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未来屋 環エッセイ作品集

きみはザリパを知っているか

作者: 未来屋 環

 みなさま、こんにちは。未来屋(みくりや)(たまき)と申します。

 今日も元気にリーマンしながら、ぽちぽちと文章を書いております。


 普段は小説を書いていますが、今年になってから連載エッセイを書き始めました。

 その名も『イート & グリート! -私が愛した食べものたち-』。

 タイトルの通り、私が愛した食べものたちについて思うままに書き綴ったゆったりエッセイです。


 ただ、当該エッセイに書くのはあくまで『愛した食べもの』であって、普通に好きだけどそのレベルにまでは到達しないという食べものも当然ながら数多くあります。

 今回はその中から、私にとって思い出深い或る食べもののお話をしたいと思います。



 そう――それはザリガニです。



 ……えっ、ザリガニ?


 そう、ザリガニ。

 小さい頃川で見かけて獲ったり、小学校の教室の後ろの水槽で飼っていたザリガニ。


 日本ではあまり食べるイメージのないザリガニさんですが、意外にも海外ではポピュラーに食されています。

 アメリカやフランス、スウェーデン・フィンランド・ノルウェーの北欧三国やリトアニア、ラトビア、そして食の大国中国など。



 私がザリガニさんを食べたのは、2016年のこと。

 当時私は仕事で中国の広州に長期出張をしていました。


 広州といえば『食在広州(食は広州に在り)』ということわざで知られるほど食に貪欲な街で、四つ足のものは机以外、空飛ぶものは飛行機以外食べると言われています。

 お蔭さまで、私はこの街で様々な食と出逢うことができました。

 本エッセイに登場するザリガニさんもその内のひとつです。


 或る日の週末、当時仲良くしてくれた中国人の女子(仮名で『(ワン)ちゃん』とします)と私は遊んでいました。

 慣れない私に広州の街を案内してくれる王ちゃん。

 すこし西洋風の建物が並ぶ庭園をお散歩していると、王ちゃんは或るお店に連れていってくれました。

 それはおしゃれなカフェ風の中華料理屋さん。


「未来屋サン、ちょっと変わったもの食べてみる?」

「……ちょっと変わったもの?」


 私の脳内で海外出張者マニュアルがぱらぱらとめくられていきます。

 出張者大原則ひとつ、現地の食を通じて現地の方と仲良くなるべし!


 私は王ちゃんに「うん、食べる」と即答しました。

 すると、王ちゃんがニコニコとタブレットでなにかを注文します。



 そして暫くして届いたのは、こんがりと焼かれたハトさんでした。



 お皿の上に載せられたハトさんは横を向いていて、ご丁寧に目も閉じられています。

 永い眠りについた平和の象徴を前に言葉を失っていると、王ちゃんが「大丈夫?」と心配そうに訊いてきました。

 多少びっくりはしたものの、大丈夫かどうかでいえば大丈夫です。ニワトリさんと同じ鳥ですから、全く問題ありません。


 私は名古屋名物の手羽先を食べるように、豪快に手掴みでハトさんを頂きました。

 ちょっと固くて食べる部分は少ないけれど、香ばしくておいしいです。全身をコーティングした甘辛いタレがよく合います。

 

「ハトさん、おいしいね」


 そう言うと、王ちゃんは嬉しそうに「ホント?」と顔を明るくしました。


「未来屋サン、すごい! 日本人だと食べられない人いるのに!」


 王ちゃんが喜ぶ姿を見て私はほっと胸を撫で下ろします。

 喜んでもらえて良かった。海外の人に自分がいつも食べているものを嫌がられたらへこむものね。わかるわかる。


 昼食はそんな感じで平和に過ぎていきました。



 ――そして、夕食。

 私の前には見事に調理されたザリガニさんたちが並べられていました。


 ……あれ、なんでこうなったんだっけ。


 実は夕方から王ちゃんのお友達と合流した私たち。

 王ちゃんがお友達に「未来屋サンとハト食べたよ!」と話した結果、もっといけるんじゃ? と盛り上がり、気付けばこのザリガニ料理専門店に辿り着いていたのです。


 私はお皿の上のザリガニさんたちを見つめます。

 何かの香辛料とざっくり炒められた彼らは、スパイシーな香りを放ちながら白いお皿の上で赤々と輝いていました。

 一見小さなロブスターのようで、普通においしそうです。

 そんな私の様子を見て王ちゃんもいけそうだと判断したのか「折角だし記念撮影しよう!」と準備を始めました。


 王ちゃんが盛り盛りのザリガニさんの中からひとつ取り出し、私の前のお椀にそっと載せます。

 ザリガニさんは両手を万歳するようなポーズで器に収まりました。よく見るとお皿に(えが)かれたお店のロゴも同じような格好をしています。

 日本に帰ったら上長たちに見せよう……そう思いながら私はポーズを決めたザリガニさんを写真に収めました。


 記念撮影が終わり、いよいよザリガニさんと勝負の時です。

 ザリガニさんは当然そのまま食べることはできないので、殻を剥く必要があります。私たちはビニール手袋をはめて、ザリガニさんの解体を始めました。

 といっても、実は可食部が非常に少ないザリガニさん。頭の部分を手で切り離して胴体の殻を剥くと、親指大くらいの身が出てきました。

 見た目は完全にエビさんです。

 私はドキドキしながら、身を口に入れました。


 そんな初ザリガニの味は――えっ、おいしい!


 小ぶりな身は弾力があり、スパイシーな味付けが絶妙にマッチして後を引くおいしさです。

 一口が小さいので次々に食べたくなり、一心不乱にザリガニさんを剥いていると、気付けば大量のザリガニさんたちはあっという間に姿を消していました。

 すっかりおいしく頂いた私の様子を見て、王ちゃんは嬉しそうに言います。


「未来屋サン、ザリガニも問題ないね! じゃあ他のメニューもいってみる?」


 頭の中で出張者大原則が再度響き渡りました。

 こうなったら、いけるところまでいってみよう!


 ――ということで、その日はそれ以外にも様々な食べものに挑戦させてもらったのですが、そちらについては割愛いたします(苦手な方もいるかも知れないので……)



 こうして私はザリガニさんとファーストコンタクトを果たしました。

 結果、「ザリガニさんはおいしい」という観念が見事に私の頭の中に刷り込まれたのです。


 そして、そのあとも私は王ちゃんにちょくちょく遊んでもらいました。

 或る日、王ちゃんともう一人別の中国人女子と王ちゃんの家で餃子パーティーをしていたところ、「餃子だけだと足りないね」と王ちゃんが言ったのです。


「未来屋サン、出前頼むけどなんでもいい?」


 私は王ちゃんに「うん、なんでもいいよ」と即答しました。

 すると、王ちゃんがニコニコとスマホでなにかを注文します。



 そして暫くして届いたのは、バケツのような容器にどっさりと入ったザリガニさんでした。

 しかも2つ。



 既視感のある光景を前に、私はケンタッキーのクリスマスバーレルを思い出していました。

 そう、所変わればバーレルの中身だってチキンからザリガニに変わるのです。


 そんなわけで、餃子パーティーを終えた私たちは、そのままザリガニパーティーに突入したのでした。

 かつて鍋パやタコパはしたことありますが、まさかザリパを経験できるとは……!

 中国ってすごいなぁと思った瞬間でした。



 そんなザリパですが、実は北欧諸国やアメリカでは一般的に行われるイベントのようです。

 丁度8月、今の時期に家族や気心の知れた友人たちで集まり、ザリガニを囲んで歌いながらお酒を飲むんだとか。なんだか楽しそうですね。


 日本でも実はIKEAでザリガニを入手したり、食べることも可能です。さすがスウェーデン、ザリガニの本場……!

 もしみなさんも機会があれば、是非ザリガニさんを食べてみてくださいね。スパイシーでおいしいですよ!


 以上、お忙しい中、最後までお読み頂き、ありがとうございました。



(了)

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― 新着の感想 ―
∀・)本作を読んで初めてザリパを知りました(笑) ∀・)興味深いエッセイですね。未来屋さんって中国で働かれていた事もあるのか。これからネット上であれ何であれどもし直接お話をじっくり伺う事があったら…
[一言] ジャリパンの方言かと思いました 食は会話、いいですね
[良い点] ザリパ、と聞いてもしかしてザリガニパーティーかな、でもそんなはずないかな、と思ったらザリガニパーティーだったことに驚いてしまいました(笑) テレビでザリガニを食べることは知っていましたが…
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