事故
三題噺もどきーじゅうごこめ。
ある、カップルの話。
お題:「さよならだけが人生だ」・チョコレート・星
「さよならだけが人生だ。」
いつだったか、彼はそんなことを言っていた。
私は、そんな彼に、
「そんなことは無い。」
とか、
「そんな悲しいことを言わないで。」
とか、
そんな言葉は、かけなかった。
多分、
「え?」
とか、そんな感じだったと思う。
突然言われたのだ。誰でもそんな反応になるだろう。
突然、突拍子もなく言われたのだから仕方あるまい。
そんな私に、彼は、
「いや、何でも無い……」
そう言った後、何事も無かったように、別の話をし始めた。
何事もなかったように、日常の会話を楽しんだ。
私も、別に気にはしていなかったので、忘れていた。
私が、彼のその言葉を思い出したのは―思い出さざるを得なかったのは―まだ、寒さの残る3月14日だった。
その、ちょうど一ヶ月前の、2月14日、バレンタインデー。
手作りのチョコレートを彼にプレゼントした。
とても喜んでくれて、私も嬉しかったのを覚えている。
「お返し、楽しみにしてて。」
少し恥ずかしそうに、はにかみながら、そんなことを言う彼。
「うん!」
その日は、1日中幸せだった。
ふわふわした気持ちで一日を過ごしていた。
そして、3月14日。
彼が、
「星を見に行こう。」
お返しを貰った後。
突然の誘いだった。
断る理由もないし、その日は、1日休みだったので、星を見にいった。
彼は、少し遠い展望台まで、連れて行ってくれた。
そこから、見た景色は、圧巻という他無かった。
それほど、綺麗だったのだ。
空一面に広がる星は、キラキラと輝き、たくさんの宝石が散らばっているようにも見えた。
私は、この景色を一生忘れることはないだろうとまで思った。
それから、その帰り道。
事は起きた。
事故に巻き込まれた。
突然、トラックが、私達の乗る車目掛けて突っ込んで来たのだ。
何とか逃げようと、彼はハンドルを思い切り回した―が、間に合わなかった。
トラックに飛ばされ、私は意識を失った。
覚えているのは、目の前に広がるトラックのライトの光と、一瞬戻った視界の隅で、血を流している彼の姿。
それから、目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。
「彼は!?一緒に乗っていた……!」
真っ先に、彼のことを尋ねる。
しかし、医者は何も言わず、顔を伏せるだけ。
(もしかして…………!)
「現在、集中治療室に運ばれています。ですが、命の保証は……」
「うそ、でしょ……?」
嘘だと言ってほしかった、大丈夫だと言ってほしかった。
けれど、医者は―やはり何も言わなかった。
それは、無言の肯定としか思えなかった。
そのショックで、私はまた意識を手放した。
そして、もう一度、目覚めた今。
彼の言葉を思い出していた。
「さよならだけが人生……ね。」
彼は、いつか訪れる別れを悟っていたのだろうか。
それとも、何か、別のことを―
ガタン―!
突然、ドアが開いた。
「意識が戻られました!」
「え!?」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
「本当ですか!?」
「はい。つい先ほど、ですからまだ面会は出来ませんが……」
それでも、彼が助かっただけでも嬉しかった。
今度面会するときは、この話をしよう。
そして、さよならだけか人生だなんて、彼が一生言えないようになるくらい、たくさん出会いの話をしよう。