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切欠

作者: 海星

 切欠は『ワンイシュー政党』だった。

 『NHKをぶっ壊す!』みたいな。

 『ワンイシュー政党』とは、一つの目標だけを選挙戦でアピールする政党だ。

 『ワンイシュー』の是非はあまり興味がない。

 ただ「これは面白いな」と。

 私は『ワンイシュー魔法使い』というモノを小説にしようとした。

 『一つの事に特化した、でも一つの事以外は出来ない』魔法使いだ。

 『この魔法が何の役に立つんだよ?』という魔法を扱う魔法使いの話だ。

 しかしアイデアはまとめきれなかった。


 それが今から十数年前の話か。

 私は現実を思い知る。


 『頑固な汚れを落とす魔法』

 『鳥を捕まえる魔法』

 『底なし沼から人を引き上げる魔法』

 みたいな『この魔法が何の役に立つんだよ?』という魔法が登場する漫画があった。

 しかも凄い面白くて人気がある。

 何より私がその魔法を軸に小説を書こうと思っていた『人を殺す魔法』が出る。

 同じようなアイデアを膨らませて大ヒット漫画が書けた方がいる。

 同じようなアイデアを膨らませてられず、腐らせて妄想で終わらせた私がいる。

 才能が違い過ぎる。

 比べる事すら烏滸がましい。


 このようにヒット作と同じようなアイデアはいくつか思い浮かんでいる。

 ただ私はそれを作品には出来ていない。

 妄想で終わらせている。


 夜中にふとテレビをつける。

 『京都アニメーション放火殺人事件』の裁判ドキュメントがやっていた。

 容疑者は自分のアイデアを盗用されたと思い、犯行に及んだらしい。

 アイデアのかぶりは頻繁に起きる。

 小説を書いていれば当たり前に起きる事だ。

 『誰もやっていない事』は『誰かが思い付いて、つまらないから止めた事』などと言われるくらい、アイデアは似通う。

 アイデアは頻繁に被るが『盗用』と思った事は一度もない。

 逆に『自分が"作品"に昇華出来ずに妄想で終わらせたアイデア』を大ヒットの漫画や小説のネタにしている方へ限りないリスペクトを私は送っている。


 容疑者はアイデアのかぶりを見た時に『盗用された!』と激昂してガソリンを撒いたらしい。

 私はアイデアのかぶりを見た時に『アイデアを大ヒットに繋げられる。やはり才能が違う』といじける。

 どれほどの違いがあるだろうか?

 『アイデアのかぶり』に直面した時に取るリアクションが違うだけだ。


 ドキュメントの中で容疑者と会話する機会を得た遺族に『容疑者が一方的に"アニメ観"を聞かせた』という話があった。

 背筋が寒くなった。

 「家族を殺した相手が目の前で一方的に趣味の事を語る」

 その光景がホラーだ。

 そんなホラー小説を私は書けない。

 きっと『自分は悪くない』と思っているのだろう。

 裁判での反省や自戒の言葉は、減刑のために弁護士に言わされている言葉なのだろう。

 想像して欲しい。

 目の前に自分の家族を焼き殺した男がいる。

 目の前の男が自分にアニメについて熱く語る。

 その男に反省の念があると思うか?


 小説とは想像力で書くモノだ。

 遺族の気持ちを少しも考えられない男が書ける代物ではない。

 考える事を止めた時点で小説を書く権利はない。


 自分はどうか?

 考えるのを止めて『ワンイシュー魔法』の小説を書くのを止めたんじゃないか?

 「どうせ私が小説を書いても『葬送のフリーレン』の1000分の1も面白く出来ない」といじけて考えるのを止めたんじゃないか?

 容疑者はその感情を外側に向けて、放火という最悪の行為に走った。

 私は『どうせ私なんて』といじけて思い付いたアイデアを腐らせた。


 私は思う。

 『一緒にするんじゃねえ!』と。

 「かぶったから何なんだ?

 面白ければアイデアが似てても評価されるだろう?」と。

 一度は捨てた『ワンイシュー魔法』のアイデアを形にする事にした。

 形にするにあたって、大幅に改変する。

 『ワンイシュー』を魔法じゃなくて、スキルに改変する。

 ここで『アイデアがかぶったから』と小説を書くのを止めるだけなら容疑者とさして変わらない。

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