表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

ゴールドラッシュ

 王国の通貨は金貨なのだが、言葉が通じるのと同じで、日本と同じ円で表現できた。便利なことに、千円札や一万円札が通用するのだ。


 ハジメが最初に思い付いた仕入れ商品は、スマホだった。


 スマートフォンは中央が全国民に配布している。しかし、利便性や仕事の程度によって最新機種か古い機種か配布されるものに差異が出てくる。その小さな誤差を利用してスマホのせどりをしようと考えた。


 中央に近く、年収が高い仕事ほど最新機種がもらえる。逆に、中央から離れた田舎で年収が低い仕事ほど機種の変更が遅くなる。変な話、ニートなど仕事をしていない人は娯楽だけのスマホでいいので、2年も3年も機種変更せずに使っている。


 無料で配られるスマホを転売していいものか? スマホの修理屋さんに相談してみた。


 結果はOK。王国の中では貧困でスマホを手放す人がいるそうだ。そういうスマホを手放す一定の層からスマホを買い取りしようと考えた。


 スマホならば需要は絶対にある。また、ゲーム機の本体と違って小柄で持ち運びがしやすい。


 まずはジャンク品を漁ってみることにした。


 壊れたスマホをタダ同然で買い取り、修理屋さんで使えるように直してもらう。新品のスマホは相場の半分で買い取り、相場よりちょっと安く売る。その作業を繰り返す。


「いらっしゃーい」


 さっそく市場に到着。フリーマーケットのこじんまりとした場所にたたずむ。ビニールシートを引き、厚紙とマジックペンで急ごしらえにつくった看板を設置する。


 スマホの買い取りは珍しいのか注目を浴びた。また、スマホの買い取りは中央しかしていなかったようで人がどんどん集まった。


 20万円ほど用意していたのだが、1台2万円ほどの中古のスマホが、1万円で大量に買えた。加えて、ジャンク品もタダ同然で購入し、ハジメの元に20台以上のスマホが集まった。


「よし、今度は場所を変えよう」


 ジャンク品を修理屋さんに持っていき、ちょっと高級な住宅街で再びお店を出す。今度は買い取りではなくて、スマホを1台2万円で販売した。中古のスマホは飛ぶように売れた。みんな中央の決められたデザインに飽き飽きしていた。バラバラなスマホが支給されるのだが、色やモデルは選べない。なので中古のスマホせどりは軌道に乗り始める。


 一日かけて三往復し、20万円が40万円になり、40万円が80万円になった。夜遅くに修理屋さんでジャンク品だったスマホを直してもらい、受け取り、中古スマホを売ったら、あっという間に100万円になった。粗利は80万円。400%の利益を叩き出し、ホクホク顔で宿に帰った。


「イチエさん。80万円稼いできた」


「すごーい。今日は焼肉ね」


「いや、質素に幕の内弁当にしよう」


「なんで? 稼いだからいいじゃん」


 イチエの言う通り、稼いだから少しくらい使ってもいいかもしれない。しかし、それでは複利運用ができない。複利とは利子にも利子がつくことで加速度的に稼ぐことができる。


 仮に、今日、10万円をパーっと使ったら、90万円が180万円に180万円が360万円になる。もし、100万円のまませどりをおこなったら、100万円が200万円に200万円が400万円になり、10万円を使ったか否かで、たった1日で40万円の差が出てくる。軍資金はあればあるほどいい。


「ハジメすごい。今夜は一緒に寝ましょう」


「遠慮します。イチエさん。俺は今日も夜の王国で野宿する」


「ブーブー」


 ブーイングするイチエ。構わず、お金だけ置いてハジメは夜の王国に出歩く。


 スマホの転売は幸先がよく売れに売れた。しかし、問題点が二つある。一つはスマホの需要がなくなること。王国中の人に中古のスマホを売れば、欲しい人がいなくなる。まあ、需要がなくなるのは新しいスマホのモデルが、また、中央から支給されれば中古スマホの需要が高まるので問題はない。


 問題は二つ目。中央の取り締まりだ。現在、ハジメは無断でスマホを転売している。


 日本のように自由に転売できる環境と違い、魔女の異世界は王国や中央に支配されている。もしハジメの転売が王様に見つかり、禁止されれば一発でアウト。禁止だけならまだしも、利益を全部取り上げられて刑に処せられる可能性もある。くわばらくわばら。


 人より多く儲けようとするにはグレーゾーンを攻めなければならない。グレーゾーンとは、犯罪スレスレだけれども法整備が追い付かず、まだ、法で禁止されていない出来事。


 スマホのせどりは修理屋さんに聞くと許可が得られたが、王様や中央の許可を得たわけではない。目立たないように1週間で粗利を稼ぎまくるのがハジメの目標だった。


 夜の公園に到着する。イチエから着信を受ける。


「どうした?」


『私の成果を聞いて欲しいの』


 そういえばイチエは在宅で市場を調査する在宅部隊の一員だったことを思い出す。スマホの転売があまりにも簡単にできてしまったのでイチエの仕事を忘れていた。もう、この1週間はスマホの転売だけでいいのだけれども、イチエがかわいそうなので仕方なくイチエの話を聞く。


『もうすぐ大々的に魔王軍を討伐する戦争が始める。人間族から魔王軍に攻撃するみたい』


「人間と魔族の戦争か?」


『ええ、稼ぐチャンスよ』


 ポーションの品不足。中央の買い占め。これらの情報から薄々は気づいていた。大規模交戦があると。しかし、戦争はまだまだ先のことかと思っていた。戦争が近い。しかも、今回は人間領域から魔族領域に戦争を仕掛けるみたいだ。


 ポーションや武器、防具、それから食料が飛ぶように売れる。


 ゴールドラッシュの話を知っているだろうか?


 ゴールドラッシュで儲かったのは、金を掘りに来た人プレイヤー(需要者)ではなく、プレイヤーに様々な物資を供給したサプライヤー(供給者)でした。 金採掘には直接手を出さずに、周辺ビジネスを開発した人が、富を獲得した。


 戦争が始める。では戦争に参加する、ではない。戦争に参加してお金を稼ぐのはメリットよりもデメリットの方が大きい。問題は戦争で必要な物資を供給するサプライヤーになること。


 ハジメは大きな大きな商機を感じた。ゴールドラッシュのときに儲けたのは、金を掘っていた人ではなく、ショベルやテント、ジーンズを売っていた人だった。戦争で儲けるのは自分たちだと鼓舞した。


「魔王を倒すには金が要る。金を稼いで稼いで稼ぎまくってやる」


『ん? なんか言った?』


「いや、すまない。独り言だ。明日も儲けまくろう」


『了解。私は戦争で必要になる物資をネットで買い占めておく』


「わかった。金に糸目は付けない。買って買って買いまくってくれ」


『おやすみ』


 おやすみ。そう言ってハジメは電話を切った。


 行動は素早く、自分の得意分野の延長線上で商売をする。ハジメはうまく稼げそうな気がした。イチゴのジャムもスマホも戦争の必要物資も、何もかもがうまくいく思いがした。しかし、違った。困難は早くにやってくる。三日目。ハジメは一大事に巻き込まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ