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私は腹が立っていた。
7歳の時に婚約した王子に7年間会っていないからだ。最初の3年間は沢山会う機会があった。王妃のお茶会に参加したり、ピクニックに行ったりと凄く楽しかった。 しかし、王妃が病に臥したあたりから私は会うことを許されなかった。回復魔法を施した軽食や、安眠効果のあるポプリなどを作りメイドを通して渡す毎日を過ごしていた。1ヶ月に2、3回の王妃との手紙のが唯一のつながりだった。
別に会えないからと言って何もしなかったわけではない。
お父様に聞いても何も答えなかったので腹にパンチをかまし、全治3日間寝室行きにして、その間に溜まっていたお父様の仕事を全部こなしたこともあった。
お母様にはお手製スコーンで釣ろうとしたものの、作り過ぎてメイドや家族に配りまくり結局何をしようとしたのか忘れた時もあった。
何をしても会えないことが分かってきた時、王妃の手紙に意味深な(単に細かく書かれ過ぎて逆に頭が回らなかっただけなのだが)ことが書いてあった。
その時の内容は今度話すことにして、私は今とてつもなく腹の虫が収まらない。
怒り矛先はこの国の王とお父様に向けられている。
周りにいる大臣達は当然だと言わんばかりに頷き、弟は大きくため息をついていた。
「いい加減、会いに行ってもよろしいでしょうか?」
「…だがっ」
王が一人の令嬢にそんな焦った口調で話されて良いのだろうか、
ソニアが首を傾けると共に一人の老師が前に進み出た。
「王よ、いい加減諦めましょう。ソニアならきっとあの子も大丈夫です。」
ソニア自身、関心した。
言葉を口にした、この国の賢宰相バルク・ロゼスツィル
彼は王の右腕として40年間側にいた。そんな彼が口を挟めば王はもう駄々はこねられない。
「…良かろう。しかしその姿で会わないように。」
「?」
「ソニア、それは後で話そう。」
「…あとはよろしく頼む、バロク。」
「承知いたしました。」
そう言って私達は王の執務室を離れ客室に向かっていた。
「ソニア、君にはあの子の侍女として付き添って欲しい」
私の幼馴染の祖父でよく色々な話をしてくれた。
そんな彼は私になんと呼ばれているか、
「バロじぃ、ありがとう」
バロじぃであった。
「なにがかな?」
「侍女だったら少し自由に動けるからさ」
「礼は後で。今は王子のことについて話そうか。ソニア、セシリアの手紙はまだ持っているかい?」
「これのこと?」
そう言って私はポケットに手を突っ込んで手紙を出した。
「空間箱か、上達したな。」
「えへへ」
ガチャ
部屋に着き椅子に座った。
「その手紙は王妃…セシリアの直筆だよ。内容は…理解出来ましたか?」
「はい、領地の図書館に3日間引きこもり全文理解いたしました。」
「おお…そうですか、なら大丈夫ですね。そういえばソニアの領地の図書館は」
「はい。3,000万冊以上所蔵しているこの国一大きい図書館です。ちなみに現司書は私です。」
「また、規格外なことを…」
「?」
「どうやって通ったのですか?難関門だと聞きますけれども」
「その時あった本の内容を全て覚え、現司書長と仲良くなりました。」
「…流石ですね」
それから話を戻し、私達は手紙の話をした。王妃はその時自分の死が近いことを悟りこの手紙を書いたという。彼女の一族は魔力が強く、旅立つ前に未練がたくさん残ると魔女となり自分に近い誰かに呪いをかけてしまう。私が読んだ本の中には子供や侍女などが呪いがかかる確率が多かったと示してあった。
「これはあの子は知りません。呪いがかかって1週間に数回吸血しなければいけなくなりました。最初はトマトジュースで良かったのです、でも成長していくにつれて血じゃないと暴走するようになり今は輸血を食べ物に混ぜて調理したものでどうにか持ち堪えています。」
「そこで私の出番ですか。」
「私も王子のために色々なことを試しました。失敗や成功の数々は忘れません。でも、私もこんな爺になりました。ソニア嬢、我々に力を貸してくれないでしょうか?」
今私は何を見せられているのだろう。王の右腕がひとりの令嬢に力を貸せという。そんなのどこの文献を探しても出てこないというのに…しかし、この数年間で得た知識を利用するにはいい機会だし、何より王子に会える。好条件で侍女として動け部屋もある、3食も保証されている。これを断る人などどこを探しても居ないであろう。だとすると答えは1つ。
「…やるに決まってるじゃないですか。そんなの頼まれなくてもやりますよ。こんな好条件のむしかないじゃないですか。」
「恩に着ます。」
爺、そんなにこにこ笑わないでくれ、嵌められた感じがする…
「こちらこそ」
ありがとうございます。
コンコン
「お、来たかな」
「誰がですか?」
「入っていいですよ」
「失礼します。」
「!」
「お久しぶりです。ソニア。」
「ミア!」
むぎゅー
ミアは私の幼馴染で私が王宮にいた時侍女をしていた。
「お祖父様に遠回しに言われまして」
ムギュー
「いいではないか、ソニアも喜んでいることだし。」
「ですがっ」
ムギュー
「ミアの匂いだ〜」
「ちょっ、ソニア! 」
「じゃ、あとはよろしく頼むぞミア」
「もう…後で覚えておいてくださいね!」




