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イチゴ村の再建

 王国から1時間ほど離れた雪山にある村――イチゴ村。


 村長は、一期さん。孫娘の名前は、一期イチエさんという。


 若い女性と老人しかいない村は少子高齢化の一途をたどっていた。そもそも若い男が中央に連れて行かれるのだから、村が壊滅するのは当たり前。村の存亡をかけて、一期さんとイチエさんは、ハジメに結婚を申し込んできた。


「結婚はできない。代わりにイチゴ村を再建する」


「再建ですか?」


「ああ、観光客や移住者を大勢呼んで、村の人口を爆発的に増やしてやるぜ!」


「おお、それは素晴らしい。村長としてできる限りのバックアップをします」


 イチゴ村は、その名の通り、冬イチゴと呼ばれる農業で生計を立てていた。男手がなくなり、冬イチゴの採取や野獣駆除ができなくなって、そのまま衰退した。


 ハジメはセンターピンを決める。センターピンとは、村を再建する中で、一番最重要なこと。


 若い男のいなくなった村で、冬イチゴの採取を、また、できるようにするには、野獣の駆除が必要だ。冬イチゴを食い荒らすモンスターを倒すことが第一優先。そうすれば、また、村に活気が戻ると予想する。


 ハジメは村長に聞いた。


「男は何で害獣を駆除していたのですか?」


「剣や槍、斧で害獣を狩っていました」


「攻撃魔法でモンスターは倒せないのですか?」


「私たちは生活魔法しか使えません。魔女と言っても攻撃魔法を持たない魔女なのです」


「なるほど」


 ハジメは納得する。魔女の異世界では、攻撃魔法、生活魔法、回復魔法が存在する。攻撃魔法は特に危険で、こっちの世界でいう拳銃やボウガンに匹敵する。拳銃やボウガンは警察官や許可を得たハンターしか装備できないように、攻撃魔法は中央の許可を得た魔法使いしか使えない。基本、国民は反乱を起こさせないため、生活魔法のみとなっている。


 その他は、剣や槍、斧で優先的に戦っている。


 男は戦士職業。女は生活魔法職業。が基本。


 最初、村の若い女に攻撃魔法を覚えてもらおうと思ったのだが、中央の許可が必要となれば時間がかかり、面倒くさい。そもそも申請しても許可がおりないかもしれない。ならば、どうする? 妙齢の女に剣や槍、斧を持たせるのは危険。しかし、害獣を駆除しなければ冬イチゴは取れない。


 イチゴ村特産の冬イチゴがなければ、村は再建できない。


 どうする? どうする? どうする?


「考えるのは時間の無駄です。行動あるのみ。僕はとにかく王国に行ってみたい」


「王国ですか?」


「はい、冬イチゴを出荷している王国に出向き、情報収集してきます」


「ならば孫娘も連れて行ってください」


 イチゴ村の一期さんに王国の費用1週間分を用意してもらう。あと女装と。


 貧しい村ではあったが、ハジメという救世主の登場に、なけなしのお金を工面してもらい、王国に1週間の留学の機会を得た。孫娘のイチエさんも同伴する予定になり、責任重大のイチゴ村の再建計画が村中で告知された。若い女が村長の家にどんどん集まる。


 ハジメは中肉中背のチー牛顔ではあったが、線が細いため、ウィッグをして、化粧して、女物の服を着れば、あっという間に女装の完成。背格好も170センチに満たないほどなので、ちょっと背の高い女で通った。


 屈辱的だが、これでなんとか通す。若い男はとかく目立つ。生活魔法の声を変える魔法をイチエにかけてもらい、立派な女装に変身。名をハジメ子と名乗った。


「きゃー、ハジメ子。かわいいー」


「写メ取って」


「結婚して」


「ハジメ子は私と婚約しているのでダメです」


 三人の女子が群がり、結婚を申し出た女に、イチエがダメですと否定する。なんか知らないが若い男であるだけで相当モテた。ハジメの祖母は、ハジメにハーレムを作らせる気満々だったのではなかろうかと再度、疑問に思った。


 一期さんとイチエ。それから無数の女に援助をもらい、1週間分の旅費と滞在費をゲット。これだけたくさんの人に期待してもらっている。期待を胸に、ハジメは必ずや王国から有益な情報を持ち帰らなければならないと思った。


「スマホはあるんですね?」


「異世界はスマートフォンとともに、よ」


 イチエがスマホを見してくれる。なるほど、通信技術は日本と同じくらい。むしろ、異世界版のスマホは高級感がある。どうやら中央がスマホを配布しているようだ。


 なるほど。ハジメの祖母が一度、おさめた大陸。魔女の異世界。現代文明の利器が根付いていても不思議ではない。ハジメはイチゴ村に残っていたスマホを貸してもらい、村の女とライン交換する。


 イチゴ村の村長の一期さん。その孫娘のイチエさん。それから10人くらいの、出発の出迎えをしてくれた女性とライン交換した。みんな妙齢の女性で、若い女性がたくさんいた。最年少はイチエさんで、上は20代後半から30歳くらいだった。


 まだ雪の積もっていないイチゴ村を出発する。移動は馬車。移動魔法があれば便利だったが、最強の魔法の一角なので、イチゴ村の人たちは誰も習得していない。スマホを検索しつつ、この世界の常識や理、魔法の種類を頭の中に叩き込む。


 ハジメ。イチエ。馬車の運転手の三人で、王国へ。いざ出発。期限は1週間。イチゴ村を再建させるために若き敏腕トレーダーのハジメが取ろうとしている戦略は、転売だった。


 転売。せどりともいう。


 安く買って高く売るを基本に、地域の値段の差を利用して、稼ぐ手法。スマホはあるが移動手段に乏しい魔女の大陸では、転売が大きな効果を生む。行商で十分食って行けるのではないか? と予想できる。


 王国には冬イチゴという需要がある。美味しい食べ物や田舎で採れた食品は価値があるのだ。


 ハジメのすべきは、攻撃魔法の習得だが、もし仮に、冬イチゴ以外の需要があれば、供給を増やして転売で稼ぐ手法を取るべきだろう。天才トレーダーのハジメ。需要と供給を読むのは得意だった。

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