王国の留学三日目
スマホのせどりが軌道に乗り出した留学三日目。ハジメは昨日と同じように市場で簡易のお店を開き、幅広い人からスマホを買い取り、買い取ったスマホを高級な住宅街付近の市場に移動して売りさばく。中古のスマホは飛ぶように売れた。
お昼ごろ。事件は起こった。
「王国内で無断で中古スマホを売買しているのは、あなたね」
「君は?」
「私はケイテ。王国内のマーケットを牛耳っている監視役よ。あなたが面白い商売をしているからやってきた。ちょっと話を聞いてもいいかしら?」
ケイテの隣には男。それも若い。イチゴ村と王国に到着して初めて若い男を見た。年はハジメより少し年上くらいか。ハジメが物珍しそうに眺めると、ケイテが咳をした。
「若い男が珍しいのかしら。彼は私のボディーガード。王国魔法騎士団の一人。無視してちょうだい」
ハジメは今はハジメ子として女装しているので、女言葉で対応した。
「へいへい。王国内のマーケットの監視役と、その護衛が何の用だ?」
全然丁寧じゃない言葉遣い。まあ、言葉遣いの荒い女性は存在するし、ハジメはケイテたちをぞんざいに扱った。
「きさまケイテ様に失礼だぞ!」
「やめなさい」
若い男が身を乗り出すのを静止するケイテ。パッと見て力関係は分かった。わざわざ挑発したかいがある。ハジメはケイテを良い所のお嬢様で、かなり優秀なのだと理解した。スマホの転売を始めて二日目でハジメの場所にたどり着くのは、優れた嗅覚を持っている。ケイテが商人として凄腕だと悟る。
このままだと目立つ。場所を変えたいとハジメは考えた。
「このままじゃ目立つ。場所を変えたい。そこの酒場で良いか?」
「ええ、どうぞ」
ハジメは簡易のお店を畳み、中古スマホの在庫を抱えて酒場に移動する。
酒場に行く間、ケイテのボディーガードの男は女性から逆ナンパを受けていた。丁寧に断っている印象から、育ちの良いお坊ちゃまだと分かる。中流貴族かもしれない。
魔女の異世界は中央が若い男を集めているから、若い男が貴重だ。特に、ハジメのように普通の顔の男性でもモテるのに、ケイテのボディーガードはイケメン。高身長で清潔感がある。ハジメ以上にモテる。歩くだけで逆ナンパを受けるのは、致し方ない。
ただこれだけは言わせてもらうと、ハジメはイケメンが嫌いだ。
ケイテのボディーガードがいくらイケメンで王国魔法騎士団に所属しているエリートだからといって悪印象はぬぐえない。
「アジンが申し訳ない。女性にモテる」
「いえいえ」
酒場につくとケイテが謝罪する。ケイテのボディーガードの名前はアジンといった。
「若い男は珍しい」
「あなたは興味が無いのですね。アジンとお話ししようとしない。失礼ですが、名前を聞いても?」
「ハジメ子」
「ハジメ子。かわいらしい名前です」
ハジメは嘘をつくつもりはなかったので、女装用の偽名を正直に答えた。正直、男だとバレてもいいのだが、バレるタイミングがある。無断でスマホ転売をする罪状のほかに、女装していたとなれば、罪に問われる事は無いが、ケイテの心象が悪化するのは間違いない。
さて、どうするか? ハジメとケイテは目線を合わせてバチバチと火花が散る。
ケイテの目的を聞き出そうと、ハジメは仕掛ける。
「私はフリーマーケットで自由に商売をしていただけ。ケイテさんに言う事は何もない」
「ハジメ子。無断で金を稼ぐのは悪い事です」
「いくらマーケットの監視役とはいっても何もできないだろう。無断なのは悪かったが、法に触れてはいない」
「あなたは魔女教ではないのですね」
「どういうことだ?」
ケイテが魔女教について説明する。魔女教は魔女のカースト優先主義であり、強い魔女こそが豊かになるべきと教えている。生活魔法しか魔法の才能の無い魔法使いは下民で、優秀な魔法使いこそが上級だと説いている。
酒を悪いものだと教え、禁酒に近い生活をして、節制に励む。下民のやるべきことは魔法ではなくて労働と節制だと信じられている。
では上級の魔法使いのやる事は? 下民の監視だ。下民を働かせて納税をさせること。
「魔女教は信者に後ろ盾を用意します。なぜなら商人は貴族や王様の後ろ盾がなければ商売ができないからです。しかし、ハジメ子を調べてみると、貴族や王様の後ろ盾がないではないですか? ということは導き出される結論は一つ。魔女教の信者ではありません。もしくは……」
「もしくは……?」
「異世界から来た勇者ですね。即刻、お城まで連行します。抵抗しないでください。私に従い、思慮深い行動をお願いします」




