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ハジメVSケイテ=アップル=リンゴ

「すまない」


 ハジメはまず女装していたことを謝罪した。


 女性へセクシャルハラスメントをするために女装したのではなくて、自己防衛のために女装したことを公表した。誠実さは情状酌量の余地があることを認めてもらう、唯一の方法に思えた。


「いえ、気にしないでください。若い男性がモテるのはアジンを通して知っています」


 ケイテは許してくれた。


 王国のお城には警護のため、屈強な若い男性が滞在している。しかし、それでも数が少なく、女性の比率が多い。警備は攻撃魔法を覚えた魔女だけで事足りるので男性の意味がますます薄くなる。


 であれば、戦争に向かうのは攻撃魔法を覚えた女性でもいいはずなのだが、中央は若い男性を積極的にかき集めている。そのため、人間の領地では慢性的な若い男性不足に陥っている。


 王国側は少子高齢化を必死になって止めようとしているが、「魔族に対抗するため」という中央の呼びかけに従順に答えるしかできず、若い男性を送り続けているのが現状。


「人口が減るのであれば、難民を受け入れるか、異世界から男性を召喚するかは必定ですよね?」


 別に、王国がハジメを召喚したわけではないけれど、ハジメみたいな若い男が来てくれるのは好都合だった。ケイテは話を進める。


「ハジメ子さん、改め、ハジメさん。短期間で中古スマホの需給を見抜く才覚。そして、後ろ盾なしで商売を始める行動力。あなたは紛れもなく天才です。他にどんなことを企てているか、聞いてもよろしくて?」


「イチゴ村の特産品の冬イチゴを扱ったジャムやワインの販売。それから魔族との大規模交戦に備えて支援物資の買い占めをおこなっております」


 ハジメは正直に言う。ケイテに嘘やごまかしは効かないと判断していい。お姫様である立場上、調べようとすれば王国民の全員が協力する。監視カメラのない異世界でケイテの信用力は新参者のハジメと比べれば天と地ほど違う。


 王国のほぼトップとなると、情報網は最大級と考えても良い。


 ハジメは洗いざらい喋った。元の世界で敏腕トレーダーをしていたこと。祖母によって魔女の異世界に転移したこと。チュートリアルで商人を選んだこと。世話になったイチゴ村を再建すること。魔法を学びたくて魔法学校に入学する予定であること。必要とあらば魔王を討伐すること。等を何もかも喋った。


 きっとケイテのオーラに圧倒されたのだ。


 ハジメは第一印象から負けていた。


 女装した一介の高校生。片や王国のお姫様。威厳も何もありゃしない。


「商人ですか? まあ、素晴らしい」


 10分ほどのお話を終えて、ケイテは両手を合わせて歓喜した。


「ハジメさんは王国に害をなす存在ではないことが分かって嬉しいです。魔女や剣士ではなくて商人であることもポイントが高い。ハジメさん、“私の配下に加わりませんか”?」


 ――来た。とハジメは思った。


「ケイテさん。配下とは?」


「イチゴ村の再建も魔法学校の費用も、王国が肩代わりします。その代わり、私のために働いてほしいのです。王国の富国強兵を実施するために、ハジメさんの商人のお力で経済を豊かにしてほしい」


 ケイテの言うことはM&A。買収&合併に近い。ハジメが進出気鋭のスタートアップ企業だとしたらケイテは大型の老舗企業になる。市場で競合他社があらわれた場合、徹底的に潰すか、仲間に加えるかのどちらかが良いと孫子の兵法に書いてある。戦わずして勝つ。これすなわち最強の戦術であり、敵をどんどん味方につけるのが得策なのだ。


 ケイテの提案するイチゴ村の再建も魔法学校の費用の肩代わりも悪い話ではない。しかし、ハジメにとって王国のために働けというのは苦になる。荷が重いと感じた。


「俺ごときがケイテさんよりもうまい政策が打てるとは思えない。自由に商売するのが似合います」


「ご謙遜なさらず。ハジメさんは異世界の勇者様。職業は商人。日本の知恵をお借りするだけでも私たちはすごく助かります」


 ハジメの目的は魔王を倒すこと。そして、祖母に言われた三大魔法を習得すること。王国の富国強兵ではない。


 たしかに国づくりはワクワクしたし、政治や経済は面白い。でもハジメは一介の高校生であり、知識無双で何でもできるわけではない。イチゴ村の再建が関の山だ。王国全体となればスケールが違ってくる。


 ハジメは丁重にお断りした。


「すみません。やっぱり無理です。私に王様にでもなれ、ということですかね?」


「まあ、私としてはハジメさんが旦那様になるのは嬉しい限りです」


「ケイテ様。御冗談が過ぎます」


 会談を見張っていたアジンが横槍を入れる。


 ハジメはすぐに訂正した。


「勘違いです。ケイテさんと結婚して王様になるつもりはまったくありません。俺はただ単純に魔女の異世界で魔法を学び、魔王を倒して、人間領域の人たちの力になりたいのです」


「小僧。気安く魔王を倒すなど発言しないことだ。魔王討伐は悲願であり、勇者の義務ではある。が魔王は次から次へとあらわれる。お前が魔王になっては本末転倒だ」


「で、ですよねー。アジンさん」


 一応、アジンは年上なので、さん付けする。


「アジン。もういい。私は不機嫌かしら」


「ハッ! 余計な口出し、申し訳ありません」


 アジンが一歩下がる。


 空気が変わる。


「ハジメさん。王国としては一商人が独占的に丸儲けできるシステムは芳しくありません」


 徹底抗戦するしかないとハジメは誓う。


「うちの国では自由に商売するのは普通です」


「うちはうち。よそはよそ。王国は王国です。もしハジメさんが中古スマホの売買を続けるのであれば私は中古スマホ市場に参入します」


「ほう。どうすると……?」


 武者震いするハジメ。ちょっとビビりながら、切れ者ケイテの言葉を待った。


「王国は中古スマホの無償バージョンアップを始めます」


「面白い」


 かつて日本で電子決済に挑んだ企業が何社もあった。しかし、勝利したのはペイペイだった。ペイペイは膨大な資金力を武器に、100億円あげちゃうキャンペーンを打ち出し、他の追随を許すことなくナンバーワンシェアを勝ち取った。


 今、目の前にいるお姫様は例えるならばペイペイだ。無限の資金力を武器に競合他社を潰す圧倒的な戦略。強者の王道戦略。


 ハジメが中古スマホの機種変更による価格差で稼ぐのに対して、王国は無料で機種変更をすると提唱した。そんなことをすればハジメの顧客は全員消える。


 絶体絶命の大ピンチ。しかも相手はハジメの商売を一瞬で理解した天才のケイテ。バカではない。


「こ、困ります」


「ハジメさん。王国が最大限の敬意を表して勇者様の競合相手になります。ハジメさんは存分に自由な商売をなさってください」


 株の世界で国策には逆らうな、という名言がある。国を相手取って株取引しても必ず負ける。


 NTTとかJTとか財務大臣が保有している銘柄に逆張りを仕掛けてもむなしく散るだけ。財務大臣の保有銘柄は大人しく順張りすればいい。勝率は高い。


 ケイテが中古スマホの商売を無料で始めるのは、もう商売ではなくてボランティアに近い。ケイテがボランティアするのならば、それを手伝うのが順張りだろう。


 国には勝てない。国に逆らうのは、日本でテロを起こして死罪になるようなもの。


 ハジメは非常に困っていた。


「ハジメさん。もう一度聞きます。私の物になりませんか?」


 ハジメVSケイテ=アップル=リンゴ。ここに開幕。


「断る。逆に俺の物になってほしいね、ケイテさん」


 ハジメの勝算は……ゼロ……。

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