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悪意・詳細

作者: 柩屋清

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”男は世の中で絶対的に認められたい生き物・・・・女は絶対的に愛されたい生き物”


著名作家の()()は忘れたが名作の隅の方に、記された一文を(かけい)浩司(こうじ)は思い返した。彼は、その日の夕刻、バスの窓際の席に居る。

ふと、反対車線に外国車が通り抜けた。

それを機に、先日の記憶が蘇る。

ドイツ車を運転する塔一郎(とういちろう)と、すれ違ったのだ。右ハンドルではあるものの紛れもなく、同窓の彼であった。


「建築系の設計士として上手くいったんだな」


筧は原付に股がりながら、彼を羨んだ。

当然、ヘルメットやサングラスから塔一郎から筧を確認する事は出来なかろう。

輸入税を支払う車は早速と消えた。


*****


「ようやくAチームに上がれた」


筧は中学一年の三学期、サッカー部の一軍の練習に参加していた。そこに居合わせた塔一郎は一年の一学期から試合にさえも出ている。


「アイツには(かな)わない」


学級委員を何期もこなし地域トップの公立高校から名門理系大を留年・浪人の経験も無く卒業し、ドラムも軽音楽部で叩き、ドラム・セットまで自宅に所持していた。

ようは()()の積み重ねだ。

そんな塔一郎にも弱点はある。

それは書道だ。字がまったくをもって、なっていなかった。

こんなに頭が()いのに何故か、と思う程、見違えてしまう。

しかし、時代は偏差値至上主義の真只中。彼の字よりノートの取り方のほうを当時の教員達は、こぞって()めた。

即ち、編集能力に()けていたのである。

筧は心の底より自信を無くしていた。


*****


「そうだ!」


筧はバスの窓から差し込む夕陽に促され、一度だけ塔一郎を愕然とさせた事を思い返す。誰かのバンドのライブの客としての帰り道だったと記憶している。


「あの日、玲子(れいこ)さんと(まもる)と一緒だったんだよ」


たった、そのひと言だけで塔一郎は黙り込み、筧と乗る列車内には枕木の音のみが響いた。

あの日、塔一郎は玲子を誘ったんだ。誘って断られて玲子の心の底を今、知ったのだ。

それは一月十五日が成人の日と定められていた時代。その日、筧と守はスーツを作って(もら)った親の手前、市の式典に出た。そこへ、玲子が付いて来たのだ。筧は守と玲子が交際していると感じていたが徐々にそうではないのでは? と思える様な局面にぶち当たる。


「筧のフトモモが好きだったらしいぜ」


守がいきなりイタズラめいて玲子の思いを、代弁した。筧はまだ、守と玲子が恋人同志である線も信じ笑って誤魔化してしまう。


*****


ただ、式典の後、喫茶店で話をしただけだ。しかも守も居て男女三人で、だ。

ただし塔一郎は落ち込んでいる。それは即ち事実を受け入れられないという趣に取れる。学歴や偏差値がモノを云う時節であるからこその驚愕である。筧の身としては()()()()()と認知できるが、女の心は真の恋の望み()()であろうか生活力に秀でるだろう塔一郎より、筧の外観や存在を選択していた。

全ては玲子が美人で頭脳明晰であるが故。筧はターミナル駅間近のバスの車内で回想をまとめた。これより職場仲間との飲み会に赴く予定。会話が途絶えたら、この挿話(エピソード)を使おうか。他人(ひと)は自虐的なネタしか興味が無い。いや、狙っている女とふたりきりの時、この話をして妬まそうか?


”男は世の中で絶対的に認められたい生き物ーーーー女は絶対的に愛されたい生き物・・”

筧はまた、この一文を読み返しバスを降りた。


(了)

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