……族長達の宴と新たな街……
第十一章 族長達の宴と新たな街
「父上、失礼致します」
「なんだ、ペッコか、まさかもう帰って来たのか?」
「いえ、本日はご挨拶に参上いたしました」
「挨拶だと? まぁ座れ」
ペッコはこれまでの経緯と砂の都の国軍大佐になった事、北のオアシス一帯を縄張りとして貰った事を
父に報告した。
「父上、私はこれよりはド・ペッコ・パトを名乗り、新たな土地で族長として精進したいと思います」
「そうか、しかしその歳で大佐とはな、俺の傭兵の頃の階級より上じゃないか、まさかこんなに早くその様な日が来るとはな、今夜は宴にするぞ次はお前の嫁とりだな」
「はい、父上、その件ですが、すでに相手は決めております、父上にお目通りしていただきたいのでオアシスに立ち入らせて構いませんか?」
「なんと、もう相手も決めてあるのか、それはでかした、すぐに連れてこい、おい、誰か妻達を全員集めろ、ペッコが嫁を連れてきたぞ」
「ありがとうございます、所で父上、兄者達の姿が見えない様ですが?」
「クパは客人と、東の鉱床に出かけている、チャカは商いに出ていて、しばらくは帰ってこないだろう
あいつに商人としての才があるとは思わなかったよ、今はエールも廃酒も飛ぶように売れていて生産が間に合わんのだ、畑を更に増やしたのだが、収穫は当分先だからな、ワシの飲む分が無くなってしまったわ」
と父は楽しそうだが、ほんの数年前まで資金が困窮して、食べ物にも困っていたのをもう忘れている様だった。
ウエアキャット族では新たに族長として認められるには、既存の族長一人の承認があれば良い、また既存の族長を決闘で破った者はその場で、族長として認められる掟になっている。
息子の族長就任を喜ばない親は居ないので、この時点でペッコの族長就任は決定した事になる。
「では父上、妻…、まだ正式では無いですが…、妻達を呼んで参ります」
「うん? 達だと? そうか二人連れて来たのか、なかなか甲斐性があるな頼もしい」
と父は更に上機嫌になった。
ペッコが鳥馬車のキャビンに戻ると、なぜかみんなが真剣な顔で相談をしている。
「父上から、許可をもらってきたよ、みんなどうしたの?」
レイアが答えた
「お父上様に御挨拶をするのに、誰が代表してするのか話しあっていたんです、私は部族のしきたりとかに詳しく無いので、エイルちゃんに代表してもらおうと……それに私、私生児ですから」
(あ、忘れていた、そうだった、どうしよう……)
「大丈夫ですよ、それに私が代表で御挨拶をしたら、私が第一夫人って事になってしまいます、ペッコ家の第一夫人はレイアちゃんですから」
「わかった、ではみんなこうして、まずレイアが最初にこう言って『私はファ・レイアと申します、都会の育ちなので、無作法ですがよろしくお願い致します』で良いと思う、後は直ぐにエイル達が続けて名前を名乗ってそれで大丈夫だと思う、それで駄目だったら僕がなんとかするから」
「はい、王子」
「あ、そうそう、王子も御主人様も導師様も今は禁止、みんな僕の事はペッコ様って呼んでね、じゃ行くよ」
(本当、しきたりって面倒だなぁ)
ペッコが全員を連れて父のコテージに入ると、父は驚いて固まった。
「父上、嫁達を連れて参りました、レイア、代表して挨拶を」
「はい、ペッコ様」
「ちょ、ちょっと待て、お前……七人も……七人も一度に娶ると言うのか?」
「はい、僕には全員を養う力がありますから」
「そうなのか……」
父は心の底から驚いている様だった、それは父の横にいる第一夫人以下も同様で、一番驚いているのは
ペッコの母だった。
「ではレイア」
レイアは
「はい、族長様、私はファ・レイアと申します……」
と先程の打ち合わせ通りに挨拶をした、そして直ぐにエイルが
「私はラ・エイルと申します、よろしくお願い致します」
「私はゾ・ヒルドと申します……
と年齢の順に挨拶をした。
「う、うむ、皆ご苦労、ペッコの嫁として歓迎するぞ、みんな寛いでくれ、これより宴の用意をするのでな」
と勢いに押されたのか、父は何も言わずに納得した様だ
そこにクパが戻ってきた。コテージの中の状況を見て一瞬驚愕してから我に帰り
「族長これは何の騒ぎですか?、ペッコ、帰って来たのか」
「兄上、はい嫁を連れて父上に挨拶に来ました」
とペッコが言うと、信じられない……と言う表情を見せた。
「おう、クパ戻ったか、今日の首尾はどうだった、客人はどうした?、今日はめでたい日だ、これより宴とするので客人も呼んでこい」
「はい族長」
「そう言えば、客人を紹介してくれたのもペッコだったな、立派な男を紹介してくれて、父からも礼を言うぞ」
「はい?」
(客人って……あ、ファ・ニョル・ヤンさんか、ちゃんと依頼をこなしてくれているのか、でも変だな)
オドは完全な武闘派だ、だからファ・ニョルが幾ら優秀な鉱山士でも、戦いが嫌いだと公言する人物を気に入るわけは無いのだが……とペッコは思った、だがその疑問は直ぐに解決する。
父のコテージに入ってきたファ・ニョルの両側には、従姉それも一番歳上の従姉と二番目の従姉がべったりと張り付いているのだ。
「やぁペッコ君じゃないか、素晴らしい仕事を紹介してくれてありがとう、このオアシスの人はみんな優しいし、女性は綺麗だし、酒は美味い! これでもっと鉱床が見つかれば天国の様な所だよ」
ファ・ニョルは既に酔っている様で、両腕を従姉達の腰に回していて、そう言われた二人の従姉は嬉しそうにしている。本来なら、こんな姿を見たら激怒する筈の父もそれを見ても何も言わない、それどころか
喜んでいる様に見える。
「兄上、これは一体??」
「ファ・ニョルさんが来て直ぐにね、鉱床の調査に行くと言うので妹達を道案内と護衛に付けたんだ、そうしたら、移動中のサンド・ワームの大群に遭遇してしまってね、幾ら妹達が優れた狩人だと言っても二人ではワームの大群の相手は無理だ、だから二人とも死を覚悟したそうだよ、でもその時、鉱石を持ち帰って来たファ・ニョルさんが、二人を守って戦ったんだ、それも採掘用のピッケルでね、しかも恐ろしい程強くて、大群をほぼ一人で撃退して女王の雌を倒して、三人で獲物を持ち帰って来たんだよ、もうそこからは族長が大歓迎でね、妹二人を貰って欲しいとずっと言い続けているんだ」
(話が違うぞ、この人戦いが嫌いなはずでは無かったのか?)
「父上!!」
レイアとヘリヤが同時に声をあげた。酔いが回っているのか一瞬、『え、何』と言う顔をしたニョルだが
直ぐに自分の二人の娘だと気がついた様で、
「二人共どうしてここに?、紹介するよ娘のレイアとヘリヤだ、そうかペッコ君と一緒に着たのか」
と二人を従姉に紹介して、父の向かい側の席に座った。
「なんだ、ペッコ、その二人はファ・ニョル殿の娘さんか、それは二重にめでたいな、これで我らは親戚付き合いだな、おい早く酒の用意をしろ」
と父も更に上機嫌になっている。
(なるほどね、行き遅れて婚姻相手が見つからずに困っていた姪が二人同時に片付きそうで喜んでいる父、
奥さんと死別して悲しんでいたニョルさんにも彼女ができた、強い男を見つけて喜んでいる従姉達、これは全員がWin Winのケースじゃ無いのか?……あ、でもレイアとヘリヤは父上のあんな姿を見たくは無いかな?)
ペッコは喜びながらも心配をしていたが、二人は父が元気で幸せそうなのを見て喜んでいる様だ。
そんな訳で、この夜の祝宴は例によって深夜まで続き、ほぼ全員が酔い潰れると言う状況になった。
ペッコは一人で抜け出して、オアシスの水浴び場に行き、お気に入りだった場所で冷たい水に浸かって
熱った体と頭を冷やした。
「よう、やっぱりここか」
「クパ兄さん」
「『パト』就任おめでとう、北のオアシス、これから色々と大変だろうけど頑張れよ、僕も応援するから」
「ありがとうございます、兄さん、ファ・ニョルさんの事なんですけど」
「うん、族長が気に入っているからな、妹達もやっと嫁に行けると喜んでいるよ、昔上の妹がどっかから連れてきた奴は当時の族長、僕の親父が反対して半殺しにしてね、それ依頼嫁に行くのを諦めていたみたいだから、本当に良かった」
「そうですか、そんな事が……ファ・ニョルさん、どこを縄張りにする予定ですか?」
「うん、それが中々決まらないんだ、何か良いアイデアはあるかな?」
婚姻をするには『パト』としなければならない、パトになるには縄張りが必要でだが、この南のオアシスはあまり広く無いので、ニョルに分割する余裕は無いのだ。
「僕の貰った北のオアシスとその周辺って結構範囲が広いんですよ、なので僕の所で二人『パト』体制ってのはどうでしょうか?、実は色々と計画をしている事があるので、信頼のできる人が欲しいと思っていたんです」
「なるほど、それなら族長も文句は無いだろうし妹達も異論は無いだろうな、後はニョルさん本人の意向がどうかだね」
「ええ、明日の朝にでも話してみるつもりです」
クパにとっては、ペッコがこのオアシスにパトとして帰ってくるつもりが無いと言う事がわかっただけでも喜ばしい事だった、腹違いの弟チャカはどうやら商人として生きていく決心をした様で、最近は商品であるエールと廃酒を取りに来る時しか帰ってこなくなっている、つまりやがてはクパが南のオアシスのパトに成れる可能性が高くなったと言う事だ。そして、オドがニョルを養子にすると言い出しかねない今の状況をペッコが解決しそうなのだから、協力するのは当然だった。
翌朝はペッコは母と妻達との時間を作り、自分はファ・ニョルと色々と話す事にした。
今朝はニョルは素面でペッコの話を真剣に聞いてくれた。
「なるほどね、婿殿はとんでも無い事を考えているんだな、そしてそれを俺に手伝えと言うんだな」
「はい、僕は軍務もありますし、これから新しく作る街を誰かに任せないといけないのです、それを
お願いできますか、同じ土地に二人のパトが居ると言う状況は過去にも何度もあったと聞いているので
問題は無いと思います」
「そうだな、面白い話だと思うが、肝心の街作りはいつから始めるんだ?」
「砂の都に帰ったら直ぐに取り掛かります、街の方がある程度形になったら、義父上に来ていただきたいと思っています、これが街の完成予想図です」
「おいおい、本当に一人でこんな街を作るつもりなのか?」
「一人では無いですよ、難民の職人さん達が全面的に協力してくれる事になっています、もちろん彼らも新しい街の住人になります」
「つまり、婿殿は新たな『自由都市』を作ろうとしていると言う事か……良し解った、全力でやらせてもらうぞ、俺の孫が住む街になるんだからな」
「義父上ありがとうございます、そう言っていただけると思ってました、あ、そうだ一つお伺いしたいのですが?」
「何かな?」
「以前レイアから義父上は争い事が嫌いで、自分の部族から逃げてきたと聞いた覚えがあるのですが、どうもその姿とワームの群れを単身で撃退した姿が重ならないのです」
「ああ、その事か、俺は狩は得意なんだ、部族でも一番の腕だったからね、でも人を相手にするのは嫌なんだ、それだけだよ」
ペッコはもし戦ったら義父の強さはカヌートを上回るのでは無いかと想像している。
(人と戦うのが嫌かぁ。何か勿体無いなぁ……)
「では、義父上、準備が整うまで今しばらく、このオアシスでお待ちください」
そう言って、ペッコは会談を終えた、それから従兄と父と色々と打ち合わせをして、その結果ファ・ニョルは正式に従姉二人と婚姻を結び、北のオアシスをペッコと共同統治する『パト』となった。
そして、この事で今までは父親の名前を名乗れなかったレイアとヘリヤも正式にド・レイヤ・ニュル
ド・ヘリア・ニョルと名乗れる様になった。
当然の事の様に、この夜もまた宴となった。
「このお肉、少しクセがあるけど、物凄く美味しいですね」
「ああ、それが 『エウロパ三代珍味』サンド・ワームの雌の肉の燻製だ」
「良いなぁ、こんな美味しいお肉が毎日食べられるなんて、そのサンド・ワーム私も狩ってみたい」
「うん、私も」
などと言っていた妻達であったが、翌朝、偶然にオアシスの近くを移動中の群れと遭遇して
全員が悲鳴をあげたのだった。
(うん、その気持ちはわかる、初めて見たら気持ち悪いよね、あれ)
エールと廃酒、それに燻製をたくさんお土産に貰って、ペッコ達はオアシスを後にして
砂の都に帰還した。
新居の広い風呂にみんなで浸かりながら、妻達は、まだはしゃいでいる。
(ここで、夢でした!とか、終了です!とか無いよね、本当に天国だよ、この光景)
「楽しかったね、お酒も美味しいし、素朴だけどご飯も美味しかったし」
「うん、でもやっぱりアレはキモい」
「ペッコ様は、アレを5歳の時に倒したんですよね、やっぱり凄いですね」
「良い所だったけど、私はお風呂が無いのがなぁ、ペッコ様、新しい街ってお風呂あるんですよね?」
「私、ペッコ様のお母様に、ペッコ様の好物の作り方聞いて来ました、明日早速作りますね」
(やっぱり楽しい!!)
翌日から、ペッコの国軍大佐としての通常軍務が始まる。
朝食を隣の宿で……妻達はまだパンが上手く焼けないからだ……食べてコーヒーを飲み
本部に出勤、そこで事務仕事……副官のルネ准尉が優秀なので、書類を確認してサインをするだけ。
その後は、妻達の訓練の指導……目標は全員が赤魔法を実戦で完璧に使いこなせる様にする事だ。
中尉となったレイアとエイルは問題無いが、他の五人はまだまだ未熟だからだ。
その後は全員で昼食、その後妻達は、幻術と白魔法の訓練、幻術士ギルドを一応卒業しているエイルは幻術はほぼ完璧だが、上位魔法の白魔法への対応がまだだった。他の妻達は幻術からの修行で、エイルの他に亡命した幻術士数人が教官として対応してくれている。
この間にペッコは元帥や大将、他の将校達と今後の方針の打ち合わせ等を行なっている。
「大佐、魔法士部隊の育成は順調か?」
「兵の中から志願者を募って、呪術士ギルドで訓練をしてもらってます、その中から選抜する予定なんですが……」
「なんだ?」
「はいココブキさんによると、どうも集まりが悪い様なんですよ……、なので、難民の中からも選抜してみようと思っています」
「そうか、、依然として魔法士不足だからな、頑張ってくれ、そう言えば大佐の奥さん達は優秀だと聞いているぞ、良くも集めた物だな」
「はい……何でなんでしょうね、勝手に集まったみたいな物なんですが」
「はは、まぁ結果良ければ全て良しだな、北のオアシスの方は進展しているのか?」
「こちらは、少しずつですが……形になったあかつきには元帥も是非お越しください」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
「では失礼します」
……と昼間はこんな感じで毎日を送っている。
「ルネさん僕は錬金術ギルドまで行くので、後はよろしく」
「はい大佐」
ペッコは北オアシス東方の『トカゲの谷』と呼ばれている地域の河川から採集した水の鑑定をギルドに
依頼していた。
この辺りの水は『ポイズンウォーター』と言われる位毒性が強く、飲用にも農耕用にも使えない。
ただし、トカゲの谷の周辺のみに魚が生息しているのが不思議だったからだ。
「ああ、ペッコ大佐、結果が出てますよ、この水なら飲んでも大丈夫です、でもこっちとこれは
ダメですね、臭水が混入していますから、飲料水としては使えません」
臭水と水を分離する方法はあるんですが……北ジャズィーの臭水採掘施設で使われている方法なんですけど……でもその方法だと分離した水に錬金薬が残ってしまうので、飲料にはできないんです。
ペッコもそれは義父から聞いて知っていた。
「そうみたいですね、でも北のオアシス周辺では飲料水の確保が難しいので、何とか安全な水を取り出す方法は無いでしょうか?僕が今知っているのは塩を入れる、青魔法の『魔音波』のスキルを使う方法なんですが、塩では飲み水や灌漑用水には使えませんし、少量なら青魔法でも良いのですが、大量に水を分離する事はできません」
「うーん、なるほどこれは難題ですが、挑戦する価値はありますね、僕、頑張ってみます」
「ありがとう、期待してますね」
(よし、これで丸投げ終了、後は何か方法を見つけてくれれば良いな)
ペッコはギルドを出て、一度、転送魔法で北のオアシスのクリスタル・ライトへ移動した。
このライトはまだ稼働していないが、一時的に機能を停止しているクリスタル・ライトでも今のペッコは転移できる様になっている。
オアシスは相変わらず無人だ、クリスタルライトの周辺は池になっていて、この水は飲料に使う事ができるが、湧水としては量が少ないので、街の水源にはできないのだ。
(やはり、トカゲの谷周辺のドラコニア族を駆逐するしかないかなぁ、でもそれだと揉め事になりそうだし……)
ドラコニア族といっても一枚岩では無く、この北のオアシス周辺の部族は、人族に対して敵対したままだ、その中の少数は協調的なのだが、人数的には9対1で敵対派の方が多い。国軍の方針も黄金平原の方の部族と良好な関係に有る今、敵対部族に対しては専守防衛策を取っていて、攻撃された場合のみ反撃を許される状況だ、だから気軽にこちらから攻めるわけにはいかないのだった。
さて、とりあえず、初めの一歩から……
ペッコが街作りの参考にしたのは、義氏の記憶に有る中世イタリアの星形城塞都市『パルマノーヴァ』だ、自分で描いた図面と地図を眺めながらオアシスのクリスタル・ライトを中心に、正三角形を三つ40°づつ回転させて作る九芒星の九つの頂点と九つの交点に、創造魔法で四階建て位の高さの塔を立てていく。そして、その塔を繋ぐ様に擁壁を作る、18箇所の擁壁ができた所で今日の作業は終了だ。
クリスタル・ライト両側の岩山の頂上に、特大の砂の都の旗と軍旗を立ててから転送魔法で、都のクリスタル・ライトに戻った。
家に戻ると、今日の食事当番のロヌルがもう夕食の支度をしている。
「あ、ペッコ様、おかえりなさいませ、もうすぐできますから、先にシャワー浴びてくださいね」
(良いなあ、この感じ、できれば『ご飯にする?お風呂にする?それとも私?』を聞きたいけど、まぁ無理だよな)
と笑って、自室へ行ってシャワーを浴びようとすると、カーラとスリマが来て
「お背中お流ししますね、後でお洗濯しますから早く全部脱いでください」
と襲いかかってくる。
ペッコ家の公式ルールとして夕食の支度をした者が、その夜ペッコと過ごす権利を得ると言う事に
なったので、他の者にこうやってそれ以外の時間に襲われる様になった
(まぁみんな可愛いし綺麗だし、文句は無いんだけど……でも、今はまだ16歳の身体だから全然元気だけどこれがずっと続くと不安かもしれない、何しろ交配できなくなったライオンの雄は悲惨だからなぁ)
などと心配しているペッコだった。
こうして、楽しいハーレム新婚生活を送っているペッコだが、街建築の下準備は着々と進んでいた。
擁壁の中を整地して、地下に下水道を通して汚水の浄化槽を作る……と行っても大きな地下プールを作ってそこに砂の都の地下水道に生息しているスライム種のモンスターを捕まえて来て放り込んだだけだが……このスライムは生活排水や汚水を食料にして繁殖するので、エウロパの都市や村で普及している下水の処理方法なのだ、ペッコは試しに一匹を毒性の強いオアシス西側の水路の中に放り込んで見たが、数秒で溶けて死んでしまった
(すまないな、君も最初に僕では無く龍と会っていたら違うスライム生になったんだろうな)
と無念の死を遂げたスライムに悔みの言葉を心の中でかけた、
下水道の上には上水道を通して、これは市街地の要所数カ所に設ける井戸の水源になる。
街の西側の擁壁は岩山に接していて、ペッコはその山を創造魔法でくり抜いて、飲料水や灌漑用水用の巨大な貯水池を作った。そして創造魔法で、水を作り出して貯水池を満水にする。
ここには別の水路を作って、周辺の水源から浄化した水が投げれ込む様になっている。
ただ、その水源はまだ、一箇所しかないので、錬金術ギルドの進捗状況が気になる所だ。
貯められた水はここから緩やかに傾斜させた上水道を通して水が井戸まで運ばれる事になる。
それから、擁壁の外側に濠を作り、さらにその外側も整地して、ここは畑や職人達の工房の予定地となる、そして全てを取り囲む様に円形の擁壁を作り、さらにその外も堀を作り、ここには毒の水をそのまま流し込んだ
既存の街道と繋がる様に門を作り堀に橋をかけて、最後にクリスタル・ライトの周囲にあった岩山も創造魔法で消滅させて、整地して街の土台が完成した。
ペッコは広々とした市街予定地を見て、満足した。
ここに、市庁舎、こちらは教会を建てる、それから……と一通り設計図と照らし合わせてから、一番北の端に創造魔法で自分の館を建築した。館と言うよりはヨーロッパの小さな城と言う雰囲気の建物だ、
館の周囲の土地を広めに取って塀をたて、門を作り、外観は完成だ。
それから、クリスタルライトと館の中間に、もう一つ邸宅を作る。これはこの街の市長になる
義父とその妻達の家になる、後は、避難民のや職人を動員して、建物をペッコの設計図通りに建てるだけになる。その為にテントを建てて、大量の建設資材、石材や木材、皮などを創造魔法で作成して並べてペッコの作業は終了だ。
(創造魔法無しだったら、これニ〜三年かかる仕事だよなぁ、それを一月でできてしまうのだから凄いや)
そう思いながら転移魔法で都に戻る。
その足で、兼ねてから打ち合わせをしていた、難民や職人の長達の所に行き、新しい街の建設準備が整ったと告げて、希望者全員の移住の準備をしてもらう、街に家が建つまでは今と同じテント暮らしだが、それでも今よりは住みやすいはずだ。
それから、南のオアシスまで転移魔法で飛んで、義父に準備が終わったと伝えると、義父はもう準備は終わっているから、今から行こうと言い出した。
義父が用意したドレイク車に四人で乗って北のオアシスに向かった、義父とその妻の従姉達は、建築中の街に入ると、目の玉が飛び出る位驚いていた。
「嘘、ペッコ、これ……ここが、あの北のオアシス? 全然違う場所になっているじゃない」
「一体どうなっているの?、ここにあった岩山は?」
「はは、姉さん岩山位、魔法で簡単に壊せますよ、義父上、家は作りましたが、中身はからですから、
姉さん達と一緒にお好きな様にしてください、数日中にこの街に住む職人さん達が来ますので
その時にまた紹介しますね、あ、義父上はこの街の市長ですからよろしくお願いします」
と有無を言わさずに面倒な市長の仕事を義父に押し付けたペッコだった。
その夜はペッコ達はここでテントを張り、姉が途中で仕留めた陸亀を焚き火で焼いてステーキにした夕食を食べて、就寝した。
翌朝、続々と到着した難民や職人達は歓声をあげて、街の中に入って来た
「ほう、ここが以前『塩の村』と呼ばれていた所ですか、聞いていたよりずっと広く、整地もされていて
これは、直ぐにでも家が建てられそうですじゃ」
「親方、こちらが僕の義父だ、この街の市長として、みんなとこれから一緒に暮らす事になるからよろしくね」
「では僕は外の作業にかかりますので、後は打ち合わせ通りによろしくお願いします、もし資材が足りなくなったら、僕に連絡してくれば直ぐに手配しますから」
「ああ、わかった、気をつけてな」
「あ、そうだ親方、水は井戸が全部使えます、赤い小さな塔が立っている所は下水道の口です、排水やトイレはそこに繋げてくれれば良いですから」
「へい、任せてくだせぇ、何自分たちの街を作るんだ、みんな気合いが違います」
ペッコは南の門から外に出ると、外堀の先、岩山や荒地になっている所の整地を始める、難民の中に、森の都の『農業士』ギルドに所属していた者が多数居るので、ここは彼らに任せて、畑として乾燥地に強い作物を育てる予定だ。
創造魔法で整地をしていくのだが、適当に黒魔法を放って、爆発音をさせて、いかにも普通の魔法で
整地をしている様にごまかすのを忘れてはいない。
(それにしても北部連合はバカな事をしてるなぁ、自国の貴重な職人や技術者を種族が違うと言うだけで
追い出して、技術を無料で他国に提供しているのと変わらないのになぁ)
こうして更に数ヶ月が過ぎ、街はやっと形になって来た。
この間にペッコは、街の18箇所の稜の先端に、魔紋を刻んだ石を置いていく、これはこの街の防衛用の魔法障壁の用意だ、魔紋に魔力を注げば障壁が発動する様になっている、そしてその外側の円形の擁壁には、旧帝国由来の魔技術『魔動障壁』の発生装置を設置していく。この街はこの二種類の障壁で防護される事になる、更に外敵への攻撃方法として、それぞれの稜には『正教国』型の大砲(もちろん創造魔法で作った複製)を並べている。
「なんとか出来ましたね」
「ああ、みんな凄い勢いで働いていたからなぁ、所で、この二つの大きな建物は何に使うんだ?
「東側は市庁舎です、義父上の執務室や会議室などいろいろですね、西側は教会です、プルト神メルク神の像を置いて、教団から司祭を派遣していただくつもりです、まぁ街のお守りみたいな物ですね」
その日ペッコは都の自宅に戻ると、創造魔法で二つの物を作り出した。
一つは『氷中花』でこれは氷の柱の中に生花を閉じ込めた物だ、呪術士の魔法でも作る事ができるが
創造魔法の方が綺麗に作れる、そしてもう一つは『氷菓子』=アイスクリームパフェだ、事前に調べて大司教デュロロ・ロロの好きな花と果物を使っている。
これを贈答用の木箱に入れて、布で包み、その上から『ブリザート』をかけて溶けない様にして、
抱えて「メルク礼拝堂」へ向かった。
今日は大司教デュロロ・ロロに面会のアポイントを取っているからだ。
控室で、待たされたが、直ぐに枢機卿が呼びに来て、ペッコは大司教の部屋に通された。
「猊下、お目通りの許可をいただき、ありがたく思います」
と、いつもの様に最敬礼で挨拶をする、
「王子、随分と無沙汰だったわね、それで今日は何の用かしら」
「はい、ご無沙汰をして大変申し訳ありませんでした、まずはこちらをお納めください」
ペッコはそう言って持参した物を執事でもある枢機卿に渡した。
「あなたから進物とは嬉しいわ、あけてみなさい」
枢機卿が、大きい方の箱を開けると、氷中花が姿を現した。
「まぁ見事な、涼しげで良いわね」
大司教はもう上機嫌だ、次に枢機卿が小さい方の箱を開けるとアイスクリームパフェが出てくる
「これは?、果実を乗せたケーキ?」
「いえ、猊下、氷菓子と申します、暑気払いにいかがかと思い持参いたしました、冷たい内にお召し上がりください」
「これ、大司教様に毒味もせずに、無礼であろう」
「良いわ、王子が私に毒など盛るわけ無いでしょう、こちらに持って来なさい」
パフェを一口食べた大司教は、恍惚とした表情で
「ああ、冷たくて甘くて美味ね、あなたどこでこの菓子職人を見つけたの、私に譲ってくれない?」
と大いに気に入った様だ。
「恐れながら猊下、それは私が作った物でございます」
「まぁ王子が、それは嬉しいわ、初めて経験した味だったわ、あなたにこの様な才まであるとは私の目は間違ってはいなかったわね、それで今日は何の用なの?まさか菓子を届けに来ただけでは無いでしょう」
「はい、猊下、恩賞にいただきました北のオアシス、なんとか皆で暮らせる様になりましてございます
つきましては、教会を建立したいと思いまして、プルト神、メルク神の御神像を賜りたくお願いもうしあげます」
「まぁ教会を!それは殊勝な心がけです、レメンス枢機卿すぐに手配をしなさい」
「はは、大司教様」
「それでどの様な教会を建てるのですか、あまり見窄らしいのは困りますよ」
「実は建物は既にできております、これがスケッチでございます」
「まぁ、これを本当に建てたの?、どれ位の大きさなの?」
「はい、この礼拝堂の2/3位です」
「本当に、素晴らしいわね、そうなるとその教会の名前を考えないといけないわね」
「はい、誠に恐れ多いですが、猊下の御名を頂いて『デュロロ大教会』と呼称したいと思うのですが、いかがな物でしょうか?」
「まぁ、それは光栄だわ、もちろん許可します、開設式には私も出席しますね」
「はい、猊下ありがとうございます」
こうしてペッコは今日の第一の目標を達成した。
当然だが、自分の名前の入った教会が建つ街である、大司教が保護をしないわけが無い、それがペッコの狙いだ、一方で大司教は
(全く可愛い坊やだ事、私の好きな花や好物をちゃんと調べて貢物を持ってくるんだから、皆もあれくらい気が利くと良いのにねぇ、いっその事あの子を枢機卿にでもしてみようかしら)
と思いを巡らせていた。