8話 ソラの一日
「おいっす~。」
「おはよ~。」
「おはよ。」
「お~す。」
よく見る朝の学校風景。
僕は教室でホームルームが始まる前のひと時を、携帯を見ながら過ごしていた。
今日は火曜日。
昨日はいつもの様に完全寝不足だった為、一日中、暇を見ては机を枕に寝ていた。
だから毎週、月曜日は学校で何をしたのかほとんど覚えていない。何故なら、ほぼ寝ているから。
でも今日は一日経ったので元気ハツラツだ。
何故なら、睡眠をしっかりととったからな!
という事で、僕の学校生活は実質火曜日からスタートなのだ。
「フォッフォッフォッフォッ・・・・・。」
思わず笑顔がこぼれる。
「おい。何かめっちゃキモい顔して笑ってんな。」
「おっ?!これはこれはサトル君ではないか。」
「いや。マジでキモいぞ。顔もその喋り方も。」
「そう?フォッフォッフォッフォッ・・・・・。」
そう、何を隠そう、今日の僕はめちゃくちゃ機嫌がいい。
いや、むしろ朝の登校中からずっとニヤニヤしっぱなしだ。
その原因は携帯。
昨日は寝不足がたたって、学校から帰ってすぐに寝てしまったから分からなかったが、今日の朝、登校する時に携帯を見て、目が飛び出る程に驚いた。
一昨日のあの日。
ライブ動画の視聴者数は最終的に11万人。
そして、あれから二日経った『空ちゃんねる』のチャンネル登録者数が60万を超えていた。・・・・・なんと倍だ。
更にアップした編集動画の再生数は200万・・・・・200万である。
しかも・・・・・し、か、も!!!もっと凄かったのが、スパチャだ!!!
見たら900万近く入っていた・・・・・900万!900万だぞ!!こんな大金見た事ないわ!!!たった一日でだ!!!
ヤバい。
こんなに儲かるとは思ってもみなかった。
楽しい事をしながら、ちょっとしたこずかい稼ぎが出来ればいいと思っていたけど、とんでもない。
これ。ワンチャン、トップ配信者になって大金持ちになれるかも。
・・・・・まぁこれも親友達のおかげなんだけどね。
アカリのソロ攻略だけでこの反響だ。
他のメンバーの動画も撮るつもりだから、もっともっと視聴者は増えるだろう。
今後、どこまで『空ちゃんねる』が伸びるのか。
めちゃめちゃ楽しみだ!!!
その為にも、撮影技術をもっと上げる努力はしないとね。
ゲームもそうだけど、好きな事は全力でやるのが僕のモットーなのだ。
☆☆☆
チャイムが鳴る。
午前中の授業が終わり、昼食の時間だ。
「ソラ氏。ここ、いいですかな?」
「おや。稔氏ではないか。どうぞどうぞ。」
「ソラ氏。私もここでいいですかな?」
「おぉ。正樹氏。どうぞどうぞ。」
彼らは、この高校の陰キャ仲間の二人。
主に学校では、昼に一緒に食べるメシ友であり、たまに帰る途中ゲーセンに立ち寄ったり一緒に遊んだりしている。
サトル?奴はいつも昼は彼女と一緒に昼食だ。陽キャが!・・・・・リア充爆発しろ!!!
外が見える窓際の席なので、二人がいつもこっちに来て一緒に昼飯を食べている。
僕達は弁当を取り出して食べ始めた。
うん。旨い。
母は毎朝、僕と妹の三人分の弁当を作ってからパートに出ていく。
ほんといつも感謝しかない。
「ところで最近流行っている探索者動画は観てますかな?」
食べながらミノルが言う。
「ミノル氏!私も観てますぞ。『空ちゃんねる』ですな!」
「ゴホッゴホッ。」
突然話題に出て、僕はむせてしまう。
「ソラ氏。大丈夫ですかな?ささ、粗茶でも飲んでくだされ。」
僕はミノルにお茶をもらい、詰まらせた食べ物を流し込む。
「ミノル氏。ありがとう。助かったよ。」
ほっと息をついた後に聞く。
「皆は観てるんだ。その・・・・・『空ちゃんねる』。」
「流石に見ますな。今トレンド上位で、私達若者を中心に注目度ナンバーワンですからな!」
「そそ!そう言う事です。ソラ氏は観てないのですかな?」
「・・・・・僕も観てますよ?当然じゃないですか。ねぇ、ミノル氏。マサキ氏。」
「やっぱりソラ氏もですか!」
「「「 ハハハハハハハ!!! 」」」
三人同時に笑う。
・・・・・笑ってごまかした。
友達が僕の作った動画を観ているのは、嬉しい反面、ちょっと恥ずかしいな。
「ん?・・・・・ちょ、ちょっとソラ氏!ミノル氏!外!外見てくだされ!!!」
変な喋り方をしていると思うが、僕達はいつもこんな感じだ。
マサキ氏が三階の教室の窓から外を指さす。
あれは・・・・・。
昼の休憩時間。
校庭の見えるその窓からは、学食を終えて戻って来たのか、一人の可愛い女の子が数十人に囲まれながらこちらへと歩いてくるのが見える。
ショートボブ位の髪の長さ。そして美しい銀の髪。ぱっちりとした大きな瞳。そして身長は小さい為、とても可愛らしい。
でも、歩いているその子は、無表情でいて、目は何となく光がなく冷たい。
「あれは、『氷姫』ですな。」
マサキ氏が言う。
「いつ見ても、可愛らしい。」
ミノル氏が言う。
彼女は高校二年生。唯一の同じ高校。
【星空】メンバーの一人・・・・・親友の一人だ。
『氷姫』と呼ばれているのは、周りにあまりにも無関心で、興味がない。
僕達メンバー以外の他人にはとても冷たく、すぐ態度に出る事から、そうあだ名が付けられている。
まぁあれを見るに、僕と一緒にいる時と比べると想像もつかないけどね。
そして、半年前から【星空】の動画を定期的にあげているので、彼女も有名人になっている。
そこでこの間のソロ攻略だ。
注目度が上がって、相乗効果で彼女に人気がいくのも当然の流れだった。
この学校の中に、あの【星空】メンバーの一人がいる。
もうそれだけで話題は十分だ。
男どもはアタックしまくっているらしい。・・・・・全て撃沈しているみたいだが。
でも、今度彼女にも下層ソロ攻略をやってもらうつもりだから、更に人気に拍車がかかるだろうな。
そう思って僕は周りに囲まれながら歩いている彼女を見ていると、ふと目が合った。
彼女の目がひときわ大きく見開き、徐々に光がない瞳が輝きだし、無表情の顔が崩れた。
にぱぁぁぁぁぁぁ。
にへらぁぁぁぁぁ。
僕はスッと目線を弁当の方へと移した。
「んんん???見ましたかソラ氏!!!何か『氷姫』の顔が!顔が!!天使みたいに、もの凄くいい笑顔で可愛く見えましたぞ!!!」
「見間・・・・・見間違いか?!見間違いですかな?????」
ミノル氏とマサキ氏が騒いでいる。
・・・・・うん。無視しよう。
☆☆☆
「よし!いただきます。」
「「「 いただきま~す! 」」」
夕食を勢いよく食べ始める。
今日は大好きなカレーだ。
旨い。
学校帰りは、盛り上がってミノル氏とマサキ氏と一緒に三人でゲームをしてから帰った。
遅くても19時前には帰る様にしている。
夕食は一家団欒というのが、武藤家の決まりだからだ。
日曜日だけは許可を貰っているけどね。
「ねぇねぇ。お兄ちゃん。またサイン貰って来てよ!」
「あ~私もお願い!」
双子の妹の緑と水菜が食事中に僕に頼み事をしてくる。
「うん?はいはい。サインね。今度貰っとくよ。」
「やった!ありがと、お兄ちゃん。」
「ありがとね!お兄ちゃん。友達に頼まれちゃって。」
「こら、二人とも。食べながら喋らない。行儀が悪いぞ。」
父さんが酒を飲みながら注意する。
「「は~い!」」
僕の親友の一人が探索者だけじゃなく、芸能活動もしているから、たまに妹達にこうやって頼まれる事がある。
「お兄ちゃんの友達は、みんな忙しいみたいだから家に来ないよね~・・・・・たまには会いたいなぁ。」
「そうだね~。昔は、お兄ちゃんが皆連れてきてくれて、よく私とミズナも遊んでくれてたのに。」
「・・・・・まぁ僕は毎週会っているから、今度機会があったら連れてくるよ。」
「ほんとに?ホントのホントだよ!」
「あぁ。」
小さい頃は親友達がよく家に遊びに来て、妹達と遊んでくれてたっけ。
中学からは、学校は違ったし、常に週末はダンジョンに潜っていたからすっかりなくなったけどね。
たまには日本ギルドだけじゃなくて、僕の家でミーティングをするのもありだな。
「そう言われてみれば最近見てないわね。ソラ。あの子達は元気なの?」
「母さん。元気にきまっているだろう。ソラが小さい頃から、ずっと毎週ダンジョンに行ってるんだから。」
「フフフ。そう言われてみればそうね。今でもソラが探索者なんて信じられなくて。いい?友達が守ってくれるからって、無茶しちゃだめよ?」
「うん。危険な事は今までなかったから大丈夫だよ。これからも危ない事はしないつもりだしね。」
「そう?ならいいんだけど、貴方は昔から無茶する時はとても無茶するから・・・・・気を付けるのよ。」
「ソラも来年で高校卒業だ。もう私達が何か言うつもりはないが、心配だけはさせないでくれよ?」
「うん。ありがとう。」
父さんと母さんはいつも気にかけてくれる。
多分これは僕が社会人になったとしても変わらないだろう。
ありがたいことだ。
僕がいつかトップ配信者になってお金に余裕が出来たら、うんと贅沢をさせてあげたいな。妹達にもね。
こうして家族団欒の夜を過ごした。
☆☆☆
「さて。そろそろ寝るかな。」
部屋に戻って、撮りためたアニメを見ていたらすっかり遅くなってしまった。
僕は部屋の電気を消すと、布団に入る。
「・・・・・・・・・・・・・。」
すると、布団の上に半透明の女の子が現れた。
『幽霊さん』だ。
「今日は【ディーレ】だね。何か久しぶりだね?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
【ディーレ】は何故か不満顔で、僕の布団に潜り込む。
最近【エリア】がいた為に、こちらに来れなかったのが不満らしい。
僕はディーレの頭を撫でる・・・・・満足そうだ。
こんな感じで今日も一日が終わる。
平凡な一日だけど、これがあるからこそ週に一回の動画配信が刺激があってマジで楽しい。
今はとても充実している。
フフフ・・・・・さぁて!明日は機材のメンテをして準備に備えないとな!!!
僕は『幽霊さん』と一緒に眠りについた。