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道中の危険

 魔女の異世界のモンスターは、日本でいうクマやライオンほどの脅威を持っている。


 害獣はクマやライオンほどの強さで、農作物を食い荒らす。もっと上位のモンスターは魔物とか魔族とかドラゴンなど。魔族領域に存在している。


 王国や帝国、中央は、人間の領域で、人類は魔族領域と敵対している。これが魔女の異世界の大陸の勢力図。だから人間の領域に住むモンスターは危険度が低い。危険度が低い……とはいえ、クマやライオンに襲われれば、ひとたまりもない。攻撃魔法を持っていない人は剣や槍、斧で対抗する。


 無知ハジメは商人であり、一期イチエは生活魔法の使い手。なので、攻撃魔法はおろか剣や槍、斧さえ持っていない。襲われればピンチだ。なのに襲われた。絶体絶命のピンチ。


 馬車で30分ほど走ったところで馬が急停止した。イチエから情報収集していたハジメは、何事かと馬車のカーテンを開く。すると、馬の前方に大型の犬の形をしたモンスターがいた。大型犬よりも大きい。馬よりもでかい、そいつは、よだれを垂らしながら、獲物を狙う目で睨みつけてくる。


「イチエ。あれは何?」


「肉食のモンスター。大人の男性数人で倒す強敵よ」


「今の俺らに倒せる?」


「ハジメと私。それから運転手のお爺ちゃんじゃ無理ね」


 無知ハジメは商人として、この世界に来たばかり。イチエは生活魔法しか使えない。馬車の運転手のお爺ちゃんは論外。ならば、男であるハジメが戦うしかない。チュートリアルとはいっても戦い方を知らないのではスライムすら倒せない。


 頭の中でそろばんをはじくハジメ。戦力になる若い男は貴重だ。攻撃魔法が発展していない今、モンスター狩りをすれば儲かるのではないか? と考える。死ぬまで金儲けのことを楽しく考えるに違いない。そんな自分に好意を覚えた。


「ええい、ままよ。俺がモンスターをひきつけます。その隙にお爺さんは馬車を動かして逃げてください」


 木の剣を持ち、適当に構えるハジメ。犬のモンスターは馬より大きい。しかも肉食。ハジメは死ぬほど怖かった。


 こんなことなら剣道部にでも入っておけばよかった。ハジメは後悔した。


「ホッホッホ。安心するがよい。勇敢な少年」


「え?」


「なぜ私が数十年、ずっと村と王国を馬車で行き来しているのかを教えよう」


 トウッと、唐突にお爺ちゃんが馬車の運転席を降りる。そして、ハジメの前に移動し、モンスターと対峙した。


 モンスターの突進。お爺ちゃんやハジメを食うために、勢いよく牙をむき出しにする。


「危ない!?」


「危なくない……よ。こんな敵、ドラゴンと比べたらのう」


 一刀両断。腰に掲げていた剣を抜刀し、振り上げ、神速の域で剣を振り下ろす。モンスターは左右に割れ、大量の血を吹き出しながら絶命した。


 剣の速度が速すぎて、いつ斬ったのか見えなかった。まごうことなき強者のそれ。


「ホッホッホ。モンスター退治は数十年間の仕事じゃ」


「見事な剣さばき。あなたはいったい?」


「わしは昔、剣聖と呼ばれ、魔王軍のドラゴンを倒した男じゃ」


「剣聖!?」


 村と王国を行き来する馬車はモンスターや盗賊に襲われる非常に危険な仕事。その仕事を一人で数十年間こなしている老人は凄腕の騎士で、しかも昔は剣聖と呼ばれる、最高峰の剣士だった。


 ワクワクしたハジメは、剣を習いたいと思った。魔法だけじゃない。剣を習えば、魔剣士に転職できる。商人のまま、魔剣士の職業をゲットしたいと考えた。


「報酬は後払いします。たくさん出します。だから俺に剣の修業をつけてください」


 老人の一刀を見てハジメはしびれた。ぜひ、この人から剣を習いたいと思った。


 一週間の王国への留学にプラスして、ハジメは元剣聖から剣の修業を受けることを計画した。


 返答は……。


「ダメじゃ」


「なぜ? 金ですか? お金ならいくらでも支払いします。だからお願いします。俺に剣を教えてください」


「金ではない。君はわしらを守るために勝てないモンスターに立ち向かい勇気を見せた。素晴らしいと思う」


「ではなぜダメなのですか?」


「ぬしの顔には大富豪になる相が見えておる。ぬしは剣を扱う人間ではない。商売をする人間じゃ」


 元剣聖はハジメの顔を見て、一瞬で職業を判定した。判定のスキルでもあるのか? それとも経験則からか? ともかく凄腕の老人はハジメの才能を見抜いた。


「少年。世のため、人のため、お金を稼ぎなさい。その才能は、剣を振るうだけのわしには縁のなかった才能じゃ。立身出世してたくさん寄付し、社会貢献するのじゃ」


「分かりました。社会貢献に努めます。でも、それでも俺は魔王を倒したい」


「ならば魔王討伐隊を編成しなさい。他の力を借りるのじゃ。君の今の身体能力では、ドラゴンはおろか、わしがさっき倒したモンスターにすら一生勝てない」


「ガーン」


 分かり切っていた事実。ハジメは異世界に転移しただけの一般人。身体能力はそのまま。しかも職業は商人。魔剣士になるのは一生無理だった。自分の非力さを自覚する。


 もしハジメの祖母が、魔王を倒しなさい、と言っていたのだとしたら、それは、優秀な職業のチームを編成して、みんなで協力して魔王を倒しなさい、ということか? まあ、まだ、魔法使いに転職して素晴らしい魔法を覚えるチャンスはある。強くなるのに、剣士だけという道以外にも方法はあることを覚えておこうとハジメは思った。


 モンスターに襲われるというハプニングにみまわれつつも、お爺ちゃんのおかげで危機を脱出し、30分後。なんとか、やっとの思いでハジメとイチエは王国にたどり着くことに成功した。


 一週間の留学。その間に、男手を補充するなり、冬イチゴの市場を調査するなり、やることは山ほどある。


「そういえば……」


「どうしたの? ハジメ?」


「なんで俺の女装を見破ったんだ。あの剣聖の爺さん?」


 今のハジメはハジメ子に変装している。パッと見、女の子にしか見えない。声も変えている。


「きっと長年の直感とかじゃない?」


「今度聞いてみよう」


 一週間後。また、命を助けてもらった元剣聖のお爺ちゃんと出会う。それまでに商才を発揮しなくては、留学の意味がない。男子三日会わざれば刮目して見よ、だ。


 凄腕トレーダーの天才が、さらに努力までして村を再建する。絶対に面白いことが起きるに違いなかった。

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