王国の留学四日目
状況を整理する。
ハジメは魔王を倒すためにお金を稼ぎ、魔法を覚えなくてはいけない。そのためにイチゴ村を再建し、魔法学校に行く。至極単純明快。お金を稼ぐ→イチゴ村の再建→魔法を覚える→魔王を倒す。
王国の妨害を受けつつ、なんとかまとまったお金を用意した。
ハジメの事業は大きく分けて、三つ。
一つ目は中古スマホの転売。
二つ目はネットによるSNSマーケティング。
三つ目は冬イチゴを使ったジャムやワイン。
思えば様々な事業に手を出す。ここでハジメは選択と集中をすることになる。
ビジネスは何から何までたくさんやればいいってものじゃない。いくら利益を出していようが想定外のトラブルに巻き込まれる可能性がある。例えば、ケイテによる中古スマホの競合他社の出現などが想定外のトラブルになる。
センターピンを狙うのだ。優先順位を書き出して、影響力の高いビジネスからピンを倒す。
宿に戻り、イチエと相談するハジメ。イチエは中古スマホを捨てる決断をした。
「お姫様がライバルで、しかも無償でスマホのバージョンアップをするってんでしょう? 勝てるわけない。今ある中古スマホを売りさばいたら撤退しようよ」
「ああ、それが最善手に見える」
中古スマホ市場からの撤退。時間のかかるSNSマーケティングは保留にして、残りのイチゴ村のジャムやワインに力を入れるべき。頭では分かっているが何か違和感を覚える。
三つ目の冬イチゴを使ったジャムやワインも時間がかかる。
ハジメはボーっと考え事をする。
「なんかピンとこない」
「じゃあ、どうするっていうの? 今から中古スマホを買い占めても王国側は私たちから買い取ってくれないかもしれない。最悪、全部没収される。今日中にスマホを売り払って、イチゴ村の再建を目指した方が良いよ!」
頭では分かっている。要は失敗したのだ。失敗した。まあ、ビジネスは10個やって打率が2~3割あればいい方だから、失敗は別に構わない。良い経験になる。だが何かしっくりこない。
「ちょっと一人にさせてほしい。考え事。イチエさんはスマホで市場調査を引き続きお願いします」
「任された」
ハジメは女装をやめて、男の格好で宿を出た。途中、何人かの女性に声をかけられたが丁重にお断りして歩を進める。喫茶店に入り、スマホを起動して動画を見る。ビジネス系のインフルエンサー動画を流し見しながら、喫茶店で頼んだコーヒーを飲む。
何か良い情報は得られなかった。手詰まり感満載。動画を見終わると店員さんに話しかけられて、適当に受け答えする。どこから来たのか? 好きな飲み物はあるのか? コーヒーの雑学について。魔女の異世界の女性は男を口説くのに必死だった。
ハジメは自暴自棄になりかける。このまま店員さんと連絡先を交換して一緒に夜の街に繰り出せば、ストレスのはけ口になる。だが、セックスをしに魔女の異世界に来たわけではない。より面白い事を求めに魔女の異世界に来たのだ。
青春を求めて……あれ? 男にとって青春って若い女性と付き合う事じゃ?
ちょっと青春の意味を歪曲して喫茶店の女性店員さんに落ち掛けそうになった時、声が聞こえた。
「すみません。その方は先客かしら。お引き取りお願いします」
店員さんがしぶしぶ引き下がる。
やってきた声の主はケイテ=アップル=リンゴその人だった。




