表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき

事故

作者: 狐彪

三題噺もどきーじゅうごこめ。


ある、カップルの話。

 お題:「さよならだけが人生だ」・チョコレート・星



「さよならだけが人生だ。」

 いつだったか、彼はそんなことを言っていた。

 私は、そんな彼に、


「そんなことは無い。」

 とか、

「そんな悲しいことを言わないで。」

 とか、


 そんな言葉は、かけなかった。

 多分、

「え?」

 とか、そんな感じだったと思う。

 突然言われたのだ。誰でもそんな反応になるだろう。

 突然、突拍子もなく言われたのだから仕方あるまい。

 そんな私に、彼は、

「いや、何でも無い……」

 そう言った後、何事も無かったように、別の話をし始めた。

 何事もなかったように、日常の会話を楽しんだ。

 私も、別に気にはしていなかったので、忘れていた。

 私が、彼のその言葉を思い出したのは―思い出さざるを得なかったのは―まだ、寒さの残る3月14日だった。

 その、ちょうど一ヶ月前の、2月14日、バレンタインデー。

 手作りのチョコレートを彼にプレゼントした。

 とても喜んでくれて、私も嬉しかったのを覚えている。

「お返し、楽しみにしてて。」

 少し恥ずかしそうに、はにかみながら、そんなことを言う彼。

「うん!」

 その日は、1日中幸せだった。

 ふわふわした気持ちで一日を過ごしていた。


 そして、3月14日。

 彼が、

「星を見に行こう。」

 お返しを貰った後。

 突然の誘いだった。

 断る理由もないし、その日は、1日休みだったので、星を見にいった。

 彼は、少し遠い展望台まで、連れて行ってくれた。

 そこから、見た景色は、圧巻という他無かった。

 それほど、綺麗だったのだ。

 空一面に広がる星は、キラキラと輝き、たくさんの宝石が散らばっているようにも見えた。

 私は、この景色を一生忘れることはないだろうとまで思った。

 それから、その帰り道。

 事は起きた。


 事故に巻き込まれた。

 突然、トラックが、私達の乗る車目掛けて突っ込んで来たのだ。

 何とか逃げようと、彼はハンドルを思い切り回した―が、間に合わなかった。

 トラックに飛ばされ、私は意識を失った。

 覚えているのは、目の前に広がるトラックのライトの光と、一瞬戻った視界の隅で、血を流している彼の姿。


 それから、目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。


「彼は!?一緒に乗っていた……!」

 真っ先に、彼のことを尋ねる。

 しかし、医者は何も言わず、顔を伏せるだけ。

(もしかして…………!)

「現在、集中治療室に運ばれています。ですが、命の保証は……」

「うそ、でしょ……?」

 嘘だと言ってほしかった、大丈夫だと言ってほしかった。

 けれど、医者は―やはり何も言わなかった。

 それは、無言の肯定としか思えなかった。

 そのショックで、私はまた意識を手放した。


 そして、もう一度、目覚めた今。

 彼の言葉を思い出していた。

「さよならだけが人生……ね。」

 彼は、いつか訪れる別れを悟っていたのだろうか。

 それとも、何か、別のことを―

  ガタン―!

 突然、ドアが開いた。

「意識が戻られました!」

「え!?」

 一瞬、何が起こったか分からなかった。

「本当ですか!?」

「はい。つい先ほど、ですからまだ面会は出来ませんが……」

 それでも、彼が助かっただけでも嬉しかった。

 今度面会するときは、この話をしよう。

 そして、さよならだけか人生だなんて、彼が一生言えないようになるくらい、たくさん出会いの話をしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ