帰宅
毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。
Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)
仕事を終えて帰宅。扉を開けて「ただいま」と言うと見知らぬ男が居た。すらりとして、軽くあごひげを生やしている。
「あなたはどなたですか?」
「あなたこそどなたですか?」
話が噛み合わない。奥から妻子が出てきた。
「やあ、洋子、この男誰?」
「どなた? この人夫ですけど?」
は?
「お父さん、この人誰? どうやって入ってきたの?」娘が言う。
僕は面食らった。
「いやいやいや、僕が夫で、お父さんだよ」と、言ったが変な者を見る目で3人はこちらを見る。
「何を言ってるかわかりません。帰ってください。警察呼びますよ。不法侵入です」
僕が間違っているわけない。妻との結婚式、出産、娘の成長。みんな記憶にある。
「浮気していたんだな。乗り換えるなんて酷いぞ!」
「あなた、警察呼びます」妻は男に向かって言った。
「はっきりさせようじゃないか!」お互いに睨み合った。
警察が来て、事情聴取が始まった。まず、僕の身分から。
「鍵を使って開けたと言いましたが鍵を見せてください」警官は言った。
鍵? ポケットを探る。無い。どうやって開けた? 無意識に開けたので覚えてない。
「見当たらないと。では、住所を氏名を示すものを出してください」警官は続けていった。
スーツの内ポケットから財布を出した。免許証を見る。僕の顔で、名前は吉田 実。
「奥さん、見覚えありますか?」
「私、田中ですけど」
僕は免許証を見て、驚いた。名前は吉田 実だが、住所は自分の家と違う。どういうことだ? 警官は財布を取り上げた。
「これはどういうことですか? この財布は盗品ですよ。被害届が出ています」
僕は呆然とした。盗品? いつ、どこで、誰から盗んだ? 記憶にない。
「あなた、本当に自分が誰なのかわかっていますか?」警官は言った。
僕は自分が誰なのかわからなくなった。自分の人生は何だったのか? 妻と娘は本当に存在したのか? それとも、盗んだ財布の持ち主の記憶をなぜか自分のものと思い込んだのか? 僕は混乱した。自分は誰なのか? 自分は誰なのか?
そのとき、僕の目の前にテレビが現れた。テレビには、僕の顔が映っていた。そして、テレビの下には、大きな文字で「吉田 実の記憶を当てよう!」と書かれていた。
「あなた、おめでとうございます。あなたは、人気のクイズ番組に選ばれました。あなたの記憶は、私たちがランダムに選んだ他人の記憶に入れ替えられました。あなたは、自分の本当の記憶を当てることができるでしょうか?」
声の主は、テレビの中の司会者だった。彼はにこやかに言った。 「あなたは、この番組のルールを知っていますよね。あなたは、自分の本当の記憶を当てるために、質問をすることができます。しかし、質問は一回につき一つだけです。そして、答えはイエスかノーでしか返ってきません。あなたは、質問を10回まで使えます。10回以内に自分の本当の記憶を当てられれば、賞金1000万円がもらえます。しかし、間違えたり、質問を使い切ったりしたら、あなたの記憶は永遠に失われます。あなたは、挑戦しますか?」
僕は呆れた。クイズ番組だと? 自分の記憶を賭けたクイズ番組だと? こんなの信じられない。こんなの許せない。
「やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ……」
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