王国留学の結果。公共事業の活用
リンゴ王国で中古スマホの機種変更が始まる。ケイテ=アップル=リンゴ主導の公共事業は大規模な人数が動員される。イチゴ村からもたくさんの村娘が参加した。彼らがやったのはハンドメイド。スマホケースの作成だ。
ハジメはゴールドラッシュから着想を得た。スマホが売れるなら充電器やスマホケースが飛ぶように売れるのではないか? もともと中央から支給されたスマホをデコレーションしようという考えがなかったため、スマホケースは受け入れがたいものがあった。しかし、赤信号みんなで渡れば怖くないの精神で、みんなが買うならば自分も買う、という人が出てくる。王国が主導でスマホを機種変更し、付随してスマホケースを売ってくれるのならば話が早い。国のお墨付きでスマホケースは瞬く間に売れていく。
「公共事業に参加するなんてさすがハジメ。ケイテ様は怒らなかったの?」
女装をといた男姿のハジメに話しかけるイチエ。彼女は競合他社の心配をしていた。
「ケイテ様は邪魔されて不機嫌ではなくて?」
「そうでもない」
ハジメは懇切丁寧に参加する。
「今回、ケイテさんに目を付けられたのは中古スマホの不正転売のせい。中央から支給されるものを高額で転売するのはグレーゾーン。だから王国の注意が入った。でも、今はライバルじゃない。パートナーだ」
「私たちが中古スマホの事業から撤退して、スマホケースのハンドメイドに切り替えたから?」
「そうだ。俺たちはハンドメイドをしているのであって、グレーゾーンの転売をしているわけじゃない。ただのスマホケースにイチゴのデコレーションをして王国に買い取ってもらっている」
スマホケースにはイチゴ村特産の冬イチゴの装飾がほどこされていた。
王国が買い取ったスマホケースを無料機種変更の時に国民に売れば、冬イチゴの認知度が上がる。いずれイチゴ村の観光客も復活する手はず。
「ケイテ様がイチゴ村のスマホケースを全部買い取ってくれているの?」
「ああ、作ったスマホケースは全部、倍の値段で買い取ってもらえる仕組みを作った。在庫の心配をしなくていい。無店舗販売だから必要経費は最小限で済む」
「なぜ? 私たちだけがスマホケースを販売しては王国は赤字のはず。ケイテ様にどんな利益があるの?」
「もちろんケイテにも利益がある。販売するスマホは全部で6種類。リンゴ王国の象徴であるリンゴを模したデザインが3種類と、イチゴ村の冬イチゴを模したデザインが3種類だ」
「なるほど。王国もスマホケースを売っているのね」
「そうだ。リンゴのスマホケースが売れるたびに王国にもチャリンチャリンとお金が入る」
ハジメが手掛けたのがスマホケースの販売。デザイナーを用意してリンゴ王国のデザインを3種類とイチゴ村のデザインを3種類の計6種類用意した。
なぜ6種類かというと、ジャムの実験が6種類だったからだ。店頭に6種類と24種類のジャムを置いた実験。するとお客さんは6種類だけのジャムの方を多く買っていった。
ジャムの法則は、簡単に言うと、選択肢が多ければ多いほど、判断するのが大変になり、選択するのを避けてしまうことを指す。つまり、人間は24種類のジャムから選択し買うのを面倒に思い、売れなくなる。だからジャムの種類は6種類の方がより多く売れた。
ジャムの法則を活用し、ハジメはスマホケースを6種類に選別した。
「待って、ハジメ。リンゴ王国の国民はみんなリンゴ王国のデザインを買っていくのでは?」
「ああ、8割の国民がリンゴ王国のデザインを選んだ」
6種類のうち、3種類がリンゴのデザイン。当然、多くの国民はリンゴ王国のスマホケースを買っていく。しかし、中には変わり者もいて、自分は人と違う事を証明したいという人がいる。そういった変わり者は、辺ぴにあるイチゴ村のデザインを選んだ。単純にリンゴよりもイチゴの方が好きなのかもしれないけれど。
「ケイテさんの狙いは素晴らしい。無料で機種変更をすると、国民は、何かほかに買わなくてはという心理が働く。ちょっと販売促進するだけでスマホケースが飛ぶように売れる。ほとんどの国民が女性と言う事もあって、男性の老人以外は、かわいいスマホケースを買っていったよ」
リンゴのデザインも、イチゴのデザインも、全部イチゴ村の住人が王国にやってきてスマホケースを作成している。リンゴのデザインが売れれば、デザイン使用料をリンゴ王国に払わなければならないが、それ以外はすべてイチゴ村の利益になる。
「なるほどね。ケイテ様はデザイン使用料が入ってくるから王国としても収入になる」
「そうだ。リンゴ王国側はメリットばかり。田舎のイチゴ村の活気が戻れば地方公共事業の投資に成功したと言っても過言ではない」
ハジメは中古スマホの無償機種変更に便乗したに過ぎない。決して悪い事はしていない。ただケイテと協力してスマホケースをイチゴ村総出で販売しただけだ。
毎日100個、200個のスマホケースが飛ぶように売れる。イチゴ村は安定収入を得た。
王国が全部買い取ってくれるおかげで売れ残りも発生しない。サブスクリプションの要領で、定期的に売れるスマホケースの値段も把握できる。イチゴ村の財務は安定した。
「スマホケースには豊作や不作といった不確定要素が無い。安定して王国に供給できる。毎年、災害や害獣に怯えて冬イチゴを栽培する心配はなくなった」
「さすがハジメ! 頭良い!」
「唯一のデメリットは供給先が王国しかないこと。もし王国がスマホケースの買い取りを拒んだら商売は一気に赤字に転落する。しかし、そこはケイテさんと相談して解決した。ここ10年は、絶対にスマホケースの買い取りを辞めない契約を結んだ」
日本でいうと太陽光発電の契約と同じ。太陽光で発電した電気を10年間は国が買い取りを保証する制度を活用した。
また、ハジメは定期的にイチゴ村と王国の交通量が多くなることを予想して、元剣聖に害獣の駆除を依頼した。今までの交通量では間に合わなかった駆除も、頻繁にイチゴ村と王国を行き来するならば話は別。スマホケース事業で潤ったイチゴ村ならば、元剣聖のおじいちゃんを雇うことができた。
馬車で人を運ぶ元剣聖の、害獣駆除は、冬イチゴの栽培に多大に貢献した。冬イチゴがたくさん取れた。
こうなってくると商売は面白い。
スマホケースによるイチゴ村の認知度アップ。冬イチゴによるジャムやワイン。SNSマーケティングの効果が如実に表れて、イチゴ好きの若い女性の観光客がたくさん訪れた。
「ハジメさん、イチエ。本当にありがとう」
イチゴ村の長、一期さんに褒められた。たくさんの感謝をいただいた。褒美をもらった。
ハジメは魔法学校の授業料をゲットした。
「魔女の異世界の学校ってどんなところですか?」
ハジメは村長の一期さんに聞く。
「魔法は個人のポテンシャルの差が激しいので、学校は普通の学校のように集団で授業をせずにマンツーマンでおこないます。師匠と弟子といった立場で一対一もしくは数人に集中的に魔法の指導をおこないます」
「なるほど。ホームスクーリングのようなものか」
ホームスクーリングとは、学校に通学せず、家庭に拠点を置いて学習を行う事で、不登校とは違う。日本に馴染みはないが海外では普通だ。
専用の家庭教師を雇い、つきっきりで勉強を見てもらう。魔法の学習はマンツーマン家庭教師と言えた。
誰の弟子につくかで魔法学習の差がかなり出てくる。師匠選びはシビアにおこなうべきと判断した。
「私もハジメと一緒に魔法を習います!」
「よろしい。行ってきなさい。そして、ハジメさんの心をゲットしてくるのです」
「はーい」
魔法修行にイチエが加わる。イチゴ村の財政から鑑みれば、授業料は楽に払える金額。
イチゴ村の再建は終わり。次からは魔法修行編。始まり、始まり。
「師匠選びだ。ケイテさんに相談しよう」
「ケイテ様は王国のお姫様ですよ。いくら勇者のハジメさんだからって気軽に手を出しちゃいけません」
「イチエさん。そんなつもりじゃないから……」
ただ、ケイテは器量が良くて切れ者であり、頼りになる。相談相手にぴったりだった。
恋愛するつもりはないが、セックスの一つや二つはしてみたいお年頃のハジメだった……。




