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……衛星都市エニアゴン……

 第十二章 衛星都市エニアゴン


 ペッコは、今日は昼で本部から退勤して、錬金術ギルドに来ている。

先日依頼した乳化した臭水と水を分離する事に成功したと連絡があったからだ。

 「ああ、ペッコさん苦労しましたけど、やっと成功しましたよ、これを見てください」

そう言ってココブシは乳化したサンプルが入ったグラスに黄色い錬金薬を垂らした、しばらくすると

グラスの中は水と臭水に綺麗に分離した。

「この錬金薬は毒では無いんですか?」

「ええ、飲んでも大丈夫ですよ、不味いですけど」

とココブシは笑って答える

「それとですね、この薬は水側では無くて臭水側に残るんです。つまり、これを使えば安全に水が作れるって事なんですが、一つ問題があります」

「何でしょうか?」

「これ、海の都からの輸入品の『オリーブオイル』が原料なんですよ、だから量産するとかなり割高になってしまうかもしれません、オリーブの実をどこかで栽培できれば良いのですが」

(大丈夫、薬があれば、創造魔法でいくらでも複製できるし、確かオリーブって乾燥地帯で育つんだっけ)

「わかりました、僕も色々と調べて見ます、この薬いただいても良いですか?」

「一樽作っちゃいましたから、持って言ってください」

「ありがとうございます、お支払いはおいくらで?」

「え、良いですよ、ペッコ大佐からはお金を取れませんから、兄達があんなにお世話になったのに、それに僕も冷たいエール飲んで楽しんでますからね」

ココブシはそう言って微笑んだ、どうやらこの兄弟は全員酒飲みらしい

(まさにドワーフ兄弟って感じだな)

「そうですか、ありがとうございます、いつか何かで埋め合わせをさせてくださいね、では失礼します」


 ペッコは樽を担いで、その足で鳥馬車を借りて北のオアシスに向かった、途中の無人の関所で一度止まって周囲の目を確認してから創造魔法で、一気に14樽を複製してそのまま鳥馬車に積んだ。

 山を一つ越えると北のオアシスの西の門が見えてくる、外堀と濠の間には、もう何軒か作業小屋が立ち始めて、煙突から煙が出ている。

 西門から中に入ると、街中が木槌、石鎚の音で溢れていて、みんな忙しそうに働いているのがわかる。

市庁舎もほぼ完成して、その前の広場に机を出して、義父と親方達が指示を出している。

(なんだかんだ言って良いチームになったな、これならこの先も安心だ)

「義父上、錬金薬が届きました、装置の方はどうなってますか?」

「おうもう、完成してるぞ、いつでも動かせる」

「では早速」

 臭水の専門家である義父は、分離装置にも詳しいので、この街の南西の外側の擁壁内に『毒水』の組み上げ装置と分離槽、取水装置を組み上げてあった、分離された水は濾過されて、地下の水路に流されて貯水池に溜まる様になっている。残された臭水はその場で樽に詰められて、とりあえず倉庫に運ばれる。

「よし、試運転するぞ、錬金薬の樽を分離槽に繋げてくれ、ペッコ割合は?」

「1/100で大丈夫出だそうです」

「よし、では汲み上げ開始」

しばらくすると、毒水が貯水槽に満杯になる、そこに錬金薬が投入されて、やがて、黒い『臭水』が表面に浮いてくる。

「よし水栓を開けろ』

出てきた水を義父は口に含んでしばらくしてから吐き出した

「大丈夫そうだが、念の為に錬金試薬で調べてみよう」

みんなが見守る中試薬の結果は……合格だった。あとはこのまま装置に流せば自動的に水と臭水に別れて水は濾過装置に、臭水は樽に溜まる様になっている。濾過装置を通した水は、内堀と貯水池に地下水路で流される。

「うーん、1対9位だな、これが臭水井戸だと使い物にならない割合なんだが、水を取る為って考えると文句は無いな、それでこの『臭水』どうすんだ?」

「ここから『気油』作れますよね?」

「ああ、装置さえ作れば簡単だ、ここには良い職人が揃っているから二日もあればできるだろう、気油を取った残りは、薪の代わりに燃料になるし捨てる所が無いんだよ」

 義氏のいた世界では石油の精製は有害ガスなどの問題があるが、この世界でもそれは同様だ

北ジャズィーの『臭水精製所』近くの基地が『キャンプ・グレーフォグ』と呼ばれるのはそのせいだった。

 だからペッコはもし精製所を作るなら、その施設をこのオアシスから離れた『太陽神の墳墓』に作るつもりでいる、その為にはそこを勝手に占拠している野党の集団……塩の都廃王の元親衛隊兵士達と鋼刃団の残党が合流した集団……を退治する必要があった。

(これはこれで、妻達の良い実戦訓練相手になるな)

とペッコは思っている。

「ペッコ、俺はこのまま一日の流量計測をするから、親方達に後は頼むと言っておいてくれ」

「はい、義父上」

(オアシスでの酔っ払い姿とは違って、完璧に職人の顔になっているなぁ)

とペッコは思いながら市庁舎まで戻る。

「おう、ペッコさん良い所に、資材だが、石材はまだあるが、木材がそろそろ足りなくなりそうだ、

それと、ちょっと良い木材も調達して欲しいんだよ、教会はちゃんと作らないといけないからな、これ

リストだ」

「ペッコさん、鉄鉱石もお願いします」

「はい、わかりました、明日にでも調達してきますね」

「しかしなぁ、予算も資材も何も心配しないで、好きな様に仕事ができるってのがこんなに楽しいとはなぁ、なぁみんな」

「おうよ、しかも仕事が終わった後は美味い飯とエールがついてくるなんて最高の職場だ」

「皆さん、もう少しで街が完成します、頑張ってくださいね」

「任せとけ」

職人達の士気は最高で、それに合わせて働く難民の数も増えて、当初の予定より早く完成しそうな勢いだった。

「所で、この図面のここ、ほれ市庁舎とかの建物の塔、こりゃ何に使うんだ、見張り塔なら門の側だろうし、街の中にこんなもの作ってどうするんだ?」

「俺は知っているぞ、東方の街には『火の見櫓』ってのが街の中にあるんだってよ何でも火事の見張りをするそうだ」

「待て待て、あっちの家って確か木と紙でできてるんだろ、そりゃ良く燃えるからそんな櫓が要るんだろうが、ここは全部石の家だぞ、家の中は別として外は燃えねぇよ」

「うーん」

と言ってみんな腕を組んでいる。

「あと二、三日したら、みんなにもわかると思いますよ、楽しみに待っていてください」

 実はこの塔は鐘楼なのだ、ペッコはここに釣る大型の鐘を先日『ゴッドヒルフ・マンドル』の元を訪れて制作の依頼をしてある、

 この鐘楼で、街は一応の完成になる、もちろんハリボテ状態だった、ペッコの館も義父の邸宅も中が綺麗に作られている。

 

 翌朝、ペッコは本部で元帥とちょっとした世間話をしている。

「元帥、気油って一樽だと幾らなんですか?」

「気油か、旧帝国製の魔機関でも動かすのか?ウチだと200リラって所だな、まぁお前になら

180リラで良いぞ」

「いえ、買うのでは無くて売りたいんです」

「買値か、原則でいれば売値の1/3だから60リラってとこだな、どうした、どっかで余物でも掴まされたのか?、砂の都では灯り用と飛空艇の燃料位にしか使わないからな、安いんだよ、これが旧帝国とか正教国に持って行けば暖房の燃料用に三倍四倍で売れるんだけどなぁ、全くくだらん戦争なんて始めたのは何処のバカだ」

(なるほど、これは戦争が終わるまで備蓄していた方が良さそうだな)

 

「所でペッコ大佐、お前今の砂の都の情勢についてどう思う?」

「戦線は膠着状態で、街の治安も改善されて景気も回復していますし、色々と良い方に進んでいるのでは無いかと思います、元帥や砂蛇衆の方々のご尽力のおかげですね」

「ああ、そう言ってもらえると嬉しいが……なぁ、そうなると女王ってのは、どう言う存在なんだろうな」

「それは砂の都の女王の事ですか? もう亡命されて何年目でしたっけ?、居なくても誰も困らないんだから、もう要らないんじゃ無いですか?」

「そうか、大佐は元々この都の生まれでは無いからな、そういう考えになるのか……実は俺も今どうしようか迷っているんだよ、そろそろ砂蛇衆の会合で議題になりそうだしな」

「どなたか、まだ王政を残した方が良いと言う方は居るんですか?」

「いや、誰も居ない、だがみんな自分が言うのが嫌なんだろうな、俺も言えないし、今俺が言ったら簒奪って事になるだろ」

「そうですね、でも、このままでは他国の交渉の際に最高責任者が不在って事になりませんか?」

「そうなんだ、だから悩んでいるんだ」

「では、これはどうでしょう、まず王政を廃止して、代わりに執政官を置く、執政官は例えば任期が五年とかで、元老院議員が選挙で選ぶ、元老院議員には今の砂蛇衆の皆様に加えて市民を代表して高額納税者上位三名を入れる、つまり高額な納税をする方は政治に対しても発言権が有ると言う事ですね、この元老院では国の根幹に関わる事や外交に関わる事を決めると言う事にするんです」

「なるほど」

「それで、前に元帥は『なんでこんな細かい事をいちいち砂蛇衆で決めないといけないんだ』って仰っていましたよね、だから、そう言う都市の雑務は、元老院では無く新設する『評議会』で担当すれば良いのかと思います、評議会の議員は、各ギルドのマスター、それに高額納税者の四位から六位の三名って感じでどうでしょう?

 元帥は一瞬驚いた顔をしていたが

「それ、悪いが文章にまとめて提出してくれ、次の議題でそのまま使わせてもらおう、いや、お前さん本当に頭がキレるな、目が覚めた思いだ」

「はい元帥、では早速、後ほどお届けにあがります、ではこれで失礼いたします」

 ペッコは元帥の部屋を退出してすぐに起案にかかり、数時間で清書して提出をした。

先程の案に青魔法士のギルドと赤魔法士のギルド、それに難民や亡命者達の幻術士のギルド、大工のギルド、革細工師のギルド、農業師のギルドを新設する提案を付け加えるのを忘れていない。


 ペッコは起案書を提出すると、本部を後にして大型の鳥馬車を二台用意して、例によって関所の横で依頼されていた建築資材を創造魔法で作成した。鳥馬車は二台連結して、ゆっくりとオアシスに向かって移動していく。

(ああ、そうだ、この街道の整備をしないといけないなぁ、ついでにオアシスの周囲の街道も整備したいなぁ、古代ローマ式の街道ってどうやって作ったんだっけ……こう言う時に『解』とか言って答えを出してくれる機能とか無いのかな……)

 街道の途中からだと、街は外側の擁壁でほとんど何も見えない、近づいて堀を渡ると初めてここの街が要塞だと気づく感じになっている。


 街の中に入ると、そのまま真っ直ぐに市庁舎の前まで行って鳥馬車を止める

「資材運んで来ました、おろしてください」

ペッコがそう声をかけると周囲の人たちが集まって、テキパキと荷下ろしを手伝ってくれる。

 ペッコは資材を彼らに任せて、街の建物を見て回る事にした、


 まずは、クリスタル・ライトが有る中央広場、以前は浅い池の真ん中にあって、転移したらいきなり足が池の中と言うあまりにも不親切な作りだったので、これは改善した。池はライトから少し離れて円周状に配置にされて、転移の邪魔にならない様になっている。

 街には九ヶ所の稜とその対角線上の交点を直線で結ぶ大通りと、それに交差する五本の環状通りで構成さていて、建物はその通り沿いを一区画として整然と並んでいる、通りに面して3階から4階建で中庭の有る建物で、典型的な中世ヨーロッパの街並みと同じ作りだ。

 砂の都へ通じる街道がある西門と東ジャズィーへの街道に繋がる東門、『メルクの祠』と南のオアシスに繋がる街道の南門と三つの大門があり、そこからの街路は中央広場まで直線で繋がっている。

 広場の北西の最初の建物は市庁舎で、この街の政治の中心になる、通りを挟んで北東側の区画は『デュロロ大教会』と新設した赤魔法士のギルド、次の区画は幻術士ギルドと農業士ギルド、南東の区画は大工と革細工師のギルドになる、中央広場に面する残りの二つの区画は一つがペッコの指揮する魔法士部隊の本部にする予定で、その隣のは今の所何に使うか未定だ。 環状通路を挟んで、北東には市長である義父の館、この周回の区画には、大工の親方をはじめとした街の建設に貢献した、ギルドマスター達や職人の家がある。

 北の街路はそのまま四区画を利用したペッコの館の正門に繋がっていて、広い庭にはこの地域でも育つ木々が植えられて、池も有り公園として機能する用になっている。三周目と四周目はこの街の市民の家になり、難民でも街の建設に参加した物には家が与えられる。三周目と四周目の南東と南西の街路には広場が設けられていて、市場になる予定だ、宿屋と酒場兼料理屋はこの辺りに有る。五周目は内側に軽工房や商店等が並び、大門付近には警備兵の詰め所が設けらている、五周目の外側は擁壁で、それぞれの稜には防御と攻撃用の陣地がある。

 騒音や煙、薬品等を使う工房や臭水分離装置は外周の擁壁と内側の堀の間の土地に造られ、この土地の日当たりの良い場所は畑になっている。

 これがペッコの設計した、星形九稜城塞都市の全体像だ、全ての家が居住者で埋まったとしたら7500人を超える規模の街になる。


 ペッコは今は新しい街の館から、本部に通って軍務をこなしている、しばらくは砂の都の家を使う予定だったのだが、妻達が広い新居の方が気に入った様で、早々と引越しを希望したからだ。当然妻達も新居から本部まで軍務と訓練の為に通う用になっている。なので砂の都の家は、商人として忙しく働いている従兄のチャカに貸し出している。


 いつもの様に元帥の部屋に顔を出す

「大佐、街はもう出来たんだろ、そろそろ招待をしてくれよ」

「はい、元帥、実は街の完成を祝した式典をそろそろ執り行おうと思っていまして、元帥のご都合を

伺いたいと思っていました」

「そうか、二週間後の雷属日なら一日空きが有るな、その日でどうだ」

「わかりました、それでよろしくお願いいたします」

ペッコはそう言って元帥の部屋から退出して、自分の部屋に戻り、副官のルネ准尉に頼んで、国軍の主だった将校、砂蛇衆、大商人、各ギルドの長に対して招待状を作成してもらった、

 そのうち、大司教の分だけは自分で届ける事になる。


「はぁ、少し肩が凝りましたね、ルネさん組み手に付き合っていただけますか?」

「はい、大佐、もちろんです」

 ペッコは暇があれば、ルネと練兵場で組み手をする事にしている、これはデスクワークの為に体が鈍ってしまうのを防ぐ為だ、何しろ今は狩をする暇も無いので体を動かさないと気分が滅入ってくるのだ

「ルネさん『柔』上達しましたね、もう僕の技を見切られいる」

「大佐のおかげです、今ではラモン様と組み手をしても、三本に一本は取れる様になりました」

 ペッコとしては、ルネを準尉官の准尉から正式な尉官である少尉に昇進させたいのだが、鉄華団以来の

軍の方針で尉官は魔法職か剣技を極めた者と言う規則がある。剣技が使えないルネをこれ以上昇進させる事ができないのが、ペッコの悩みだった。

 ルネが剣を使わないのは、子供の頃に剣を持った盗賊に家族を惨殺された為と聞いているので、無理に

剣を持たせるわけにもいけないのだ。

 組み手が終わって、衣服を整えている時にペッコはルネが制服の背側の腰部分にナイフを装備している事に気がついた。

「ルネさん、そのナイフは?」

 ルネはナイフを抜いて見せてくれた。

「父の形見なんです、自分が使える唯一の刃物ですね」

 それは、彫刻が施された、見事なナイフでかなり高価な物だとわかる品物だった。

「え、ルネさんナイフ使えるんですか?」

「はい、大佐それが何か?」

「ちょっと待っていてください」

 ペッコは急いで自分の部屋に戻ると、創造魔法で、二組の双剣『太陽の光』を作成した。

これは先日武器商人から見せてもらった高価な伝説の武器で、抜剣すると青く輝く特徴がある

 それを持ってまた練兵場に急いで戻る、

「ルネさんナイフが使えるなら、これ使えますよね、サイズはほ一緒です」

「ナイフを二個ですか、両手に一個ずつ持って使うのですか?」

「こうです」

 とペッコは双剣術の基本の型を披露した。

「なるほど、大佐殿、これなら私にも使えそうですね、もう一度演舞を見せていただけますか?」

 二度目の演舞でルネは

「基本の動きは格闘士とあまり変わらないですね、殴る代わりに刺す、切ると言った動作にすれば良いのか……」

「ちょっとやってみましょうか?」

二人が、剣を合わせると、ルネは直ぐにコツを掴み、双剣術の動きになっている。

「なんだなんだ、ルネお前、剣を使っているのか?」

例によって、練兵場を自分の庭にしているカヌート少佐の登場だ。

「あ、カヌートさんちょうど良い所に」

「嫌だよ、お前さんまた俺を実験台にするつもりだろう?」

「はいそうです、でも僕の相手じゃなくてルネさんの双剣術の相手をお願いします」

「ルネの相手、しかも双剣術だって?、それは面白いじゃないか、よし掛かってこい」

そう言ってカヌートは剣を抜いた。

 最初はカヌートの攻撃を避けていたルネだが、やがてタイミングが分かってきたのか攻勢に転じて

カヌートの首筋に左手の剣を突きつけた。

「それまで」

ペッコがそこで止めた。

「おい、ちょっと待て、蹴るのは反則じゃないのか?」

「いや、カヌートさん、戦場でそれは無いですよ、それに蹴りも立派な双剣術の技です」

「仕方ねぇな、おいルネ、後で俺の部屋に来い、剣技特一級合格の証明書を出してやる」

(理解が早い人って本当に良いなぁ)

「流石、カヌートさんありがとうございます」

「まぁ良いって、そうだ大佐、あの火酒ってのあんたの部族で作っているんだって? 今度分けてくれ」

「良いですよ、今度一樽贈ります」

(ここにも酒飲みがいたか、しかしなんでみんなアレが好きなんだろう、アレを樽でちゃんと熟成させたら美味い酒になるのかな?……今度作ってみようかな)

 火酒=廃酒は透明で無味の高濃度のアルコールだ、言い変えればただのエタノールで、味覚が人とは違うドラコニア族が好むのは分かるが何故この世界の住人にこれ程好まれるのかがわからなかった。


「ルイさん剣技合格おめでとうございます、これで昇進できますね」

「大佐、いつも私の事を気遣っていただいてありがとうございます、しかしこのナイフ、双剣?見事なものですね」

「ああ、それ、合格祝いに差し上げますので、これからは装備してくださいね」

「え、はい、ありがとうございます」

(これで、ルネさんを出世させて、僕の事務仕事を全部変わってもらえるなぁ)

と少し悪い顔になったペッコだった。


 ペッコは自分の部屋に戻ると服装を整えて、例の氷菓子、今回はドラゴンフルーツのソルベットを作って、「メルク礼拝堂」へ向かった、今回は事前のアポイントを取っていないので、氷菓子と式典の招待状だけを置いて帰るつもりだったが、迎えに来た枢機卿に、大司教の部屋に案内された。

「猊下、突然お邪魔いたしまして申し訳ございません、本日はこれをお届けして退散するつもりでしたのにお時間を取っていただいて恐縮です」

「あら、あなたならいつでも歓迎よ、それこの間の氷菓子ね、喜んでいただくわ、ウチの料理人に作らせたのだけど全然ダメなのよ……あら、これはこの間とまた違うのね……なんて美味しいの!!」

「ドラゴンフルーツのソルベットで御座います猊下」

(義氏の知恵『年配女性には甘味を贈るに限る』が見事に今回も的中した)

「はぁ、今日は色々と頭が痛かったけど、これで気分が良くなったわ、それは招待状かしら?」

「はい猊下、お蔭様をもちまして二週間後の雷属日に街の完成式典を執り行いたいと存じます、猊下にお越しいただけたら光栄でございます」

「枢機卿」

「は、その日はプルトの祠の修復状況の視察が入っておりますが?」

「そんなのキャンセルしなさい、こちらの式典の方が大事よ」

「はい、大司教様」

「猊下、ありがとう御座います」

「良いのよ、それより少しあなたの考えを聞かせてくれるかしら?」

「はい、なんでしょうか?」

「あなたの上司の元帥がね、先日の会合でとんでも無い事を言い出したのよ、王政を廃止して、なんとか制に移行するってね、正直に言うと私ももう女王は必要無いと思っているのよ、でもその元老院とか評議会とやらがどうも気に入らないのよね」

「その草稿の作成には私も参加しています(自分が全部作ったとは言えない)、猊下のご心配な所は

多分、評議会で猊下の御意向が蔑ろにされるのでは、と言う所にあるかと存じます」

「そう、その通りよ」

「ですが猊下、評議会の議員資格は、各ギルドのマスターと、市民の代表の高額納税者です、そして呪術士、幻術士、青魔法士、赤魔法士の四つの魔法職ギルドは猊下の御意向を尊重する物と心得ますがいかがな物でしょうか?、剣闘士と格闘士はおそらく元帥の、工芸士、服飾士はロロラト殿、錬金術は薬学院、鉱山士は中立と言う所は間違いは無いでしょう、しかし新設の難民達による大工、革細工師、農業師の各ギルドは私が猊下の意向に沿う様に取りまとめてご覧にいれますので、猊下のお心を迷わせるご心配は無いかと存じます」

大司教は満足した様で、満面の笑みになる

「王子、あなたならそう言ってくれると思っていたわ、これで胸のつかえが取れました、あなた、もっと頻繁に顔を見せに来なさいね」

「はい猊下、ありがとう御座います」


 ペッコは礼拝堂を後にした

(これで、王政廃止は確定だな、元帥が執政官になってくれれば僕も色々と動きやすい)

と思いながら転移で、街に戻り、街路を歩いて館に戻った。

「おかえりなさいませ」

 玄関で、先に軍務から戻って来た妻達が出迎えてくれる。

家の中では全員が、ド族の女性の伝統衣装を着用しているが、これは中々にセクシーな衣装なので

ペッコのお気に入りだった。

 今日は料理当番はヘリヤで、美味しそうな陸亀のステーキを作ってくれた。

「ペッコ様、今夜は私の番ですね、嬉しいです」

と頬を赤めている、この娘はペッコの妻達の中でも一番若いが一番奔放でもある。

(今夜はあまり寝られそうに無いな……)

と思うペッコだった。


 それから二週間は式典の準備の為に慌ただしく過ぎて、教会へのプルト神、メルク神の神像の安置や

鐘楼への鐘の取り付け、それに街内の飾りつけなどが行われた。


 前日の昼すきには全ての準備が終わり、翌朝の式典を待つばかりとなった、ペッコの館では

前夜祭として、市長である義父を初め、街の主だった者が集まって会食が行われた。

「皆さんいよいよ明日は街の完成式典です、準備ご苦労様でした、これより細やかな宴といたしますが

明日もありますので、お酒は控えめにお願いしますね」

とペッコが挨拶をして、皆楽しい時を過ごした。

「所でペッコさん、いや領主様、街の中の仕事が一通り終わったら、次は何をするんだい?、人夫として

雇っている難民達も皆それを気にしているが」

「次は、街道の整備をしないといけないですね、まずは砂の都までの街道、それから北の街道、南の街道と、それに、今は少し荒れているメルクの祠の修理も控えています、まぁ当分は仕事が無くなる事は無いので安心する様に伝えてください」

(日本の田舎と同じで、公共工事が無いと仕事が無いって状況は不味いな、なんとかしないと、ああ、あと街の自警団も作らないといけないんだっけ)

 せっかく作った大門の警備用の詰所はまだ無人のままだった、まだまだ悩みは尽きないペッコだ。


 そして当日は砂漠らしい晴天に恵まれて、この街の完成式典が始まった。

最初に挨拶に立った、ペッコは

「御来賓の皆様、市民の皆様、皆様のおかげて、街が無事に完成いたしました、そして本日より、この街は『エニアゴン』(本当は『アイン○ラッド』とかにしたかったんだけど)と言う名称になります、もうお気づきの通りこの街は只の街ではありません、有事には『砂の都』の盾となり鉾となる城塞都市です、魔法障壁と魔動障壁、二つの障壁に守られたこの街は第七厄災級の災害にも耐える事ができます、砂の都の衛星都市エニアゴンを、皆様よろしくお願いいたします」

 この世界で銃が普及しないのは魔法障壁がある為だ、魔法障壁は物理的な攻撃を弱体化する、更に鎧や服などに護符として仕込む事ができるので銃の使用は効率が悪い、それは都市に対しての大砲の攻撃も同様だ。   

 ただし魔法攻撃には効果が弱い欠点がある、強力な魔法攻撃は障壁を容易く突破する事ができる、ちなみに砂の都の軍が強いのはその強力な魔法攻撃を使える呪術士を擁しているからだった。

 一方で、魔動障壁は、旧帝国由来の技術で魔法に対して強力な防護力があるが物理的な攻撃には弱い

だからペッコはこの街の障壁を二重障壁にしたのだった。


 ペッコの挨拶に続いて、大司教、元帥、そして市長の義父と挨拶が続き、市庁舎の鐘楼の鐘を鳴らして全員で乾杯をして、式典を終了した。

 その後は、市長の案内で、街の主要な建物の案内があり、記念の宴会となった。

「まさか、こんな街を作っていたとはな、城塞と言うよりは要塞だろこれ」

 元帥は呆れた様にペッコの背を叩いた。

「ええ、砂の都が危機の際には皆さまにはここに避難していただくつもりで作りました」

(この皆さんには、一般市民が含まれていないのは当然の事だ)

「本当にお前には驚かせられる、しかし良くやったぞ」

「はい元帥ありがとう御座います」

 ペッコが会場を見ると来賓として来ている父が、旧友のスチール・リバー大将と酒を酌み交わしている

姿が見えた、父も楽しそうにしているし、大将も普段は見せない笑顔だ。従兄のクパは義父とこちらも笑顔で会話をしている様で何よりだ。

「王子」

「猊下、本日は御来賓ありがとうございます」

「ええ、それにしても見事な教会を建ててくれたわね、これ程の物とは正直期待していなかったのよ、東の森の『十二神大教会』よりも立派な位だわ、ここは教団を代表する教会になると思うの、それでここには司祭を派遣するつもりでいたのだけど枢機卿を派遣する事に決めたわ、だから色々とよろしくね」

「はい、ちょうどまだ使い道の決まっていない建物がありますので、そこを枢機卿の宿舎や教団の施設としてお使いください」

「そう、それは嬉しいわ、いっその事私が住もうかしら」

そんな冗談を上機嫌で言って、大司教は大満足で帰っていった。

(枢機卿か、もし教団と何かあったら立派な人質として使えるな)

とまた悪い顔になるペッコだ。

「マンドルさん、立派な鐘をありがとう御座いました、良い音色で感激です」

と、砂蛇衆のマンドルにも声をかける。

「何、礼には及ばんよ、頼まれた仕事をこなしただけだ、しかし見事な街だな、ペッコ大佐、一度私のカジノにもゆっくりと遊びに来なさい、たまには息抜きも大事だよ」

とマンドルも本心から街の完成を祝福してくれる様だった、他の砂蛇衆にも挨拶を済ませて、砂の都の大商人達とも会話をして、ペッコの領主としての公務は終了だ。

(ああ、疲れた、早く館に戻って風呂にみんなで浸かりたいなぁ)

と、そう思うペッコだった。


 それから数週間後

 いよいよ『砂の都』の王政の廃止が正式に宣言され、合わせて数々の政治改革も発表された、ブレイドは元帥のまま、執政官となり旧王宮へ執務室を移動した。

 それに合わせてペッコも元帥の首席副官として、旧王宮に執務室を移動する事になった。

 魔法士部隊は、定員割れの状態ではあるが大隊扱いになり、魔法士大隊として隊旗を掲げる事を許される事になった。ペッコの七人の妻がそれぞれ中隊長として七つの隊を率いる事になる。

 この部隊は後にエウロパ神話から引用された『魔王のヴァルキュリャ』と呼ばれて赤字に金のドレイクの隊旗と共に、敵国から恐怖される事になるが、それはまだ当分先の話になる。


 「元帥、いえ執政官、おめでとうございます」

かっての王宮の謁見室だった部屋で、ささやかなパーティが開かれている、

 出席者はブレイドが信頼する幕僚達でペッコの他には スチール・リバー大将、スイフト・ライター少将、主席秘書官に就任したフランツ・ヨーデル大佐、クヌート中佐などで有る。

「これから、もっと色々と大変になると思うが、みんな力を貸してくれ、頼んだぞ」

と簡単に挨拶するブレイドに、全員で乾杯をする。

 「砂の都」は再び軍備拡張路線に舵を切り、難民の兵役志願者を積極的に登用して、5+1大隊体制になっている、現在の前線は二ヶ所で、南方基地に二個大隊、東ジャズィーに一個大隊、各地の街や主要施設の警備に一個大隊とローテンションを組んで配置できる様になり、兵達には最低でも五ヶ月に一回は長期の休暇が与えられる様になっている。更に給与の改善、装備の改善なので、士気と練度は王政時代の不死隊と比較しても大幅に上がっている。

 対して敵国では前回の大敗の影響で物資、士気が大幅に減少して、各地で兵の脱走や逃亡が相次いでいるとの報告がある。


 そして、そんな時一隻の飛空艇が国境を超えて、東ジャズィーに侵入して来た事により

事態は新たな展開に突入するのだった。


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 エピローグ ロロラトの憂鬱


 砂の都の砂蛇衆で、百億リラの男と言う異名を持つロロラト・ナナラトは「塩の都」の元王宮で暇を持て余している。ここは、臨時にあてがわれた部屋で、元々は王族の居室で帝国占領時には高級将校の私室として使われていた部屋だ。

 廊下を挟んで隣の部屋には砂の都の女王が滞在しているが、もうずっと伏せっているとかで、何日も姿を見ていない。


 ロロラトは彼が所有する東ムガール商会が出費した塩田の視察と、塩の都の臨時政府の状況を確認する為に旧王宮を訪れていたのだが、そこで北部連合王国の侵攻があり国境が封鎖されて帰国できなくなっている、女王と共に空路救援に駆けつけた不死隊と近衛騎士団も、飛空艇の燃料が無いのでこちらも帰国の目処が立っていない。

 この旧王宮からだと、陸路では東の森を抜けるしか無いのだが、森の都側の国境は今は完全に閉鎖されている、空路は、民間飛空艇会社が定期便を飛ばしていたのだが、会社ごと連合王国に接収されてしまったので飛空艇による空からの脱出も不可能、しかも連合王国が、旧帝国が作った要塞『バイエルの長城』に沿って魔法障壁を展開しているので、魔法通話も転移もできなくなっている。

 完全に情報を遮断されて、この塩の都にもう数年閉じ込められている状況だった、それでも数ヶ月に一度連合王国の商人が危険を顧みずに、砂の都の情勢を記した番頭からの手紙を届けてくれる事があり、それが外部との唯一の通信手段だった

 現在塩の都では国境を完全に封鎖された事によって、深刻な食料不足に陥り、各地で餓死者が出ている状態になっている、元帝国の属領時代には、帝国領と空路で繋がっていたので、この様な状況にはなっていなかった。

 ロロラトは番頭に大至急で飛空艇の建造と運用をする会社の設立を命じたが、この指示が届いているのかも不明だった、


 そして今日久しぶりに届いた手紙にロロラトは驚愕する事になる

「なんだと、王政廃止、ブレイドの小倅が執政官だと? しかも突然南ジャズィーに都市が出現?

一体何が起こっているんだ」

 ロロラトは空を仰いだ……

 最後まで読んでいただきありがとう御座いました。

これで一応完結です、続編の構想はもう出来ているので、続きはまた次のナギ節にでも書くかもしれません。

 転生系のお約束、主人公のチート能力、意味不明にモテる、美少女ハーレム、ご都合主義等の要素は取り入れて書いたつもりです、楽しんでいただけたら幸いです。

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