ケイテとアジン
ケイテを先頭に3人でお城に行くと、お城の従者がみんなケイテに頭を下げる。かしこまったポーズで一礼する騎士、スカートを広げて会釈するメイド。みんな一様にケイテを恐れ、尊敬のまなざしで見てくる。
「勇者様には悪いが、私は正装に着替えるから待っていてくれ」
お城の中でもこじんまりとした一室に通され、その中に強引に収容される。格安ホテルの内装に似ている。
アジンが付け加える。
「ここは罪人用の部屋だ。外で俺が見張っているから変な動きはするな」
「罪人?」
「すみません、勇者様。異界の住人が私達王国にどんな富を与えるのか、はたまた破滅を与えるのかを見極めなくてはならないかしら」
ケイテはすまなそうにして、ハジメを罪人用の客室に入れる。見張りはアジン。ケイテはそのまま着替えに廊下へ出て行った。
ハジメは考える。勇者はチュートリアルで職業を選び、魔王を倒しうるポテンシャルを持っている。その分、人間族に悪意のある勇者は大変危険な存在になる。ならば、ハジメは面接を受ける気持ちでケイテとの話し合いを待った。
質素な部屋で、外のアジンに許可を取って、スマホでイチエに電話を掛ける。一言。王国のお城に捕まったと言う。
『えー!? ハジメは勇者様だったの?』
「言ってなかったか?」
『全然知らなかった。でも私のハジメへの愛に変わりはないよ』
「はいはい」
イチエから魔女の異世界の勇者の立ち位置を聞く。
勇者は三大魔法を習得するほどの素質を秘めている。そのため、魔王も恐れているが、人間も恐れている。勇者は強すぎたのだ。仮に、魔王を倒した暁には勇者そのものが次代の魔王に移り変わることもあった。
だから重要なのは勇者の目的。能力。人間性。それらすべてを見極める必要があった。
「イチエさん。勇者の中には国を亡ぼしたり、魔王になったりしたやつがいたのかい?」
『伝承にはそうある。だから王国も中央も勇者様の存在は丁重にあるかっているよ。思想犯や犯罪者がいた場合……』
「いた場合?」
『殺されちゃう。てへっ』
「てへっ、じゃねえよ。今、むちゃくちゃやばい状態じゃないか」
『最悪の場合ね。たいていは危ない奴が勇者だった場合、元いた世界に送り返されるのが普通』
イチエからもろもろの事情を聞いてスマホを切る。
圧迫面接というか刑事事件の取り調べに近い形になるかもしれない。と覚悟した。尋問されて日本に送り返されるかもしれない。
とにかく。相手はスマホの転売だけでハジメの事を勇者だと見抜いた切れ者のケイテ。彼女のことをハジメは知らなさすぎる。敵を知り、己を知らば100戦危うからず、というが、ケイテの迅速な対応がハジメを後手後手にさせた。
台風のようにやってきて、いつの間にか拘留されている。情報戦における戦略でケイテは敵ながら完璧と言っていい。唯一、ハジメが持っている情報はケイテがお城の偉い人で、アジンが王国魔法騎士団だということだけ。話し合いになったら不利すぎる。
何か情報収集はできないかと外にいる見張りのアジンに話しかけてみた。
すると、アジンは、
「ケイテ様から何もしゃべるなとの命令だ。悪いな、小娘」
ハジメは室内をうろうろしながら考える。今後の身体調査をかんがみるに男である秘密を明らかにした方が良いかもしれない。相手の印象の悪化を最小限に、むしろ切り札である隠し持っていた男であることを最大限にアピールすればケイテを落とすことができるかもしれない。
ハジメは女装を解く決断をした。即断即決。ビジネスにおける優位性の取り方。が、相手が悪かった。ケイテは切れ者。時間の大切さと第一心象のアピールの仕方を知っていた。
「お待たせしました。勇者様」
ハジメが女装を解く前にドアが開かれる。
「私はケイテ=アップル=リンゴ。リンゴ王国の姫です」
きらびやかなドレスコードに身を包んだケイテは美しかった。
やられたと思った。びっくりしすぎてハジメの記憶が飛んだ。
王国の名前はリンゴ王国。アップル=リンゴを名乗るのは王族だけ。ケイテは貴族ではなくて国王と王女の血を引いた正統なお姫様だった。




