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プロローグ

「急いで金持ちになろうとしてはいけない」


 ある著名な投資家のセリフだ。


 誰もが金持ちになる方法を知っている。けれど、誰も著名な投資家のように金持ちになれない。


 それは、デイトレードとか仮想通貨とかFXとかバイナリーオプションとか、はたまた訳のわからないものに手を出すからだ。投資と投機は違う。投資はギャンブルではない。


 が、人生はギャンブルではない、と言われるとウソになる。生きることは必死になること。必ず死ぬ。矛盾しているようで違う。人生が運否天賦の親ガチャだと、言われればそうであり、人生は老衰で必ず死ぬゲームだと言われたら、答えはイエスだ。必死に生きる。ハジメの好きな言葉。


 無知ハジメ(むち・はじめ)は高校三年生になり、高校を中退した。


 成績は普通。偏差値は40。たぶん県内の私大ならば普通に合格できるレベル。なのに大学に行くのを断った。進学もしなけれあ就職もしない。ホワイ、なぜ?


「俺、投資家になりたい。お金持ちになりたいんだ!」


 憧れたのは、かの著名な投資家。


 高校では落ちこぼれの少年も、株の世界では敏腕トレーダーに変身した。


 夢も希望もない。ダメダメ高校生。だけど、株だけは勉強すればするだけ結果が出た。


「高校で2000万円貯めた。残りの人生を一生、投資家として生きる」


「ダメ!」


 両親に反対されました。ごめんなさい。


「とにかく一人暮らししてバイトしなさい」


「1億円貯めるまで二度と戻ってくるな!」


 両親にガチ切れされたハジメは、1億円を条件に家を追い出された。


 なぜなのか。誰もわかってくれなかった。


 青春の全てを株に注ぎ込み、彼女ができる暇もなければ、部活や勉強を頑張る時間もなかった。生まれた時から、株のエリートとして育てられた。しかし、株への肯定が否定に変わったのは、祖父を亡くしてから。


 リーマンショックを契機に、一気に株価が下がった。祖父は伝説の投資家で二階建てという無理な投資方法をしていて亡くなった。自殺か他殺か、定かではない。警察は無言を貫いた。


 と、まあ、無知の家では祖父が亡くなって以来、株の話はご法度になった。しかし、18歳になったハジメは、物心つく前から株に触れていて、残った祖母と一緒にずっと株の勉強をしていた。


 高校生になったら、少ない元手で2000万円まで貯めた。あと一息、もう少しで亡くなった祖父の念願である億り人になれる。あと8000万円で1億円の所有者になるのだ。


 と、ここまでは良かった。でも高校を中退し、両親とは険悪ムードになる。仕方ないので、ハジメは祖母の実家にお邪魔した。


「ばあちゃん、俺、億り人になるよ!」


「いらっしゃい、孫」


 元気のなかったハジメに祖母は手料理をふるまった。お魚のお刺身、寿司、焼肉、しゃぶしゃぶと食べきらないほどの豪勢な食事。


「ばあちゃん。どうしてこんなに豪華なの?」


「今、日経平均が上がっててね。株が絶好調だから!」


 祖母も株をやっている。ハジメが米国株を集中投資するのに対して、祖母は日本株の高配当株投資がお好き。日経平均という日本株の指数が絶好調で上がり続け、祖母の資産もがんがん増えていた。


「ばあちゃん。やりたいことが見つからないんだけど?」


「株で良いじゃない」


「株だけでいいのかな?」


 たしかにハジメは株の才能があり、毎日10万円単位で資産が増えた。でも、青春の全部を株にささげた。もし、株で青春をささげていなかったら、違った未来があったんじゃないのかな? と不安になる。


 ハジメは妄想する。


「やりたいことが見つからない。夢がない。でも、株をしてなかったら、真面目に高校に通って、国立の大学に行って、彼女とか作ってたのかな?」


「ハハハ。青春病だね、ハジメは」


「青春病?」


「そうさ。モラトリアムだよ」


 悩み、苦しみ、眠れなくなる。もし、あの時。たら、れば、と言葉を並べる。ずっと思っていた。ハジメは2000万円を貯める以外にも、何か人生の選択肢があったのでは? と。


 お刺身を食べながら、祖母は喋る。


「孫よ。面白い話を聞かせよう」


 あるところに魔女がいました。魔女は不思議な力がありました。病気を癒す力と、過去に戻る力と、お金を稼ぐ力です。しかし、魔女は自分の力を誰にも話しませんでした。なぜなら中世のヨーロッパから、魔女狩りにあっていたからです。誰かに話せば、殺される。だから魔女はずっと秘密にしていました。


「その魔女が私さ!」


「……は?」


 祖母は大真面目な顔で、「私は魔女だよ」と言います。


「気が狂ったのかい? おばあちゃん」


「いや、実は私は魔法使いで、三つの魔法が使えるんだよ」


「う、ちょっとノイローゼが……」


 まさか自分の実の祖母が中二病に患っているなんて思いもしなかった。ハジメは頭痛に悩まされる。


「とにかく落ち着こうか。祖母」


「お前、将来の夢がないならば、魔女にならないかい?」


 急いでお金持ちになりたいくて2000万円を稼いだハジメは、ゆっくりお金持ちになりたかった青春を送りたかった。みんなでワイワイして、仲間と輪になってキャンプファイヤーとかしたかった。なのに、なのに、魔女って、そりゃないでしょう!?


 が、祖母の顔は大真面目だった。


「私は引退した偉大な魔法使いだ。コネがある。孫が、魔女になりたいっていうのならば、魔女になれる学校に案内しよう」


「本気……なんだね……?」


「ああ、大真面目だ。将来、何のやりがいもない孫を、魔女にしようとも!」


「わかった」


 ファイナルアンサー。正直、半信半疑だった。でも祖母がそこまで魔女にするっていうのならば、なってやろうじゃないか。


「いいぜ、祖母。俺、魔女になる」


「じゃあ、出しな。全財産の2000万円を!」


「ホワイ。なぜ?」


 祖母は詐欺師?


「当然さ、孫。どんな病気も癒す力と、どんな過去にも戻れる力と、どんなお金でも稼ぐ力を、2000万円じゃ安いよ」


 当然かもしれない。この場合、祖母は全財産と言った。つまり、ハジメの資産が100万円でも2000万円でも1億円でも、たぶん、全財産を要求してくる。ならば100円でも良かったはず。


「俺の高校生分、いや、18年間の全てが2000万円に詰まっている。それより面白いのか、魔女の世界は?」


「イエス」


 ときめいた。億り人になるよりも、もっと、もっと面白い世界がある。そう信じれる。


 ハジメは全財産の2000万円をぶっこんだ。ベットした。祖母にやった。


「私は偉大な魔法使いで、最強の魔女。ハジメもそれなりの存在になりな! いや、きっとなれる」


「ありがとう、祖母」


 祖母は異世界のフィールドを開いた。祖母は別名、異世界転生の神様と呼ばれていて、異世界に勇者を送り込む役割をしていた。


「ゴールは魔王を倒すこと。そして、三大魔法を習得すること。お金稼ぎは孫の得意分野でしょう? さっさと稼いで仲間と装備を集めて、魔王を倒しなさい!」


「おう、祖母。ありがとう」


 普通、トラックにひかれて、死んで、女神さまに会って、なーろっぱ、という中世ヨーロッパ風の異世界に転生するのだが、なんか身内がすごい奴だった。


 お得感満載に、無知一(むち・はじめ)はハジメとして異世界に行った。


『ようこそ。魔女の異世界へ。職業を選んでください』


「空中落下中になぜのチュートリアルですね」


 空から落下しながら、はるか下に大陸を見ながら、ハジメは泣きながら、答える。


『なお、早くしないと死にます』


「嫌だよ!」


 選べ!


・魔法使い ←どれ?

・魔法少女

・魔女


「強制的に魔法系の、しかも魔法使いかよ!?」


『ええ、あなたは魔女の異世界に来たのです。ならば、魔法使いとして魔王を倒してください』


「じゃあ、魔剣士で」


『そんなものはありません』


「わかった。商人でいいよ」


承認(しょうにん)しました』


「そっちはわりとあっさりOKですか、そうですか。商人だけ」


『ギャグです』


「落下中だから! 早く助けてヘルプミー!」


『助けます。魔法チュートリアルの終わり』


 と、ここでハジメは落下をやめる。気付くと大陸に着地した。何もない森の中だった。


 ゴールを逆算する。魔王を倒す。ならば、魔法使いになる。商人になったので、商人としてお金を稼ぎ、魔法使いの学校を目指す。祖母が言っていた、魔法の学校だ。


「と、と、とにかく。村を目指そう」


 森の中にいては餓死してしまう。ハジメはゴールを目指した。


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