……新たな旅立ち……
第十章 新たな旅立ち
砂の都に帰還してからも、ペッコは毎日忙しく過ごしている。
先ずはブレイドの言った通り、今回の功績で大佐に昇進した。レイアとエイルも中尉に、ルネは准尉となった。
そして、ヘリヤ達も魔法士部隊の隊員として、毎日ペッコの元で厳しく訓練をされている。
レイアとエイルの時はからかっていた兵達も、今は練兵場で敬意を持って接してくれている。
鉄華団は戦勝をを機に国軍として再編されて、ブレイドが元帥として総司令官に就任した。
以前、砂の都やジャズィー各地の防衛と治安維持を分割担当していた、「不死隊」「近衛騎士団」「鋼刃団」の軍務を全部一元化して統合した事になる。
そんなある日、砂の都では二十年以上行われていなかったパレードが戦勝記念として大体的に催される事になり、ペッコとレイア、エイルは『南方基地防衛戦』で大活躍をした新設の魔法士部隊と言う事で、鳥馬に引かれた『フロート』にココブキ達と乗せられて、手を振りながら市民達の喝采を浴びる事になった。
この時にレイア達は
「え、私達女神じゃないんですか、せっかく頑張ったのに」
と不満そうだったが、女神は別の豪華なフロートに木製の像が二体飾られて先頭を進んでいる。
「女神の正体をバラすわけにはいかないでしょ、公式には兵達が戦場で見た幻って事になっているんだから」
とペッコに説得されて諦めた様だ、そして、レイアの妹達も国軍魔法士部隊の兵士の制服で、ペッコ達と同じフロートに乗って、観衆に手を振っている。
「ココブキさん、これで入門者増えると良いですね」
とペッコが言うと
「実は、もう増えているんだよ、ありがたい事だ、君には脚を向けて寝られないね」
と珍しく笑顔で冗談を言っている。
ペッコ達の前のフロートは大司教と枢機卿数人が乗った『プルト・メルク教団』の物で
観衆はこのフロートには歓声では無く、脱帽してお辞儀をして敬意を表している。
そして、ペッコ達の後のフロートは、このパレードの主役とも言える、国軍総司令官・元帥の制服……
以前の鉄華団の物よりは派手で豪華になった……を着たブレイドが、幕僚と共に威風堂々と元帥杖を手に
観衆に手を振っている。
最後尾は、「砂蛇衆」のフロートだが、「百億リラの男」『ロロラト・ナナラト』が不在の為、『薬学院』の理事長『ダミアン・キヴロン』と宝飾商でカジノのオーナー『ゴッドヒルフ・マンドル』とその妻の三人が乗っているだけだ。
パレードはゆっくりと進み、メルク回廊の突き当たり、普段は開放されていない聖中門を通過して更に回廊を進み、メルク礼拝堂の裏門前でパレードは終了した。
「いや、作り笑顔で手を振るって結構大変なんだね、疲れたよ、僕はこの後打ち合わせがあるから、みんなは宿に戻ってのんびりしていて」
「はい、王子」
ペッコは裏口から、礼拝堂に入り枢機卿の案内で会議室に通された。
少し待っているとパレードに参加していた砂蛇衆達が部屋に入って来た、ペッコは敬礼をして指示を待つ
どうやら座席は決まっている様で、ペッコ以外の全員が席についた、当然だがペッコはブレイドの後方で立っている。
ブレイドが、会議を始めた
「突然の招集で申し訳無い、中々全員揃う機会が無いので今日のパレードを利用させてもらった」
「何、どうせ今日は仕事にならんから私は構わないよ、それで議題は?」
「そうね、今日は、パレードの後片付けと掃除しかできないから良いんじゃない?、あら、そうそう掃除と言えば、王子、先日はご苦労様ね、街が綺麗になって嬉しいわ」
「はい、猊下ありがとうございます」
「では本題に入らせていただく、先日の『南方基地防衛戦』で保護をした森の都の幻術士中隊の40人の件だ」
「おや、それは面妖な幻術士は角神のエ・スミ・アン一と一緒に全員戦死したのでは無かったのか?」
「それは公式の見解だ、大佐説明を頼む」
「はい、実は…………で、と言うわけなんです」
ペッコはエ・スミ・アンとの会談とその合意内容を砂蛇衆の議員達に説明した。
「幻術士が40人も味方になると言うのは、大いに意義がある事ですね」
「そうね、それに魔法士の育成には時間とお金がかかるのよ、ウチだって呪術士一人に幾らかかっているか」
「成程それを提案したのが、この王子君というわけだね、彼がこの席に居る理由が良くわかったよ」
「そうだ、私も彼の策を採用した、それで問題はこの幻術士達の処遇をどうするかと言う事だ、まさか難民として放り出すわけにもいかないし、接収した『鋼刃団』の本部は今は、新兵の兵舎として使用しているので空きが無い、本部に臨時に収容しているが、それも長くは無理だ」
「うーん、そうだカジノの宿泊施設は空いているのでは?」
「確かに、今は時節がら暇だがな、しかし幻術士殿がカジノに滞在するとお思いか?」
「それも、そうだ……」
「ならば、この件は一度保留と言う事にして、それぞれが検討をすると言う事でどうかしら、教団の方も
信者用の宿泊施設の空き状況を調べてみるわ」
「それで構わない、議員諸君にはよろしく頼む」
「これで、あなたの議題は終わりなの?、では私から一つ、王子も出席しているから丁度良いわ」
ブレイドは大司教が何を言うのかと思い、身構えた。
「元帥、これほどの武勲をあげた王子に対して、恩賞は何か用意したのかしら、それとも昇進だけ?」
「それは、今検討中でして……」
「そう、では私からの提案よ、王子あなた、この街に来て以来ずっと昔の『砂漠亭』に滞在しているわね」
「はい、父より砂の都へ行ったらここに泊まれと言われていましたし、色々と便利な物ですから」
「そう、まぁあそこは色々と曰く付きで、今は宿としては営業していないのだけど、まぁそれは良いわ、それで貴方、家を欲しいとは思わないの、同居者が七人も居るんでしょ?」
(何でそんな事がバレている?)
実はペッコの所には更に二人のウェアキャット族の少女が転がりこんで来ている。
彼女達はダニ掃除事件の時の被害者で洗脳が解けた後に、ペッコの所に礼を言いに来てそのまま居着いたのだった。
「え、あ、あの家は欲しいとは思うのですが、なにぶんこの街は物価が高くて……」
とてもじゃ無いが、今の給料では家を借りたり買ったりするのは無理だった、何しろ今は女将さんの好意で食事代だけで住まわせてもらっているのだ。
「元帥、先日没収した『アジジ・アデジジ』の資産の中に別宅があったわよね」
(しまった先を越された)
これはブレイドがペッコに恩賞として与えようと思っていた物件だった、今はそのタイミングを測っていたのだが……
「アジジが妾宅として使用していた物で、メルク回廊とプルト回廊の境にある四階建ての物件だ」
ブレイドは他の議員に説明した。
「そう、それよ、それを恩賞としてペッコ大佐にどうかしら?」
ブレイドは、自分が完全に出遅れた事を認めた。
「異存はありません」
他の議員達も異議は無い様だった、だが意外な事にペッコ本人が異議を唱えた
「待ってください、もし恩賞がいただけるのでしたら、別の物をいただきたいのですが」
「あら、家では不服なの? 何が欲しいの?」
自分の意見を否定されて、少し機嫌が悪くなった大司教だ
「猊下のお気持ちは嬉しいのですが、若輩の身でこの都に家等、勿体無いです、よろしければ、南ジャズィーの『北のオアシス』とその周辺の使用権を頂ければと思います」
ペッコがそう言うと議員の一人が
「北のオアシスと言えば、数年前までは『塩の街』と言われて塩の都の難民が暮らしていた場所だな、今は住む者も無く荒れ果てていると聞くが、そんな二束三文の土地を何故欲しがるのだ?」
「そうか大佐はド族でしたな、成程、御父上のド・オド・パト殿から独立して『パト』を名乗りたいと言う事ですな」
「はい、マンドル様、その通りです」
「成程、ウェアキャット族の男子らしい望みでは無いですか、私は本人がそれが欲しいと言うならそれで構わないと思いますが?」
「いや、待て、恩賞が二束三文の土地と言うのは、いくら本人の希望とはいえ如何な物か?我々が恩賞を出し渋っている様に市民から思われ無いか?」
「それならいっそ、両方恩賞として与えれば良いと私は思うが?」
「そうね、私も元帥に賛成するわ、王子それで良いわね」
(次に異論を言うのは許さないって感じだな)
「はい、猊下、元帥、ありがたく頂戴いたします、浅学非才の身に有り余る御厚情、これからも砂の都の為により精進してまいりますのでよろしくお願いいたします。
つきましては、せっかくいただくこの土地、難民と幻術士殿達を住まわせる許可をいただきたいと思います」
(なるほど、これは一本取られた、やはり侮れぬ)
とブレイドは思った。
「良いじゃない、増えすぎた難民の問題と幻術士達の処遇、それに恩賞と一挙に片付くわ、全く問題ありませんわ」
今度は大司教は上機嫌だ
「では皆それで構わぬか?」
元帥の問いに議員全員が頷いた。
「ではそれで決まりとする」
こうしてペッコは誰にも反対されずに、予ねてより熱望していた土地とおまけに一等地の家を手に入れたのだった。
縄張りを得た事でペッコは堂々と『パト』を名乗る資格ができた、後は妻を娶るだけだ。
とりあえず国軍本部に戻ったペッコは直ぐに元帥の部屋に呼ばれた。
「大佐おめでとう、あの家はお前に恩賞としてやろうと思っていたんだが、婆さんも目をつけているとはな、だが、北のオアシスを欲しがるとは意外だった、この後はどうするつもりだ、テントを張るにも
金がいるだろう?何なら俺が貸してやろうか?」
「元帥、ありがとうございます、資金の方は父から借りる予定ですので、大丈夫だと思います、でもどうしても必要になったらお願いするかもしてません、その時はよろしくお願いいたします」
「そうだな、お父上は最近ドラコニア族との交易で大分溜め込んで居ると評判だからな、頑張れよ、これ家の鍵だ、場所はわかるよな? 今のお前の宿の隣の家だ」
「はい、ありがとうございます」
ペッコはそう言って、本部から外に出ると早速貰った家に言ってみた。
(へぇ、本当に隣なんだな)
と、思って鍵を開けて中に入る。
一階には玄関と通用口があり、玄関を開けるとホールと応接間、通用口の方は大きなキッチンに直ぐ入れる様になっている、ダイニングルームはパーティが出来る位の広さだ、当然ゲスト様のトイレ等も有る
二階にはベッドルームが四つ、それぞれにバスとトイレが付いている。
そして三階は広いシャワー付きのバストイレに洗面、クロゼット付きのマスターベッドルームと書斎が有る。更に四階には小部屋とテラスがあって、ここでエールを飲みながら花火を見たら楽しそうだ。
よしでは、家具を頑張って作るか……
ペッコはエ・スミ・アンに自分が『過去人』の様な存在と言われた後に自分が創造魔法が使えるのか色いとと試して見た。
夜な夜な宿を抜け出して、今は廃棄区域になっている、かっての冒険者居住区……裕福な冒険者達が姿を消してから、盗賊や野党の住処になり結局全て破壊された地域……に行き、小さい物から始めて巨大な構造物、植物や生物などが作れるか実験していたのだ。
その結果、武器、防具、服から、家具、更には家まで創造できる事がわかった。
ただ、過去人と比較すると体内のエーテルの量と濃さが違うので、色々と試行錯誤した結果赤魔法士の魔器を使用する必要があった。そして作れるのは自分の記憶に有る物だけと言う事がわかった。
そしてこの魔法が地面に対しても有効だと言う事も学習した。穴を掘る、塔を立てるなど、土と石を使った建造物を作る事ができる、長方形の石や岩とかも簡単に作れる様になった。
(不思議だ、木材は作れるのに、木その物は無理なんだ、つまり命がある者はダメって事か?
この世界は全て、エーテルで出来ているって事だったよな、って事はエーテルって素粒子の集合体って事? でも人の魂もエーテル界に帰るって話だけど、魂も素粒子?でエーテル界では記憶がまだ残っている人も居たよなぁ……記憶を記録する素粒子があるのかなぁ、アニメとかでは霊子とか幽子なんて言う便利な概念があったな、どうも創造魔法って良くわからん)
そんな訳で、ペッコは地階から始めて、四階の各部屋に必要と思われる家具や調度品を作成しては配置していった。
途中で、魔力が切れてエーテル薬を何本もガブ飲みして、数時間かけて全部終わらせた。
それから、家から出て隣の宿に戻った。
同居人達は部屋で楽しそうに女子会中らしい。
「みんなに話があるんだ、聞いてくれる?」
「はい、王子」
「はい御主人様」
「はい、導士様」
みんなが好きずきな呼び方で答える。
「まず、最初に僕は、この度縄張りを手に入れました、なのでこれ以降は『ド・ペッコ・パト』
と名乗ります」
「うわぁ、凄い!」
「縄張りってどこですか?」
「って事は奥さんにしていただけるんですね!」
と歓声が上がって賑やかだ。
「縄張りは、多分みんなは知らない場所だよ、南ジャズィーの『北のオアシス』とその周辺だ、北のオアシスは数年前までは『塩の街』と言われて塩の都の難民が暮らしていた場所だけど今は住む者も無く荒れている、これから新しい街と家作りを始めるんだ、それと南ジャズィーには南のオアシスと言う場所があってそこは『忘却のオアシス』と言われて、僕の父が族長をしているド族が住んでいる、僕の生まれた所だ」
「なんか、凄いですね、新しい土地に新しい街、ワクワクします」
「うん、でも何も無いんですよね、大変そうです」
「そうね、だから最初は僕が行って色々整えてちゃんと住める様になったら皆んなに来てもらおうと思っている」
「そうすると、軍務はどうされるんですか?」
「もちろん続けるよ、クリスタルライトが有るから移動は全く困らないからね」
同居人達は好き好きに話を始めたのでペッコは、もう一度注目させた
「もう一つ、恩賞としてこの街に家をもらったんだ、今から見に行かない?」
「え、導士様、本当ですか、そっちの方が凄い!!」
ソ・ヒルド・フルとシ・ロヌル・ベナが同時に声をあげた、
この二人は北の森の出身の狩人でそれぞれ別の部族だが、同じ時期に人買いに捕まって砂の都に奴隷として売られて来ている、砂の都に少し長く居たので他の物より住宅事情に詳しい様だ、この二人は首枷の影響を受けていた時間が長かったのと、ヘリヤ達の様に隷属対象の上書きがさてていなかった為に解放されてから、正気に戻るのに時間がかかったのだった。
そして、この二人はペッコがこの街に来て最初に声をかけられた踊り子(売春婦)達だった。
彼女達も当然の様に未成年で、15歳と14歳だった。
元々エウロパ世界では奴隷の売買は禁止されて居ない、ただし拉致や誘拐は重罪になる。借金の形に自ら身売りをする者や犯罪者の懲罰、親に売られた者などは合法的な奴隷だった。何故奴隷商人や人買いがウェアキャット族の未成年者ばかり狙うのかと言うと、鉄華団の調査では彼女達に着けられていた『隷属の首枷』は年が若いほど効果が出やすく、しかも他の種族に比較すると種族的特徴からウェアキャット族に一番効果があると言う理由からだそうだ、しかし対象が若すぎた場合には売春婦としては特殊な性癖の客しか相手できない為に商品にならず、かえって育成の為の費用がかかってしまう事から、13歳位から成人前の少女が対象になる言う事だった。ただ奴隷商人の中には特殊性癖専門の業者も居て、彼らはまだ幼女と言える奴隷を扱っているとの事だった。
いずれにせよ、この奴隷売買組織は北部連合王国が国家事業として関わっている事に間違いは無く、砂の都の末端組織が壊滅しただけで組織自体は無傷で存在している。
ペッコは全員を引き連れて、宿の外に出る。
そして、隣の建物のドアの鍵を開けた。
「え、ここなんですか?」
「わぁ、何階のどの部屋ですか?」
「あのね、これ一棟、地下から四階まで全部」
「えー本当ですか?」
全員で好き好きに部屋を見て回って、
「家具、地味なんですね」
「うん、宿のベッドや家具と同じみたい」
(それは見本にしたのがそれだから……)
「ああ、急いで用意したからね、足りない物とか飾りたい物とかあったらみんなで買ってきてね、じゃあ食事に行こう」
隣の宿で、みんなで食事の後……もうこの酒場兼レストランの常連達は、毎晩ペッコ達が来るので、席を開けておいてくれている……、ペッコは女将さんに引っ越しについて話す事にした。
「女将さん、……という訳で、僕は『パト』に成りました、それと先日の戦争の褒賞として家をもらったんです」
「あら、そうなの、それはおめでとう、では近々お引っ越しなのね、寂しくなるわね」
「それがね、ここの隣の建物なんです、だから今までと同じように朝、晩と食事に来るからよろしくお願いします」
「まぁ、それは嬉しいけど……ちょっとレイアちゃんこっちにいらっしゃい」
「はい、何ですか女将さん」
「今ペッコ君に聞いたけど、みんなで隣に引っ越すんだって?」
「はいそうです」
「それで、ペッコ君はこれからも、朝晩と毎日ここにお食事に来るって言ってるのよ」
「はい、よろしくお願いします」
女将さんはレイアを見て大きく溜め息をついた
「あのねえ、あなたの亡くなったお母様も料理が全然ダメでね、良く私があなた達家族の分を作っていたの覚えているわよね?」
「はい、もちろんです」
「亡くなった親友の悪口は言いたく無いけど、それでは女として妻としては半人前なのよ、大体あなた達七人も居るんでしょ、交代で料理をしても週に一回だけよ、それ位自分たちで何とかなさい!」
「え、そんな女将さん、私料理全然ダメです」
女将さんはカウンターから外に出て、ペッコの同居人達が楽しそうに話しているテーブルに向かった
「あなた達の中で料理を作れるのは?」
するとヘリヤを除く全員が手を挙げた。
ただエイルは
「料理と言っても獲物の肉や魚を焼く位しか出来ませんけど」
と言うと、手を挙げた全員が頷く
「なんて事、良いあなた達、これから毎日夕方に二人ずつ順番にキッチンまで来なさい、最低でも四品作れる様にならないと、ペッコ君のお嫁さんとは認めないからね」
「えーそんなぁ」
全員が声を揃えた。
そして女将さんはペッコの方を見て
「良い、こういうのはね最初が肝心なの、最初を間違えるとニョル君みたいに困った事にになるからね」
「あ、はい、すみません」
(ニョルさんって、そうだったんだ、みんな大変だけど頑張ってね)
翌日ペッコ達は宿から新居に引っ越した。マスターベッドルームはペッコが使い、後のベッドルームは
レイアとヘリヤが一部屋、カーラとスリマで一部屋、ヒルドとロヌルが一部屋、エイルが一人で少し小さめの部屋を使うと言う事に決まった。
夜の営みは交代でペッコのベッドルームでと言う事になる。
(うん、なんか本当にハーレムになったかも、神様本当に本当にありがとうございます)
そして次の週の休日に、ペッコは全員を連れて鳥馬者で、南ジャズィーの『北のオアシス』経由で
故郷の南のオアシスこと『忘却のオアシス』に向かう事にした。
「みんな砂漠は始めてだよね、水筒を沢山持って、日差しが強いからサンバイザーと帽子は忘れずに、
日焼けをしたくない人は、薄手の長袖と長いパンツで、まぁ僕の姉達はこう言うのしか着ていないけど」
とペッコはみんなにビキニアーマーを見せた
みんなで暫くの間、頭を突き合わせてああだこうだと言っていたが、結局は全員ビキニアーマを着用して旅に出る事になった。
曰く
「だって、お姉様達と同じ様な格好の方が気にってもらえる」
かららしい。
メルク大門の外に待たせてあった鳥馬車のキャビンに同居人達を乗せて、ペッコは御者席の隣で、経路の指示をしながら周囲の警戒をする、市内の治安はかなり改善されたが、一度郊外に出るとまだ危険だったからだ。
大門から関所を抜けて、北のオアシスを目指す。
「ああ、見えてきたあの岩山の中に北のオアシスが有るんだ、何年か前までは100人以上の塩の都の難民が住んでいたそうだけど、今は無人になっている」
ゲートを潜って洞窟に入ると中は少し湿っていて涼しい位だ
「王子〜まさかここにテントを建てて住むなんて言わないですよね?」
「あれ、嫌なの?僕達ウェアキャット族はそうやって狩をして暮らしていたんだよ」
都会育ちのレイアとヘリヤはものすごく心配そうな顔をしている。
「でも、こんな砂漠や岩山に獲物がいるんですか?」
「うん、居るよ森の獲物とは違うけどね、さっき通って来た途中の山側に大型のトカゲ種のモンスターが居たでしょ、あれの皮は高く売れるんだよ、他にも陸亀とか色々居るよ」
「あ、陸亀、お肉美味しいんですよね、私一度しか食べた事無いですけど、また食べたいなぁ」
狩の経験のあるみんなは、どうやら大丈夫そうだ。
「まぁ、でもこのままじゃ住めないからね、色々としないといけないから、ここに住むのは当分先だから安心して」
その後は、また鳥馬車に乗って、全員で『メルクの祠』を参拝する。
「僕が小さい頃は、この先の迷路から南のオアシスに行けたんだけどね、今は案内の不死隊の兵隊さんも居ないからその道は閉鎖されているんだ」
「あの、王子、さっきから変な魚の様なモンスターが、ウロウロしているんすけど?」
「ああ、あれは砂漠種の魚なんだ、白身の魚で美味しいよ」
「うわぁ、食べてみたいです、二、三匹捕まえても良いですか?」
「料理がちょっと難しいんだ、みんなの料理の腕が上がってからにしようね」
「えー」
(女子校の引率の先生ってこんな感じなのかな、結構大変だ)
「じゃぁ、いよいよ南のオアシスに向かうね、でもこの先はまだ『人』に敵対している『ドラコニア族』
の縄張りを抜けるから、みんな武器を用意しておいてね、ただしこちらから先に攻撃はしない様に
向こうから来たら好きに反撃して良いから」
「はい!!」
全員が勢いよく声を揃えた
今は、全員に赤魔法士の訓練をさせていて、みんなそれなりの腕になっている。
鳥馬車は、山麓に沿う様に街道を南に進んでいく
「丘の上や山麓にいる『ドラコニア族』に気をつけてね」
ペッコは、北のオアシスの拠点が完成したら、この部族は全員黄金平原に叩出すつもりでいる、その上で、今は使われていない街道の整備をする予定だ
「わあ、大きな陸亀が居る、美味しそう!!」
「はいはい、あれも美味しいけど、みんな料理できないでしょ、諦めなさいね」
市内で暮らしている時は気が付かなかったが、外に出るとみんな狩人としての本能に目覚めるのか
また違った個性が見れて楽しかった。
結局、道中では弓を射かけて来た『ドラコニア族』の偵察兵を全員で赤魔法で攻撃して見事に黒焦げにしてからは誰も近づいて来なくなった。
南のオアシスに近づくと、乗用ドレイクに乗って周囲を警戒中の姉が弓を番えながら近づいて来る
「ここはド族の縄張りだ、何用か?」
「姉さん」
とペッコが手を振ると、姉は、弓をしまって、笑顔で(目はバイザーで見えないが)
「おかえりペッコ、三週間ぶりね、あら少し逞しくなった?、ペッコが帰ってきたって父さんに知らせてくるね」
と先にオアシスに戻って行った。
「本当に、軽装なんですね、肌焼けないのかな?」
「うーん、なんとかオイルを塗っているって言っていたけど、僕は使った事が無いからわからないなぁ」
(しかし、まだ三週間しか経っていないだ、色々とあり過ぎて一年以上過ぎたみたいな気がする)
ペッコは鳥馬車をオアシスの入り口に停めると
「先に一人で父に挨拶をして来るね、みんなの立ち入り許可を貰わないと行けないから』
「はい、御主人様、どこも同じなんですね、ウチも族長が良いと言わないと縄張りの中には入れませんでしたから」
「そうなんだ」
と都会育ちのレイアとヘリアはここでも不安そうだ。