急展開。魔王からの提案
魔族もとい魔王が出した要求が、「人質1000人と勇者、無知ハジメの交換」だった。
中央がかき集めた男性の兵士1000人の人質と勇者1人の交換。これには中央も帝国も揺れた。そもそも中央も帝国も、無知ハジメという勇者を認知さえ、していなかった。が、しかし、無知ハジメと交流のあった王国や共和国はこたびの人質交換に大反対した。
王国はハジメの商才を見抜き、共和国はユニークスキル『攻撃付与』の希少性に価値を見出した。ハジメの才能はどちらも代えがたいもの。魔族にやることはない、と上層部は意見した。
揺れに揺れ、人間族と魔族の交渉の結果。ハジメは人質ではなくて大使館として招くことになる。ていの良い人質ではあるが、魔王は従者を何人かつけてもよいと判断した。
議論した末、人間族と魔族の戦いは停戦に入った。無知ハジメ、一期イチエ、ケイテ=アップル=リンゴ、アジン、コヒー=シュガーレットの5人が魔族領域に招待された。加えて、ケイテの従者が数名。
勇者に、王国の姫様に、共和国の重鎮。中央も帝国も訳もわからず、負け戦を停戦でき、人質を解放できるならと喜んで交渉に合意した。
事態は急展開を迎える。
中央の、勝率100%だと軍師が予測した大規模交戦の負け戦。魔族領域に認知すらされていない無知ハジメの人質。これらから導き出される結論は、もう、あれしかなかった。
「魔族および魔王の誰かは知らないが、『時空魔法』過去へ戻る魔法を操っているに違いない」
魔女の異世界に未来予知の魔法はない。しかし、大規模交戦で、まるで予知されたかのように局地戦で、次々と先手を読まれて敗北したと聞く。
未来を確定させることはできない、しかし、一度体験した大規模交戦で、過去に飛べたとするならば、どうする? ハジメは、魔族側が『時空魔法』で戦争を勝ち取り、さらに障害となるハードルを先手を打って無力化することを選ぶだろうと考えた。
今の難所である大規模交戦は魔族の勝利に終わった。ならば、未来の難所である勇者は? もしハジメが魔王だった場合、勇者に負ける未来から過去に戻れるのならば、勇者を先に味方に引き入れて、無力化するだろうと考えた。
人質1000人とは大きく出たものだ。魔王は、勇者の価値をそれ以上だと見こんでくれた。
「嬉しい限りの話だ」
ハジメはやることがたくさんあった。イチゴ村を再建し、王国の財政に介入し、魔法を覚えてさらにお金を稼ぎ、優秀なパーティーを雇い、率いて、魔族領域に進出するつもりだった。すべては時間をかけてやる問題だったのだが。
今回の魔王の招待を受けて、ハジメは素直にやられた、と思った。
未来予知に匹敵する、過去に戻れる力……。
敵になったら、これほど嫌な魔法が相手側にある。先手、先手を打たれ、ハジメ側は後手後手に回るしかない。
何にせよ。魔王はハジメを暗殺するという選択肢を取らなかった。ということは……素直に魔王の言うとおりに、外交官として魔族領域に招き入れられるのが正しいかもしれない。
中央も帝国も疲弊していた。王国も共和国も男性がいない問題で出生率が低下し、少子高齢化が進んでいた。人間側は今回の大規模交戦の負けで思いのほか、苦しんでいた。
ハジメは断る理由が無い。人質交換を断れば、ハジメが魔王ならば、勇者を暗殺している。
今、生きているという事実を踏まえ、ハジメはさらなる外交の改善を目論み、魔王と一対一の会話を望んだ。
とにもかくにも。最後の魔王に接近するという一大行事が、早くもやって来たというわけで。物語はRPGゲームのように順序良くレベルを上げながら、最後に魔王をやっつけると言う展開にはならなかった。
まあ、ハジメが魔王の立場で、将来、勇者に倒されると分かっていたら、『はじまりの町』で勇者を殺すか仲間にするかは必ずやっているだろうと思った。考える事はみんな同じ。
そして、魔族領域への遠征が整った。
ハジメ、イチエ、コヒーの三人は無人島でのサバイバル帰還組なので長旅も苦ではないが、果たしてお姫様のケイテはどうするのかと思ったが、魔女の異世界には転移魔法があり、一瞬で、魔王城に繋げてくれるとの話だった。なんだそりゃ?
一応、中央から出発したという体裁を取りたいために、中央に初めておもむく。先に魔族側が人質を1000人解放し、そのあと、中央がハジメを送り出す手はずになった。割と話の分かる魔王だと思った。




