29話 スピカの下層ソロ攻略 3
「貴方達!いい加減にしなさい!」
スピカが歩きながら、カメラを見て怒鳴っている。
よせばいいのに、ずっと視聴者のコメントを見て、面白くないのか、言い争っている。
スピカは知らない。
言えば言うほど、視聴者にとってご褒美だと言う事を。
まぁ、スピカが反応してくれて非常に盛り上がっているので、スルーする事にしているけどね。
そんなこんなで二階層を僕達は進んでいると、前方からモンスターが現れた。
体長は2m程。両腕には二本の鎌の様な手。丸太の様に太い足。そして顔はカマキリの様な顔。
前に、アカリが遭遇した『レア』に似ている。
しかしあの時の『レア』は腕が四本あったが、このモンスターは二本。大きさも小さい。
下層によく現れる、認知されているモンスターだ。
だが数が多い。10体もいる。
「接敵しました。『ガイラ』ですね。」
<コメント>
■うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!またきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■きたきたきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■うおぉ!新しいモンスターか???
■でも、何か見た事あるな!!!
■アカリちゃんの時に観た『レア』に似てね???
■でも、腕は二本だし、大きさも小さいような???
■ぞろぞろ出てきたな!結構いるんじゃね???
■あれは『ガイラ』だ!両手の鎌は、簡単に人間を真っ二つにするぞ!!!
■チームで一体でも苦労するのに十体だと?これはヤバいぞ!!!
■知っているチームの一人が腕を斬られてたな。
■しかもあの体が厄介だ。かなり硬くて、普通の攻撃じゃダメージが通らない!!!
■おいおいおい。大丈夫なのか?
スピカは黙って僕の前に出ると、右手を動かす。
すると、目の前の空気が紫色に変わった。
そして紫色の空気が、ゆっくりとガイラの周りを包み込む。
スピカが呟く。
「花火・・・・・牡丹。」
不思議な事が起こった。
10体のガイラが、徐々に膨れていったのだ。
みるみる膨れていき、体が耐えられなくなった瞬間。
バンッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
破裂した。
鎌や頭、体の一部が天から降り注ぐ。
<コメント>
■へっ???
■はっ???
■ほっ???
■今何した???
■ちょ!ちょっとよく分からないんだが!!!
■モンスターが勝手に膨れていって破裂したぞ!!!
■何で破裂したんだ???
■破片が!モンスターの破片がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
■意味が分からん!!!
■ちょっ!ちょっとぉぉぉぉぉぉ!死体の残骸がぁぁぁぁぁぁ!キモッ!!!
理解が追いついていないみたいだ。
同業者も分からないらしい。
「スピカさん!今の魔法は何ですか?」
「ん?『牡丹』の事?」
「はい!」
「あれはね。魔力の空気をモンスターの周りに発生させて、圧縮させたの。・・・・・簡単に言うと、空気圧縮かな。」
空気はある一定量をつかまえて無理やり圧縮すると、温度が急激に高くなる。
それを応用した魔法だ。
<コメント>
■いやいやいやいや。今簡単に言ったけど、そんな事出来るのか???
■あの紫色は魔力だったのか。
■どうやったらそんな事出来るんだよwww
■正直、同じ魔法使いですけど、出来るイメージがわきません!!!
■俺も!!!
■私も魔法使いですけど、そんな繊細な魔力のコントロール、どう考えても出来ませんよ!!!
■すげぇ、同業者がうろたえているwww
■それ程、スピカちゃんが凄い事やってるって事か。
■流石スピカちゃん!!!
■世界一の魔法使いは伊達じゃねぇな!!!
■強いし可愛いし!!!最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
■ちょっと聞きたいんですけど、何で花火の名前を付けてるんですか?
■あっ!それ俺も気になってた!!!
コメントがとにかく今までにない程に流れている。
スピカが視聴者に反応しているのと、魔法がかなり新鮮らしい。
同業者の食いつきも半端ない。
これは今後も視聴者の伸びが期待できるな。
ここはチャンスだ。出来るだけ、時間があったら視聴者さんの質問に答えよう。
「スピカさん!視聴者さんからの質問です。何で魔法名が花火の名前なんですか?」
ドロップ品を回収し終えた僕は、スピカと歩きながら、コメントを抜粋して尋ねる。
スピカは少し考える。
-------------小さい頃-------------
夏。
毎年恒例の花火大会。
この花火大会だけは、私にとって特別な時間。
ソラと二人だけで花火を観る日だから。
一ヶ月前からずっと考えて、着物を選ぶ。
ソラが喜んでくれそうな着物を着る為に。
「スピカ!花火、綺麗だね!」
「そうね!」
「でも、スピカもとても可愛いよ!着物も良く似合ってる!」
「ばっ、バカ!とっ当然でしょ!」
それは、小さい頃からの特別な時間。
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「・・・・・花火が好きだから・・・・・かな。」
<コメント>
■ぴょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
■きゃわいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
■花火が好き!俺も好きぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
■僕はスピカちゃんが好きです!!!
■一緒に花火大会行きませんか???
■魔法名を好きな名前にするなんて可愛いすぎるwww
■創造か・・・・・スピカちゃん凄いな。
■ごく自然に、既に決まっている魔法名しかないと思ってたけど、それは先人が勝手に付けただけだとあらためて思い知ったわ。
■私も自分だけの魔法を考えようかな?
■だな。もし作れたら強い武器になるし、チームにも貢献できる!!!
■同業者達がスピカちゃんに刺激を受けてるwww
■まぁ、俺達から観ても、すげぇって事だけは分かるしなwww
■つ~か、下層モンスターが全然相手になってないんだがwww
そのまま二階層を進んで行き、現れるモンスターをバッタバッタと消し炭に変えていくスピカ。
その圧倒的な強さに、同業者でさえ感嘆のコメントが出ていた。
そして、僕達は三階層へと下りていく。
暫く歩きながら撮影しているが、ダンジョンの景色はあまり変わり映えしなかった。
メンバーと視聴者が一緒に探索している感じをだしたい。
そう思って撮影しているので、ずっとダンジョンの景色が変わらないと、面白みがどうしてもかけてしまう。
僕は思わず呟く。
「今回は、川や滝、そして花畑・・・・・何もなさそうですね。」
<コメント>
■確かに。今回は普通の洞窟だなw
■ソラ!これが普通だからw
■まぁ、川や滝がダンジョンにあったのは見栄えはあったなw
■特に前回の花畑は流石にビビったわwww
■まぁ、そんなの関係なく色んな物が観れてるから楽しいぞ!!!
■下層のダンジョン自体初めてだからな!!!
■ダンジョンが観れるだけで十分楽しいぞ!!!
■隣にはスピカちゃんがいるしね!!!
■初めての魔法が観れるし!!!
■スピカちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!
ハハハ。心配は杞憂だったらしい。
視聴者さんは十分楽しんでるみたいだ。
ん?
持っているカメラがぶれる。
地面が揺れた。
僕は止まって、カメラを隣にいるスピカから洞窟へと移す。
ゆっくりと大きな影がこちらへと近づいて来る。
カメラをズームする。
それは、一体の大きな人型モンスターだった。
でかい。
7mはある。
片手には、巨大な棍棒を携えている。
「巨人・・・・・・『ギガンテス』ですね。」
<コメント>
■うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!デカッッッッッッッッッ!!!
■マジでデカッッッッッッ!!!
■でかすぎだろ!!!
■何メートルあるんだよ!!!
■巨人?今巨人って言ったか???
■巨人なんているのかよwww
■うぉ!ギガンテスだと???あれは、下層の中でもかなりヤバいモンスターだぞ!!!
■あいつはクランで戦う相手だ!でも被害が大きいから、見かけたら皆戦わずして撤退しているぞ!!!
■マジで?スピカちゃんでもヤバいのか???
■分からない!どうなんだろう???
■スピカちゃん!!!
心配コメントがちらほら流れる。
意外と早い。
どんどんと近づいてくる。
もう数十メートルしかない。
ギガンテスを撮影していると、スピカはカメラを覗き込みコメントを見る。
「貴方達ね。今まで何観てたの?あんな、ただでかいだけのモンスター・・・・・・そうね。そういえば炎系以外使ってなかったわね。」
そう言うと、スピカはカメラから離れると斜め前に出る。
右手を上へと上げる。
すると白いモヤの様な物が右手を覆う。
「あれ?少し寒くなってきましたね。」
撮影しながら思わず感想を言う僕。
スピカの右手に冷気が集まっている様な感覚。
そして一言スピカは呟いた。
「花火・・・・・柳。」
ピシッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!
近づくギガンテスの頭上から白い雨が降り注がれた。
その雨は瞬時に触れた物を凍らせていく。
ギガンテスの巨体は見る見るうちに凍っていく。
どんなに力があろうが関係ない。
咆哮をあげ、近づこうとするが、すでに筋肉が休止している。
凍ってゆく。
ゆっくり。
ゆっくりと。
頭から体、そして歩いていた足まで。
そして、僕達の数メートル先まで近づいていたギガンテスは、完全に止まり、氷の彫刻の様に固まっていた。




