57話 ソラへの想い 1
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!ナイスで~す!」
引きこもり生活三日目。
PCのモニターを見て、ゲーミングヘッドセットをしながらFPSを楽しんでいる。
今は僕のプライベートな時間。
起きたら、まずは遠征の時の編集作業をする。
それ以外の時間は、全てゲームやアニメ三昧の楽しい生活を送っていた。
基本、僕はインドア派だ。
夏休みに入ってからは、ずっと遠征だったから引きこもる事が出来なかった。
探索もいいけど、やっぱりこっちもすげ~楽しい!
通信で、顔も知らない仲間とのゲーム。
気が楽で、めっちゃいいわぁ~。
あぁそうそう。
あの遠征が終わった後、僕も【星空】も動きがあった。
まずは僕。
遠征時のライブ動画視聴者数が、結局最大で5,500万人までいった。
うん。意味が分かりません。
後から分かった事だが、日本はもちろんの事、世界中で観てくれたみたいだ。
【深層】が異世界だったという衝撃の事実が分かった時、一斉にニュースやSNSで世界中に情報が駆け巡った。そして一般の人はもちろん、政府関係者や探索者まで僕の動画を観て、一気に視聴者数が伸びたみたい。それでこの数字。世界一のライブ動画視聴者数だそうだ。・・・・・しかも、あの8日間で得たスパチャ金額が、か~な~り、エグかった。見てビックリな金額で暫く茫然としていたな。
そして『空ちゃんねる』のチャンネル登録者が、なんと7,000万人を突破した。
【深層】攻略前の数倍に跳ね上がっている。
いや~、完全に予想外だったけど、マジで嬉しい。
ライブ動画は一過性の物だけど、チャンネル登録は『空ちゃんねる』のファンになってくれた人達だ。何としてもこの人達を飽きさせずに、これからも観てもらう様にしないといけない。頑張らないとな。
次に【星空】。
クウガとココセが『レベル7』に昇格。そしてスピカが何と四人目の『レベル0』へとなった。
あのライブ動画を探索者協会も観ていたらしく、クウガとココセの戦闘実績は『レベル7』の基準にはまだ達していなかったが、実力が評価されたらしい。そしてスピカは、他の『レベル0』が【深層】の結界を破壊できなかったのに対して、穴を空けた事。そして【深層】の支配者を、ソロでも倒せると判断しての『レベル0』への昇格。スズさんが言っていたけど、過去の探索者協会例でも、この認定は異例中の異例だそうだ。
これで【星空】は全員『レベル7』以上という、世界初のチームとなった。
マジで誇らしい。・・・・・・・でも僕は、相変わらず『レベル1』だけどな!
「あっ!こっちは俺がカバーするね!」
モニターを見ながらマウスを動かす。
フフフフフ。
まだまだ夏休みはたっぷりある。
たまに親友達に拉致られると思うけど、まぁそれは仕方ない。
それ以外は、出来るだけ引きこもろう。
次のライブ動画の構想も練らないといけないしな!
ピンポ~ン♪
「あら!アカリちゃんじゃない♪久しぶりね!ソラ?ちょっと待ってね。ずっとゲームばっかりしてるからいるわよ。ソラ~!アカリちゃんよ!早く来なさ~い!」
・・・・・・・いきなり拉致られた。
次の日の朝。
僕は美しい海へとダイビング。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!気持ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
この暑さに海の冷たさが、とても気持ち良かった。
「ハハハッ!・・・・・ソラ!」
海辺を走ってアカリが僕に飛びついてくる。
ザパァァァァァァァァァン!!!
おっふ。
思いっきり抱きつかれ、そのまま海へと二人とも沈む。
「・・・・・プハァ!やったなアカリ!」
アカリの後ろに回って、細い腰に手を回すと、しっかり抱きしめてからのバックドロップ。
ザパァァァァァァァァァン!!!
おっふ。
大きく水しぶきがあがる。
「「 アハハハハッ! 」」
光り輝く太陽。真っ青な空。そして綺麗な海。
ここは沖縄。
星グループのプライベートビーチ。
いきなり拉致られた僕は、プライベートジェット機で沖縄へ来ていた。
アカリと二人だけで海で遊んでいる。
ビーチには、それを笑顔で見守っている近藤さんがいた。
アカリの水着は黒のビキニ。
腰まである長く美しい黒髪と相まって、とても魅力的で綺麗だった。
僕は陰キャで、人一倍妄想エロ男だと自負している。
だから肌で触れ合うたびに、『おっふ』となる。
それを気づかれない様に、アカリを堪能するのは至難の業だった。・・・・・・・この感触。しっかり覚えとかんとな!
僕達は丸一日、沖縄の海を楽しんだ。
近藤さんがソラを見て言う。
「フフフ。爆睡してますね。」
「そうね。」
プライベートジェット機の中。
私とソラは、沖縄で遊んで今は帰りの途中だ。
プニ。プニ。プニ。
私はいたずら顔で、遠征の時にやられた仕返しとばかりに、ソラの頬をつつく。
「う~ん。アカリのおっぱい・・・・・やわらけぇ。でへへへへ。・・・・・むにゃむにゃ。」
「まったく。何を考えてるんだか。」
ソラを見て、顔を赤くしながら嬉しそうに私は呟く。
「・・・・・ソラだったら、いくらでも触ってくれていいんだぞ。」
隣の座席に座る私は、そっとソラの手を気づかれない様に触る。
空を飛ぶジェット機の窓から外を見る。
・・・・・・・私は物心ついた時から、星グループトップの一人娘として育てられてきた。
星家としての立ち振る舞い。星家としての話し方。星家としての教養。
まだ星グループの社長だったおじいちゃんやお父さん、そしておばあちゃんやお母さんも皆優しかった。
『星家としてこうあるべき』という言葉をずっと聞かされ続けても、頑張る事ができた。
そんな幼い時。
お金持ちしか通う事が出来ない超名門小学校に通っていたけど、改装工事を行う為に休校になり、数ヶ月だけ別の小学校に私は通う事になった。・・・・・そして、その時にソラに出会った。
周りは星家のお嬢様が来たと、親が接点を持てとでも言われたのか、先生を含むクラス全員にチヤホヤされて、とても居心地が悪かった。
でも、ソラだけは違った。
星家のお嬢様ではなく、私を見てくれた。だからすぐに仲良くなった。小学校に行くと、いつもソラが一緒にいてくれる。いつも星家として振舞っていた私は、ソラだけには本当の自分を見せることが出来た。・・・・・こんなに楽しいと思った事は今までなかった。
「ソラ。あの頃から、私はずっと・・・・・・・。」
ーーーーーーーーーーーー小さい頃ーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうやって入った!」
私達を見て、怒号が広い室内に響き渡る。
星グループ本社ビル。
その大会議室。
社長を入れた、星グループの全ての幹部達が揃った会議だった。
そこに忍び込んで突然現れた、ソラと私。
「えっ?!アカリ様?」
ソラを取り押さえようと、近くにいる幹部達が動くが、おじいちゃんが手で制する。
ソラを今まで見た事もない迫力のある目で睨みながら、おじいちゃんが言う。
「・・・・・小僧。何しに来た?ここは遊び場ではないんだぞ?しかもアカリまで連れて。」
ソラは、一歩私の前に出ると大きく叫んだ。
「クソジジィ!!!クソオヤジ!!!アカリを見ろよ!!!」
全員がざわついた。
「クソジジィだと?貴様・・・・・・・しかも何を言っている?アカリは大切に育てているぞ?」
「ソラ!もういいよ!もうやめて!うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。」
私はソラの後ろで泣く事しかできない。
「アカリは黙ってろ!!!・・・・・もう一度言うぞ!クソジジィ!!!クソオヤジ!!!アカリを見ろよ!!!星!アカリじゃなくて・・・・・アカリを見ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大会議室にソラの声が響き渡った。
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私は今でも忘れない。
あの時のおじいちゃんとお父さんの顔を。
あの日から、私の人生は変わった。
おじいちゃんもおばあちゃんも、お父さんもお母さんも、皆私をちゃんと見てくれるようになった。
そして好きな事をさせてくれた。
結局あれ以来、超名門小学校には戻る事はなく、ずっとソラと同じ小学校に通う事になった。
ソラと一緒にいたかったから。
星家の学びはちゃんと続けている。それは星家の為じゃなく、私の為。
ソラを振り向かせる為に、もっと頑張らないといけないと思ったから。
「・・・・・まったく。早く気づいてよ。このっ♪このっ♪」
寝ているソラの頬を私は嬉しそうにプニプニ突っついた。
☆☆☆
翌日。
時計を見るとすでに昼だ。
昨日はアカリと一日中、沖縄の海で遊んだせいで、疲れて爆睡してしまった。
ヤバイな。遠征から三日間しか、引きこもれていない。
今日からはまた、ゲームやアニメ三昧をしないとな!
僕はベットから起き上がる。
ピンポ~ン♪
「オッス!」
「あら!クウガ君じゃない!久しぶりね!ソラ?ちょっと待ってね。あの子まだ寝てるのよ。ソラ~!クウガ君よ!早く来なさ~い!」
・・・・・・・また拉致られた。
「ソラを連れてきたぞ~!」
「おじゃマンゴ~♪」
クウガの家に僕は入る。
「あっ!ソラさん!」
玄関に可愛らしい女の子が顔を出す。クウガの妹だ。
「やぁ!琴美ちゃん。元気にしてる?」
「もちろん元気ですよ!もうお兄ちゃん!ソラさんが来るなら先に言ってよ!」
「あ~ソラ兄ちゃんだ!」
「「「「 ソラ兄ちゃん!遊ぼ~♪♪♪ 」」」」
遊び相手を見つけた目をしてゾロゾロとやってくる。
クウガの家は、大家族だ。
クウガとコトミちゃんの下にはあと五人の弟と妹がいる。
みんな夏休みなのに、今日はたまたま居るらしい。
「あら!ソラ君じゃない!久しぶりね!」
「おばさん!久しぶりっす!さて・・・・・それじゃ、全員まとめてかかってこいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「「 やった~!ねぇねぇ、ソラ兄ちゃんが来るとね。クウガ兄ちゃんも、コトミ姉ちゃんも何やっても怒らなくなるんだよ! 」」」」」
「こらっ!聞こえてるよ!」
ソラが来たのを見て、コトミはすぐに自分の部屋に行ってオシャレ着に着替えているみたいだ。
そこで大声で文句を言っている。
ソラは、俺の得意の叫びをパクりながら、弟や妹達を連れて居間へと入って行った。
隣にいる母さんが、パンッと手を叩く。
「さて!ソラ君が来たなら、とっておきの夕飯を作らないとね!」
母さんは腕をまくってキッチンへと向かって行った。
俺は居間に行くと、弟や妹達とゲームで遊んでいるソラを見る。
「・・・・・こんな風景を見れるなんてな。」
俺は自然と呟いた。
・・・・・・・昔。俺の家はとても貧しかった。
父親が交通事故で亡くなり、生まれたばかりの五人の子供と小学生の俺。そして病気で苦しんでいたコトミを一人で母さんは支えていた。
昼も夜も寝る暇もなく、俺達を養う為に働き続ける母さん。
俺は何も出来ずに小学校に通っていた。
ガリガリに痩せていて、買う服もなく、いつも汚らしい格好で通っていた俺。
周りからは、くせぇとか、きたねぇとか、よくいじめられた。
でもそんなのは全然耐えられた。給食が食えたから。
そんな時、クラス替えでソラと出会った。
皆は近寄ってこないのに、ソラだけは普通に近寄ってきて、楽しそうに俺に話しかける。
そんなソラだったから、友達になるのは早かった。
一度、俺の家に遊びに行きたいと言われた時には正直ためらった。でも、ソラに隠し事はしたくないから呼んだんだ。
あの時は今でも忘れない。
ーーーーーーーーーーーー小さい頃ーーーーーーーーーーーーーーーー
目の前には、今にも崩れそうなボロい平屋のアパート。
「ここ?」
「うん。」
「そっか。んじゃ、おじゃマンゴ!」
ソラは遠慮なく入って行く。
部屋は一つしかない。
部屋には、五人の小さな子供。そして、機材に囲まれているコトミがいる。
ソラはその部屋を見ながら言う。
「クウガ。いつも何回か学校抜け出してたのって、この子達のせい?」
「うん。お母さんは仕事だから。僕が面倒見ないといけないんだ。」
「・・・・・そっか。それと君はコトミちゃんだよね!よろしく!僕はソラ!」
「・・・・・よろしく。」
生まれた時から両足がなく、手も違った方向に曲がっている。
生きられてあと数年。
難病だった。
それからというもの、ソラは毎日家に遊びに来た。
大量のお菓子を持って。
後でソラのお母さんに聞いた話だと、お年玉や自分の貯めたお金と毎月のこづかいを全て使っていたらしい。
そんな日が続いたある日。
いつもの様にソラが遊びに来て、子供達をあやして、コトミと話をしていると、コトミがソラに涙を流して弱音を吐いた時があった。
「ソラ兄ちゃん。私・・・・・死んじゃうのかな?やだな。・・・・・もっとソラ兄ちゃんとずっと遊んでいたいな。」
ソラは何の迷いもなく、笑顔で答えた。
「何言ってるんだよ!死ぬわけないじゃん!・・・・・よしコトミ!約束だ!僕が治してやる!だから、それまで絶対に死んじゃうなんて言わない事!分かった?」
コトミは苦しそうにしながら、涙を流して返事をする。
「うん!分かった!ソラ兄ちゃんが治してくれるなら、絶対にがんばる!」
そんなの小さい俺でも分かった。
ソラが、元気づけて言っているだけだって。
でも違った。
コトミがいよいよ厳しくなり、俺も看病で学校に行けずにいた時に、突然ソラがやって来た。
今でも鮮明に覚えている。
コトミに『赤色の液体の入った瓶』のフタを開けて飲ませる。
すると、生まれた時からなかった両足、そして曲がった手が、みるみるうちに生えて、元通りになっていった。
「・・・・・・・ソラ兄ちゃん!私!!!・・・・・私!!!!!」
「約束したろ!治してやるって!コトミが頑張ったからそのご褒美さ!!!」
「えっ?・・・・・あっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
入口で、仕事用のバックを落とし、両手を口で抑えて、大粒の涙を流しながら言葉にならない声を上げている母さん。
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今でも忘れない。忘れることは絶対に出来ない思い出。
コトミに飲ませたのは『赤色のポーション』だった。
オークションで100億円以上の代物。
子供のソラがそんな大金持っているわけがない。それでもコトミとの約束を守った。
その時に俺は、生涯、ずっとソラに付いて行こうと決めたんだ。
そして探索者になり、大金を稼ぐことが出来た。
今では、八人がゆとりをもって住める程の大きな家を建てて、母さんには仕事を辞めてゆっくりしてもらっている。
「ソラ兄ちゃん!また遊びに来てね!」
「ソラ兄ちゃんが来ると、コトミお姉ちゃんが優しくなるからまた来てね!」
「こっこら!なんてこと言うのよ!」
「「「「「 ワ~♪♪♪ 」」」」」
コトミが顔を真っ赤にして、弟や妹達を追っかけている。
ソラは子供達と夕方まで遊んだ後に、母さんの作った夕食を食べて、俺の家を後にした。
俺はソラと一緒に歩きながら思う。
ソラ。俺はどんな事があっても、ずっとお前と共に歩きたい。
「ん?変な顔してどったの?」
「何でもない!・・・・・・・なぁソラ。俺達はずっと友達だよな?」
ソラはやれやれといった顔をして言う。
「何言ってんだよ。友達っていうより、俺達親友だろ?それって俺だけ?」
「ちっ、違う!俺もだ!!!」
「んじゃ、これからも楽しんで行こうぜ。」
「ああ!」
俺とソラは、グータッチした。
☆☆☆
「あらあら。おじいさん。嬉しそうですね。どうしたの?」
ソラに『じっちゃん』と呼ばれている星グループの会長は、妻に言われて嬉しそうに答える。
「ばあさん。・・・・・ちょっと昔の事を思い出してな。」
まだ小学生のソラが、土下座してワシに頼んだ物。
『赤色のポーション』。
アカリの友達でも流石に用意してやる事は出来ないと断ったが、毎日、毎日、毎日家の前に来て、土下座をしていた。雨の日も。隣には、知らない赤い髪の可愛い女の子と一緒に。そして途中からはアカリも一緒にだ。
そこで根負けして、ソラと約束をした。
「来週、オークションで『赤色のポーション』が出品されるそうだ。ワシが必ず落札しよう。・・・・・ソラよ。その見返りは何だ?」
「僕が高校生までには必ず倍にして返すよ!約束だ!」
まさか、探索者になるとは思ってもみなかった。
会長は、神棚に飾られてある二本の『虹色のポーション』を見る。
「・・・・・まさか、ワシだけでなく、ばあさんの物もくれるとは。・・・・・思い出すと面白くてな。ハッハッハッハ!」
星家の一室に笑い声が響いた。




