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箱庭の夜に。  作者: KUu子
3/7

第三夜 光と影

そんなことより、ヨルは闇落ちだったのか。確かに彼も夜にしか姿を現していない。でも、じゃあ何で同類の闇落ち達を彼はワタシと一緒に倒しているのだろう?


「…、」

闇落ちは目を伏せたままユイちゃんへ近づき彼女の服の袖を引っ張った。


目も髪も服装も水色で、ユイちゃんよりも背の高い女の子だった。こんなに可愛くても闇落ちなのか。

思えば倒した闇落ちも普通の人間とはそんなに変わりはなかったがヨルの言う雑魚は動きが少し変だった。

じゃあヨルもこの女の子も強いのだろうか。強い個体は普通に見えてしまうのかな。

考えていると「ミノリー。ふふ、なんやの甘えん坊さんやなぁ。そんなんされたらまたやってまうやん」と言い終わったと同時にユイちゃんは彼女の髪を下から引っ張り川へ叩きつけた。

「!!??」

いきなりの行動で言葉を発せなかった。


「な?こういう力持ってる奴は大体おかしいって、言った通りだろ」

ヨルは冷静にワタシに話しかけるが、ワタシは「やめて!可哀そうだよ!と叫んで彼女たちに近づこうとしたがヨルに腕を掴まれて、彼女たちには届かなかった。


ミノリと呼ばれた女の子は痛みで涙を流すがそれでもやめてとも言わず、唇を噛みしめただ耐えているだけのようだった。

ユイちゃんは笑顔のままワタシたちに見やると「この子かわええやろ?うち今日はお愉しみ気分やし邪魔されるのも嫌やし、この子別にわるーい闇落ちとは違うねん。今日はこのまま部屋戻ってくれへん?」と彼女を痛めつけながら提案する。

「今の状況ではいそうですかって言うと思うワケ?」とヨルが強く訴える。


ユイちゃんは相も変わらずずっと口角をあげたまま「…何であんた達は思い通り言う事聞いてくれへんねんやろうなぁ?」と言う。

今の話に違和感があった。まるで他の人たちはユイちゃんの言う事を聞いてくれていたかのような話し方だった。

しかしヨルは気にもせずミノリちゃんの方へ駆け寄った。


「…ええ男やけどその歳で女慣れしよるんやろか。うちの前ではみぃんな誰であろうとワンコロやのに」


ユイちゃんはミノリちゃんをかばう様に前に立ちヨルの攻撃を防ぐ。

それを見たワタシも気は乗らなかったがミノリちゃんの顔めがけて両剣を飛ばした。

が、ヨルの攻撃もワタシの両剣も彼女たちには届かなかった。

「!」

ユイちゃんが無数のカッターを飛ばしてきた。自由自在に操っているように見えるがあれもヨルの言っていた力持つものなのだろうか

「ツキちゃーん!あんたがこのイケメンと共闘してるようにうちらやって一緒に行動してるだけやん。なーんで消そうとするん?別に闇落ちなんて倒さんくても手懐けたらええやん!」

「いや、闇落ちは等しく倒されるべきだ!俺も含めて最後にはみんな消えればいい、時間がたつごとに理性を失うんだからな!」


無数のカッターを避けながらヨルは言うがユイちゃんも負けじとカッターを操りながら言う。

「倒すんがあんたらじゃないとあかん理由とか無いやん?この子はうちがやるわ」

そういい終わった途端無数のカッターの一つがワタシの腕を掠った。

「ひ、」

驚いて動きを止めてしまい、他のカッターが腕や足、そして急所の腹部に刺さってしまう。


「ぁ”ぁあああああ”!!!!」

いきなりの痛みに驚き、鋭い痛みに地面へ倒れのたうちまわる。

「ツキ…!」

ヨルがこちらへかけよってくるのが見えた。

「今日はここまでやね?」

ユイちゃんはそう言い攻撃をやめて続けてワタシ達に向かって話す。

「えぇ声やね、ふふ…お空行ったらどないしよ。ミノリ、もうちょっと()()しよ?」


ヨルはワタシを抱いて急いで崖を上り、息がきれているワタシを自室のベッドへと寝かせた。

背中を向けて走っている間もユイちゃん達が襲ってくる気配はなかった。



「はぁーッ、はぁーッ」

「他の子供たちにバレる。死ぬ気で声を抑えろ」

そういうが否やヨルはワタシの身体に刺さったカッターを抜いていく。

当たり前だがすごく痛い。痛いがさっきのように光力で自身の身体を癒そうとした。

「ふん”ん”…!?」さっきのように力が入らない!

ヨルは何かに気づいた顔をして「もしかして光力が切れたのか…!?」と呟くと

「ツキ、悪いが口を開けてくれ。」と語りかける。

何とかなるのだろうか?藁にもすがる思いで素直に口を開けるとヨルの顔が近づき、そのまま唇同士が合わさったと思ったらヨルの舌が侵入してきた。


「んっ!?ふぁんん…、」

唾液が送り込まれ舌で飲み込め、と合図される。すごくイケナイコトをしているかのようでワタシは痛みを少し忘れかけていた。

恥ずかしさをごまかす様にしばらく目を閉じ耐えているとゆっくりヨルの顔が離れる。

ぷつん、と二人を繋いでいた唾液が切れてワタシの顎に垂れた。

それをヨルが右手で優しく拭う。


ヨルが離れてふ、と体の奥底から光がせり上がってくるような不思議な感覚があることに気づく。

身体の傷が癒えていくのを感じた。


「光力にしろ闇力にしろ、エネルギーは無限じゃない。空っぽになったエネルギーは寝るかまぁ、体液交換が必要になってくる。」

「たいえき交換?」

「今みたいに唾液を交換したり、血を飲ませたり…あとはまぁ、子供には教えられないな…」

教えられないってそんなの気になるが?

「え?教えてよ!」

「必要ない」

「ぐぬぬ…」

そういうと彼は窓の方へ歩いていきワタシに背を向け「傷も治ったし、じゃあ明日。」と言い放った。

そうだ、聞きたいことがあったんだと思い出し「待って」と彼に呼び掛けた。

彼は足を止めこちらに振り向きワタシからの言葉を待った。


「ヨルも闇落ちなの?」

少しの沈黙のあと、「…そうだな」と静かに答えた。

「どうして闇落ちが闇落ちを倒してるの?どうして倒した闇落ちみたいにならないの?」

「闇落ちは倒さないと施設の子供たちが危ないだろ。俺も何で自分が大丈夫なのか分からないな…気づいたらこのありさまだし?ただ、さっきも言った通りこのまま時間が立てば俺もあいつらのように理性がなくなってアンタを襲うかもな。」


ヨルもあんな風になってしまうのだろうか。考えたらゾッとする。

「でも、一つ言えるのは俺もアンタの光に誘われてアンタを…ツキを見つけた。」

何度か彼が口にしている()とは何の事だろうか。ワタシは特に自分自身のソレには気付いていない。

「ねぇ、聞きたかったんだけど光って何のこと?ワタシどこか光ってる?」

「別にアンタの身体がビッカビカに光ってるって意味じゃない。感覚的な物だから説明が難しいんだけど…でも初めて会った時よりアンタの光は増している。今まで闇落ちを引き寄せたことがなかったのは何でなんだろうな?」

確かにそれは疑問だ。何がきっかけで闇落ちが急に近づいてきたのかも分からない。


「ねぇ、闇落ちって最初から闇落ちなの?」

「いや?見ての通り人の形をしてるし生まれた時から闇落ちだったやつはいない。凄まじい負の感情を向けたり向けられたりすると死んだあと闇落ちになるな。強さは元々力を持っていたやつはやっぱり強いしね。」


じゃあ、あのミノリちゃんも何かしら力を持っているのだろうか。何もしてこなかったしユイちゃんの後ろに隠れていたけれど…。

考えているとヨルが「もう遅いんだから寝たら?今日もお疲れ」と言って窓から飛んで行ってしまった。


ヨルがいなくなったあと、不思議な人だなとか、ユイちゃん襲ってこないな、とか色々考えこんでしまっていたがその次にヨルと変なちゅーしちゃったことを思い出して一人布団の中で悶えていた。


_________________________________


気付いたら朝になっていた。眠たいが起きて身支度を整えなきゃ…と筋肉痛の身体を無理やり起こした。

顔を洗いに行く途中、ユイちゃんに会った。

「おはよぉさん。」

彼女は昨日の事など何も無かったかのようににこやかにあいさつをする。

「お…はよ、う。」

戸惑うワタシを気にも留めず食堂へ向かってしまった。


「昨日の、夢だったんじゃ」

呟くが夢ではないと分かっている。ユイちゃんの顔を見ただけで昨日のカッターが刺さった時の痛みを思い出したから。

何も知らない人たちにはあの夜の出来事は関係ないのだから昼間は割り切って平然といたほうが良いのだろうか。あんなに激しくやりあったのに?


「あ、おはよう!えっと…」


声の主へ顔を向ける。どうやら難しく考えて立ち止まってしまっていたようだ。

確か彼女はここの園長の雪先生だ。

「雪先生…」

彼女は名前を呼ばれて嬉しかったのかにこっとしてワタシと同じ高さになるように屈んだ。おっぱい大きいな。すごい。

「えへへ、雪千花でも雪ちゃんでも、好きに呼んでね!みんなツキちゃんて読んでるから、雪もツキちゃんて呼ぼうかな!」

「う、うん」

きれいな顔にドキッとして赤面する。

「じゃあご飯食べといでね」


そう言うと彼女はルンルンで他の子たちにあいさつしに行ってしまった。


「あ、そうだ顔洗ってご飯!」



___________________________________


食事後、やることが無かったのでまた一人探索することにした。

と言ってもほとんど初日に見回ったのだけど気になるところがあった。昨夜の崖だ。

崖には危ないから行ったらだめなんだろうけど何となく川が気になった。

そう思い食堂から出るとぽつんと小さく庭に佇む地蔵が気になった。初日はさほど気にならなかったが見に行ってみることにした。



指先で触れた途端、体中悪寒がした。びっくりして距離をとって駐車場まで逃げ込んだ。何だったんだ今の感触は。お地蔵さんはいいものだという認識だったが、アレはそんな良いものではなかった。

何というか地蔵そのものが呪いのような、目には見えない黒い靄がかかっているような悪いものの感じがしたのだ。


「あれー?ツキちゃんやん。どうしたんそんな汗かいてこんな真冬に」

「ほんとだー」

ユイちゃんとその取り巻きに声をかけられたので返事をしようと思ったがうまく言葉が出てこなかった。

「ちょっとツキちゃんに()()あるから部屋戻っといて?また後でな~」

「うん!」

「えー早く来てね~」「ふふ、はぁい」

取り巻き達はいなくなって、ユイちゃんと二人きりになった。お話って何だろう?


「あ、あの、何…」

言葉をつづけようとしたら彼女はいきなりワタシの髪を掴み、昨日のミノリちゃん同様地面へワタシをたたきつけた。

「うっ、ひゅ、!」

いきなりのことで思考が追い付かず抵抗できなかった。

「ふふっ…やっぱりえぇ声やね?昨日の傷治ってるみたいやけどどないなってんの?」

「は、」ユイちゃんの顔を見た瞬間カッターを持った彼女の腕が振り下ろされた。


「ぅ”ぁあああああ!!!」

右腕にカッターが刺さり鮮血が飛び散った。

「なぁー、どうやって一晩で傷治したん?おかしない?目の前で治してみてぇや」

「ぃん”、ん”-…!」


光力を使って傷を癒すと彼女は可笑しそうに「すごいやん!」と言ってワタシの髪を掴み、

「えっ?」


ふぁさ…と柔らかい音が聞こえた。髪を切られたんだ。

「もしかして髪の毛も元に戻せるん?」

「…」


ワタシが泣きながら固まっていると何も言わないことが気に食わないのか今度は腹を蹴ってきた。

「いや”ぁ!や”め”ッ、ぐぅッ…!」

急所を蹴られ激しい痛みに泣くと彼女は「何か前も思ったけど腹弱いなぁ?」と言って上着をめくってきた。


ワタシの腹には生まれつき大きな傷があった。ママにもあったし、遺伝なのかもしれないねとパパに言われたことがある。

ずっとじくじくじんじん痛みが止まらないし、そこを攻撃されるとすごく痛いのだ。


ユイちゃんはそんなワタシを見て「あははきったない傷ぅ!何か手術したん?それと髪の毛は治せへんのんや?」と言うとふと思い出したかのように、「あ、そういえばあの子ら待たせとんのやった。」と急に興味を無くしそのままワタシを置いて棟へ戻って行ってしまった。


ワタシは髪の毛を切られてしまったことがショックなのと恐怖で暫く動き出せなかった。







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