「『塩の都の猛牛』ドウェイン・アルディンさんや遠征軍のピピン・カルピン少将に面会して、この支援計画書を渡していただけますか、中身は極秘と言う事で」

「おい、俺にも極秘なのか?」

「多分誰も想像できない方法で支援をしますから楽しみにしていてください」

「よし、お前がそこまで言うなら何も聞かないで行ってやる、その代わり例の酒、一樽寄越せ」

「良いですけど、もうすぐ新作の酒が用意できるんです、前のよりずっと美味いですよ、僕はそっちの方がお勧めです」

「そうなのか、それは俄然やる気が出るな、酒待っているぞ」

 一応ペッコの方がカヌートより上官なのだが、今はカヌートはペッコを弟分として扱っていて、その事をペッコもブレイドも誰も可笑しいとは思っていないので、こんな会話が成り立つのだった。

カヌートは旅の準備をすると言って、敬礼をして退出した、ロロリコも船の用意を確約すると、これは大儲けのチャンスだと理解をしてカヌートと一緒に退出していった。

「さて、それでは俺達は大演習の計画でも立てるか、スイフト少将、ヨーデル大佐任せたぞ」

「はい、元帥ほぼ全軍と言う事でよろしいのですね」

「ですが、それほど大掛かりな演習をすれば、敵にこちらの侵攻作戦を気取られませんか?」

「いえ、少将それが演習の目的なんです、こちらに侵攻作戦が有ると知れば敵は防御体制に入ります

その際は、当然どこを固めるかなんですが、陸路からの侵攻は、東ジャズィーから南の森か、北ジャズィーからモルドーナのルートしか無いです、そしてモルドーナルートは、旧正教国と旧森の都の

両方から挟撃される危険がありますから、敵も定石通りに南の森の国境付近を固めるはずです」

「どの通りだが、それではこちらから進軍するのが困難では無いのか?」

「はい、このルートは元帥に出陣していただいて、本隊として四個大隊で侵攻していただきます」

「まさか大佐、これが陽動って事なのか?」

スイフト少将が聞いてくる。

「その通りです、本命は僕が一個大隊を率いて、黄金平原からアケロン川を渡河して南の森へ入ります、この辺りには元々猟師のウェアキャット族しか居住していないので、今はほぼ無人の筈です、そしてそのまま海岸沿いを北上、東の森の南東で『バイエルの長城』を破壊して『塩の都』に入ります。

「それをたった一個大隊でやるのかね?、無謀では無いのか?」

「実は、ドラコニア族が全面的に協力してくれる事になっていまして、四個大隊ほどの兵力を援軍として

提供してくれます」


 ペッコがこの作戦を思いつくきっかけになる出来事が今から数週間ほど前にあった。

エニアゴンに人族と友好関係に有るドラコニア族『炎の一党』の長『ハムジ・グー』が当然来訪した。

同行して来たのは、ウェアキャット族で本来はペッコの従姉妹に当たる『ルーン・グー』だ

彼女は諸事情で、部族を捨ててドラコニア族の一員として生きている。

ペッコとは初対面だが、当然有名なNPCで義氏の記憶の中には存在している。

 ハムジ・グーはエニアゴン街開きの式典には招待をしたのだが、丁重な祝いの言葉と、贈答品として貴重なミスリルのインゴットを大量に贈ってくれたのみで式典には参加してくれなかった、ペッコは返礼として廃酒を数樽持って挨拶に行きその後お互いに良好な関係にある。

「お前がペッコか、なるほどド族にしては強そうだな」

とルーンがペッコを値踏みする様にしていると、そこに市長である義父の二人の妻が狩から獲物を持って帰ってきた。

「あら、姉さん久しぶりね」

と至って普通にルーンに挨拶をしているが、ルーンは

「馬鹿野郎、俺はお前らの姉じゃねぇ」

(確か、新生の頃の邪族クエストでこんなシーンを見たな)

とペッコは懐かしい思いに浸りながら、ハムジ・グーに突然の来訪の理由を尋ねた。

 ハムジはドラコニア族大酋長の親書を持参していて、それをペッコに渡した。

一読したペッコは驚愕した

「これは、まさかそんな事が?」

「事実だ、我らの大酋長は人と友好関係を望み『グランドカンパニー・エウロパ』に賛同した、お主達この街の者とも良い関係を築いてきた、お前達の作る酒は美味だ、だが北方連合国と言う者共はそうでは無い様だ、ガリアニアとゲルバニアの我らが盟友「ランフォリ」族を根絶やしにするつもりで攻撃を仕掛けてきた、我らはランフォリ族救援の為にガリアニアに攻め込むつもりだ、今日はそれを伝えに来た」

 ペッコはその場で即答した

「大酋長にお目にかかれないでしょうか? 我々も北部連合王国と戦っています、ぜひ共闘をお願いしたい」

 そして、ペッコはこの件をブレイドに報告すると、ハムジーグーに同行してドラコニア族の首都『ゾレラク』へ向かい、ドラコニア族との軍事同盟を纏めたのだった。

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